STAP特許出願の補正は、やはり丹羽氏の検証実験論文が決め手だったー特許認容となれば丹羽氏が立役者
先日、栗原潔先生が紹介されていた、ハーバード大による日本での特許出願の補正について、見てみました。
これをみると、先日の小生の記事で書いた次の点は、やはりその通りでした。
「「多能性細胞を生成する方法」というクレームだったから、論文撤回によって裏付けが失われた形になっていますが、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法」であれば、裏付けが理研検証実験論文という形で存在しています。」
■ 工有権情報・研修館のJ-Plat-Pat から、出願状況、審査状況が検索ができます。
その右端の「経過情報」タブの、
「1.番号照会」とありますので、そこに、「2015-509109」 というSTAP特許出願の番号を入れて検索すると、表示されます。その右上の「審査書類情報」をクリックすると、一連の提出書類が表示されますが、2017年9月7日付けの「意見書」をみると、拒絶理由が解消した旨の主張がなされています。
これまでの拒絶理由は、新規性、進歩性、実施可能要件、明確性、産業上の利用可能性のすべてにおいて、特許法上の要件を満たしていないというものでした。
意見書では、今回の補正により、拒絶理由は解消したと主張しています。
■補正後の請求項(クレーム)は、次のようになっていますが、請求項1が、もっとも包括的なものになっています。
2.1.補正後の特許請求の範囲
補正後の特許請求の範囲は以下の通りです。
[請求項1]
細胞を、低pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞
塊を生成する方法であって、該低pHが、5.4~5.8のpHであり、且つ、pHの調
整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法。
[請求項2]
細胞塊が外来遺伝子、転写物、タンパク質、核成分もしくは細胞質の導入なしに、また
は細胞融合なしに生成される、請求項1記載の方法。
[請求項3]
細胞が組織の部分として存在しない、請求項1または2記載の方法。
[請求項4]
細胞が体細胞、幹細胞、前駆細胞または胚細胞である、請求項1~3のいずれか1項記
載の方法。
[請求項5]
細胞が単離された細胞である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
[請求項6]
細胞が細胞の不均一な集団中に存在する、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
[請求項7]
細胞が細胞の均一な集団中に存在する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
[請求項8]
細胞が2~3日間曝露される、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
[請求項9]
細胞が1日間以下曝露される、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
[請求項10]
細胞が1時間以下曝露される、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
[請求項11]
細胞が約30分間曝露される、請求項1~10のいずれか1項記載の方法。
[請求項12]
細胞が哺乳動物細胞である、請求項1~11のいずれか1項記載の方法。
[請求項13]
細胞がヒト細胞である、請求項1~12のいずれか1項記載の方法。
[請求項14]
細胞が成体細胞、新生児細胞、胎児細胞、羊水細胞、または臍帯血細胞である、請求項
1~13のいずれか1項記載の方法。
[請求項15]
細胞塊をインビトロで維持する工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項記載
の方法。
[請求項16]
細胞のエピジェネティック状態が胚性幹細胞のエピジェネティック状態により近く類似
するように変化させられる、請求項1~15のいずれか1項記載の方法。
[請求項17]
エピジェネティック状態がメチル化パターンを含む、請求項16記載の方法。
[請求項18]
請求項1~17のいずれか1項記載の方法によって産生される細胞塊を候補薬剤と接触
させることを含む、該細胞塊の生存能、分化、増殖の1つ以上に影響を及ぼす薬剤を同定
するための使用のためのアッセイ。
[請求項19]
細胞塊を含む組成物であって、該細胞塊が請求項1~17のいずれか1項記載の方法に
よって細胞から生成される、組成物。
[請求項20]
細胞を、pH5.4~5.8の低pHストレスに供する工程を含む、該細胞においてO
ct4遺伝子の発現を誘導する方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行
われることを特徴とする、方法。
[請求項21]
細胞を、pH5.4~5.8の低pHストレスに供する工程を含む、Oct4遺伝子を
発現する細胞の製造方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行われること
を特徴とする、方法。
■それから、実施可能性要件(当業者によって再現可能なもの)については、やはり、丹羽氏による検証実験結果報告書が援用されていました。
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次に、審査官殿の「実施例において示された内容は上記両Nature論文と同内容のものと認められるところ、上述の論文取り下げ及び再現実験の結果という事情に鑑みれば、現時点においては、当該論文において確認された現象は、その信憑性については疑義があり、また、再現不可能なものというほかない。」とのご認定に対して、意見を申し述べます。
参考文献の1つとして審査官殿より引用された「11.Hitoshi Niwa, et al.,Scientific Report,2016年6月,6:28003,p.1-9,doi: 10.1038/srep28003」には、新請求項1に係る発明が、当業者により再現できた事実が明確に示されています(当該文献のp2、下から8行目~2行目;p3、上から16行目~23行目及び上から27行目~31行目;p5、上から1行目~4行目及び下から8行目~5行目、図1等をご参照ください)。具体的には、当該参考文献中のこれらの箇所においては、ATPを用いての低pHストレスを細胞に与えることによって、細胞塊が生成し、且つ当該細胞塊にはOct4遺伝子が発現している細胞が含まれていたことが端的に記載されています。従いまして、新請求項1に係る発明は、本願明細書の実施例においてだけでなく、当該技術分野において一流誌の1つと認められている学術雑誌に掲載された論文によっても実施可能であることが実証された発明にほかなりません。
上記のように、ATPにより調整された5.4~5.8の低pHストレスに細胞を供することにより、Oct4遺伝子を発現する細胞を含有する細胞塊が生成されることは、他の当業者による追試によって、その再現性が確認されているわけですから、少なくとも、その点について記載された本願実施例の内容は、信憑性に疑義はなく、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて、再現可能なものであることは明らかであります。
以上より、本願の発明の詳細な説明は、新請求項1に係る発明を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を充足するものです。
また、新請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であることは明らかであり、サポート要件を充足するものです。請求項1に従属する新請求項2~19についても同様です。また、新請求項20、21に係る発明は、新請求項1に係る発明を、それぞれOct4遺伝子の発現誘導の観点、Oct4遺伝子発現細胞の製造方法という観点で表現したものであり、ATPにより調整された5.4~5.8の低pHストレスに細胞を供することにより、該細胞にOct4遺伝子の発現を誘導する点については、新請求項1に係る発明と共通するものですので、同様に実施可能要件及びサポート要件を充足するものです。よって、新請求項1~21は、いずれも上記拒絶理由には該当しないこと は明らかであります。
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STAP論文が撤回された中で、丹羽氏による検証実験で、「少数ながらも、有意なOCT4発現があったと結論する」との報告がなければ、拒絶理由解消とすることは難しかったと思われます。
■ 丹羽氏は、まるで求道僧?の趣きのある、口舌の輩とは対極にある人格者の印象です。「いぶし銀」とは、丹羽氏を形容するためにある言葉のような気さえします(笑)。
毎日新聞の須田記者にも、たしか、「自分はしゃべるよりは、実験の結果で示すことのほうが性に合っている」という趣旨のことを語っていたと思いますが、実際、記者会見でも、一切推測に基づくことは言わず、実際に見たもの、出現したものと、20年以上に亘る細胞研究の中で得た知見だけに基づき語っていました。解釈についてわからないところはわからない、としか述べませんでした。また、質問されたことに対してしか述べませんでした。
小保方氏を擁護するようなことも言いませんでした。「STAP細胞」の定義については、検証実験開始時に定義された通りに、(Oct4出現だけではなく)キメラマウス作製によって多能性を証明できるもの、ということに即して、淡々と、そこに至らないからSTAP現象は再現できなかったとしか述べませんでした。
ただ、その語った事の中には、極めて示唆に富む指摘が少なくなかったことも確かです。
・検証実験で見たものは、その時に見たものと同じだった。
・胎盤に寄与していることを、この目ではっきりとみた。
・若山氏は、注入したのは極めて均一な細胞だったと言っていた。
・ES細胞とTS細胞とは混ぜてもすぐに分離してしまう(均一に混ぜることはでき
ない)。
・FI培地の中では、ES細胞は死滅する。
今後、もしSTAP細胞に関する特許が成立して、STAP細胞の復権が果たされた時、その立役者は、丹羽氏だったということになりそうです(本当は、小保方氏自身も、その参加した検証実験で、2014年8月初めに作製した緑色に光る細胞によって、再現していたはずなのですが、それが検証実験結果としてなぜか採用されなかったがために、報告書と相澤論文には盛り込まれるには至りませんでした(理研は、その8月初めの実験結果の写真の公開を事実上拒みました)。
バカンティ氏と小島氏とによる特許出願も、脊髄細胞の機能回復というところまで踏み込んでいますので、多能性細胞ということになりますが、刺激によるOct4発現という入口段階のところがクリアされなければ難しいでしょうから、その面でも、丹羽氏の功績大ということになるかと思います。
丹羽仁史氏に対しては、なんというか・・・畏敬の念がこみ上げてきます・・・。
※ ともかく、刺激によるOct4発現細胞の作製方法で、特許化できれば、入口段階を独占的に押さえることができますから、そうすれば、じっくり、多能性細胞の作製の証明に取り組めばいいわけです。小保方氏がその段階で才能、技能を存分に発揮し、研究を深める機会も出てくると思います。
論文の競争だと大変ですが、特許で押さえれば多額の投資ができますので、いずれ実現することでしょう。