理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

研究成果有体物取扱規程は、規定内容に混乱があるのでは?ー定義と合わない条文

 
 研究試料の移動に際して関係してくる、研究成果有体物取扱規程について、見てみました。


情報公開請求制度は、現行の手続き規定に則って作成され、保存されている情報を請求対象にするものですが、研究試料の管理・移動に関する情報の基本となるのは、文科省が平成14年(2002年)に定めた「研究成果有体物取扱いガイドライン」です。
 
 それを踏まえた各組織の規程において定められていますが、その目的は、理研職員が米国で産業スパイ事件で逮捕されたことを教訓に、試料の移動が生じる場合に、その「提供経緯の明確化」という点にあります。
 主として、「研究活動のため」「産業利用のため」の2点から書かれており、「研究不正調査のため」との観点からの明示的規定はありませんが、その肝は、「研究成果の試料を移動させるときには、契約なり報告なり記録なりによって、趣旨や移動事実を明確にせよ」という点にあります。したがって、「研究不正調査のため」の場合でも、その趣旨を踏まえて同規定に準拠して処理すればいいでしょうし、それ以上に別扱いにするという根拠規定・指針もありません。
 
それで、京都大学の規程(末尾参照)を見ているのですが、どうも規程に混乱があるように感じます。定義と規程とが合っていないように思われます(これは他の大学や研究機関でも同様のようです)。
 具体的にいうと、
「研究成果有体物」の定義は、「本学の資金、施設、設備その他の資産を用いて行った研究の結果~~~で、学術的、技術的又は財産的価値を有するものをいう。」です(第2(3))。
 本学=京都大学での研究成果、という趣旨かと思います。
 
他方、そのような定義の下では、次の規定の研究成果有体物を「受け入れる」「持ち込む」場合という趣旨がよくわからなくなってきます。
 「外部機関から研究成果有体物を受け入れる場合」(第5(2)
 「研究者等が、外部機関から本学への異動に伴い、本学に研究成果有体物を持ち込む場合」(第62
 「外部機関から提供を受けることを認めた場合」(第7条)
 
 おそらくこの規定の趣旨は、他の外部機関の資金、施設等で作製等したその機関の研究成果物が、京大当局のあずかり知らぬ間に研究者が保有していたという事態は回避するために、管理責任者の承認を得るということだと思われます。 
 しかしそれであれば、「研究成果有体物」とは別の用語で表現しなければ意味が通らなくなってしまいます。
 
 それと、この定義のままだと、研究者が管理している他機関から受け入れた他機関の研究成果有体物を、別の機関に提供する場合の扱いが宙に浮いてしまいます。
 Ooboeさんのパートナーさんが京大山梨大の移動についてのMTAの情報公開請求をした際の不開示決定通知書(平成27622日付け)を見ると、定義からして、MTA対象外と書かれていますが、これは、元々は理研に帰属する研究成果有体物だから、という趣旨なのだろうと思います。
 それならそれで構わないのですが、しかし、京大で受け入れて管理している研究成果有体物が他の組織・研究者に提供される場合の手続き規定が明確でないというのは、適切ではないように感じます。承認、届出等、何らかの形で提供経緯の明確化が担保されないと、文科省ガイドラインの趣旨も担保できなくなってしまいます。
 京都大大田氏から山梨大若山研へのFES1の送付については、宅急便の送付伝票が法人文書として開示されていますので、送付手続きの中でその辺の経緯(依頼者、依頼趣旨、送付対象試料等)が、記録として残されているのであればいいのですが、それを明文化する必要があると感じます。
 
■それから、理研の研究成果有体物取扱規程は、検索してもヒットしません。
 それで、大田氏が理研から京大に移籍した際の、FES1等の試料の移管手続きは、どういう規定に基づくものなのかがよくわかりませんが、京大の不開示決定通知書の回答から見ると、理研に帰属する研究成果有体物というステータスのままなのだろうと思いわれます。
そして、移籍時は事件発生前ですし、FES12は、特に特許出願その他の対象になっていたわけではありませんから、理研においても「研究者管理」扱いとなっていたと思われますので、京大に持っていくに際しても、簡易な手続きに拠ったものだろうと想像されます。
 
 Ooboeさんによる理研に対する情報公開請求で、大田氏が京大に「移転するに際して提出された移転手続きに関する書類」を請求されたのに対して、「特定の研究者(大田氏)が作製したものかにかかわらず、若山研究室のES細胞等を京都大学に移転した手続き書類はありませんでした」との回答になっていました(平成2746日付け)。
書類保存期間の5年経過満了前ギリギリだったとのことですので、記録があるとすれば開示されたと思いますが、不存在だったというその辺の事情がよくわかりません。
開示請求にあるような、何らかの「提出された書類」としては存在しなかったという意味なのか、それとも、理研として、大田氏がどのような細胞を持っていったかを確認できる記録がないという意味なのか、明確ではありません(若山研が山梨大に移転するときに、当初何も手続きされていなかったことからすると、大田氏移籍のときも同様だったのかもしれませんが・・)。
いずれにしても、知財上重要ではなかったとしても、理研帰属の試料が移動した、という記録は何らかの形で手続き規定上担保しておく必要があるのではないかと感じます。
 
 ・・・ただ、こういう細胞等の研究試料群には膨大なものがあり、通常の備品管理の感覚では処理が難しいようにも一方では思います。それが、「当該研究成果有体物の特性に応じて適切に管理・保管し、又は使用しなければならない。」(京大規程第4条)という一文の「適切に」という言葉に凝縮されているのかもしれませんが・・・。
 
【参考】
 
京都大学研究成果有体物取扱規程
 
(定義)
2条 この規程において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)(2) 略
(3) 「研究成果有体物」とは、研究者等が、本学の資金、施設、設備その他の資産を用いて行った研究の結果又はその過程において創作、抽出又は取得(以下「作製」という。)した材料、試料(遺伝子、細胞、微生物、化合物、抽出物、実験動物、蛋白質等の生体成分等をいう。)、試作品、実験装置等で、学術的、技術的又は財産的価値を有するものをいう。(ただし、著作物を除く。)
(4) 「作製者」とは、研究成果有体物を作製した研究者等をいう。
(5) 「提供」とは、研究成果有体物を有償又は無償で外部機関に譲渡、貸与又は引き渡すことをいう。
 
2章 帰属及び管理


(帰属)
3 研究成果有体物は、特段の定めがない限り本学に帰属する。ただし、本学に帰属させないことが適切であると認められるものについては、この限りでない。
(管理等)
4 研究者等は、研究成果有体物を作製したときは、当該研究成果有体物の特性に応じて適切に管理・保管し、又は使用しなければならない。
2 部局の長は、当該部局における研究成果有体物の管理について、統括するものとする。
(申出)
5 研究者等は、次の各号の一に該当するときは、あらかじめ部局の長に申し出てその承認を得なければならない。
(1) 外部機関に研究成果有体物を提供する場合(分析依頼のための提供及び特許出願のための生物寄託を除く。)
(2) 外部機関から研究成果有体物を受け入れる場合(市販されている物を購入する場合はこの場合に含まない。)
2 前項の規定にかかわらず、研究者等が、外部機関に有償で研究成果有体物を提供する場合は、あらかじめ部局の長を通じて産官学連携本部長に申し出て、その承認を得なければならない。
 
(研究者等の異動等)
6 研究者等は、異動、退職、卒業、退学等により本学における身分を失い、又は長期間に渡って出向、出張等する場合であって、次の各号の一に該当するときは、部局の長に申し出るものとする。
(1) 当該研究者等が保管する研究成果有体物が存在する場合
(2) 当該研究者等が当該研究成果有体物について本学外で引続き使用することを希望する場合
2 研究者等が、外部機関から本学への異動に伴い、本学に研究成果有体物を持ち込む場合には、部局の長に申し出て、その承認を得るものとする。
3 前2項の申出を受けた部局の長は、当該研究者等と協議の上、当該研究成果有体物の取扱いについて決定するものとする。
 
3章 提供及び受入れ


(提供等の契約)
7条 第5条第1項又は第2項の場合において、研究成果有体物を外部機関に提供し、又は外部機関から提供を受けることを認めた場合には、当該外部機関と契約を締結し、必要に応じ、契約書その他の書面を作成するものとする。この場合において、当該研究成果有体物が知的財産権等の権利の対象となることが明らかである場合は、契約を締結するにあたり、当該権利に配慮して契約を締結するものとする。



「第八章 桂調査委員会報告書の矛盾」ー佐藤貴彦氏『STAP細胞 事件の真相』より抜粋


佐藤貴彦氏の2番目の著書である『STAP細胞 事件の真相』(20161214日刊)は、文字通り事件の真相に迫るものだと思いますが、そのうちの第八章に、「桂調査委員会報告書の矛盾」という章があります。
和モガさんの記事とともに、STAP細胞事件を考える上では必須の内容だと思いますので、抜粋させていただきます。
 和モガさんのFES1についての追及は、この佐藤氏の指摘とともに読むとよく理解できます。


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第八章 桂調査委員会報告書の矛盾
 
おかしなことが一杯ある
 
前著『S T A P 細胞  残された謎』では、 桂調査委員会の調査報告には、数多くの不自然な点があるということを指摘した。 主な点をまとめてみると、次のようになる( l
 
(一 )丹羽仁史氏が「 確かにS T A P 細胞由来と思われるG F P 陽性細胞が胎盤組織にインテグレートしていることを見ています」と証言した胎盤の標本の存在について 、桂委員長は徹底して言及するのを避けている。
 
(二 )丹羽氏は「 F I 幹細胞の培養条件ではE S 細胞は全滅する」と証言している 。したがって、 桂委員長が主張するような「 E S 細胞の混入 」による捏造は不可能だということになる。
 
(三 )キメラマウスの作製は、 E S 細胞の時のように、 酵素でバラバラにしていたのをやめ、細胞の塊のまま胚に注入した時点(手法を変えた時点 )で成功している。 これは、 E S 細胞による捏造であるという結論に矛盾する。 また、「もう一度酵素でバラバラにして注入していれば成功したであろう」という桂委員長の説明には何の根拠もない。
 
(四 )そもそも小保方氏がS T A P 細胞と偽って若山氏にE S 細胞を渡すことは困難である。 S T A P 細胞は浮遊状態で培養されているが、E S 細胞はそうではないからである。したがって、もしE S 細胞をS T A P 細胞と偽って渡すとすれば、E S 細胞を浮遊培養(すなわち胚様態)にして渡さなければならないが、 E S 細胞を胚様態にすると性質が変化するので、それでキメラができるという保証はない。
 
(五 )S T A P 幹細胞G L S の性別は、 2014年7月22日の段階で若山氏とC D B が「 精査してオス」としているのにもかかわらず、桂調査委員会の報告書ではいきなりメスになっている。これについて何の説明もない。
 
(六)S N P が九九パーセントのオーダーで一致しているから同一細胞である 」という桂委員長の説明には説得力がない。 1 2 9 B 6 などの近交系マウスは、最初からその程度の一致率はあるからである。したがって、この程度の一致率であれば、同じ系統のマウスを用いたという結論にしかならない。
 
(七 )S T A P 幹細胞F L S では、 染色体の欠失変異は細胞の樹立時に生じたというのが桂調査委員会の結論だが、 S T A P 幹細胞A C 1 2 9 E S 細胞1 2 9 B 6 F 1E S 6 については、染色体の欠失はすべて親マウスに元から存在したものであって、樹立に伴う変異は報告されていない。 これは不自然である。
 
(八 )胎児と胎盤の画像の切り貼りを不正と認定していない。 これは小保方氏以外の人物による不正行為であったため、それを見逃したのではないかと思われる。
 
(九 )データ解析の結果、 F I 幹細胞( O c t 4 G F P B 6 由来 )はE S 細胞とT S 細胞を九対一で混ぜたものと言っておきながら、その現物が見つかっていない。 そもそも若山氏はB6 由来のF I 幹細胞を作製した記憶はないと証言している。こんな矛盾がなぜまかり通るのか。
 
そして、新たに次のことを付け加えたい。
 
(十 )桂調査員会では、「 S T A P 幹細胞A C 1 2 9 E S 細胞1 2 9 B 6 F I E S 1 ( 以下ES l と略記 )は『第六染色体のB 6 ホモ領域』で一致している 」と報告されている。しかし、情報公開窓口を通じてその解析データを取り寄せたところ、 次のことが判明した。
じつはE S 1 の全ゲノム解析は行われておらず、わずか二十八箇所のS N P をピックアップして調べていただけだった。
解析の方法は次の通りである。 まずA C 1 2 9 1 2 9 B 6 F l E S 6 ( 以下E 5 6 k
記)を全ゲノム解析したところ、 両者の第六染色体のホモ領域が88.6M から94Mにわたってズレていることがわかった。 すなわち、この領域ではA C 1 2 9 はホモであり、 E S 6 ヘテロであった。
次に、 この領域のおよそ一万のS N P から89M、91M、92Mのところ23箇所を選んで調べてみると、 A C 1 2 9 E S 1 もホモであった。 そしてホモ領域の外側95Mのところを調べてみると、 A C 1 2 9 ESl ヘテロであったという。
しかし、 このような大雑把なやり方では、「『 第六染色体のB 6 ホモ領域』で一致している 」などと言えるわけもない( 2
つまり報告書では、89M、91M、92M の二十三箇所だけを調べて、 そこがホモであるものを「 A C 1 2 9 タイプ 」、 ヘテロであるものを「 E S6タイプ 」と大雑把に二つのタイプに分け、E S 1 は前者に属するから両者は同一であると結論していたわけで、 これはかなり疑問のあるやり方と言わざるを得ない。
 
以上、 おかしなことだらけである。「 これだけおかしいことが一杯あるのに、優れた研究者の目を通っているはずなのに、 なぜ表に出てしまったのか 」という桂委員長のセリフは、 この間査報告そのものについて当てはまる。
 
  ( l )詳しくは、 拙著『S T A P 細胞 残された謎』第五章・第十一章を参照いただきたい。


  ( 2 1 2 9 マウスと B 6 マウスを交配して1 2 9 B 6 F1という子マウスが生まれると、 その子マウスは両方の遺伝子をペアで持つ。つまり、129/B6という組み合わせである。しかし、親マウスの1 2 9 の方に、 一部B 6 の遺伝子が混ざっていることがあり、この場合、 子マウスは一部B6/B6という組み合わせを持つことになる。 これを「B 6 ホモ領域 」という。 この領域がぴたりと一致していれば、 同一細胞の可能性が高いが、 逆に一致していなければ、 異なる細胞であることがはっきりする。理研の解析チ―ムは、 ぴたり一致しているかどうかを確かめなかったのである。


 
F E SI は本当にF E S Iだったのか
 
日経サイエンス(2015年3月号 )のS T A P 問題特集記事に、 次のような記述がある。
 
遠藤氏の解析で最初に問題となったのは、岡部マウスと交配した1 2 9 マウスの素性だった。
  1 2 9 なのは確かだが、その中にも細かい系統がある。 若山氏が使っているのはS L C 社の白マウス12 9 x l で、 大田氏が好んで用いたのはクレア社の茶色マウ ス1 2 9 T e r だ。 論文に書かれていたのはクレアの1 2 9 T e r だったが、 遠藤氏はS T A P 論文のN G S データから、 F L S の親マウスは1 2 9 x 1だと予測し た。 1 2 9 x l マウスにはゲノムの所々にB 6 の黒マウスの配列が紛れ込んでおり、 そのパターンがアクロシンプロモーターのあるST A P 幹細胞やF I 幹細胞とよく似ていたからだ。
 
その後、 理研の解析チームは、ネイチャー誌に『STAPcells are delivered from EScells』という論文を掲載し、改めて「 S T A P 細胞はE S 細胞由来である 」としたが、これをみると、 興味深いことが判明し た。
この論文には、 解像度の高いS N P のパターンの図が載っているが、 それをみると、 たしかに1 2 9 X 1 1 2 9 T e r には特有のSN P のパターンがあり、 両者は、はっきり区別することができる。 S T A P 幹細胞F L S の作製に用いられたのは1 2 9 X 1 なのだ。
となると、 これは大問題である。 大田氏の論文には、 E S 細胞F E S 1 の作製に用いられたのは1 2 9 T e r の方だと書かれていたからだ。 マウスの系統が異なる。これでは、「 F L S HF E S l 」という桂調査委員会のシナリオが根底から覆ってしまう。「日経サイエンス 」がこの事実を突きとめながら、 この問題をあまり突っ込まずにスルーし たのは奇妙という他はないが、 ここではこの問題をもっと突き詰めて考えてみよう。
 
まず、 F L S と「 1 2 9 G F P E S 」の中身が同一だということは、 それほど重要ではない。「 1 2 9 G F P E S 」とラベルされたチューブには、 最初からS T A P 幹細胞が入っていたのだとすれば、 両者ともS T A P 幹細胞なのだから、両者の遺伝的特徴が一致するのは当たり前である。問題なのは、 桂調査委員会がF L S F E S 1 が同一だと断定したことなのだ。 これが決定打となっているのだが、 ごく普通に考えれば、 そんなことはあり得ないのである。
繰り返すが、 小保方氏はFE S1を入手できな い。 そのうえさらに、 F L S FE S l はマクスの系統が異なることが判明し た。 しかも、 F L S と「 1 2 9 G F P E S 」は99.9% のオーダーでS N P が一致しているのに比べ、 F L SF E S 1 は99% のオーダーの一致しかない( l
 これで同じ細胞だというのは、いかにも苦しい主張である。
 にもかかわらず、桂調査委員会が、「 F L S F E S 1 は同一としたのはなぜか。それは、 ともにアクロシンG F P が挿入されていたということ、 そして両者の遺伝的特徴( すなわち第三染色体と第八染色体の欠失変異)が一致していたということが根拠となっている。 これはどう考えるべきだろうか。
あくまで可能性として考えると、F E S1として解析に供されたものは、 F L S を作製したのと同じマウスから作製された別の細胞だということだ。したがって、 G F P や欠失は一致するが、 S N P の一致率はやや劣るということになった。
 ようするに、 F E S lとして解析に供されたものは、じつはF E S1ではなかったということだ 。
そう考えれば、「 F ES1 」と称する細胞の母方が1 2 9 T e r ではなくて1 2 9 x 1だったということも含めて、 すべてが上手く説明できる( 2
 
   ( 1 S N P の一致率について、 詳しくは拙著「 S T A P 細胞 残された謎」第十一章を参照いただきたい。
   ( 2 S N P の一致率の低さを培養変異で説明する向きもあったようだが、 D N A の複製に伴うエラーの率は10のマイナス9~10乗程度だと言われている。培養変異では説明がつかない。
 
しかし、 どうしてもそう考えるのが嫌だというのであれば、 他の可能性として考えられるのは、大田氏が自分の実験に使用するマウスを間違えたということである。しかし、「 日経サイエンス』にもあるように、 1 2 9 x 11 2 9T e r はマウスの毛色が異なる。 一方は白で、 一方は茶色である。 同じ毛色ならまだしも、 毛色が異なるにもかかわらず、それを間違えるというのは非常に考えにくい。
しかし、『日経サイエンス』は、「 大田氏の記憶では母マウスはクレア社の茶色い1 2 9 T e rマウスだったが、 実際には1 2 9 X 1 の白マウスだった 」として、 大田氏の記憶違いということで済ませている。 なんとも適当である(3
大田氏は、 以前にも「(FE S 1 は)すべて運び出したつもりだが、 同じ株がC D B にあったのなら、 私が置き忘れたのかもしれない」と答えている。 記憶違いがあったとすれば、 これで二度目である。 S T A P 幹細胞が捏造の産物であるというシナリオと矛盾することは、何でもかんでも「 大田氏の記憶違い 」で片づけてしまうというのは、 いかにも安易である。 矛盾だらけの調査結果を何が何でも強引に押し通そうとしているようにしかみえない(4)(5)
 
  ( 3  )ちなみに、 移植核E S 細胞のn t E S G ln t E S G 2 は、 ちゃんと1 2 9 T e r となっている。FE S 1 の時だけマクスを間違えたというのも奇妙である。
 
  ( 4 )さらに『STAPcells are delivered from EScells』のS N P のパターンをみると、F E S1と nt E S G 1 ntE S G 2 とでは、 使われているB 6 がはっきりと異なる 。これも非常に気になるところである。
 
  ( 5 )さらに付け加えると、 F E S 2 は、 調査報告では1 2 9 x 1となっているが、『STAPcells are delivered from EScells』のS N P のパターンをみると、 1 2 9 x l 1 2 9 Te r が混ざったものになっていることがわかる。 すなわち、1 2 9 x l1 2 9 T e r は第六染色体 、第十一染色体、 第十二染色体に特徴的なホモクラアスターを有しているが、F E S 2 は、この特徴を両方とも有しているのである。しかし桂調査委員会では、 このことには触れず、 ただF L S F E S 2 よりもFE S 1 に近縁であるとだけ述べている。しかし、 使用しているマクスの系統が、F L S F E S 1( と称するもの )では一致しているが、F L S F E S 2 では一致していないのだから、 それは当たり前である。


 
公正さの欠如
 
  (略)

理研を揺るがしているであろう和モガさんの再調査要請/欧米での特許出願の状況

 和モガさんの再調査要請の件と、米国とEU特許庁での審査状況についてです。 

1 和モガさんの再調査要請の件
和モガさんのブログで、理研コンプライアンス部門に、『「STAP細胞事件」の真相』との一連の疑念をまとめた資料を送付して、改めて再調査要望を出したものの、理研側は理由を述べないままに、再調査を拒否した旨が紹介されています。
  ※ ブログには、Ooboeさんのパートナーさんによる宅配伝票の情報公開で、FES1の取り寄
   せルートの裏付けができたことにも言及されています。
 
これは、理研を揺るがす問題で、和モガさんご指摘の通り、ドミノ倒しになりかねません。理研は危うい立場に自らを立たせてしまった感があります。
大田氏が一言、次のように証言すれば、そこからドミノ倒しが始まってしまいます。
 
「私のFES1のマウスは、129+Terマウスです。129X1ではありません。山梨大若山研からの依頼で送ったものも、その129+Terマウス由来のFES1です。」

だからこそ、和モガさんが電話で、「大田氏にその点だけでも確認してほしい」と依頼したのに対して、「聞く聞かないも含めてそういう回答になっている」と答えたというのは、極めて機微なドミノ倒しの出発点になる疑問だからこそであり、何としても回避しなければならないとの焦りから出たものでしょう。
 
8月に小生もブログ記事で書きましたが、
大田氏が自らの実験で使用するマウス系統を間違えたということを認めるはずもないでしょうし、佐藤貴彦氏の『STAP細胞 事件の真相』のp144からp145の注釈の(35)までに書かれている指摘もまた、合理的な疑問であるように感じられます。
たとえば、注釈の(3)(4)では、次のように書かれています。
 
************************************
3)ちなみに、移植核ES細胞のntESG1ntESG2は、ちゃんと129+Terとなっている。FES1の時だけマウスを間違えたというのも奇妙である。
4)更に、『STAPcells are delivered from EScells』のSNPのパターンをみると、FES1ntESG1ntESG2とでは、使われているB6がはっきりと異なる。これも非常に気になるところである。
************************************
 
 和モガさんや佐藤貴彦氏らが提示する合理的な疑問について何ら確認しないまま、「再調査を行う考えはありません」と回答してしまったことは、後々責任問題に発展する可能性も否定できないでしょう。どのポストの者まで上げて回答したかは興味あるところです。
 和モガさんという市井の一個人からの要請だから、問答無用で「再調査せず」と回答してしまったのだろうと想像しますが、同じ疑問を(FES1のマウス系統に齟齬がある/大田氏に齟齬を確認したか/なぜFES1だけ直接大田氏から取り寄せなかったのか/なぜ行う予定だった遺伝子発現実験をやらなかったのか、やったのならなぜ公表しなかったのか等)、例えば国会の場で(質問主意書等によって)問われた時、回答しない選択肢はないでしょう。
 
 もっとも、構図としては、「認めるも地獄、認めないも地獄」で、どちらにしても辛い立場ですし、気の毒な立場でもあります。
 しかし、もっと辛いのは、大田氏でしょう。自分の細胞が利用される形で事件に巻き込まれてしまった構図です。
しかし、自らの実験における「FES1のマウスは、129+Terマウス」ということは否定したくないでしょうし、かといってそれを認めてしまうと、そこからの波及は、和モガさんが書かれているとおりですから、極めて悩ましいところです。
 
 いずれにしても、和モガさんの分析と再調査要請が、事件の核心に迫りつつあることは間違いありません。和モガさんが言う「次のステップに進むことにした」というのはどういうことなのか、いずれご報告があると思いますが、注目しています。


 和モガさんが提出されたSTAP細胞事件」の真相』(2018年9月18日)を公開していただけるといいのですが・・・。
 


2 特許出願関係
(1)米国
  Oct4発現方法に限定した請求項に補正したものについての継続審査請求に対して、713日付で、拒絶理由通知がなされていますが、それに対する応答はまだなされていません。通常2ヶ月以内だそうですが、出願放棄扱いにはなっていませんので、合計で6ヶ月以内まで延長ができますので、延長手続きをしたのでしょう。
 来年1月が期限となります。
 
(2)EU
  以前の記事で書いたように、(減縮補正しない当初出願に対する)最初の拒絶理由通知に対して、今年の春に面談要請をしたのを受け、11月14日と指定されており、間もなくです。


学さんへ ー情報公開請求の活用の件


実験ノートの情報公開請求については、Ooboeさんのパートナーさんへの不開示理由書にあるように、重層的な理由を示していて、一般論としては合理的だと思いますが、調査委員会の調査に関しての情報公開請求によれば、ある程度はわかってくる面はあるのではないかと思います。


情報公開制度は、外国人も含めて何人と言えども請求する権利があり、「法人文書」の要件を満たす限りは、非公開が許される例外的場合を除き、公開が義務付けられます。そして不開示に異議があれば総務省の審査会で第三者的に再検討がなされますから、その気になって、公開請求内容の工夫をすれば、かなりのところまで明らかにすることができる可能性があるかと思います。不開示の結論は維持される場合でも、理由が具体的に示されることもありますし、一部黒塗りで開示されることもあって、状況を伺い知ることができます。

 

■それで例えば、学さんが指摘しておられる、「ES細胞混入との結論に至ったのであれば、論文にある幹細胞(ES由来)とES比較の実験について検証はしたのか?」という点については、「桂調査委の調査活動における、ES比較実験に関して、ES混入との関係についての検証に関する資料一式」というような開示請求をすることで、状況がわかってくる可能性があるかと思います。

虚偽の回答はもちろんできませんから、「不存在」ということであれば、検証しなかった可能性が高いと推測されます(または廃棄したか)。笹井氏、丹羽氏の公式記者会見でのESとは明らかに異なる理由についての検証さえも行わなかったわけですから、笹井氏の指摘の根拠にもなっているES比較実験については検証していないような気がします。

それが「不存在」ということが公式に示されるだけで、桂調査委の調査の恣意性を示すことになると思います。

 

■また、「和モガ」さんが指摘されている「遺伝子発現解析が行われなかったのではないか?」という点に関しても、理研自ら公開している文書に、竹市所長が述べた検証予定として書いているわけですから、


「竹市氏が行う予定として指摘した遺伝子発現解析による検証について記

  載された資料一式」

遺伝子発現解析を行わなかった場合にその理由についての検討に関する

  資料一式」

といった公開請求のやり方があるかと思います。
 調査再検討要請をしても、「適切に行われたと認識している」という漠とした回答しか得られなくても、上記のように追求していくと、道が拓けるかもしれません。

■学さんが挙げられた点のすべてを、広報への照会や、情報公開請求によって材料を得るのは難しいかもしれませんが、案件次第では可能性があるかもしれません。 



「キメラマウスのホルマリン漬け」と「胎盤の切片」の帰属の問題

 
 キメラマウスのホルマリン漬けと、胎盤の切片のプレパラート という重要試料の帰属の問題についてですが、

> 「アホかいな」さん
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胎盤のプレパラートはハーバードのものというのは誤認です。
作成した時期からし理研で行われた実験だから、理研の経費で行われているばずですから、帰属は理研です。プレパラートとの作成時期は少なくとも2014年11月24日に初めてキメラマウスの作成に成功した後であることは明らかですから。
*********************************
  
 「2014年」というのは、タイプミスですね? 「2011年」ですね?
 「2014年11月」は、桂調査委の調査の終盤ですので・・・。

 それで、「キメラマウスとその胎盤」、その「胎盤の切片」が作製されたのは、STAP細胞の多能性確認を目的として、手技を有する若山氏の助力を得るため、ハーバードのオファーにより、理研との国際共同研究の形で行われたその研究過程で作製されたわけです。理研若山研は「支援的立場」というのが公式スタンスです。

 そういう経緯ですから、、実験時期、作製時期は、理研で行われた実験時期に当たるのは当然の話になります。
 帰属の問題は、実験時期によるのではなく、国際共同研究契約における試料の帰属の決め方によることになります。STAP細胞の多能性確認のための実験は、若山氏は支援的立場ですし、研究の経緯からしても、ハーバードに帰属するのだろうと私は考えたわけです。
 
 そして、コメント欄でも書いたように、桂調査委は理研に帰属する試料の範囲でしか調査をしなかった、できなかったとモニタリング委報告書にあることと、桂委員長が会見で、「胎盤の切片は確認できませんでした」と困惑しながら述べ、実際、桂報告書では、切片そのものではなく、論文画像によって判断しているわけです。

 これらの材料を総合すれば、それらの重要試料は、ハーバードに帰属すると考えて、以前、以下の記事を書いたという流れです。

■ところが、「アホかいな」さんは、理研の帰属だとおっしゃいます。
 もしそうだとすると、今度は大問題が生じることになります。

 上記記事で書いたように、この2つの重要試料は、誰もが、これを調べる必要があるとして声を大にして指摘していたわけです。
 『捏造の科学者』で整理されているように、一級試料として上げられているうちの2つです。
 ところが、桂委員長は、「調査できませんでした」と困惑しながら述べた・・・・。
(それはなぜか?を記者は誰も質問しなかった・・・・驚+呆)

■ 本当にそれら試料が理研の帰属だったとすれば、当然に、桂調査委で調査されなければなりません。それが行われなかった、できなかったというのは、いったい何を意味するのでしょうか???

 以下の重大疑義について、理研が問われることになります。

① 理研帰属にもかかわらず、なぜ超一級試料のその2件の調査をしなかったのか? 調査自体に重大な瑕疵が生じることになるがどう説明するのか?
 桂委員長が、困惑しながら「調査できなった」と述べた具体的理由は、何なのか?

② 現在、物理的にどこに保管されているのか?

③ 2014年3月に小保方研究室を保全したにもかかわらず、試料がなくなったということなのか? 盗まれたのか? 紛失したのか?
 だとすれば、その経緯はどういうことで、知財対象物の紛失、盗難について、どのように内部処理したのか? 管理責任者の処分はしたのか?

 この重要試料2件の帰属の問題は、明らかにされないまま今に至っています。
 小保方氏は、自分の保存庫から試料がなくなっていることに気が付いたと述べています。
 この際、重要試料の帰属と行方とをはっきりさせることが必要と思われます。

■Ooboeさんとパートナーさんへ

 大変恐縮なのですが、もしできましたら、

「キメラマウスとその胎盤」、その「胎盤の切片」という重要試料2点についての帰属は、理研なのか、ハーバードなのか?

 という質問とともに、上記の①②③の点を、理研広報に確認していただけませんでしょうか?
 超重要論点にもかからず、記者、「アンチ派」、「擁護派」含めて、確認されていない点なので、ご協力いただけると助かります。


【補足】【再論】若山氏の実験ノートと情報公開との関係

>「アホかいな」さん
 
コメント欄でのご指摘の通りでしょうね。
 
「1.」については、主として共著者以外の実験協力者のことを想定してのご指摘かと思いますが、任意で調査に協力したら、情報公開されてしまうのではたまらない、ということですね。それはまったくその通りです。
関係者にとっては自分の不正でもないのに開示されてしまうのは納得できない、と思うのはごく自然なことです。


 理研が情報公開請求を受けたのは、協力者の実験ノートではなく、共著者である若山氏と小保方氏の実験ノートのことですから、理研の不開示決定の理由の「以後の同種調査で協力が得られなくなる」という点もそれを前提にしたものでしょうし、私の前の記事も同様です。
ご指摘と同じ趣旨のことを、下記記事の最初の■の冒頭で書いています。
 
実験ノートに対する情報公開請求に対して不開示にする理由としては、通常は次の3点が主な論点になるのではないかと思います。
 
① 一身専属著作者人格権(公表権=公表・公表しないを自ら決定する権利)の対象であり、本人の了解が得られないこと。
② 知財の対象となる研究内容、成果が含まれること。
③ 研究が不正調査の対象となる場合に、任意の調査である中で、情報公開対象となることが前提であれば、協力が得られないこと。
 
 私は、DORAさんの公開請求に対する不開示は、著作者人格権(公表権)や知財の関係も含めているのだろうと受け止めましたが、他方で、Ooboeさんのパートナーさんの請求に対する不開示では、「以後の同種調査で協力が得られなくなる」という理由は書かず(ですね?)、公表権と知財の関係を理由としているとのことなので、DORAさんへの不開示理由にはそれは含まれていなかったのかな・・・と感じました。
 初めからこれらの理由をセットで示しておけばよかったと思いますが、それはともかくとして、一般的には、理研の不開示理由の3点は妥当なものかと思います。
 
■前回の【再論】記事は、それを前提にしつつ、最初の■の冒頭に書いたように、
 
 「若山氏の「小保方氏に騙された」という立場、建前を前提にすると」 どうなるか?
 
 ということを書いているものです。一般論の話の続きではありません。
 若山氏の担当部分であるSTAP幹細胞関連も含めて、依然として特許出願中なので、未公表の知見なりノウハウ的なものも含まれている可能性があるでしょうから、特許出願が認められないものとしてすべて終結しないと、いずれにしても公開はできません。
 
■若山氏のスタンスは、
 
「小保方氏に騙された」
「若山研にはいなかったマウス由来だ」(後に「自分が提供したマウス由来ではない」に修正)
「自分が何をやっていたのかわからなくなった」
 
というのが立場のはずで、だからこそ論文撤回を主導したはずです。
 
そして、若山氏及びその実験ノート等も調査対象としつつ、桂調査委員会の調査結果において、「ES細胞の混入」だったと結論付けられたわけですし、「混入」を故意とは断定していませんが、通常では過失とは考えにくいとすることで、限りなく小保方氏の故意を示唆しています。
かくして、若山氏のスタンスは「裏付けられた」ことになりました。
 
そして、理研改革委が、その改革委提言及びその公表時の記者会見において、本件は、「前代未聞の不正」「世界三大不正」だと公式に指弾したわけですから、この「不正」が実際にどう行われたのか、「いかに巧妙に小保方氏が若山氏を騙したのか」を検証する上での、一級の公共財的色彩を帯びています。
 
若山氏はもちろん、第三者がきちんとトレースできるようにきちんと実験ノートをつけているはずですから、それを仔細に検証していけば、学とみ子さんが縷々書いておられるように、ネイチャー論文で、STAP細胞・幹細胞がES細胞ではないことを裏付けるために行った数々の比較実験の内容、結果はどういうものだったのか? どこでどうやって「騙されたのか?と」いうことも判明することでしょう。
 
若山氏は、一点の曇りもないからこそ、論文撤回を呼びかけ、記者会見でも自らに非はないことを主張し、論文撤回を完遂したわけですから、(V-CELL社等が特許出願中の手続きががすべて終われば)より詳しい検証材料として、提供しない理由はないように感じます。
 
 それで、以下のご指摘の「2.」は、若山氏のスタンスと、それが桂調査委によって「裏付けられた」ことからすると、仮に何らかの訴訟を起こされたとしても、十分に対抗できるはずですから、そのようなリスクより、むしろ、「世界三大不正」が行われた手口の解明のための一級の公共財として提供することの意義の方が大きく上回るのではないでしょうか?
 
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2、今後STAP事件に関わる裁判が何らかの形で起こされる可能性がないとは言えない。裁判になったとき、実験ノートは一級の証拠にならから、簡単には開示できるわけがない。
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 STAP細胞事件では、ネットによる不正の解明の意義が強調されたことは記憶に新しいものがあります。若山氏の実験ノートが社会に提供されれば、世界の研究者の間で、STAP細胞の「不正」の解明が一段と進み、同様の巧妙な「不正」の再発防止に必ずや大きく貢献することになるでしょう。
 
■・・・言うまでもなく、以上は半分皮肉ですが、半分は本気でもあります。
小保方氏が、これまでいくら説明しても、「実験ノートを提出しろ!」との罵倒の声はやむことはありませんでした。
 しかし、理研が不開示理由として、知財の関係があること(特許出願係属中であること)、著作者人格権(公表権)があること、今後の同種調査に支障が生じること、の計3点を理由として不開示としたわけですが、前2者の理由は、小保方氏の説明と同じです。3点目も、「私だけでは判断できない」という会見での言葉に含まれています。
 
 それでは、小保方氏に開示を迫っていた人々が、理研の不開示方針を厳しく批判するかといえば、批判することはありません。小保方氏の実験ノートだけが、公開請求の対象だったら不開示に批判が起きたかもしれませんが、若山氏のそれもワンセットでの公開請求だったことにより、今まで、小保方氏に投げかけていた非難の矢が、自らにブーメランとなって返ってくることに気がついたのでしょう。
 
 小保方氏は言っていませんが、もし、ご指摘のような、
 
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2、今後STAP事件に関わる裁判が何らかの形で起こされる可能性がないとは言えない。裁判になったとき、実験ノートは一級の証拠になるから、簡単には開示できるわけがない。
******************************
 
 ということを、小保方氏が述べたとしたらどうだったでしょう?
 それこそ、「不正を認めたに等しい」「やはり、やましいところがあるから公開できないのだろう」「裁判になることも覚悟しているんだ」として、非難と罵倒の暴風が吹き荒れたことでしょう。
 
 ところがどうでしょうか? 
 若山氏の実験ノートが公開請求の対象となると、「裁判になる可能性もあるから簡単に開示できるわけがないだろう。アホか!」という台詞が、当然のように語られます。
 
 STAP細胞事件での小保方氏への非難は、こういうダブルスタンダード的言辞が少なからずあったと思います。
 桂調査委の建前として、小保方氏と若山氏とは、同じ被調査者の立場なのですから、小保方氏に求めることと若山氏に求めることとは、同じ基準に基づく必要があることは言うまでもありません。
 STAP細胞事件での一連のことを振り返るとき、このブーメランの可能性を念頭におけば、もう少し抑制のきいた冷静な議論になったのではないかと感じます。
 
 
■さて、最後に、若山氏の実験ノートの開示をとことん争った時、認められる可能性はあるのでしょうか?
 私はその可能性は多少はないわけでもないかも・・・と感じています。
もちろん、特許出願等の知財関係がすべて終結していることが前提ですし、ハーバードに帰属する部分は除いての話です。また、STAP細胞問題と関係しない実験・研究部分はもちろん除かれます(関係ない部分は、黒塗りにすることになるでしょう)
 
 まず、「今後の同種の不正調査に支障」という点は、若山氏自らが、「騙されて行ったもので、何をしていたのかわからなくなった」「ES細胞混入だ」と主張していたその実験の過程を示したノートですから、通常の(自らの身の潔白を訴える)不正調査とは構図が異なると思います。
 
 知財関係、同種の不正調査への支障という理由がなくなると、あとは、著作者人格権(公表権)との関係になってきます。
 一般的には、著作物を公表するかしないかは、著作者が自ら決定できるわけですが、それが絶対のものかといえば、そうでもないというのが、BPOの決定書に書かれています。
 BPOでは、小保方氏が、NHKスペシャルで勝手に実験ノート内容の一部を放映されたことについて、論点のひとつとして判断しています。
 
決定では、「(3)実験ノートの放送」については、著作者人格権(公開の可否の決定権)と表現の自由との関係は、法実務上まだ確定的になっていないとしてコメントを避けた上で、次のように判断しています。
 
「本件放送には上述の通り高い公共性があり、本件公表は、上述のように公共性と公益性のある報道目的のための相当な範囲を逸脱しているとまでは言えない。」
 
 つまり、小保方氏の主張を排して、
 
「公共性と公益性との比較衡量次第で、著作者の意向にかかわらず公開もあり得る」
 
 という判断をしたわけです。
 理研は、改革委提言と会見において、「前代未聞の不正」「世界三大不正」と公式に述べたわけですし、その真相解明のために実験ノートまで含めて検証することは、公共性と公益性があると主張すれば、認められる可能性はまったくないわけでもないようにも思います。
 
 一般に、著作者人格権は、「人権」の一種ですから、経済的権利(著作権もそのひとつ)と比べて重みを持っています。それを排してでも、あえて公開させる必要があるのか?というところは論点となるわけで、桂調査報告書によって調査済みなのだから、それ以上に実験ノートまで公開する理由に乏しいのではないか、というのはその通りかと思います。
 
 これは、若山氏、小保方氏のいずれの実験ノートについても当てはまることではありますが、少なくとも、小保方氏はSTAP細胞の存在を訴え、「私のこれまでの、全ての秘密が書かれているからだ。私が見つけた細胞の秘密、細胞の神秘、私の発見、私のその時の感動、それが全て書かれたものだった」として拒絶の意向を示している一方で、若山氏は、「騙された行った実験で、ES細胞混入による間違いだった」とのスタンスを取っているように、両者には大きな差があります。
 つまり、著作者人格権という「人権」の程度に、今回の場合は、両者に大きな差があるということです。
この点が、もし争われた場合、公開の可否を判断する比較衡量の上で、差になってくるような気もします。
 
 どのみち、若山氏の実験ノートについて改めて情報公開請求を行うとしても、その機会はずっと先になるでしょう。その間に状況は大きく変わっているかもしれません。


【再論】若山氏の実験ノートと情報公開との関係


 Ooboeさんには、実験ノートの不開示決定理由書の概要紹介を有難うございます。
 実験ノートと情報公開請求上の扱いについては、以前、DORAさんの情報公開請求結果のご紹介を受けて、記事を2点書いたことがあります。

 パートナーさんへの不開示理由は、DORAさんへのそれと異なりますが、記事でも書いたように、STAP細胞、幹細胞含めて引き続き世界各国で特許出願が継続中ですから、それとの関係で公開できないということは理解できます。

 他方、著作者人格権のうちの公表権を理由の一つにしていたというお話は興味深いです。その点は、記事でも書きましたが、BPOヒアリングの中で小保方氏の公表権侵害との主張をしていた点であり、小保方氏の立場・主張を踏まえたものと思います。

■しかし、若山氏の「小保方氏に騙された」という立場、建前を前提にすると、以下のようなことが考えられるのではないかと思います(一部、以前の記事と異なる整理部分もあるかもしれませんが、今改めて考えてのものです)。

(1)DORAさんへの不開示理由(今後の同種の不正調査に支障をきたすおそれ)については、不正調査での資料提出は、不正を疑われた者の不正でない証明材料として、任意で提出するものということが建前のはずです。
 したがって、調査が終了すれば、それを情報公開対象にするかどうかは、知財権との関係、実験ノート作製者(=公表権保有者)のに意思によって決まってくると思います。
 その実験ノートに関する研究は、不正調査の対象になるものばかりではないのですから、「今後の同種の不正調査に支障をきたすおそれ」というのは、理由にならないのではないかと思います。
 審査会まで上げれば、ひっくり返る可能性が高いでしょうし、だからこそ、パートナーさんへの不開示理由は、DORAさんへのそれとは異なる理由を持ってきたのだろうと想像しています。

(2)知財権との関係では、パートナーさんへの不開示理由書にあるとおり、両論文をもとにしたSTAP細胞、STAP幹細胞の特許出願が継続中ですので、小保方氏、若山氏の意思に関わらず、公開はできないことになります。
 特許出願の権利は、職務発明として理研に譲渡され、更にそれが、ハーバードに譲渡されたわけですので、両氏が公開してもいいとの意思があったとしても、公開はできないでしょう(「放棄」といわれていますが、権利上は「持ち分の譲渡」だと思います)。

(3)しかし、もし仮に、特許出願が全世界ですべて終結し、特許が認められなかったとすると、「知財権との関係だけでいえば」、少なくともその認められなかった特許出願に関係する部分は、公開しない理由はなくなると思います。
 公開対象は、「法人文書」の定義からすれば、自ら作製保有しているものだけでなく、外部から受領・保有しているものも含まれますので、実験ノートの帰属先とは関係はありませんが、公開対象は、実質的には理研帰属のものに限られるでしょう。

(4)こうして、(STAP幹細胞に関する)特許が認められずに終結した段階で、公開の可否を考えた場合、公表権との関係だけになってきます。公表権保有者の意思については、小保方氏の非公開の意思は明確ですから、あとは若山氏の意思次第になってくるかと思います。
 若山氏のスタンスは、「小保方氏に騙された」というものであり(「だから何をしたのか分からなくなったので、論文撤回した」)、「真相解明」に協力するというものであるはずですから、その材料となる実験ノートを公開しない理由はないのではないかと感じます。
 (STAP幹細胞に関する)特許が認められなかった時点で公開請求を改めて行った場合、若山氏の意思を確認した上で、開示の可否を決めるということになるかと思います。
 その時に、若山氏は「公表を認めない」との意向を示す場合、「小保方氏に騙されて行った実験だった」等のスタンスとの関係で齟齬が出てくるのではないかと感じます。

(5)学とみ子さんがずっと記事で書かれているように、STAP論文では、ES細胞ではないということを証明するための実験結果が多数含まれているわけですが、その裏付けとなるものが、若山氏の実験ノートにも多数含まれているはずです。
 もともと笹井氏が記者会見で述べたように、真っ先にES細胞ではないかと疑われるので、そうではないということを実験と論文で示したわけですので、ES細胞混入と結論づけるのであれば、それらの論文記載内容との関係を、桂調査委員会は調査し、説明する必要があったはずです。
 社会による真相究明という点では、若山氏の実験ノートは、上記のES細胞ではないということを示すための実験結果も含まれているという点で、貴重な材料になると思われます。

 まだ先のことではありますが、特許出願が世界各国ですべて終結した時点で、改めて若山氏の実験ノートの情報公開請求をした場合に、その時点では、不開示理由がなくなっているはずですので、不服申立てを受けた審査会まで持ち込まれた場合に、どういう結果になるのか?という点は、STAP細胞問題を究明する上では、注目されるところです。

 その点で、パートナーさんがお持ちの不開示理由通知書は、極めて貴重な材料になりますので、急ぎませんが、楠本さんのご協力をいただいて、アップしていただければ幸いです。必ず公共財産になると思います。
 きっと、情報公開法の解説などにも、DORAさんへの不開示理由通知書とともに、引用されると思います。