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研究成果有体物取扱規程は、規定内容に混乱があるのでは?ー定義と合わない条文

 
 研究試料の移動に際して関係してくる、研究成果有体物取扱規程について、見てみました。


情報公開請求制度は、現行の手続き規定に則って作成され、保存されている情報を請求対象にするものですが、研究試料の管理・移動に関する情報の基本となるのは、文科省が平成14年(2002年)に定めた「研究成果有体物取扱いガイドライン」です。
 
 それを踏まえた各組織の規程において定められていますが、その目的は、理研職員が米国で産業スパイ事件で逮捕されたことを教訓に、試料の移動が生じる場合に、その「提供経緯の明確化」という点にあります。
 主として、「研究活動のため」「産業利用のため」の2点から書かれており、「研究不正調査のため」との観点からの明示的規定はありませんが、その肝は、「研究成果の試料を移動させるときには、契約なり報告なり記録なりによって、趣旨や移動事実を明確にせよ」という点にあります。したがって、「研究不正調査のため」の場合でも、その趣旨を踏まえて同規定に準拠して処理すればいいでしょうし、それ以上に別扱いにするという根拠規定・指針もありません。
 
それで、京都大学の規程(末尾参照)を見ているのですが、どうも規程に混乱があるように感じます。定義と規程とが合っていないように思われます(これは他の大学や研究機関でも同様のようです)。
 具体的にいうと、
「研究成果有体物」の定義は、「本学の資金、施設、設備その他の資産を用いて行った研究の結果~~~で、学術的、技術的又は財産的価値を有するものをいう。」です(第2(3))。
 本学=京都大学での研究成果、という趣旨かと思います。
 
他方、そのような定義の下では、次の規定の研究成果有体物を「受け入れる」「持ち込む」場合という趣旨がよくわからなくなってきます。
 「外部機関から研究成果有体物を受け入れる場合」(第5(2)
 「研究者等が、外部機関から本学への異動に伴い、本学に研究成果有体物を持ち込む場合」(第62
 「外部機関から提供を受けることを認めた場合」(第7条)
 
 おそらくこの規定の趣旨は、他の外部機関の資金、施設等で作製等したその機関の研究成果物が、京大当局のあずかり知らぬ間に研究者が保有していたという事態は回避するために、管理責任者の承認を得るということだと思われます。 
 しかしそれであれば、「研究成果有体物」とは別の用語で表現しなければ意味が通らなくなってしまいます。
 
 それと、この定義のままだと、研究者が管理している他機関から受け入れた他機関の研究成果有体物を、別の機関に提供する場合の扱いが宙に浮いてしまいます。
 Ooboeさんのパートナーさんが京大山梨大の移動についてのMTAの情報公開請求をした際の不開示決定通知書(平成27622日付け)を見ると、定義からして、MTA対象外と書かれていますが、これは、元々は理研に帰属する研究成果有体物だから、という趣旨なのだろうと思います。
 それならそれで構わないのですが、しかし、京大で受け入れて管理している研究成果有体物が他の組織・研究者に提供される場合の手続き規定が明確でないというのは、適切ではないように感じます。承認、届出等、何らかの形で提供経緯の明確化が担保されないと、文科省ガイドラインの趣旨も担保できなくなってしまいます。
 京都大大田氏から山梨大若山研へのFES1の送付については、宅急便の送付伝票が法人文書として開示されていますので、送付手続きの中でその辺の経緯(依頼者、依頼趣旨、送付対象試料等)が、記録として残されているのであればいいのですが、それを明文化する必要があると感じます。
 
■それから、理研の研究成果有体物取扱規程は、検索してもヒットしません。
 それで、大田氏が理研から京大に移籍した際の、FES1等の試料の移管手続きは、どういう規定に基づくものなのかがよくわかりませんが、京大の不開示決定通知書の回答から見ると、理研に帰属する研究成果有体物というステータスのままなのだろうと思いわれます。
そして、移籍時は事件発生前ですし、FES12は、特に特許出願その他の対象になっていたわけではありませんから、理研においても「研究者管理」扱いとなっていたと思われますので、京大に持っていくに際しても、簡易な手続きに拠ったものだろうと想像されます。
 
 Ooboeさんによる理研に対する情報公開請求で、大田氏が京大に「移転するに際して提出された移転手続きに関する書類」を請求されたのに対して、「特定の研究者(大田氏)が作製したものかにかかわらず、若山研究室のES細胞等を京都大学に移転した手続き書類はありませんでした」との回答になっていました(平成2746日付け)。
書類保存期間の5年経過満了前ギリギリだったとのことですので、記録があるとすれば開示されたと思いますが、不存在だったというその辺の事情がよくわかりません。
開示請求にあるような、何らかの「提出された書類」としては存在しなかったという意味なのか、それとも、理研として、大田氏がどのような細胞を持っていったかを確認できる記録がないという意味なのか、明確ではありません(若山研が山梨大に移転するときに、当初何も手続きされていなかったことからすると、大田氏移籍のときも同様だったのかもしれませんが・・)。
いずれにしても、知財上重要ではなかったとしても、理研帰属の試料が移動した、という記録は何らかの形で手続き規定上担保しておく必要があるのではないかと感じます。
 
 ・・・ただ、こういう細胞等の研究試料群には膨大なものがあり、通常の備品管理の感覚では処理が難しいようにも一方では思います。それが、「当該研究成果有体物の特性に応じて適切に管理・保管し、又は使用しなければならない。」(京大規程第4条)という一文の「適切に」という言葉に凝縮されているのかもしれませんが・・・。
 
【参考】
 
京都大学研究成果有体物取扱規程
 
(定義)
2条 この規程において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)(2) 略
(3) 「研究成果有体物」とは、研究者等が、本学の資金、施設、設備その他の資産を用いて行った研究の結果又はその過程において創作、抽出又は取得(以下「作製」という。)した材料、試料(遺伝子、細胞、微生物、化合物、抽出物、実験動物、蛋白質等の生体成分等をいう。)、試作品、実験装置等で、学術的、技術的又は財産的価値を有するものをいう。(ただし、著作物を除く。)
(4) 「作製者」とは、研究成果有体物を作製した研究者等をいう。
(5) 「提供」とは、研究成果有体物を有償又は無償で外部機関に譲渡、貸与又は引き渡すことをいう。
 
2章 帰属及び管理


(帰属)
3 研究成果有体物は、特段の定めがない限り本学に帰属する。ただし、本学に帰属させないことが適切であると認められるものについては、この限りでない。
(管理等)
4 研究者等は、研究成果有体物を作製したときは、当該研究成果有体物の特性に応じて適切に管理・保管し、又は使用しなければならない。
2 部局の長は、当該部局における研究成果有体物の管理について、統括するものとする。
(申出)
5 研究者等は、次の各号の一に該当するときは、あらかじめ部局の長に申し出てその承認を得なければならない。
(1) 外部機関に研究成果有体物を提供する場合(分析依頼のための提供及び特許出願のための生物寄託を除く。)
(2) 外部機関から研究成果有体物を受け入れる場合(市販されている物を購入する場合はこの場合に含まない。)
2 前項の規定にかかわらず、研究者等が、外部機関に有償で研究成果有体物を提供する場合は、あらかじめ部局の長を通じて産官学連携本部長に申し出て、その承認を得なければならない。
 
(研究者等の異動等)
6 研究者等は、異動、退職、卒業、退学等により本学における身分を失い、又は長期間に渡って出向、出張等する場合であって、次の各号の一に該当するときは、部局の長に申し出るものとする。
(1) 当該研究者等が保管する研究成果有体物が存在する場合
(2) 当該研究者等が当該研究成果有体物について本学外で引続き使用することを希望する場合
2 研究者等が、外部機関から本学への異動に伴い、本学に研究成果有体物を持ち込む場合には、部局の長に申し出て、その承認を得るものとする。
3 前2項の申出を受けた部局の長は、当該研究者等と協議の上、当該研究成果有体物の取扱いについて決定するものとする。
 
3章 提供及び受入れ


(提供等の契約)
7条 第5条第1項又は第2項の場合において、研究成果有体物を外部機関に提供し、又は外部機関から提供を受けることを認めた場合には、当該外部機関と契約を締結し、必要に応じ、契約書その他の書面を作成するものとする。この場合において、当該研究成果有体物が知的財産権等の権利の対象となることが明らかである場合は、契約を締結するにあたり、当該権利に配慮して契約を締結するものとする。