理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

2 理研調査委の不服申立却下決定の根本的間違い(2)―「改竄」定義の本質を踏まえない拡張解釈

 
第二の不服申立て却下決定書の根本的間違いは、「改竄」の定義の誤った解釈です。
その本質的意義を踏まえずに、また、法令の用語例とも異なる拡張解釈をしてしまっています。
 
 理研規程では、「改ざん」は、「研究資料、試料、機器、過程に操作を加え、データや研究結果の変更や省略により、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること」としています。
 
 この定義に関して、弁護側は、次のように不服申立書で主張しています(却下決定書からの引用)。
「・「改ざん」は、良好な結果を示すデータが存在しないにも関わらず、良好な結果を示すデータが存在するように見せかけるために、データについて変更や省略を行うものである、良好な結果を示す架空のデータを作出することに「改ざん」の本質がある。
・「研究資料、試料、機器、過程に操作が加え」られ、「データや研究結果の変更や省略」が行われても、そのために「研究活動によって得られた結果等」が虚偽のものに加工されたのではない場合には、「改ざん」ではない。
・本件では、良好な結果を示す良好なデータが存在するので、不服申立て者の行為は、改ざんに該当する行為ではない。」
 
 これに対して、却下決定書では、次のように述べています。


「研究資料等に操作を加え、データ等の変更等の加工により、結果が真正なものでないものとなった場合には、「改ざん」の範疇にあることとなる。」
「改ざんとは、研究資料等に操作を加え、データ等の変更等の加工により、その結果が真正なものでないものになった場合、改ざんに該当するものである。すなわち、本件について言えば、操作や変更等の加工により、Figure1i という研究活動によって得られた結果が真正でないものとなったかどうかという点が本質である。不服申立て者が述べる、良好な結果を示すデータが存在しないにもかかわらず、変更や省略を行うことによって、良好な結果を示す架空のデータを作出したり、研究活動によって得られた結果等を虚偽のものに加工するような事例は、研究不正の典型例であるが、良好な結果を示すデータがあったとしても、操作や変更等という加工により、Figure 1iが真正でないものとなった場合には、改ざんの範疇にあることとなることはいうまでもない。
 
 この調査委の判断は誤っており、弁護側の主張が正しいと思います。理由は次の通りです。
 
(1)「捏造」の定義との整合性からして、「真正でない=虚偽」と解するのが正しいこと。
 「捏造」の定義は、文科省ガイドライン理研規程では、「存在しないデータ、研究結果等を作成すること」とされています。つまり、「研究実験も行わず、架空のデータ、結果を偽造する」ということです。例えば、名古屋大学の規程では、わかりやすく、ずばり「データ又は実験結果を偽造すること」と定義しています。
 データや結果を不利なものにすることは意味がありませんから、当然ここでは、データや結果を有利なものに偽造する、ないし、正しく表現しないということです。
 それとの並びで考えれば、改竄」は、「研究実験は行ったけれども、データや実験結果を、虚偽(架空)のものに加工(=変更・省略)する」ということになります。ちなみに、名古屋大学の規程では、「改竄」は、「研究試料・機材・研究過程に操作を加え,又はデータ若しくは研究成果を変え,若しくは省略することにより研究内容を正しく表現しないこと」との定義ぶりになっています。
一般的用例としても、たとえば、正規の領収書の金額や日付を変更することなどを「改竄」と言います。明らかに本来の情報を虚偽のものにするという意味合いです。
 
 
(2)法令の用例をみても、すべて、「真正でない」を「虚偽」の意味で用いていること。
電子政府の総合窓口」の法令検索システムにより、「真正」で検索すると、35件がヒットします(条単位でのカウント)。
 
 それらの用例をみると、すべて「虚偽」という意味で使用しています。
 
(例1日本国憲法の改正手続に関する法律施行令
期日前投票の事由に該当する旨の宣誓書)
第六十一条
 投票人は、法第六十条第一項の規定による投票をしようとする場合においては、同項各号に掲げる事由のうち国民投票の当日自らが該当すると見込まれる事由を申し立て、かつ、当該申立てが◆真正◆であることを誓う旨の宣誓書を提出しなければならない。
 
(例2)偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律
3 この法律において「◆真正◆カード等」とは、預貯金等契約に基づき預貯金者に交付された預貯金の引出用のカード又は預貯金通帳(金銭の借入れをするための機能を併せ有するものを含む。)をいう。
 
第三条
 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、◆真正◆に成立したものと推定する。
 
(例4民事訴訟
第二百二十八条
 文書は、その成立が◆真正◆であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、◆真正◆に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、◆真正◆に成立したものと推定する。
 
2 法第十五条第一項第二号に規定する署名は、当該古物商又はその代理人、使用人その他の従業者(第四項において「代理人等」という。)の面前において万年筆、ボールペン等により明瞭に記載されたものでなければならない。この場合において、古物商は、当該署名がされた文書に記載された住所、氏名、職業又は年齢が◆真正◆なものでない疑いがあると認めるときは、前項に規定するところによりその住所、氏名、職業又は年齢を確認するようにしなければならない。
 
以上のように、「変更・省略により、真正なものでないものに加工する」という「改竄」の定義は、「虚偽のものに加工する」という意味であることは明らかです。
 
●そして、虚偽なものへの加工かどうかは、あくまで、その「本来データや実験結果の持つ本質的意味合いに照らして」判断されるべきは当然のことです。
 定義に言う「研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工する」とは、その研究成果の本質を歪めるものなのかどうかで判断されるべきであって、それには影響を与えない加工は、「改竄」の範疇には含まれないことは言うまでもありません。
領収書の例で言えば、領収書という書類において、日付、金額と言うのは本質情報ですから、それを変更に加えることは虚偽の加工になりますから、「改竄」になるわけです。店から発行された領収書に赤い囲みをしたり、縦横1センチずつ切り取ったとしても、本質情報には何らの影響を及ぼしませんから、「改竄」には当たりません。
法令上の申請の添付書類として、人物の写真が真正なものかどうかを判断するときに、厚化粧していたとしても、本人の写真である限りは、「改竄」には当たりません(適不適の問題はもちろん別途あります)。
「四角い生成物ができた」という実験結果について、見やすくするために、青い色を赤い色に変更したとしても、それは「四角い」という本質データ・結果に対して変更を加えるものではありません。
これらの事例を想起すれば、「改竄」の定義における「真正でないものに加工する」の意味合いは、その研究成果が意味する本質に照らして判断すべきであることは明らかです。
 
 
●ところが、今回の不服申立て却下決定書は、研究成果の本質にかかわらない加工まで含めて、「真正ではないものに加工した」として、「改竄」の当たるとの誤った解釈に立って断じているように思えます。もっと言えば、「生データは、びた一文触ってはならない」と言っているようにも聞こえます。
 弁護側は、この画像の意味する本質は、「DNA が短くなった、すなわち、T細胞受容体再構成がおこった細胞が含まれているという結果」にあるとして、「論文1に掲載するにあたり、画像を見やすいように、実験の結果得られた2枚のゲル写真に操作(ポジティブコントロールを見やすいものにする操作)を加えたからといって、この結果自体は、何らの影響も受けない」旨を主張しています。そして、「この画像が示すものは、定量ではなく定性的な事実を示すものである」とも述べています。
 
 決定書は、p2~5にかけて、「改竄」に当たる旨の判断を述べています。専門的内容なので理解が難しいところがありますが、そこでは、複数の真正画像(この元画像の真正さ=実験結果得られたものそのものであることは、調査委側も認めています)を組み合わせるに際して、縦横比の設定にばらつきがあったり、目視で挿入するなどしていることにより、DNAサイズが正しく表わされなくなり、「再構成を示すバンドの計算上の分子量に関する正確な情報が失われた」ということかと思います。そして、定性性を示す画像だとしても、「(分子量に関する正確な情報が失われた以上、)定性性についても真正であるということができなくなったと言わざるを得ない。」という判断になっています。
 
 2枚の正しい画像を組み合わせるにしても、サイズ合わせを正確にしなければ、本来のデータとは異なってしまうものになってしまうではないか、ということで、それはそれとして、よく理解はできます。しかし、そのことと、2枚の正しい画像が意味する本質部分が、不正確な組み合わせにより決定的に損なわれたのか?ということとは切り離して考えるべきでしょう。
 まず、少なくとも、「DNAが短くなった」という実験結果の本質的情報に、差異はないのではないでしょうか。これが、もし、誤差の範囲程度のわずかな差を、縦に大きく引き伸ばして、あたかもかなりの有意のサイズで短くなったというように加工を加えたというのであれば、もちろんアウトでしょうし、2枚の真正画像が示す短くなった程度と比して、著しく短さの程度が変わっていたということであれば、その本質情報がかなり歪められたということになる余地が多分にあるでしょうから、アウトかもしれません。
 しかし、今回の組み合わせの場合には、その過程で、「短くなった」という本質情報が、全く別の解釈を誘発するほどに歪められたわけでないのではないでしょうか。
 
●卑近な例に例えるとして、どういうものを例えに使ったらいいのか、考えているのですが・・・。例えば、こういう事例が当てはまるのではないかと思います。
(例)本人写真の複数の合成、加工
「法令上の添付書類として、本人の写真が定められているので、同じタイミングで、複数枚の写真を撮った。ABの写真が本人の特徴が良く出ていて良いと思ったので、双方のいいところを組み合わせて合成することにした。Bの写真は、目の写りがぱっちりしていて明瞭なので、Bの写真の目の部分を、Aの顔写真に組み合わせることにした。しかし、ABとで写真のサイズが違っているので、写真を合成した結果、目のサイズと顔のサイズとの比が10%程度ずれが生じ、結果として、目が相対的に少し大きめになった。
 また、ついでに、額の皺が気になったので、10本あるところを、2~3本ほどソフトで消しておいた。」
という事例を考えてみると、いずれも正しく撮影されたもので、当人と識別できる本人写真であり、これを組み合わせて、その過程でのサイズ合わせのミスにより目がパッチリ見えるようになり、皺を少し消したことにより、やや印象が若く見えるようになったとしても、「本人と識別することができる写真」という本質情報には影響を与えるものでありません(もちろん、募集要項等で、「目が大きい人を募集する」ということであれば、選考基準に照らして本質部分に手を加えたことになりますので、「改竄」に当たることでしょう)。もちろん、こういう加工は望ましいものではなく、「不適切」であることは言うまでもありませんが、本質を歪める「改竄」には当たりません。
びた一文、撮影写真に手を加えるな、という意味で、「真正さ」と解釈するのであれば、政治家のポスター写真などは、全部「改竄」になってしまいます。
 

 以上の通り、不服申立て却下決定の審査書は、「改竄」の定義を、「本質情報に加工を加える」というその本質的趣旨を踏まえずに、また、法令の用例とも乖離した拡張解釈してしまっていると思います。

同審査書では、あと、「悪意があったこと(=故意があったこと)」 について判断しています。これもまたおかしい点があると思いますが、それは別途の議論になりますので、それは次の記事で述べたいと思います。