理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

4 【再論】早稲田大の小保方氏学位剥奪処分の不当性(4)―調査報告書の分析②.


(4)問題点とされた内容は、論文の根幹に関わるものではないこと。報告書は、論文の根幹部分については調査対象外としていること(ただし、実験の実在性は認定)
 
【1 本質的部分であるTissue誌論文には問題あるとの認識にないこと。】
 「本件博士論文」(間違って提出製本した初期の草稿)の調査に際して、論文の本質的な根幹部分については、疑義を呈していません。その元となるTissue誌論文について、巷間言われた疑義について、同誌が訂正を受け入れて、特にそれ以上に不正解明のための手続きをとっていないことを以て、早稲田大としてそれ以上に独自に調査はしないというスタンスです。
 研究の本質的部分とは、先日の会見資料の中の、「3.その他の不適切な博士学位論文について」の中で述べられています。
 
「(研究の本質的な部分とは、学位論文に記載されている研究の根幹をなす著者独自の着想あるいは新規な事実の発見とそれに基づく学問的帰結のことであり、学位授与の判定において特に重視される部分をいう)。」
 
 小保方氏の博士論文の本質的な根幹部分は、Tissue誌論文による部分ですが、その内容の信憑性及び妥当性については、本調査の対象ではないとしていることからも明らかです。
 この点は、実験の実在性に関連して、注記に明示されています。
 
35 ここにいう「実在性」とは、本件博士論文に記載されている実験が作業として実際に行われたと認められるどうか(全く行われていない作業をあたかも行ったかのように記載していないか)を問題としており、実験内容の科学的正確性や分析の合理性等を問題とするものではない。」p29
 
それで、同誌論文やその後の研究の記述に関する実験の実在性については、ハーバード大まで出向き、実地に確認しています。
 第2章~4章は、Tissue誌論文の実験をもとにした部分ですが、
 
Tissue誌は、いわゆる査読付欧文学術雑誌であり、その分野の高度の専門的知識をもち、かつ独立、公平性の高い査読者が論文内容のオリジナリティ、教育的価値及び有効性を考慮に入れた上で、内容を評価、検証し、その結果、内容の明確性、正確性、論理性等が掲載に値するとされた場合のみ、掲載を許される。そのため、Tissue誌がその掲載を受理したことは、査読者が上記一連の実験の実在性に疑問をもたなかったことを示している。」
P29以下)
 
 という点に加えて、ハーバードでのS氏の供述、小保方氏のノートの抜粋(写し)、顕微鏡写真等の電子データの存在を確認した上で、実験の実在性を認定しています。
 また、第5章は、Tissue誌論文のもととなった実験とは別の一連の実験によるものですが、小保方氏の供述に沿った実験ノートの写し、電子データ、顕微鏡写真、U氏(若山氏)のノート、電子メール等をもとに実在性を認定しています(P3032)。
 
 Tissue誌論文に丸投げで、「研究指導を担う大学としての存在意義はどうなのか?」という批判が、総長会見においても繰り返しなされましたが、その話は、取消処分の問題性を検討する上では、関係ありません。処分に当たり、どういう事実認定に基づき、どういう判断をしていたか、どういう前提に立っていたかという点が、ここでは鍵となります。
 
 このように、実験の実在性について認定をした上で、Tissue誌論文の信憑性及び妥当性については、調査対象外としており、外部から指摘された問題点も、訂正が受け入れられてそれ以上に調査、取消の動きがないことを以て、問題があるとの認識には立っていません。
 
b. 本件博士論文43頁のFig. 8及び72頁のFig. 16について
これらの画像は、Tissue誌論文においても掲載されているものであるが、Tissue誌論文においては、その責任著者であるT氏により、これらの画像の一部削除を内容とする一部訂正が行われている。
しかし、上記T氏の一部訂正は、Tissue誌の編集者により受理されており、その後、Tissue誌論文についての取り消し(Retraction)等の動きは生じていない。Tissue誌はいわゆる査読付欧文学術雑誌であり、Tissue誌論文に記載された実験等について、査読者が疑問をもつに至れば取り消す等がなされると考えられるところ、Tissue誌論文にそのような動きがなく、そのまま維持されているということは、上記一部訂正を経て、結局のところ、査読者がその内容に疑問をもつには至らなかったことを示しているといえる。
以上の事実に照らすと、Fig. 8及びFig. 16の掲載行為が実験結果欺罔行為に該当するとはいえず、また、著作権侵害行為、及び創作者誤認惹起的行為に該当することを示す証拠はない。」p46
 
【2】問題点として列挙した箇所が、学位授与に重大な影響を与えたとはいえないとしていること
 調査報告書が、「不正」認定した箇所は、上記(2)に記載したもののうち、Aのカテゴリーのものです(①~⑨)。米国NIHサイトからの転載、企業サイトからのクリップアート的画像の借用(仮置き)、参考文献の仮置きの部分です。その他の⑩以降の問題点は、「不適切な行為」ではあるが、違法行為ではなく、信義則違反にもならないとしています(P49)。
 
(注)調査報告書の「不正」認定の構図については、私は少し誤解していました。報告書では、「不正(行為)」の話と、「不正の方法により」の話とを峻別していることについて、あまり注意が行っていませんでした。「不正(行為)」については、「文科省ガイドライン早大の研究不正防止規程では故意によるものを指しているが、早大学位規則の解釈は明確ではないが、より広く、故意・過失にかかわらず不定と定義づける」との考え方に立ち、違法行為及び信義則違反行為のものを指すとしています。このため、「不正」認定に当たっては、故意だけではなく、過失も含め、「盗用」といった故意のニュアンスのある用語を避けて、「創作者誤認惹起行為」というような中立的ニュアンスの用語を使っています。
 他方、「不正の方法により」については、「不正(行為)がすべて不正の方法に当たるわけではない」とした上で、
「「不正の『方法』」の「方法」の文言は、行為者が、自己に対する学位授与に向けて、上記Ⅲ.2.(3)a.に定義された「不正」行為を行う意思(不正行為の事実についての認容)をもって、不正行為を行うことが必要であることを示している59。」とし、その注釈では、通説、最高裁判例を根拠として示しています。
 「『不正(行為)』には当たるが、『不正の方法』には当たらない」という考え方は分かりにくいですし、次の注釈のように、学位規則の「不正」の解釈を、同じ早稲田大学の研究不正防止規程の「不正」定義と切り離して解釈するというのは、適当ではないように感じますが、結果としては、「不正の方法」には、過失によるものは含まれないという点では同じです。
 
52 早稲田大学においては、「研究活動に係る不正防止に関する規程」を定め、本規程において、「研究活動に係る不正行為」の類型を定め、「試資料等の捏造研究者等が調査や実験等を行わなかった、または調査や実験を行ったが試資料等を取得できなかったにもかかわらず、試資料等を作成すること」等が不正行為として定義づけられているが、学位規則第23条第1項の解釈に際して、これらの定義づけが参照されることが予定されているわけではない。P49
 
 報告書は更に、「不正の方法により」の「により」の文言を重視し、「不正の方法」と学位授与との因果関係が必要だとし、次のように述べ、注釈で、刑法学、民法学での因果関係の考え方、民事再生法での「不正の方法により」の解釈を援用しています。
 
a. 「により」の定義
早稲田大学学位規則第23条第1項上の「不正の方法により学位の授与を受けた」における「により」の文言は、不正の方法と学位の授与という結果との間に因果関係が必要であることを示している60。つまり、学位の授与の過程、その前提となる博士論文の作成過程等に不正の方法があっても、その不正の方法と学位の授与との間に因果関係がなければ、学位を取り消すことができない。因果関係とは「ある行為がなければ、その結果がなかったという関係が認められること」を意味している。したがって、因果関係があるといえるためには、少なくとも、不正の方法が学位授与(その前提としての博士論文合格)に対して重大な影響を与えることが必要だといえる61。」
 
 このような考え方に立って、「不正(行為)」と認定した箇所のうち、「小保方氏主張論文」においても残っていた、①~③(1-3)、⑧については、
まず、序章のNIHの文章の転載については、
 
「依拠して作成されたものは約4500語と多量であること、それが占める割合は本件博士論文の第1章の約80%、本件博士論文全体の約20%、転載元①の約80%と大きく(いずれも頁数ベース)、実質的同一性が極めて高いといえること等に照らすと、その記載の存在は、学位授与に一定程度の影響を与えたといえる。
もっとも、その一方で、1章は、博士論文の導入部分であって研究結果の記載に比べれば科学論文である本件博士論文中の重要性は、やや劣る63
当該事情及び上記Ⅲ.2.(4)b.の事情等に照らせば、問題箇所①は、学位授与に一定程度の影響を与えたとはいえるが、重大な影響を与えたとまではいえず、問題箇所①と学位授与との間に因果関係があったとはいえない。
 
 と評価し、注釈で、NIHの文章が米国では著作権がないパブリックドメインであるとの事情も斟酌しています。


63また、著作権侵害行為についていえば、転載元①は米国政府(の機関)の著作物として、米国法適用においては著作権法上の保護を受けないとされていることから、著作権侵害行為としては、その侵害の程度は小さいといえる。」
 
 他の箇所についても、いずれも次のように評価しています。
 
「基本的概念に関する一般的・基礎的な知識をわかりやすく説明するための簡便な図であって、論文の本質的な部分ではないといえる。」
 
 以上のように、報告書での「不正」認定された「問題点」の評価からして、それらは、研究の本質、根幹に関わるものではなかったという考え方に立っていたことは明らかです。
 
 「不正」認定されて、小保方氏主張論文に残っていたものはどれかについては、報告書では明らかにしているのですが、不正認定された以外の⑩~㉔の問題点(Tissue誌論文との不整合、趣旨不明、形式上の不備、誤字脱字)が、小保方氏主張論文でも残っていたのかどうかは、報告書の記述からは明確ではありません。
 
(g)上記Ⅱ.1.において検討した本件博士論文の問題箇所のうち、問題箇所①、②、③の1、③の2、③の3等の多くの問題箇所は、小保方氏主張論文においても、依然として認められる。」P70P72
 
 としており、このフレーズは繰り返し出てきます。ただ、この「等の多くの問題箇所」という意味が、①、②、③(1-3)、⑧のみを指しているのか、それとも他の⑩~㉔の箇所のいくつかも含んでいるのか直接には述べられているところはありません。しかし、
 
Tissue 誌論文の記載内容との整合性がない箇所」(⑰~㉑)、「意味・趣旨不明な箇所」(⑪~⑯)」というタイトルの文言を殊更に大きく捉えて、それが大きな問題なのだと論じる向きもあるようですが、報告書の「別紙」を見ればすぐわかるように「Tissue 誌論文の記載内容との整合性がない」という具体的内容は、関係ない写真が置かれているという話に過ぎません(ページⅱ、ⅲ参照)。
 
これらの問題箇所は、「不適切」に留まる箇所であり、論文の本質・根幹に関わる部分ではないと報告書が捉えていることには間違いありませんし、次の(5)で、「小保方氏主張論文」に残された問題箇所はどれか、という点を検討した中で述べたように、それらは、解消されていたと思われます(残っていたのであれば、当然、「本件博士論文」との差異の一覧表に書かれているはずですから)。