時限爆弾を抱えた理研―ハーバードに帰属したキメラマウスの分析結果は如何に??
さて、理研モニタリング委評価書を読んで気が付いた大きな論点があります。それは、
残存試料の帰属
の問題です。これで、桂委員長が、胎盤発光の件に関して、なぜキメラマウス本体や切片ではなく画像でしか確認しなかったのか? なぜ「確認できませんでした」という言い方をしたのか? という疑問が氷解しました。
評価書では、まず、本文のP18で、次のように書いています。
さらに、P20では、次のように書いています。
「保存試料の分析計画に関して、保存試料の帰属が確定していない段階での公式表明を行わなかったことは理解するが、理研はもっと早い段階で、検証の方針を公表すべきでだった。」
他方、残存試料としてどういうものがあるかについては、この評価書では書かれていませんが、須田氏の『捏造の科学者』のp181に、次のように書かれています。
「小保方氏の記者会見後、私は主に、研究で残された細胞などの試料に関する取材に力を入れていた。理研は残存試料の状況を公表する気は皆無のようだったが、複数の記者会見や取材の中で、少しずつ状況が明らかになっていた。それまでに判明した残存試料は次の通りだった。
・STAP細胞由来のキメラマウスの胎児と胎盤(おそらくホルマリン固定液で保存)
・ES細胞に似た増殖能を持つSTAP幹細胞
・胎盤に分化する能力を残し、増殖能も併せ持つF1幹細胞
・STAP幹細胞由来の生きたキメラマウス
・STAP細胞由来のテラトーマの切片 」
ここに挙げられた残存試料のうち、どれがどういう帰属になったのでしょうか?
上記の評価書の後者の記述は、理研は、自らの帰属になった試料(+山梨大の若山氏の手元にあるもの)の範囲でしか、不正調査ができなかったことを強く示唆しています。
そして、「ホルマリン漬けのSTAP細胞由来のキメラマウスの胎児と胎盤」、そして「胎盤の切片」は、理研の帰属にならなかったものと推定されます。そのキメラマウスができた時は、小保方氏はまだ客員研究員でした。評価書の参考資料のP82のd)の右欄には、
「(若山氏は)小保方氏(客員研究員としての)受け入れの目的は技術支援と認識しており、そのため実験計画や結果の判断に深入りしない方針で共同研究を進め」
云々と書かれています。したがって、あの光るキメラマウスのホルマリン漬けと胎盤の切片の帰属は、ハーバード側にあるということです。
そういう理解に立てば、桂委員長が、会見で次のように、極めて曖昧な説明をしたことの意味がはっきりします。ハーバード側に帰属しているから、理研調査委では「確認できなかった」ということです。「本体を確認していないのか?」と問われても、直接の答えをせずに、ずらした回答をしています。
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Q 胎盤がなぜあるのか?という疑問についてはどう考えるのか?
A これに関しては、我々は疑っている。あの光る胎盤は、血液とか胎盤以外ものだった可能性があるということは、専門家に見てもらったところ、そのような回答を得ている。これは切片を切ったらそうでなかったというのがあるが、それがどうだったかは最終的に検証できなかった。しかし、胎盤であるとの証明があるとは思っていない。胎盤でないというところまで突き詰めて証明することは難しかったが・・・、胎盤であったとの証明があったとは思っていない。
A 我々の調査委では確認できなかった。
Q はぁ・・・、胎盤の形状を保持しているものは確認していないのか?
A 光っているものが、図によっては胎盤なのか別の組織なのか、専門家は、疑わしいと言っている人がいる。疑わしいという言い方だが・・・。
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ブログ記事のhttp://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2/16134077.html の「疑問2」参照。
そういうことだったわけですね! 不思議な答え方をするな? と不審を覚えましたが、これですっきりしました。
桂委員長とすれば、この質問は相当辛かったことでしょう。「ハーバード側に帰属するので調査できなかった」とはっきり言ってしまえば、「調べていないのか?!」と批判を浴びることは明白ですから、ともかく逃げの答えをするほかなかったのでしょう。
しかし、早稲田大の学位論文に関する調査では、ハーバード大の研究室まで出向いてヒアリングや実験ノートの確認等をしていますから、それとの比較でも、核心的部分で調査不十分ということになってしまいます。
さて、こうなると、面白いことになってきました(笑)
理研は、時限爆弾を抱えたようなものでしょう。
キメラマウスと胎盤の切片の分析とは、ハーバード側に委ねられることになります。そうすると、丹羽氏が、昨年4月の会見時に、次のように最も関心のある部分だとして、自分の目で慎重に確認したと答えている点が、再確認される可能性が十分あります。
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Q 胎盤に分化していることを確認しているのか? 血管が光っているのではなく、細胞が光っていることを。
A 自分自身もその点は、実験に参画した上で最も強いモチベーションだったので、・・・GFPの自家蛍光の問題は、免疫染色等で確認すべきだとのご意見があったが、まさにそのような手段を用いて、かつ 胎盤実質細胞で発現するマーカーともキョーセンショクを以って、確かにSTAP細胞由来と思われるGFP陽性細胞が胎盤組織にインテグレートしていることを、切片を顕微鏡で自分の目で確認している。
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また、須田記者の3月10日頃の取材に対しても、次のようにメールで回答しています。
「若山氏が作製したキメラマウスの胎盤組織の切片は、丹羽氏自身が顕微鏡下で観察したが、「TS細胞」と呼ばれる胎盤に分化する既存の細胞とは「全く異なるパターン」で、かつ「きちんと」STAP細胞由来の細胞があることが確認できた。」
しかし、丹羽氏の観察・分析がここまで詳細なものであるのであれば、ハーバード大側の分析でも確認されるだろうと想像されます。そうなると、
「桂調査委は、STAP細胞をES細胞だと断定するために、丹羽氏の観察を無視し、卵黄嚢であると強引に断定した可能性がある」
ということが明らかになってしまいます。理研に激震が走ることでしょう。
ES細胞では説明がつかない諸材料についても、ハーバードの調査委では取り上げられて検討がなされることでしょう。そうすると、ES細胞混入説は宙に浮いてしまいます。
そうなった時、理研と桂調査委、更にはその結論に一言の疑問も挟まず追認し、激賞した日本の科学界の威信はどうなるのか??
マスコミは、STA細胞問題は、これで最終的に「終結した」と書いていますが、まだまだ第二幕、第三幕があるだろうと、私は思っています。
しかしまあ、ともかく、特定研究開発法人法案の早期成立と、理研の指定は大賛成ですから、上記のような事態にならないうちに、成立、指定に至ってほしいと心から祈念しています。