理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

NHKスペシャルの制作陣が犯した大きな過ち―誰であっても人権侵害と見做しうるメールの公開とナレーション


放送倫理・番組向上機構の放送人権委員会の委員メンバーとそのプロフィールが紹介されています。
 
これまでの決定をみると、申立者がどういう者であっても、バランス感のある公正な判断がなされているような印象を受けます。
その背景を考えると、やはり、法律家が多くを占めているからではないか、という気がします。毎年、少しずつ委員の入れ替わりがあるようですが、全体9名のうちの6名が、弁護士か大学の法学部教授です。残りの委員も、メディア論や情報学といった有識者です。
 
決定としては、「配慮を要する」「放送倫理上問題あり」「人権侵害あり」といったものがあり、それぞれの中でも、ニュアンスが更に幅のあるものがあります。
 
ちなみに、著作権侵害や知的財産侵害も、立派な人権侵害です。人権というと、名誉、プライバシー、差別とかを想起しやすいですが、著作権特許権、営業秘密といったことも、人(又は法人)に保障されている権利ですから、その侵害は人権侵害です。
特に著作権は、経済的権利としての狭義の著作権と、著作者人格権と呼ばれる人格的権利とがあり、NHKが行ったメールや実験ノートの複写、放送は、複製権、公衆送信権といった狭義の著作権の侵害である一方、未公開のものを公開したことは、著作者人格権の代表的権利である「公表権」の侵害になります(他の人格権は、「氏名表示権」「同一性保持権」)。著作者人格権は、一身専属的権利で継承されない権利ですから、立派な人権です。
 
委員メンバーをみると、著作権知財権に専門の弁護士さんがいました。
二関辰郎弁護士ですが、同氏は、骨董通り法律事務所といって、著作権の世界では著名な福井健策弁護士が代表を務める法律事務所に所属しています。個人情報保護関連をメインに、著作権関連の著書もあります。
 
こういう弁護士先生であれば(でなくても、法律家であれば)、メールと実験ノートの複製、公開という権利侵害の持つ意味や、公益通報的意義がない違法なものだということは、すぐに理解されることでしょう。
 
 ●それにしても、NHKスペシャルの制作陣は、大きな過ちを犯しました。
全体が科学的ではない(=論点の洗い出しと、各論点ごとの材料についての追求が全くなされていない)、という点がもちろん最大の過ちであるのですが、ここで言わんとしているのは、専門家でなくても、容易に人権侵害と見做しうるようなことをしてしまったということです。
小保方氏と笹井氏のメールの公開と、演出のついた読み上げナレーションは、これだけで、ほぼ間違いなく「人権侵害あり」との判断に至るだろうと、私は考えています。
その意味は、二つあって、前にも述べた通りですが、
 
第一は著作者人格権の侵害であり、プライバシーの侵害です。二人の間の実務的やりとりに留まらないメールというものは(もちろん実務的やりとりであっても)、通信事業者を対象とする通信の秘密に仮に直接抵触しないとしても、公表権とプライバシー権の侵害であることは明白です。

第二は名誉毀損です。小保方氏と笹井氏との間に不適切な関係があったのではないか、という週刊誌報道があり、記者会見でも質問した三流メディアがありました。そういう流れの中でのあのナレーションですから、あたかも週刊誌報道を裏付けるような印象づけをするためであることは容易に想像できます。実際、あのナレーションによって、不適切な関係がやはりあったのだ、と受け止める視聴者も少なくなかったでしょう。
  ※ 「名誉・声望を害する形での著作物の利用」という著作権侵害みなし行為にもなります(著作権法第113条)。

 NHKは、「申立人と笹井氏の間の電子メールは、笹井氏が、申立人に対し、画像やグラフの作成に関して具体的な指示を出していたことを裏付けるものであり、申立人の実験ノートと同様に、本件番組において紹介することが極めて重要なもので、「違法なプライバシーの侵害にはあたらない」」、と抗弁しているとありますが、あのナレーションのどこに、そのような意味づけができる要素があるというのでしょうか? 両者が、論文構成の大幅見直しから始まって、追加材料の補強などで、短い期間の間に(特許出願の関係もあったのでしょう)集中的にやりとりしていたことは、最初の記者会見やその後の取材、報道で周知のことになっています。ですから、あんなメールのナレーション付きの公開など、全く不要だったのです。
 
ところが、過ぎたるは及ばざるが如しで、週刊誌報道もあって視聴者の関心もないわけではないので、つい、勇み足で?使ってしまったのでしょう。そして、直前まで編集をしていたはずですから、チェック部局でそれが十分に審査されないままに放送されてしまったというのが実態ではないでしょうか。
 
もし、あのメールの公開、ナレーション部分がなかったとすると、それ以外の論点については、委員たちにとっては、専門的議論に若干なりとも関わらざるを得なくなるため、直感的に放送倫理違反、人権侵害の有無を判断することは少し難しかったかもしれません。
 
関心を持ってフォローしていて、マスコミ等に惑わされない人々にとっては、「ES細胞混入説」に対して、笹井氏、丹羽氏、かつての若山氏が指摘している諸事象が、それとは相容れない可能性が多分にあるということは、理解できると思いますが、桂調査委員会がES細胞混入とほぼ断定したために、それらを覆すような実質的判断を(時間的、労力的余裕がない中で)人権委員会の委員らが行うことを期待することは、少々ハードルが高いような気がします。「ES細胞混入説」と「死細胞発光誤認説」とが並び立たないことを理解することも、難しいかもしれません。
あるいは、中山教授らが、文科省ガイドラインや不正調査規程も知らずに、初めからシェーン事件に匹敵する捏造と決めつけていた学者であり、同氏らを主軸に使って捏造の印象を強く植え付けることは、不公正であるということも、(中山教授が指摘したグラフの「不自然さ」が、結果として、桂調査委員会において「捏造」認定されたということもあり)すぐには理解してもらえないかもしれません。中山教授らの主張は、分子生物学会の総意のようなものですから、これを専門家でない委員たちが立ち入って、バイアスがかかった起用だと断じるのは難しい面もあるでしょう。
 
ただ、少なくとも、番組放送時点で、

①笹井氏や丹羽氏が、記者会見で、ES細胞では説明できない旨を指
 摘していにも拘わらず、それらについては全く触れないままに断定
 していたこと、
当時は、STAP細胞の有無については,石井調査委員会も含め
 て、ニューラルであり、今後、その検証のための検証実験、
 再現実験を行うこととしていたにもかかわらず、STAP細胞は
 ないとの見立てに立って偏った材料、証言のみを使っていたこ
 と。
③直前に、ES細胞混入の根拠として挙げられた若山氏の検証が間違いだったことが判明したにも拘わらず、それに全く言及もせず、間違いのまま紹介していたこと。
④留学生の言う「無くなったES細胞」を、STAP細胞実験に使ったかのようなことは、時期的にみてあり得ないにも拘わらず、そのような印象付けを行ったこと。
 
 といった点は、中味に入ることなく、「外形」ですぐに理解できることですので、これらの点を以て、不公正であり、中立性、客観性に欠けるということは十分主張できると思いますし、受け入れられる可能性は大きいと思います。
とは思いますが、あのメールの公開とナレーションほどには直感的な材料ではないことは確かです。
 
あとは、みなし公務員としての守秘義務違反ですが、公益性との比較衡量でどうかという判断をするときに、公益通報保護法に照らせば、公益通報と保護される余地はありませんし、判例等に照らしても公益性は認められないと思いますが、法律家によっては、より広く解して、犯罪に限らず、不正が疑われている点に関して広く国民に材料を提供することは、一定の公益性があるとの(予想されるNHKの)主張に同意する委員もいないとは限りません。
そういう主張に対しては、本件は、通り一遍の守秘義務違反ではなく、実験ノートは知的財産そのものであり、営業秘密の保護、特許出願の上で、またハーバード大との共同研究契約の上で、理研職員が守秘することは死活的重要性を持つのであり、外部に漏らしたことによって公知化されてしまい、特許が得られなくなる可能性も場合によってはあり得ることから、その守秘義務違反は、極めて重大な刑事的責任を追及されるべき行為である、との指摘によって対抗できると思います(実際、ハーバード大は、小保方氏の研究成果に基づき特許出願を継続しています)。この点は、冒頭紹介した、著作権や営業秘密をはじめとした知的財産法に詳しい弁護士であれば、すぐに理解してもらえることでしょう。
 また、不正調査という目的のために提出されたものが、その不正調査部門の職員(もしかすると委員の可能性もあります)によって、マスコミに漏洩されるということは、その職務に課せられた高度の守秘義務を蔑ろにするものであり、許されるものではないということも、理解されやすいと思います。


NHKの取材行為は、そういう重大な守秘義務違反の共犯的行為あり、そのような違法な行為の上に立って構成された放送であるから、放送倫理の上で大きな問題である、ということは十分理解されると思います。
 ただそれでも、桂調査委ではSTAP細胞はなかったとし、理研がそれを受けて特許出願も放棄したという結果に影響されて(加えて、中山教授らが番組で指摘したグラフの不自然さが、桂調査委では捏造認定されたということもあり)、知的財産としての価値について必ずしも評価されないという可能性もないわけではありません。
 
 以上のように、科学的議論とその取り上げ方の妥当性については判断を留保したり、守秘義務違反、知的財産性などの判断については、委員によっては否定的な見方をする人もいないとは限りません。
 
 しかし、そういった、委員によって若干の判断のばらつきがあり得る点とは違い、委員が誰であっても、明らかにプライバシー侵害であり、名誉毀損行為であるとの判断ができるのが、あのメールの公開とナレーションでした。まして、番組放送から間もない時期に、貴重な笹井氏の命が失われています。
 他の論点に関する判断がどうであっても、その一事を以て、番組全体が、「人権侵害」と認定され、勧告を受ける可能性が大きいということです。
 そういう意味で、NHKは、大きな誤りを犯したということなのです。
 
 
●このNHKスペシャルが、放送倫理違反、人権侵害の認定を受けた後には、今年3月に放送された『STAP細胞の真相』のニュースに対しても、BPOに放送倫理違反で放送倫理委員会の方に申立てをすればいいと思います。Webニュースの形で、今もHPに掲載されていますが、これは放送されていますから、BPOの申し立て対象になります(HPの活字だけだと、対象外だという決定がありました)。
 これは、構図が単純で、小保方氏が、死細胞の発光の可能性を調べて、その可能性はないと確認したと記者会見では述べていたのに,調査委からのヒアリングに対して、あたかも、実際にはどの方法でも調べていなかったような証言をしていたかのように構成したものです。


 しかしこれは、弁護団が抗議したように、小保方氏の発言の中途部分を省略したもので、明らかに事実を「歪曲」したものです。
 これは、テレビ朝日ニュースステーションが、九州電力川内原発の安全審査に関して、規制委委員長の会見での発言を切り貼りし、文脈とは異なるところで使ったため、まるで違う意味合いになってしまったという事案と同じパターンです。テレビ朝日の場合には、編集上のミスということになりましたが、このNHKのニュースの場合には、ミスとは考えにくいところです。
 ヒアリングの記録は、理研の内部資料ではありますが、桂調査委の調査と認定の基礎となったものですから、当事者から要請があれば(当事者でなくても)開示されても不都合はないでしょう。
 BPOの申立て期限は、1年以内ですから、この3月のニュースに関する申立て期限までは、まだまだ十分に余裕があります。それまでには、諸状況にも変化が出ているでしょうから、それも踏まえて対応を検討すればいいのではないかと思います。
 
 NHKスペシャルが「人権侵害」で、今年3月のニュースが「放送倫理違反」と判断されれば、NHKのダメージは小さくないでしょう(そういう放送に加担した理研のダメージもまた大きいでしょう)。しかし、それによって、STAP細胞問題の報道のあり方にも警鐘を鳴らし、マスコミを含めて冷静になる契機になればと期待したいところです。