理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

日本でのSTAP特許出願拒絶査定についての気付きの点―備忘的に


 日本の特許庁が、ハーバード大B&W病院からのSTAP特許出願に対して拒絶査定をしました。その内容と今後の見通しについて、専門家ではありませんが、備忘的に考えてみたいと思います。
 
  まずは、拒絶査定のポイントを、頭の整理を兼ねて要約してみます。
 
1 拒絶理由は、「サポート要件」と「実施可能要件」の2つ。


○ サポート要件について
請求項1は「Oct4発現細胞を含有する細胞塊」の作製方法に補正されたが、発明の「詳細な説明」の記に記載された「発明の技術課題」は、ストレスによって多能性細胞を生成することである。しかし、Oct4を発現細胞だけでは、当業者の技術常識として、多能性細胞を生成することにはならないし、生成できると認識される程度に記載もされていない。
○ 実施可能要件について
発明の「詳細な説明」の実施例はNature論文と同内容のものだが、同論文の撤回と再現実験結果を踏まえれば、その現象の信憑性については疑義があり、再現不可能なものというほかない。
このことは、Nature論文と同内容の実施例を具体的根拠とする、本願の発明の詳細な説明の内容についても妥当するものであり、実施例における記述自体にかかわらず、ストレスにより多能性細胞を生成することや、Oct4発現細胞塊を生成するという発明の技術内容が、発明の詳細な説明において明確かつ十分に記載されているとはいえないことを意味する。
 
2 出願人の主張についての検討


○主張1―「補正後の新請求項1の内容は、詳細な説明において、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に示されている」旨
①実施例は、両Nature論文のものと同じだが、この特許出願と論文発表は、とも
 本願発明者らによって行われた同一の研究活動によって得られた成果に基づく
 ものである。
 ②しかし、両Nature論文は撤回され、その際、著者全員による文面として 「これら
  の複数の誤りは本研究の信頼性を全体として損なうものであり、STAP幹細胞の
  現象が真実であるか否かについて、我々は疑いなく述べることができない。」と
  記載されている。
③さらに、当初の共同出願人であった理研における解析で、用いられた全てのST
 AP細胞関連材料はES細胞に由来するものであったことが判明し、論文の証拠
 には異議がある、との結論となったものと認められる。
④そうすると、両Nature論文と同一の研究活動に基づく本願明細書記載の実験 
 か否かが不明であり、その信憑性について疑義があるというほかない。
 
○主張2―「新請求項1の内容は、丹羽論文において再現されており、「詳細な説明」の内容は、信憑性に疑義はない」旨
 ⇒
 ①他の当業者による追試によって、少なくともOct4発現現象についは、その再
  現性が確認されたとしても、そのことをもって、本願明細書記載の実験データが、
  出願明細書に記載されたとおりの手法により得られたものであったことを証明し
  たことにならない。
 ②丹羽論文では、GOFマウスから得られた肝臓を低pH条件で処理し、内在性の
  Oct3/4が発現したのに対し、本願の実施例においては、Oct4発現を確認して
  いるのは、GOFマウスから得られたCD45陽性細胞を対象とするものであって、
  丹羽論文で使用された肝臓細胞とは異なっている。また、実施例で発現を確認し
  ているのは、Oct4-GFPであって、丹羽論文で確認した内在性のOct3/4と
  は異なっている。すなわち、丹羽論文に記載された実験データは、本願実施例と
  じ方法及び条件によって得られたものとはいえず、当初明細書に記載されてい
  た事項であったとすることはできない。
 ③そして、丹羽論文の実験データは、本願出願後に得られたものであることが明
  らかであるところ、サポート要件及び実施可能要件の判断にあたり、明細書等に
  記載されていなかった事項について、出願後に補充した実験結果を参酌するこ
  とはできない。
 
■ なかなか専門的な内容ですが、超訳的にまとめると、こういうことでしょうか?

①請求項をOct4発現細胞の作製法に補正したといっても、明細書記載の解決すべ
 き技術課題は、依然として多能性細胞の生成法のままだから、その補正では課題
 解決にならない。
②実施例に書かれているのは、撤回された論文と同じ研究によるものだが、撤回さ
 れているし、検証実験でも再現されなかったから、実施可能とはいえない。
③撤回された際に、共著者全員によるコメントで、「STAP現象全般の真実性を疑い
 なく述べることはできない」とされ、出願人であった理研により、「STAP細胞はES
 胞だった」と結論されたことから、実施例の記載も信用できない。
④丹羽論文の実験では、肝臓を対象に内在性のOct3/4を確認したのに対して、
 実施例では、GOFマウスから得られた脾臓のCD45陽性細胞対象にOct4-GF
 Pを確認したものであるので、両者は同一の方法・条件による実験とは言えない。
⑤丹羽論文のデータは、出願後のものであり、参酌できない。
 
■ こうやって何とか理解したものの、それでもどうもよくわからないところがあります。
 特許の制度運用の常識を知らないので、ピントはずれかもしれませんが、メモってみます。
 第一の点は、本当に驚いたのですが、請求項を補正して、多能性とは切り離した、途中経過の発明である「Oct4発現細胞塊の作製方法」というものにしたはずなのに、「技術課題」が依然として、多能性細胞の作製方法のまま、というのはどういうこと? ということです。
 これは、請求項を減縮したのに合わせて、技術課題のところも、途中経過の発明のそれに修正することはできないということなのでしょうか? 技術課題が多能性細胞の作製法のままであれば、いくら請求項を減縮しても拒絶されるのは当然ということになります。
 途中経過のOct4発現細胞の作製法というものを請求項とするのであれば、発明の技術課題もそういうものとして別途の出願としていればよかった(よい)のでしょうか?
 
 第二の点は、拒絶査定では、出願はネイチャー論文の研究成果に基づいている中、論文は撤回、全著者によるコメント、理研論文の3つを踏まえて、実施例は信用できないとしているが、STAP現象の真実性を検証するために検証実験がなされたわけであり、その中で、実施例に近い再現がなされたのであれば、少なくともその限りでは、実施例の再現性が認められてもいいのではないか?ということです。
 ただこの点は、拒絶査定では、ダメ押しで、実施例と丹羽論文とは、同一条件・方法とは認められないとしていますので、不可という判断なのでしょう。
 
 第三の点は、第二の点に関係するのですが、仮に、新請求項の特許が認められたとした場合、丹羽論文で作製した細胞塊は、その特許の権利範囲に含まれるのか否かという点です。
 特許の世界では、均等論というのが最高裁で認知されていて、特許請求の範囲に書かれていなかったとしても、一定の条件の下に、権利範囲が広く認められるとのことです。
素人が考えると、実施例はあくまで実施例であり、すべての実施例を網羅することはできないわけですから、明細書の記載を踏まえて、権利範囲に含まれてくるような事例が他者によって再現されたのであれば、「実施可能」ということにならないのだろうか?という素朴な疑問を抱きます。
拒絶査定の判断は、丹羽論文の再現事例と全く同一の方法、条件が明細書に記載されていなければ、「明細書に記載されている」とはいえず、また再現事例として考慮されないということのようですが、現実的なのだろうか?という気もします。
 
 第四の点は、単純な制度運用のことですが、出願の事後に出されたデータは、要件判断の上では参酌できないという趣旨は、「明細書等に記載されていなかった事項について」ということであって、「明細書等に記載されている事項」という前提であれば、事後に出されたデータについては当然参酌されるという理解でいいか?という点です(当然そうでしょうね・・・)。
 韓国の黄禹錫氏の特許が認められたのも、出願後に海外の研究所が再現したと認められたからではないかと思います。
 
  それと、別途の視点からの気づきの点ですが、


 第一点目は、拒絶査定の理由が、「サポート要件」と「実施可能要件」に絞られています。
 それまでの拒絶理由は、新規性、進歩性、実施可能要件、サポート要件、明確性、産業上の利用可能性と「全部入り」でしたが、拒絶査定では、新規性、進歩性、明確性、産業上の利用可能性には言及されていません。
 ※ 週末は、特許庁の特許情報プラットフォームのサイトはアクセスできないので、今は確認できないのですが、たしか新規性のところで、Muse細胞を先行例としていませんでしたでしょうか? そして、たしか・・・出願人側が、Muse特許の明細書にそんなこと書かれていないと主張したのに対して、材料などは適宜使って再現可能云々・・・といったようなことを審査官側が述べていたような・・・全くうろ覚えなので、あとでよく調べてからにしますが、「丹羽実験と同一条件・方法が書かれていなければ、明細書に記載されているものとは認められない」という今回の拒絶査定の考え方と両立するのかな・・・と、ちらと思いました(後で確認します)。
 
 第二点目は、「Oct4発現細胞塊の生成」というのも、次のように「発明」として位置づけられているように見えます。その上で、新規性、進歩性、産業利用可能性等については言及されていませんから、「そういう刺激によるOct4発現などは以前から知られていた話だ」という認識には立っていないということかな・・・と思いました。

「・・・外来遺伝子の導入等なしに細胞を脱分化させ多能性細胞を生成することや、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成するという発明の技術内容が、発明の詳細な説明において明確かつ十分に記載されているとはいえないことを意味する。」
 
 いうことで、とりあえず、感じた点を備忘的に書きましたが、今回の拒絶査定が「公式の事実」をフルに使って、要件を満たさない理由としており、なかなか厳しいものがあるのは確かです。
 米国での出願がどうなるのかわかりませんが、ともかく待つほかないかと思います。
 
■次に、日本での今後の見通しについてです。
 拒絶査定を受けた場合に、拒絶査定不服審判なり、分割出願なりで対応するということのようですので、ちょっと調べてみました。以下のサイトに、分割出願についてわかりやすく解説されています。 
 
 この解説によれば、分割出願するにしても、拒絶査定不服審判の請求と同時にした方が、有利のようです。したがって、今後、(海外の者なので3か月以内ではなく)4か月以内に拒絶査定不服審判が提起され、併せて分割出願がなされるということになるのでないかと想像されます。
 
「分割出願に記載する発明は、原出願の明細書等に記載されたものでなくてはなりません。これが、(1)(注:「拒絶査定不服審判を請求する時」)の時期の場合は原出願の当初(出願時点)の内容の範囲で認められます。一方、(3)(注:「最初の拒絶査定謄本の送達日から3ヶ月以内」)の時期の場合は、分割直前、すなわち拒絶査定謄本を受け取った段階での明細書等の内容の範囲でしか認められません。特許制度では、出願後に新しい内容を追加することは認められていませんから、(1)の方が範囲が広いということになります。」
 
 ただし、「分割出願に記載する発明は、原出願の明細書等に記載されたものでなくてはならない」とありますから、結局、Oct4発現細胞塊の作製方法が、明細書に書かれているのかどうか、ということが、おのずと論点となってくるのでしょう。
 不服審判請求や分割出願までの4か月以内に、米国での出願に対する査定も出るでしょうから、それを見つつということになりそうです。