理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 【再論】早稲田大の小保方氏学位剥奪処分の不当性(1)―総括①

 
早稲田大の小保方氏の博士論文に関する調査報告書を、改めて全文読み直しました。
 新たな発見もありましたし、私も少し誤解していたところもありましたが、緻密な構成と事実認定がなされていることを改めて実感しました。
 それらに照らして検討すると、取消処分とその確定(猶予条件の未充足判断)には、やはり極めて大きな問題があると思います。
 
 昨年10月の早稲田大の猶予条件付き取消決定については、その際の公表資料にあるように、「調査報告書等に基づいて、慎重に協議を重ね」た結果によるものです。異なるのは、「不正の方法により」の解釈であり(それはそれで大きな問題ですが)、事実認定や評価については報告書にまさに「基づいて」のものとなっています。したがって、以下の取消処分における「猶予条件」にある、「論文訂正と再度の論文指導ならびに研究倫理教育を受ける機会を与え、これが適切に履行され、博士学位論文として相応しいものになったと判断された場合」における「論文訂正」「論文指導」「適切に指導」「博士学位論文として相応しいものになったと判断された場合」の前提がどのような内容、範囲なのかという点の判断に当たっては、報告書の事実認定と評価がどういうものなのかを正確に理解することが必須となります。
 
【大学発表の「概要」部分/先進理工学研究科の発表部分】
「ただし、先進理工学研究科における指導・審査過程に重大な不備・欠陥があったものと認められることから、一定の猶予期間を設け、論文訂正と再度の論文指導ならびに研究倫理教育を受ける機会を与え、これが適切に履行され、博士学位論文として相応しいものになったと判断された場合には、取り消すことなく学位を維持するものとした。なお、上記のことがらが定めた期間内に履行されない場合は、学位は取り消されるものとする。」

(注)コメント欄でご指摘のあったように、発表の「経緯」部分では、「博士学位論文指導と研究倫理の再教育を行い、論文を訂正させ、これが適切に履行された場合には学位が維持できるものとした。」とあり、「博士学位論文として相応しいものになったと判断された場合」のフレーズが入っておらず、ニュアンスに若干の差がありますが、大学側発表の「概要」部分の表現に即して検討することとします。
 
 もし、今回の「猶予条件が充足しなかった」との取消確定の決定におけるその「条件」内容が、昨年10月の決定時におけるそれから大きく逸脱(実質的に変更)しているのであれば、
・今回の取消確定の決定は根拠がないものとなる。
・小保方氏が昨年時点で不服申立てをしなかった前提とは異なってきて、不服申立てをしない旨の意思表示は無効的な扱いとなる(「錯誤の無効」的考え方)
 等、今回の決定を根底から揺るがすものとなってきます。
 
 今回の早稲田大の取消決定に関しては、
 
「研究の本質部分で疑義があるのだから、科学の観点からみれば当然の決定だ。昨年の時点で即取り消すべきだった」
「あの論文自体、コピペをはじめ問題だらけだと認定されているのだから、取消は当然だ」
「小保方氏も認める通り、あり得ない重大なミスを犯して得た学位なのだから、取消は当然だ」
 
 等の「当然だ」という見方が多いようですが、そう簡単な話ではありません。
総長が述べたように、学位を与える前の博士課程在籍中であれば、様々な科学的観点から徹底的にチェックして学位にふさわしいものにするということはもちろん当然なのですが(ただし学位規則の枠内で)、いったん学位を与えたのであれば、それを取り消すためには、法的観点からの要請を満たす必要があります。
ご破算で願いましては・・・で、博士課程在籍中と同じ扱いであるべき指導内容を一から検討するのは間違いであって、鎌田総長が述べたように、あくまで、「与えた権利・利益の剥奪」手続きという法的プロセスの一環という観点から、指導内容を考える必要があるということです。
満たすべき法的観点からの要請とは、たとえば次のようなことです。
 
・取り消す然るべき根拠があるか?
・比例原則を満たしているか?(問題点と処分との間のバランス。窃盗で死刑はあり得ないということ)
 ・よりデメリットの少ない代替選択肢はないか?
・他の事例との均衡、公平の観点から適切か?
・取り消すに際して、抗弁の機会を適切に与えているか?
 
 以下、報告書と先日の総長会見内容、小保方氏のコメントとそれに対する早大の反論文書をもとに詳しく検討しましたが(後述)、それに基づく結論を先に書いていくことにします。
 
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 早大の昨年の学位取消処分及び今回の取消確定とは、権利・利益の剥奪処分として、法的に極めて疑義があり、根拠がない。
 
 もともと、昨年10月の取消決定は、7月の調査委報告書の解釈と異なり、小保方氏が誤って初期の草稿を提出したことを以て、「不正の方法により」学位を得たとしているが、調査委報告書が、学説、最高裁判例を踏まえて述べている解釈からかけ離れており、他に例がない無理のある解釈である(報告書では、「不正」と「不正の方法」の峻別をし、「により」の解釈を重視して結論を出しているが、早大当局はこれらを全く黙殺している)。
 鎌田総長は会見で、草稿を誤って提出してしまうなどという事態は、学位規則においても文科省ガイドラインにおいても想定外と述べており、更に、「不正」の解釈についても文科省ガイドラインは故意によるものが対象と解釈するのが自然とも述べる一方で、草稿段階のものが博士論文として残ることを回避するためになんとかしなければならないとの問題意識を語っており(「取り消さなければ、あの論文が残ってしまうんですよ」)、その目的を遂げるために、このような無理な解釈をしたことを強く示唆している。これは、自らの解釈を否定しているに等しいものである。
 
 更に、次のように、昨年10月の猶予条件付き取消処分時には、その「条件」にある「訂正・指導」は報告書の事実認定、評価に基づいたものであったはずにも拘わらず、実際の指導段階ではそれから大きく逸脱し、条件内容を実質的に変更するものであり、理不尽なものである。
(1)報告書では、小保方氏が本来提出予定だったものとして提出した「小保方氏主張論文」が、最終的な完成版の博士論文と全く同一である(とは証拠が十分にないため確定できないものの)可能性は相当程度ある旨認定されている。
(2)またさらに、報告書で指摘された24カ所の問題箇所が解消されていれば、『博士学位の意義に値する博士論文』になると評価している。それらの24カ所の問題箇所は、常田氏を除く審査分科会メンバーによる確認・精査の自主調査結果も踏まえたものであり、そこでは、小保方氏コメントへの反論文書に述べる「論理的説明による科学的根拠が不足している」との指摘はなかった。
(3)また、猶予条件付き取消処分とした理由として、「学位を授与した先進理工学研究科における指導・審査過程には重大な不備・欠陥があったと認められるため」としているが、
報告書では、その「指導・審査の欠陥」の具体的内容としては、24の問題箇所を適切に修正指導しなかった旨を述べている。このため、上記文言に続く、「一定の猶予期間を設けて再度の博士論文指導、研究倫理の再教育を行い、博士論文を訂正させ、これが適切に履行された場合は学位を維持できることとした。」に言う「論文指導」「訂正」「適切に履行」とは、24の問題箇所の修正を意味していることは明らかである。
(4)以上のことから、猶予付き取消処分にいう「論文訂正」と「論文指導」におけるスタート対象は、「小保方氏主張論文」であり、ゴールは、24カ所の「問題箇所」の訂正・修正である(ただし、「公聴会時論文」で既にそのいくつかは解消され、「小保方氏主張論文」で更に序文の引用不備等とクリップアート的な絵の借用部分以外は解消されていると推認されている)。
(5)その24カ所の問題箇所は、論文の本質・根幹に関わる部分ではない。本質・根幹に関わる点は、Tissue誌論文内容及び小保方氏独自実験部分であり、それらについて調査委として疑義を呈することはしていない(実験の実在性は確認)。したがって、それらについて、指導教官に「疑惑」があったとしても、猶予付き取消条件にいう「論文訂正」「論文指導」の対象外である。Tissue誌に関わる本質部分で「疑惑」があり、それを取り上げるのであれば、それは、「不正調査規程」に基づき、新たに不正調査委員会を発足させ、その枠組みの中で、応答がなされるべき筋合いのものである。
(6)しかし、指導教官が求めた訂正や論文指導は、その「条件」が予定したものの対象外のものであり、事実上「条件内容」を変更してしまっている。その逸脱した指導(特にハーバード大からの裏付け材料取り寄せが困難であることを知っているにも拘わらず)による指摘に、小保方氏がすぐに応じられないことを以て、条件を充足しないとして、学位取消確定としたことは、根拠がない不公正な行為である。
 
 副総長は、指導事例として、「B6系統のGFP陽性細胞を用いてキメラマウスを作出したという記載があるが、用いた細胞の由来や実験結果の科学的根拠を説明しうる記述が不足している。」というものを挙げて、「当時どういう指導をしたかの記録はないが、論文として当然記載すべき旨の指導はしたはずだ」という趣旨の説明をしていた。
 しかし、これは多くの点で疑問がある説明である。
(1)それは、Tissue誌論文に関する実験であるならば、調査委及び早大当局として、「Tissue誌が問題としない以上、早大として独自に問題としては取り上げない」とのスタンスと矛盾する。
(2)「当時どういう指導をしたかの記録はない」というのは、調査委報告の事実認定と矛盾する。調査報告書が指摘した24の問題箇所に含まれていないが、これらの問題箇所は、問題発覚後、常田氏以外の審査分科会メンバーによる自主調査により精査された末にまとめられたものである旨経緯に書かれている。その自主調査において、副総長が挙げたような説明不足との指摘はなかったはずである。自主調査結果は当然手元にあるのだから、審査分科会メンバーがどう考えていたのかは、記録の上で容易に確認できるはずである(仮に、そのような説明不足との指摘があったとしても、上記(1)のスタンスと異なるので、調査委としては、問題として取り上げなかったことになる)。
(3)また、公聴会時論文に常田氏が訂正箇所を赤字で記して小保方氏に渡したとされている。公聴会時論文は、小保方氏側にも早大側にも保存されていない模様であるが、常田氏や武岡氏は、主として、参考文献の記載振りについてのものだったことを証言している。
(4)以上からして、「当時どういう指導をしたかの記録はないが、論文として当然記載すべき旨の指導はしたはずだ」との説明は、根拠がなく、報告書の事実認定に反する。
 
 今回の処分内容は、「不正の方法により学位を取得した」との取消要件の該当性(=取消自体の正当性)と、「猶予条件未達による取消の効力確定」の正当性との2つが大きな要素である。
 昨年10月の処分時点で、不服申立ての機会を与え、申立てはなされなかったというが、その際の猶予条件の前提は、当然のことながら、調査報告書における事実認定と評価に基づいて訂正を行えば論文は博士学位に値するものと評価され、学位は維持されるというものであったはずである。
 しかし、その後、条件が実質的に変更するような指導が行われ、それをもとに取消確定の可否の判断がなされるということがわかっていたのであれば、当然、不服申立てを行ったはずである。変更された条件に基づく取消確定は無効であるし、条件充足性の可否が取消確定に直結するのだから、手続き的にも、小保方氏に最終的な訂正論文と考えるものを示させた上で、条件の充足性判断とその理由について説明をし、小保方氏に抗弁の機会を与えるべきであった。それを行わずに、「審査すべき論文がない」と一方的に認定して取消確定とするのは、不公正である。
本件は、通常の博士課程在籍の学生に、更地で初めて指導、審査するものではなく、学位剥奪という究極の不利益処分の一環の話であり、そうである以上、それに応じた対応が必要だとの認識が決定的に欠落している。


                         続く