理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 理研調査委の不服申立却下決定の根本的間違い(1)―文科省ガイドラインの趣旨内容を大きく読み誤っている


小保方氏側からの不服申立てに対する理研の調査委員会の審査決定書が公開されていましたので、読んだところ、41日の報告書とは打って変わって、詳細なものになっていました。

 
不服申立てがあったので、その各論点ごとに見解を詳細に述べています。54日に提出された補足説明書における主張に対しても、逐一反論しているのには、驚きました。短期間に良くまとめたものだと、さすがにここは、元検事ならではのものと正直感じました。具体的なデータ、聴取内容、経緯に即して判断を述べていますが、今後の懲戒処分や訴訟をにらんだ上でのものだろうと思います。
 
 結論は、再調査の必要はないというもので、その審査内容の個別の事実認定については、非常に詳細に述べられていますが、それらについては別途検討するとして、やはり、根本的部分での疑問がありますので、それについて述べてみたいと思います。
 
【根本的疑問】 文科省ガイドライン理研規程における「研究不正」とは、研究自体が架空である場合を想定していることは明白であり、その点については留保した上で、論文の画像部分だけの「改竄」「捏造」の調査や認定というのは、あり得るのか? 再現実験結果を待たなければ、認定はできないはずではないのか?
 
前回記事でも言及しましたが、文科省ガイドラインや、それに準拠した理研その他の研究機関の規程では、あくまで、研究自体が偽造、架空のものを想定しています。それは、ガイドラインの特に「捏造」の定義(「存在しないデータ、研究結果等を作成すること」)からも理解できますが、更に次の理由から明らかだと思います。
 
 
(1)不正調査方法として、「再実験(再現実験)」が規定されていること。つまり、再現されれば、架空の研究ではないことが証明されるということ。
 
 文科省ガイドラインでは、次のように書かれています。
「ア)本調査は、指摘された当該研究に係る論文や実験・観察ノート、生データ等の各種資料の精査や、関係者のヒアリング、再実験の要請などにより行われる。この際、被告発者の弁明の聴取が行われなければならない。
イ)被告発者が調査委員会から再実験などにより再現性を示すことを求められた場合、あるいは自らの意思によりそれを申し出た場合は、それに要する期間及び機会(機器、経費等を含む。)が調査機関により保障されなければならない。
 
 つまり、論文、実験ノート、生データ等が十分なものでなかったとしても、再実験により論文通りの結果が出れば、研究不正の嫌疑は晴れるという趣旨になっています。
 換言すれば、再現性があれば、架空の研究、実験ではなかったことが証明されるから、研究不正でないということです。
 逆の言い方をすると、再現性があれば、論文や実験ノート、生データ等の不十分さ、杜撰さは、研究不正を認定する根拠になり得ないということになります。それは定義の文言とも整合的です。
 
 理研では、論文に書かれたSTAP研究自体の再現性の可否は留保しており、小保方論文に即して、その再現性を確認するための検証実験を組織として進めることとしました。調査委員会や小保方氏自身ではありませんが、その所属する理研自身が再現実験をするわけですから、それが成功すれば、研究自体の研究不正は否定されることになります。その場合、再現性の証明が、論文や実験ノート、生データ等の不十分さ、杜撰さをオーバーライドすることになります。
 
 小保方氏の弁護士が、補足説明書で、「第3  STAP現象検証プロジェクトによって実施されている実験結果の重要性」との柱を立て、「検証実験が終わらない時点で、研究不正と断ずることは許されない」と主張していることは、上記趣旨からして、的を射たものだと思います。
 
 論文での掲載画像の実験ノートや生データの確認等と、再現実験とを切り離して、前者だけで捏造、改竄の研究不正を調査・認定しようとしたところに、根本的な誤りがあったということです。研究不正を判断するのであれば、一体として行なう必要があったのです。
 
 
(2)研究不正に関する懲戒処分が、極めて重いものしかなく、均衡原則から見て、研究自体が架空の場合を想定しているとしか考えられないこと。
 
 新聞報道によれば、理研規程では、研究不正に対する処分を、本人に退職願を提出させる諭旨退職か、懲戒解雇と定めている。ただし、懲戒委が個別の事情を考慮し、出勤停止や減給にとどめる場合もある。」(読売新聞)とのことです。
 諭旨退職か懲戒解雇というのは、それ以上はない極刑です。そのような極刑しか規定されていないということは、研究、実験自体が架空のものだったものを想定していると考えなければ、説明がつきません。
 懲戒処分には、行為と処分との均衡原則(比例原則)というものが基本的考え方としてあります。「懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効になる」という趣旨が、労働契約法第15条に規定されています。
 研究自体は実際に行なわれており、研究や実験自体は架空ではないが、論文にする上でのデータ管理の杜撰さにより、本来データと間違えたり、認識不足により画像に不適正な加工を加えてしまったりといった行為に対する処分が、直ちに諭旨免職又は懲戒免職に相当するものなのかと言えば、そうではないことは明らかでしょう。
 会社でも、対外発表の一部の重要データを、管理の杜撰さ、不注意で間違えてしまったからといって、免職になることなどはありえません。
 
 
(3)仙台地裁の判決が、成果物の注釈なき画像合成行為について「文科省ガイドラインの趣旨に照らし、故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたものではないから,結果的に不正確な断面写真が掲載されたことは否定できないとしても,論文にねつ造,改ざんがあるとはいえない」と判断していること。
 
仙台地裁判決では、96年論文については「単数形で記載した成果物の写真の掲載に当たり,断面と側面とで別の試料を用いていること」07年論文については「一断面を撮影した4枚の写真を1つの写真に組み合わせた後,当該写真データを論文の原稿ファイルに貼り付ける過程において,縦横比の設定を固定することを失念したために,実際の断面と縦横比が8%弱異なる結果となったこと」について、再現性が否定されていないことも踏まえつつ、文科省ガイドラインの趣旨に照らして、「写真の掲載方法が論文の実験結果を示すものとして不正確な面があることは否めないものの,論文にねつ造,改ざんがあったということはできない」としています。
ここでも、上記(1)で述べたことと同じように、再現性が否定されないことを以て、写真の合成行為の不正性を否定しているわけです。
 ※ なお、仙台地裁の判決は「再現可能性がないことをもって直ちに論文にねつ造,改ざんがあるということはできない」と述べていますから、捏造、改竄の認定には相当慎重になっていると思われます。
 
審査結果報告書では、この仙台地裁の判決についてコメントしていますが(p17)、なぜか、07年論文に関する評価のみしか取り上げていません。「『失念』と認定したのだから、『故意』ではないので、捏造、改竄ではない、としているだけだ」としています。しかし、96年論文について判決は、「単数形で記載した成果物の写真の掲載に当たり,断面と側面とで別の試料を用いていること」について、掲載方法の規定がないこと、枚数制限があること等から、捏造、改竄とはいえない」としています。これについてのコメントはなしです。
小保方氏の論文の「改竄」認定された画像の評価をするのであれば、こちらの96年論文についての判決の評価に照らして論じるべきでしょう。
 
また、審査結果報告書では、次のように、真正データに操作・変更を加えること自体が改竄になるとしていますが、上記地裁判決の判示内容とは食い違いがあると思われます。
「改ざんとは、研究資料等に操作を加え、データ等の変更等の加工により、その結果が真正なものでないものになった場合、改ざんに該当するものである。すなわち、本件について言えば、操作や変更等の加工により、Figure 1i という研究活動によって得られた結果が真正でないものとなったかどうかという点が本質である。不服申立て者が述べる、良好な結果を示すデータが存在しないにもかかわらず、変更や省略を行うことによって、良好な結果を示す架空のデータを作出したり、研究活動によって得られた結果等を虚偽のものに加工するような事例は、研究不正の典型例であるが、良好な結果を示すデータがあったとしても、操作や変更等という加工により、Figure 1iが真正でないものとなった場合には、改ざんの範疇にあることとなることはいうまでもない。p2
 

 以上の通り、文科省ガイドラインとそれに準拠した理研規程における「研究不正」は、あくまで、研究自体が架空のものである場合のみを想定していることが理解されると思います。
 
小保方氏の研究・実験は実際に行なわれているわけですし、STAP細胞の少なくとも第一段階を見たり、再現成功した事例があることは確認されていて、笹井氏のように「STAP現象があるとしなければ説明がつかない点が少なからずある」としていることからすれば、再現性は否定されていませんし、再現実験の成否は、研究不正を判断する上での重要な(根幹的)ファクターなのですから、その結果が明らかにならない限りは、不正かどうかの判断はできないはずです。
 
論文、実験ノート、生データ等の管理の杜撰さや、掲載に際しての慎重さの欠如、科学的方法の逸脱等の点を捉えて、パーツの画像が捏造、改竄だとして懲戒処分してしまったならば、再現実験が成功して、(文科省ガイドラインが想定している)研究自体の本来の研究不正ではないことが明らかになったならば、そのパーツ画像の不正認定や懲戒処分は取り返しの付かない処分だったということになってしまいます。いわば、死刑にしてから、実は無実だったということがわかるというのと同じ構図になることでしょう。
 
文科省ガイドラインが、上記のような「研究不正」の考え方を採り、その調査認定手続きを定めている以上、再現可能性があるとの前提で、再現実験を開始したからには、その結果を待たなければ、本来の研究不正かどうかの結論は出ないことになります。
そういう意味で、理研及び調査委員会は、文科省ガイドラインの趣旨を読み誤り、研究不正調査の進め方を大きく誤ったと言えると思います。
 
 以降、審査結果報告書について、もう少し読んでみて気付きの点があれば述べたいと思いますが、ざっと読むと、ネイチャー誌への第1回投稿と第2回投稿の各論文における論文趣旨、シナリオについての両者の主張が食い違っていることなどがわかります。