理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

5 NHKスペシャルの放送倫理上の具体的問題点(5) 【STAP細胞不正の深層】


【小保方氏=悪、若山氏=善という善玉悪玉論で科学を語る危うさ】


 科学の世界は、勧善懲悪の構図で語られてはいけないことは言うまでもありません。しかし、改革委を筆頭に、このNHKを含めて、マスコミはほぼすべて、勧善懲悪、善玉悪玉論の構図でこのSTAP細胞問題を捉えていました。
 小保方氏は、捏造を働いた不正の張本人で「悪玉」、若山氏は、論文撤回をいち早く呼び掛け、みずからSTAP細胞の有無を改めて追求している「善玉」という捉え方です。改革委(それを受けた日本学術会議)などは、遠藤氏とともに、「勇気ある研究者」として褒め称えていました(しかも、6月初めの段階でです)。
忘れてはならないの、小保方氏も若山氏も、同様に、研究不正の被調査者であるということです。にも拘らず、小保方氏の研究室は封鎖される一方で、山梨大に移転した後の若山研究室は、理研から何のアクションもなく、自ら手元にある試料を外部にも依頼して分析等をし、理研もそれを受け容れるといったように、被調査者ではなく、調査側の人間として扱っていました。
 
しかし、若山氏が撤回を呼び掛けた背景がどういうものであったかは措くとして、若山氏の言動が、一貫していなかったということは言えると思います。
2月段階までは、STAP細胞擁護の立場で、ES細胞では説明できない点を縷々説明していたにも拘らず、論文撤回呼び掛け後は、それらについては一切触れることなく、ES細胞だろうというメッセージのみを、取材に応じて、出し続けていました。そして、6月の会見では、自分の研究室にいたマウスからできることはあり得ないとし、あげくに、「できると言っているのは小保方氏だけだ」「マウスを隠して持ち込むことはできる」とまで述べて、小保方氏が不正を働いたかのようなニュアンスを色濃く出していました。
しかし、その発表が間違いだったわけですし、桂調査委報告においても、若山氏の説明と合致しない点についての言及もなされています(「若山氏が渡したマウスと論文の記載と残存資料の3つが違っているというやっかいな細胞だ。」)。
あるいは、若山氏の実験や論文についての疑義につながる調査結果もさらりと書かれています。
「若山氏と小保方氏への書面調査により、FI幹細胞CTS1は、若山氏が渡したCAG-GFPを有する129X1B6Nを掛け合わせて誕生したF1マウスを材料に小保方氏が作製したSTAP細胞から、若山氏が2012年5月に樹立したもの(521日に作製開始してより528日樹立完了)であることが判明した。また若山氏の実験ノートから、上記のあと(201279日)にも若山氏がFI幹細胞株を作製していることも判明した。このときは使用したマウスの記載がなく、遺伝的背景は不明であった。ただし、若山氏の聞き取り調査から、CAG-GFPを有する129B6F1マウス以外(論文記載のOct4-GFPの挿入を持つマウスを含む)からFI幹細胞を樹立した記憶はないことが明らかになった。(桂調査委p25
このように、若山氏にも論文、実験ノート、記憶とが一致しない例もあるわけで、そうであれば、「若山氏が渡したマウス」が、本当にそのマウスだったのか?という点については、とり違えの可能性もあると思われます。残存しているSTAP幹細胞の多くが、ES細胞で使われている岡部研由来の細胞の特色があるということについて、ES細胞混入の根拠としていますが、マウスのコンタミの可能性も(若山氏が想起したように)あるわけであり、若山氏の言い分を全面的に信じることは、桂調査委の調査結果からしても、危うい面があります。
ですから、NHKにしても、若山氏を善玉として、その言い分を何の吟味もしないままに右から左に流すことは適当ではなく、あくまで科学的な論点を抽出して、それを取材して突き詰めていくという姿勢が必要だったと思います。
 
(参考) 
 
 
STAP細胞作成の難しさについて、なぜ取材・言及しないのか?】


 STAP細胞作成の難しさは、笹井氏が、4月の記者会見で配布した資料に基づいて説明しています。もともと小保方氏側やバカンティ教授側が、簡単にできると言い過ぎた(プロセスが簡単だという意味もあるのでしょうが)こともあり、他の誰も再現に成功していないことは、不利な材料として働きました。香港の大学の教授がネットで再現失敗をレポートし、STAP細胞はないと喧伝していましたし、番組でも、「万能細胞の世界的権威」ジョージ・デイリー教授の再現失敗と死細胞の誤認説を紹介していました。
 しかし、笹井氏の説明だけでなく、若山氏自身が、その作成の難しさを極めて具体的に、昨年の文藝春秋4月号(310日発売)で紹介しています。いかに実験が、微妙なさじ加減を要求される難しいものであるかが、ビビッドに伝わってくる内容です。ポイントは次の通りですが、これらの点を若山氏に取材はしなかったのでしょうか?
 
・レシピは単純でも、匙加減が難しい。
・マイクロマニュピュレーターの手足を使う操作は難しい。
・細胞の濃度を揃えたり、洗浄を何回やらなければならないというコツが
 ある。
・実験室が変われば成功率も変わってくる。
・水でさえどの会社の水かで違ってくる。試薬も最適なものを使わないと
 再現できない。
・自分が成功し、自分が世界で一番テクニックを持っているはずでも、半
 年間うまくいかなかった。
 
 若山氏は、自分自身の体細胞クローンマウスの作成成功の際に、誰も再現に成功しないために、捏造を疑われ、自ら出かけていって再現してみせた結果、1年半後にようやく認められたことを紹介しています。

(参考)

 小保方氏は再現実験に成功しなかったことは、このNHKスペシャル放送時にはまだ結果が出ていませんでしたが、しかし、上記のような微妙さがあり、かつ自分でも環境が変わると再現できないということからすれば、小保方氏が厳重に監視され、諸々の受け渡しも自分ではできないような環境で成功させるのは極めて難しいだろうということは、容易に想像がつきます。
 この文藝春秋の記事は、3月時点出ていたわけですから、こういう点を取材・紹介もせずに、他人が再現できないことを以て、不正の証左であるかのように決めつけをするごときは、科学的にも、報道倫理的にも不公正だと思います。
 
 また、キメラマウスの作製も極めて難しいテクニックを要求されることも、もっと言及されていいと思います。ハーバードが、受精卵にSTAP細胞を注入するところの難しさをブレイクスルーするために、若山氏のいる理研に共同研究をオファーしたという経緯であり、若山氏も、その難しさを縷々語っています。マニュピレーターの操作のみならず、細胞塊を微妙にカッターで切り分けてから注入する局面などは、自分が習熟していたからできた趣旨のことを語っています。
 STAP細胞ができたのかどうか=緑色発光する細胞が万能性のあるものなかかどうかは、キメラマウスができて初めて証明されるわけですから、そのキメラマウス作製が至難の業であれば、STAP細胞の存在を証明することはなかなか難しいということです。小保方氏にはできません。この辺の構図も含めて、解説がなされることが、公正な報道姿勢なのではないでしょうか。


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 以上、NHKスペシャルSTAP細胞 不正の深層」が、どれだけ基本的・初歩的取材と言及をせずに、一方的に「ES細胞混入」との見立てに立って、番組構成を行ったか、不公正で、客観性の欠如した内容だったかを説明しました。
 たしか、この番組は、科学部ではなくて社会部が担当したような記憶がありますが、私の思い違いでしょうか。科学部といっても、もともと科学的真実の追求、論点の抽出と取材ということをやっておらず、理研の特定の意図を持つと考えられるリーク情報の拡声器的役割しか果たしていませんでした。ですので、社会部であろうと科学部であろうと変わりはないわけですが、それにしても、科学の問題である以上は、科学的論点の抽出と取材、そして検討と判断に資する材料の提示という初動対応、基本動作が必要であるにも拘らず、それらが文字通り皆無で、一方的にバッシングに走る・・・という点は、日本のマスコミの病弊であり、今回のNHKスペシャルは、その縮図だったと思います。

 BPOの放送人権委員会が、そのような構図、病弊をNHKスペシャルが有していたことをよく理解していただき、公正、公平な判断をしてくれることを、切に祈るものです。
 そして、そのBPOの冷静な審議によって、放送倫理違反、人権侵害の判断がなされれば、STAP細胞問題について、もう少し冷静な議論の雰囲気が出てくるのではないかと期待したいところです。大隅分子生物学会理事長は、「STAP狂騒曲」と呼んでいましたが、別の意味での狂騒状態でした。科学的議論とは程遠いバッシングの嵐であり、BPOの人権侵害判断、放送倫理違反判断が出ることによって、それらのバッシング狂騒状態が、立ち止まるべきポイントがあったことに気が付く契機になってくれればいいと思います。

 今回、この一連のブログ記事を書きながら思いましたが、ハーバード大は、おそらく本件を研究不正とは捉えていないのではないか、という気がふとしました。ここで書いた材料をすべて念頭に入れて考えれば、論文や画像にミスはあったものの、研究自体に偽造の要素は考えにくく、微妙なコツを要し再現がなかなか難しいものの、いずれ再現されるであろう画期的研究である可能性を、冷静かつ客観的に見ているように感じます。
 ハーバードは、実験ノートや試料は一切、理研には渡さず、小保方氏にも開示をさせず、沈黙を保ち、不正調査の動きも未だに見えず、特許出願は堅持しています。
今後の特許出願審査の成行き、バカンティ教授の間もなくの休暇明けの動向(病院復帰??)とメッセージ発出などの動きを注視したいと思います。