理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

3 NHKスペシャルの放送倫理上の具体的問題点(3) 【STAP細胞不正の深層】

 
STAP幹細胞にTCR再構成がないことについての偏った報じ方】


 STAP細胞問題が、急速に疑念が高まったのは、丹羽氏が実験プロトコルを公表した際に、STAP幹細胞にTCR再構成が見られない旨を書いたことが契機だったかと思います。これで、研究者たちが一斉に批判を始めましたし、若山氏も撤回を呼び掛ける理由の一つに挙げていたかと思います。NHKは、番組の中で、この点を以て、「根底から崩れることになった」とナレーションで語っています。
 しかし、この点については、番組中で笹井氏に取材はしていますが、より詳細な説明は、丹羽氏の4月の記者会見で述べられています。毎日新聞の須田記者は、更に丹羽氏に追加取材をかけて、その説明を著書で紹介しています。丹羽氏は、STAP細胞にはTCR再構成はあるが、STAP幹細胞にする過程で、STAP細胞の元となる細胞が様々なので、その中から何らかの理由によりTCR再構成がある細胞が淘汰される可能性について、仮説的に説明をしています。
 
 
 撤回を呼び掛けた若山氏も同様の見方をしています。これは、論文撤回呼び掛け(昨年の310日)の直後に語られているものです。
 
「・・・ただし、TCR再構成については、若山氏はすでに「納得」している様子だった。
若山研時代に八株中数株であったという小保方氏の説明がプロトコルで覆った点については、長期培養している間に細胞が変化し、改めて調べたときには消えていた、という解釈ができるという。次いで、丹羽氏と同様に、作製効率の高さが重要だと説明した。
「体中どこからでもSTAP細胞ができる。体にほんのわずかしか存在しない未分化な細胞がたまたま採取できたときだけSTAP細胞化するなんてあり得ないと思っていたので、僕にとってはTCR再構成はあまり重要ではないんです」
TCR再構成は、分化しきった細胞が初期化されてSTAP細胞ができたことを証明する実験結果だが、そのことは、刺激に耐えて生き残った細胞のうち約三十%という高い確率でSTAP細胞ができるということで、すでに証明されている、と考えられるのだという。」(『捏造の科学者』p75-76
 
 これらの点は、週刊新潮2014.8.28号)での科学者の座談会でも、一定の理解を示す人たちもいました。
 このように、TCR再構成の有無については、様々な解釈のされ方があるということは、丹羽氏の会見での説明や、若山氏その他の研究者への取材を通じて把握できたはずです。わずかに笹井氏の「それだけで万能性を証明するわけだはなく、他の多くのデータを含めて解釈する」といった説明を紹介したに過ぎません。
 こういう若山氏も含めてTCR再構成がSTAP幹細胞では消えていることについては納得していたにも拘わらず、その点の取材はせず(不都合な材料なので、取材しても無視したのかもしれません)、STAP細胞研究の信頼性が、「根底から崩れた」とNHKは断言して、「ここで立ち止まるべきだった」としているのです。

それに、TCR再構成が見られないというのは、STAP幹細胞の話であって、STAP細胞には見られるという点について、慎重に説明しているかといえば、していません。あたかも、STAP細胞も含めてそれが見られず、結果、全体が捏造だ、という印象付けを行っている構図です。
 そして、「根底から崩れた」との説明に続いて、自己点検委員会委員長の鍋島陽一氏へのインタビューで、「笹井氏は、この一件で、人生をかけて積み重ねてきた本当に大事なものを失った」と語らせているという流れです。
 基本的、初歩的取材を通じた科学的論点の整理もせずに、STAP細胞の研究全体を捏造、不正だと烙印を押したのです。

 
【ES細胞混入説とは両立しない死細胞の自家蛍光と指摘について】

 番組中では、ハーバード大のジョージ・デイリー教授を登場させ、「万能細胞の世界的権威」と紹介しています。科学の世界では、権威かどうかは本来関係なく、科学の歴史は、権威によって定説化されたものが、新規参入の学者によって打ち破られてきたという歴史です。ここで、NHKが「万能細胞の権威」と紹介するのは、「研究不正に詳しい~~」と紹介して、自分の報道を裏打ちさせるのと同列のマスコミ定番の手法です。
 デイリー教授には、「自分も再現実験をしたが、論文通りのやり方でうまくいかなかった。緑色発光する細胞はできるが、それは死ぬ直前の細胞だと思っている」と語らせています。
 しかし、笹井氏は、FACSによって死細胞ではないことを確認したと、会見で説明しています。この点についてなぜ取材、言及をしないのでしょうか?「FACSという光学的識別装置を使うと、死んでいく細胞と万能細胞を見分けることができ、その信頼性を(STAP捏造派であっても)疑う人はいない」(西岡氏)そうですから、その点も含めて、デイリー教授に見解を問うのが公正で客観性のある取材態度ではないのでしょうか?
 それに、先にも述べたように、電子顕微鏡での撮影を担当している共著者もいるわけですから、その理研の研究者に、どう判断されるかの取材、確認をするのが常道のはずです。
 それに、あの緑色発光する細胞が死細胞だというのであれば、それは死細胞をSTAP細胞と誤認したという主張ですから、それは過失であって、故意の不正にはなりませんし、第一、「STAP細胞は実はES細胞だった」という混入説とも両立しません。
 つまり、NHKは、相反する、整合的ではないSTAP細胞否定の説を並べて、ともかくSTAP細胞は捏造だったという刷り込みを、権威の口を借りて視聴者にしようとしたということですから、科学的報道姿勢とはかけ離れたものと言えます。
 
(参考)

「ES細胞混入説」と「死細胞の緑色蛍光」との関係は?-NHKの報道を見て

 
 
【若山氏及び小保方氏の実験ノートの取り上げ方について】

 実験ノートの取り上げ方についても、不公正さが如実に表れています。もっともおかしい点は、小保方氏の実験ノートに、キメラマウスの作製に成功した際の記録がないと説明していることです。「キメラマウスやその元となる細胞をどう作ったのかが記録されていない」とナレーションで説明しました。
単に、「ようせいかくにん!」という記述だけだとして、その部分をクローズアップしていましたが、そもそもキメラマウスの作製は、小保方氏ではなく若山氏の分担です。それを優れた技能を持つ若山氏に担ってもらいたいがために、ハーバード大理研に共同研究の申し入れをしたわけですから、それを小保方氏が行う実験であるかのようにナレーションをするのは、基本的事実関係を大きく歪めて視聴者に伝える極めて不公正な演出です。
 STAP細胞問題での不正調査の対象は、小保方氏らだけでなく、第二論文の実験を担った若山氏も当然含まれているわけですが、番組では、「STAP細胞の有無を調べ続けている人がいる」として、あたかも調査側の人間であるかのような前提に立ち、小保方氏の実験ノートを調べるのであれば、当然、若山氏の実験ノートの公開なり閲覧なりを求めて然るべきだと思われますが、それはやっていません。それは、若山氏=善、小保方氏=悪という単純な善玉悪玉論に立ったバイアスの掛かった取材と演出によるものでしょう。
 
 小保方氏の実験ノートに、「キメラマウスの元となる細胞の作り方が書いていない」とも言っていますが、しかし、PHが書かれたノート部分などは番組で映していたかと思います。小保方氏の実験ノートについては、調査委に提出された2冊のコピーとナレーションで語られていました。しかし、小保方氏は、これがすべてではなく、全部で数冊(4~5冊?だったでしょうか)ハーバード大にもあると、記者会見で述べていました。また、知財の関係があり、自分の判断だけでは公開できないことを理解してほしいとも述べていました。また、桂調査委に対して、小保方氏は実験ノートを公開していない部分が少なからずあります。それは、不正調査において不利に働くことは否めません。
しかし、今年2月のモニタリング委員会報告書では、桂調査委の不正調査は、理研に帰属する試料だけで行った旨が、そっと書いてあることにもっと注目する必要があります。桂氏や理研は、そのことを記者会見で積極的には説明していませんし、桂委員長は、「ホルマリン漬けのキメラマウスを調べなかったのか?」との質問に対して、「調べることができなかった」と曖昧に述べて、試料の帰属の問題があり、それによって調査対象が限定されたことの説明は回避していました。不正調査で対象にできなかったということは、小保方氏も公開ができないということです。
 おそらくそのことは、ハーバード大理研との共同研究契約において定められていて、小保方氏がハーバードから派遣されてきていた客員研究員の身分の時期に成功したSTAP細胞作製実験(とおそらくキメラマウス作製実験も)に関する一連の試料は、ハーバードに帰属していると思われます。その試料にはもちろん小保方氏の実験ノートも含まれます。
ですから、そのSTAP作成に成功した部分は、小保方氏がハーバードに置いてあると説明した実験ノートに記されているであろうことが推測できます。
 早稲田大の学位論文調査結果発表の会見の中で、ハーバードにある実験ノートについては、規定により持ちだし禁止、コピー禁止である旨紹介されていました。
 
記者「ハーバード大時代の実験ノートをご覧になったのですか?」
小林委員長「小保方さん所持分だけ見せてもらった。」
  記者「ハーバード大にある実験ノートは取り寄せられたのですか?」
  小林委員長「ハーバード大の規定で持ち出し禁止,コピーも禁止で見ることはできなかった。」
 
本来は、こういった実験ノートの帰属の問題と公開の可否の問題とは、共同契約上の話ですから、理研当局が説明しなければならない事項のはずです。小保方氏はあくまで、共同研究の一環でハーバードから派遣されてきた、いわば駒としての一研究者なのですから、同氏にそれらの問題の説明をさせることは筋が違います。
小保方氏は、STAP細胞を作成し、若山氏によりキメラマウス作製に成功して、万能性が証明できた時点では、まだハーバードからの派遣の客員研究員だったけれども、STAP細胞のネイチャー誌掲載発表と、不正疑惑発覚の時期には、理研の研究員だったということが、事態を複雑にしていることは以前書きました。世間や科学界は、発表した研究の実験に疑義が出たのであれば、調査委に実験ノートを提出(公開)するのは当然のような捉え方をするでしょうが、しかし、本件研究では、そう単純にはいかない上記のような事情が存在すると推定されます。ハーバード大が、あの2冊以外の提出や公開を認めなかったということでしょう。不正調査委の調査でもそれらを対象とすることをハーバード側は認めなかったわけですから、小保方氏に、それを提出・公開する余地はなかったということです。しかし、そういう事情を、理研もハーバードも説明してくれないがために、「実験などやっていないから、実験ノートを出せないのだろう」「身の潔白を証明するためには、実験ノートを公開するべきなのに、そうしないとは説明責任を果たしていない」といった非難を甘受せざるをえなかった、というのが真実に近いだろうと考えられます。
 ハーバードにとっては、一研究員のことなど眼中になく、何と言っても大特許の成否がかかっていますから、公開などして、未公開部分を公知化してしまって特許をふいにしてしまうような愚かなことなど、とてもとてもしようはずがありません。
 
 こういった事情は、なかなかわかりにくく、今年の2月に公開されたモニタリング委員会報告書を見て初めて把握することができたものです。

(参考) 
 
 NHKスペシャルが放映された時点では、ここまでのことは分かりませんでしたが、しかし、少なくとも、小保方氏による、知財が関係してくるために自分だけの判断では公開できない旨、ハーバードに他に数冊ある旨の説明はなされていたのですから、本件問題をずっとフォローしていれば、その提出されていない実験ノートにSTAP細胞の作製実験の記録が書かれている可能性に思い及ぶことはできたはずです。そして、小保方氏の会見での発言の具体的意味合いについて、理研やハーバードに対して確認し、実験ノートの帰属関係や公開の可否等について取材をかけるという発想に記者であればなるはずです。ところが、不思議なことに、NHK理研に質問してもいませんし、ハーバード大にまで出向きながら、取材したのは別の研究室の教授であり、再現ができなかったこと、発光しているのは死滅細胞だと考えている旨を語らせただけでした。ハーバードの知財管理当局に対して取材をかけるのが当然の流れのはずです。このような基本的取材をせず、単に、提出された2冊のノートに書かれていないとナレーションをすることによって、「エア実験だった」「ES細胞を混入させた」との印象を、視聴者に強く抱かせました。おそらく、「小保方氏は実験ノートの提出という説明義務を果たさない。それは実験などやっておらず、やましいからだ」という刷りこみを視聴者にするためには、実際の事実関係を明らかにさせないほうが得策だったということでしょう。それらは、「小保方氏の捏造」ストーリーにとっては、おそらく不都合な事実です。
 
 また、実験ノートの精粗についても、研究者によってばらつきがあることは、笹井氏が4月の記者会見で説明していました。備忘的にメモ程度で書く者もいる、電子データの形で残す者もいる、という趣旨のことを説明していました。京大の山中教授が、「実験ノートをつけていない者は不正をやっているとみなされる」との趣旨の発言があり、同教授がiPS細胞のセル誌での掲載の際に、失敗、成功含めてすべての実験ノートとともに編集部に送ったということが、立花隆氏が週刊文春だったかで紹介していました。しかし、同氏は、それはむしろ例外で、実験ノートは普通はそうそうは公開しないものだということも述べていました。
 こういった点についても、相場観というか慣行等を取材し、それを番組に何らかの形で反映すべきだったのではないでしょうか。NHKスペシャルの流し方は単純で、「小保方氏の実験ノートは2冊だけである。それにすべて書いてあるはずである。しかし作成時のことがあまり書いていない。だから実験はやっていないのだ。ES細胞を混ぜたのだろう」とういった飛躍を重ねて、捏造の印象付けをしているわけです。
 
(補足)
 ハーバードにある実験ノートには、おそらく、営業秘密的内容が含まれていると想像されます。
 若山氏は、STAP細胞の作成が、微妙なコツが必要で再現が難しい旨を、昨年の文藝春秋4月号でかなりビビッドに語っていますが(後述)、そこでは、
・細胞の濃度を揃えたり、洗浄を何回やらなければならないというコツがある。
・実験室が変われば成功率も変わってくる。
・水でさえどの会社の水かで違ってくる。試薬も最適なものを使わないと再現できない。
 といったことを述べており、これらはまさに「コツ」であって、営業秘密的要素に当たるでしょう。論文にはそこまで言及していないのではないでしょうか?それは実験ノートに書いてあることでしょう。それであれば、ハーバードが開示を認めるはずがありません。