理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

小保方氏側の不服申立て補足資料により、理研調査委報告書の誤りは明らかにー仙台地裁の司法判断に照らして

 
 57日、理研調査委が、小保方氏側からの不服申立てに対して、再調査はせずとの結論をまとめ、臨時理事会に諮ったという報道がなされています。
 
 54日に弁護側から補足説明資料が提出されたばかりであり、その検討もしない段階で、どうして結論が出せるのか理解できません。どういう却下決定書になっているかわからないですが、今後、理研は泥沼にはまっていくことでしょう(後述)。
 
●さて、小保方氏の弁護人から、4月20日の理由補充書提出に続き、5月4日に補足説明資料が提出されました。


 4月20日時点では、詳細説明資料は2週間提出を待ってほしいと言っていた通り、ちょうど2週間後に提出されたことになります。
 
 公表された説明資料は要約版ですので、32枚に亘る全貌はわかりませんが、それでも7~8ページの要約資料から、多くのことが分かります。前回の説明である程度想像はできたところはありますが、今回の説明資料により、概ね氷解した疑問点もあります。
 上記毎日新聞には、次のように書かれています(毎日新聞はハフィントンポストは、公表資料そのものを速報的にHPにアップしてくれたり、会見録を逐語的に公表してくれるので助かります。ハフィトンのほうはテキストにしてくれるので有難いです)。
 
「主な主張は▽複数枚の写真を1枚に組み合わせても「捏造(ねつぞう)や改ざんには当たらない」とした金属材料科学分野での判例がある▽論文執筆時は研究所の移籍手続きで多忙で、「他の研究室に先を越される」などのプレッシャーもあった▽理研によるSTAP細胞の検証実験の結果を待って研究不正かどうかの判断をすべきだ--の3点。
 判例は、昨年8月の仙台地裁判決。論文に不正があると告発された東北大元学長が告発者に損害賠償を求めた訴訟で、捏造や改ざんが否定された。補充書ではこの判例を踏まえて「存在しないデータを故意に作成するなどでなければ、捏造や改ざんに該当しないというのが司法的解釈」と主張した。」
 
 研究不正に関連する司法判断として、井上東北大元学長の名誉棄損訴訟があるというのはよく知られていますが、その判決文に、捏造、改竄の具体的判断の考え方が示されていたとは、今回の補足説明資料によって初めて知りました。
 今回援用された仙台地裁の判決文は、次の通りです(被告側が控訴している由)。
 
 
 井上元学長の場合は、学内での調査委員会では、研究不正が否定されていたところ、学外等の学者らが執拗に改竄、捏造を主張し、調査委への告発が却下、不受理となった後も、HPを立ち上げて、その不正主張を続けたことに対して、名誉棄損訴訟を提起したものですから、今回のケースとは構図が異なります。
 また、この井上元学長の場合は、研究自体が捏造、改竄により不正だとの主張を相手からされているのに対して、小保方氏の場合には、研究自体の不正については判断せず、改竄、捏造についてはあくまで画像の不正についてのみを対象としているという点にもおいても異なります。ただし、本来は論文に捏造、改竄があったならば、研究自体が改竄、捏造だとされるのが一般的であり、理研調査委の報告についてもマスコミや世間はそのように受け取っていますが、そういうわけではないという点で、奇妙な不正認定になっています。
 
●それはおくとして、その名誉毀損訴訟の判決文において、今回の小保方氏の論文の加工等に関する評価のあり方を考える上で、多くの重要な指摘がなされています。前提となる文科省ガイドラインや、各組織の研究不正規程の規定内容も同じです。
 同訴訟では、96年論文と07年論文についてそれぞれ判断しています。重要な指摘を大別すると次の通りです。
 
○第一は、
①「再現可能性がないことを以て直ちに研究不正ということはできないこと」
②「実験担当者自身が再現実験に失敗しているとしても、同様であること」
 
被告らは,同論文にねつ造,改ざんがあることを疑わせる根拠として,①報告内容につき再現可能性がないこと,②作製された試料の写真の掲載の方法に問題があること,③上記報告に係る大きさの試料を実際に作製し得る性能を有するアーク溶解装置が存在しないこと,④原告が現在まで生データ等を示した説明や証明を行っていない上,本件各論文以外の論文についても二重投稿を繰り返すなど研究不正を行っていること等を挙げて主張するので,以下検討する。
再現性の有無について
() 被告らは,96年論文の吸引鋳造法により直径30mmのバルク金属ガラスを作製できることについては再現がされておらず,原告による実験の原理の説明も虚偽であって再現可能性もないなどと主張する。そこで,文科省ガイドラインやE大学ガイドラインにおけるねつ造,改ざんの意義・・・を踏まえて検討するに,ある論文に掲載された実験方法につき再現実験ができなかったとしても,それが直ちに存在しないデータ,研究結果等を作成したり研究資料等を変更する操作を行って実験結果等を真正でないものに加工したりしたことを示すものではないから,再現可能性がないことをもって直ちに本件各論文にねつ造,改ざんがあるということはできない。(中略)
 ・・・被告らの指摘を踏まえても,上記再現性の有無については見解が対立しているにとどまり,原告と被告らの主張内容のいずれが学術的に正当であるかについては学術論争において決着が図られるべきものであるから,少なくとも,被告らの主張やこれに沿うL,O両教授の意見のみをもって,96年論文の手法(吸引鋳造法)が再現性のない虚偽のものであるということはできない。
() また,被告らは,実験担当者であるF自身が再実験に失敗していることなどを指摘するが,文科省ガイドラインによっても,学会における調査において被告発者が告発に係る疑惑を晴らすために再実験等を必要とするときには,その機会が保障されるにとどまり,再実験に成功しなければ研究不正であるとみなされるわけではないから,被告らの上記主張は採用できない。」
 
○第二は、
(真正な写真がある前提で)
③「写真を合成したとしても、実験結果を示すには不適切ではあっても、捏造、改竄があったということはできないこと」
④「複数枚の写真を合成して掲載し、注釈をつけなかったとしても研究不正にならないこと」
⑤「縦横比の設定固定を失念して、結果として不正確になったとしても、故意ではないから研究不正にはならないこと」
⑥「複数枚の写真を合成して1枚にし、注釈をつけない事例は複数あること」
 
96年論文に関して)
作製した成果物の写真掲載方法について
被告らは,単数形で記載した成果物の写真の掲載に当たり,断面と側面とで別の試料を用いていることから,ねつ造,改ざんが疑われると主張する。
しかしながら,証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば,日本金属学会における本件欧文誌の投稿規程上,論文に掲載する写真については,指定されたファイル形式の使用や,査読用ファイルと印刷用ファイルが同一のものであることの確認が要求されているにとどまり,原稿の執筆要領でも論文に掲載する図(写真を含む。)については,上記事項に加え,指定された大きさの図にすることや図説明を図の下に印字すること,コントラストがはっきりしており線・輪郭の鮮明なものを用いることなどが注意点として記載されているにとどまり,図説明においてどの程度の内容を説明すべきかについては明記されておらず,写真撮影の方法についても何ら定めがないことが認められる。
そして,96年論文が枚数制限のある Rapid Publication であること・・・を併せ考慮すると,原告において,成果物たる試料の写真を掲載するに当たり,何らの説明なく断面と側面につき異なる試料を用いたとしても,それ自体が論文の投稿規程や執筆要領に違反したものということはできず,96年論文における写真の掲載方法が論文の実験結果を示すものとして不正確な面があることは否めないものの,このような事実から96年論文にねつ造,改ざんがあったということはできない(この点に関連して,被告らは,96年論文に掲載された成果物の写真が円柱状ではなく,きのこ状になっており,くぼんだ部分等も見られるとして,ねつ造,改ざんが疑われると主張するが,96年論文の成果物の外観に被告ら主張のような点があることは掲載された写真を見れば明らかであって,それが整った円柱の形状をしていなかったとしても,96年論文の学術論文としての質の高低を左右するにとどまり,ねつ造,改ざんの存在を示唆するものではないから,上記主張も採用することができない。)。」
 
07年論文に関して)
被告らは,同論文にねつ造,改ざんがあることを疑わせる根拠として,①上記の断面写真につき何らの説明なく合成写真を用いていること,②1か所の断面の検査結果のみを根拠に,直径30mmの試料全体が完全なバルク金属ガラスであると結論付けていることなどを挙げて主張するので,以下検討する。
合成写真について
被告らは,作成された試料(成果物)の断面写真が07年論文の基本的要素に当たるとした上で,原告が,本来同一円(正円)であるべき試料の中心点が導き出せない写真を掲載し,その点についての説明もしなかったことから,中心部分をあえて欠落させた疑いを生じさせたと主張する。
しかし,証拠(甲1の1及び2,甲23)及び弁論の全趣旨によれば,07年論文に掲載された上記断面写真については,一断面を撮影した4枚の写真を1つの写真に組み合わせた後,当該写真データを論文の原稿ファイルに貼り付ける過程において,縦横比の設定を固定することを失念したために,実際の断面と縦横比が8%弱異なる結果となったことが認められるところ,文科省ガイドラインやE大学ガイドラインにおけるねつ造,改ざんの意義(前記前提事実(3)()(),同イ())に照らせば,上記写真の掲載は,故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたものではないから,結果的に不正確な断面写真が掲載されたことは否定できないとしても,07年論文にねつ造,改ざんがあるとはいえない。
これに対し,被告らは,組合せ写真を使用したことに関する説明や使用した撮影機器の説明の欠如を問題とするが,上記(2)イで見たように,日本金属学会における本件欧文誌の投稿規程や執筆要領上,掲載する写真の体裁(組合せ写真の使用の可否)に関する定めや写真に付記する説明の内容,程度に関する定めがないこと(甲21,22)に加え,07年論文が枚数制限のある Rapid Publication であること(前記前提事実(2)イ),実際にも複数の写真を1枚に組み合わせた写真を掲載しつつ,当該写真が組み合わせ写真であることや使用した撮影機器について何ら説明を付していない論文も複数存在すること(甲12)からすれば,被告らの上記主張も上記結論を左右しない。
  
 今回の理研調査委報告書では、第一の点については論じておらず、もっぱらマスコミや識者らが、「再現できないのは、もともと捏造だろう!」と決め付けていることに対する警鐘になっています。
 
●今回の調査委報告書の問題点を考える上で決定的に重要なのは、第二の点でしょう。小保方氏側の弁護士が指摘しているのも、この点です。改竄と捏造認定それぞれについてみていきます。


(1)「改竄」認定について
 理研調査委報告書においては、2枚の実験の結果得られた真正写真(調査委自身もその旨認定)を注釈なく合成し、一部縮尺を変えていることを以て、改竄認定しています。しかし、それは、あくまで真正写真があり、その見栄えをよくするためということと、ネイチャー誌の誌面の制約があったことを、理由として述べています。真正写真と合成写真とで、実験結果の反映状況が変わることはないことも説明しています。
 これに対して、調査委の委員(現委員長)の渡部弁護士は、「写真を加工したことは認めているのだから、故意(悪意)だ」という趣旨のことを、記者会見で述べています。


 しかし、上記の判決においては、あくまで、「故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたもの」が捏造、改竄という考え方に立っており、真正写真の合成行為自体は、何ら捏造、改竄ということではなく、正確、不正確という次元に留まるという評価になっています。
 また、写真を注釈なく合成している事例もあることや、誌面スペースの制約による合成という事情についても、捏造、改竄ではないことの援用材料として言及しています。
 以上からすれば、理研報告書の「改竄」認定が、明らかに間違っていると言えるでしょう。弁護側の主張の通り、データ自体が架空の場合が改竄、捏造であり、真正データがあり、誌面の制約の中で、その実験結果をよりわかりやすく見せようとした加工自体は、改竄等の研究不正には該当しないということです。
 
(2)「捏造」認定について
 理研調査報告書では、テラトーマ画像について、実験条件の差が異なることを認識していながら学位論文に掲載した画像を掲載したとし、最も重要な画像について間違えたとは考えがたいから、故意の「捏造」だという論法です。「実験条件の差を認識していた」「学位論文の画像だということを認識していた」という根本的な部分の事実認定の根拠は何ら示されておらず、「間違えるはずのない重要箇所で間違えた」とは信じがたいので、故意の捏造だという、論理にもなっていない認定をしています。間違えるはずがないのに間違えることは往々にしてある話で、それはまさに「故意」とは反対の「過失」というものです。
 また、外部からの指摘よりもはるか以前の時点で、画像の間違いに自ら気がついて、調査委にも申告し、差替えの依頼を直ちにネイチャー誌にもしていますが、初めから意図的に学位論文の画像を使っていたのであれば、そういう行為には出ないはずですが、この点の矛盾については、報告書では何ら触れていない杜撰さです。
 
 さて、今回、小保方氏側から提出された補足説明資料によって、画像の差替えミスについての経緯等の事実関係が整理され、疑問が氷解した点があります。記者会見でも指摘されていた点ですが、時系列でいうと、
20124月 第1回目のネイチャー誌投稿(不採用)
20133月 第2回目のネイチャー誌投稿(採用)
 ですが、問題の画像は、
20126月に撮影(フォルダーは同7月)
 ということでした。そして、小保方氏側の説明として、第1回目の投稿論文に掲載していた画像は、ラボミーティングでの様々なストレス(物理的、酸)によって初期化しうるという画像(=学位論文の画像)で、ストレスの種類は書かれていなかったと述べていました。また、ラボミーティング画像と本来画像との実験条件の差は認識していた、とも述べていました。ということは、20124月の第1回投稿の際の画像としては正しくて、第2回投稿の際の画像としては間違っていたということのようであり、そして、第2回投稿の真正画像は、第1回投稿後に撮影した20126月のものということであれば、第1回目と第2回目とでそのテラトーマ画像の趣旨が異なっているということだろうか? と、どうももやもやしていたところがありました。笹井氏の記者会見での記者の質問は、第1回投稿と第2回投稿とを同じ趣旨だとの前提に立ち、「真正画像なるものが、第1回投稿後に撮影されたものとはどういうことか?」というものでした。その際に、笹井氏は直接の言及を避けたため、どうもすっきりしないままでした。単純に第1回目論文をブラッシュアップして第2回投稿でうまくいった、という程度の報道しかありませんでしたし、理研報告書での言及は皆無でしたから、曖昧な点が残っていました。しかし、420日の補完提出資料の際に、論文趣旨に変化があった旨が述べられていましたから、それに伴い画像の位置の位置づけも変化したのかもしれない・・・と思っていたところ、果たしてそういうことでした。
 
 54日に提出された補足説明資料では、次のように書かれています。要するに、1回目の投稿の際には、「ストレス処理により」ということで、物理的刺激も酸処理も包含したコンセプトによるものだったものを、第2回目の投稿の際には、「酸処理」に絞ったということです。したがって、第1回投稿の際には正しい画像だったが、第2回投稿の際には実験条件が異なるので正しいものではなく、酸処理の画像にしなければならなかったが、シナリオ変更に伴う膨大な作業の中で、差し替えを失念してしまった、という説明です。
 
5 論文の考え方の変遷
論文についての考え方(構想)は、4段階の移り変わりがある。
学位論文(20113月)では、「物理的刺激により幹細胞化する」という論旨であった。
20114月から同年12月にかけては、申立人は、「体細胞に物理的刺激や酸による刺激を与えることにより幹細胞化する」という論旨で検討していた(ラボミーティング資料 資料4)。この段階では、物理的刺激と酸刺激を区別して検討していなかった。
さらに、201111月頃にはキメラ実験が成功したことから、201112月ころからは、申立人は、「ストレス処理により体細胞からキメラができた」という論旨で論文を作成することにした。20124月のNature論文(不採用)は、「ストレス処理により作製されたACCOct4+細胞)でキメラができた」という論旨であった。この論文においては、テラトーマについては、論文中に具体的な記述はなく、また、Figureも掲載されていない。査読用の付属資料には、テラトーマの画像(A2)が掲載されているが、あくまで補足的なデータであり詳細な説明はない。
その後、Cell誌やScience誌にも、同様の論文を投稿したが不採用となっている。
申立人は、20131月から笹井氏に論文指導を受けることになった。笹井氏からの助言を受けて、20131月中旬からは「酸処理によって得られた幹細胞の性質」という新たな視点で論文を纏め直すことになった。
 
6 画像の差し替え忘れ
その後、申立人は、2ケ月弱の期間に論文2報を執筆した。この論文執筆にあたっては、今までの論文から大幅な変更が必要であった。すなわち、データはすべて酸処理によって得られた幹細胞からのデータに差し替える必要があり、また、キメラだけでなく、Oct4+細胞の性質を分析する様々な実験(in Vitro実験やテラトーマ実験など)を追加する必要があった。
この時、申立人は、テラトーマの免疫染色の画像について、酸処理のものに差し替えるのを忘れてしまったのである。
 
 この説明により、曖昧な点は解消されました。
 少々長くなりましたが、つまりは、論文趣旨に即した真正画像は存在するが、シナリオ変更に伴う膨大な作業の中で、この部分だけ差し替えを失念してしまったということですから、故意に、論文趣旨にそぐわない(実験条件の異なる)画像を配置したわけでないということになります。説明として特段の不自然な点や矛盾する点はありません。
 そして、第2回投稿論文に関する実験に基づく真正画像が存在することが確認されれば、仙台地裁判決が述べるように、「故意に存在しないデータを作成したり真正でないものに加工したりしたものではないから,結果的に不正確な・・・写真が掲載されたことは否定できないとしても,・・・論文にねつ造,改ざんがあるとはいえない。」ということが明確になります。
「縦横比を固定するのを失念していた」というのが、東北大元学長の過失であり、「酸処理の写真に差し替えるのを失念していた」というのが、小保方氏の過失です。
 
公表された要約の資料では、真正画像に関する裏付け資料そのものは公開されていませんが、理研調査委に提出された本体資料では、添付されています。公表された要約資料では、次のように書かれています。下記の添付画像や各資料が、その具体的な裏づけ資料ということでしょう。
 
4 テラトーマ実験
申立人は、201112月、CD45+細胞を酸刺激して作製したOct4+細胞マウスに移植した(実験ノートP75)。そして、20121月にテラトーマをマウスから取り出し(資料11)、同年2月に切り出し(実験ノートP99)、その後、テラトーマを免疫染色した画像を撮影している(画像B 資料6、資料9)。
 


●以上の通り、小保方氏側弁護団の主張は、司法判断にも即したまっとうなものであり、常識にも即したものだと思います。論文の裏づけとなる実験や真正データが存在しているにもかかわらず、真正な画像データの解釈に影響を及ぼさない加工や、真正な画像データへの差替えミスが、捏造、改竄などの研究不正としてレッテルを貼られ、抹殺されなければならない理由はありません。早稲田大の学位論文のコピぺ問題の先入観にひきづられて、「そういう奴だから、ネイチャー論文も不正に決まっている」という潜在的決め付けをしている感があります。
 そもそもが、通常は、論文不正=研究不正 であり、文科省ガイドラインも、それに即した各組織の規程もそういう発想に立っているはずなのに、真正データはあるが論文不正であり、しかし研究自体が不正かどうかは不明、などという中途半端な不正認定自体がおかしいと思います。
 
 こういう論文作成についての一連の経緯や事実関係は、研究不正認定に際しての大前提になるのですから、よほど慎重に事実認定をする必要があります。そして、小保方氏から丁寧に事情聴取をしたり、「捏造」「改竄」認定に際して、それについての弁明を書面で提出させたりすれば、容易に、事実関係の全貌は把握できたはずです。
 そのような丁寧な事実認定プロセスもろくに経ずに、研究不正認定をするのであれば当然知っていて然るべき(少なくとも、現調査委員長の渡部弁護士が)司法判断内容も何ら踏まえずに、通常150日で設定しているところを、捏造、改竄部分については、わずか3週間で結論を出しているのですから、これを杜撰といわずして何と言うのでしょうか?


 そして、本日(57日)の報道によれば、再調査はしない旨を決定したとのことであり、それが本当であれば、杜撰さを更に増幅させることになるでしょう。研究不正認定自体は、処分ではありませんが、しかし、研究者生命を失いかねない次元のもので、懲戒処分に直結する話です。そしてそれは、訴訟にも至る話です。それであれば、よほど慎重に事実認定し、小保方氏側の主張も丁寧に聞いた上で、証拠に基づいて認定判断をしなければなりませんが、そういうものにはなっていません。
 どこかの報道に、理研は、独立した組織である調査委の結論を尊重すると述べていたとありますが、懲戒処分の段階になれば、矢面に立つのは調査委ではなく、理研そのものということになります。まずは聴聞手続きがありますので、そこでの攻防になりますが、懲戒処分が決まった後は、その異議申立てや訴訟において、「調査委がこう判断しましたから」で通るわけではもちろんなく、不服申立てにおいて提出された主張の各論点ごとに、逐一全部、理研自身が反論していく必要があります。そこには、今回言及された仙台地裁の判決との整合性(判決がおかしいというのであれば、その具体的理由)についても説明する必要があります。あの41日の調査報告書のような内容では、まったく通るものではありません。そういう、理研自身が追う説明・反証責任を自覚した上で、調査委の結論を丸呑みするつもりでしょうか・・・??


【5月8日補足】 調査委員会の審査決定書が公開されていましたので、読んだところ、4月1日の報告書とは打って変わって、詳細なものになっていました。不服申立てがあったので、その各論点ごとに見解を詳細に述べています。5月4日に提出された補足説明書における主張に対しても、逐一反論しているのには、驚きました。短期間に良くまとめたものだと、さすがにここは、元検事ならではのものと正直感じました。具体的なデータ、聴取内容、経緯に即して判断を述べていますが、今後の懲戒処分や訴訟をにらんだ上でのものだろうと思います。
 ざっと読んだだけですが、上記の末尾に書いて点は訂正が必要のようです。
 しかし、やはりそれでも、根本部分でおかしな認定の構図になってしまっているということ、文科省ガイドラインの趣旨の理解は、正しくないのではないかと感じています。今後の記事で述べたいと思います。

 そうこうするうちに、7月には中間報告が出てきて、第一段階が成功し、次のステップに移るということになったら、どうするのでしょうか? そこで再現がなされば、単なる掲載ミスだったということが、より明らかになります。再現実験が成功すれば、文科省ガイドラインからして、(研究自体の)研究不正の嫌疑は晴れるということになります。そうすると、研究自体の不正はなく偉大な研究であったが、しかし論文画像が捏造、改竄だったという奇妙奇天烈な構図になってしまいます。
 今回の補足説明資料で、再現実験の結果を待つべきだ、と弁護団が主張しているのは、そういう意味だろうと思います。
 
●現調査委員長の渡部弁護士は、検事出身のベテラン?ようですが、検事では、刑事畑のことは詳しくて、被疑者追及や立件はお手のものでしょうが、民事畑や行政畑のことは往々にして詳しくないということがままあります。今回の手続きでも、「捏造、改竄認定をする」ということを告げた上で弁明の機会を与えるべきであるのは、不利益処分を課す場合の常識だと思うのですが、「個別の点について、これはどうか、あれはどうか?と確認していったから、それでいいのだ」という会見での発言を聞いて、言葉は悪いですが、「馬鹿じゃなかろうか?」と感じたというのが正直なところです。
科学者たちも、こういう手続き論についてはてんで疎いということもよくわかりました。「研究不正に詳しい」として紹介されつつ頻度高く発言する識者にしても、こういう司法判断事例について何らコメントしていないというのは、知らなかったとすればお粗末ですし、知っていて黙っていたのだとすればアンフェアです。
 
理研は、ここで判断を誤れば、今後、泥沼にはまっていくことでしょう。貧すれば鈍するです。世間や文科省等による「空気に押されて」、あるいは「空気に乗じて」、特定研究法人指定の環境づくりを急ぐあまり、杜撰な調査報告書を拙速でまとめてしまい、それに囚われて懲戒処分までしてしまったら最後、その後の法廷闘争で精力を使い果たし、いずれ、裁判所でその杜撰な内容と手続きを断罪され、あげく、弁護士費用まで支払わされる・・・というシナリオも決してあり得ないことではないでしょう。
 
加えて、何度も書いていきましたが、STAP細胞の特許申請の件は、あくまで理研等がその主体です。これをあと5ヶ月のうちに手続きをせず、国際特許出願を失効させしめたら、(STAP細胞が存在することが裏付けられたらですが)、それこそ国家的利益を無に帰させたということで、厳しく指弾されることになるでしょう。
 
(注)冒頭の毎日新聞によれば、「今後、小保方氏の処分が決まれば、訴訟に持ち込まれる可能性がある。三木弁護士は「小保方氏の今後の研究人生などを考えると、いたずらに長引かせることがいいのか。本人や弁護団であらゆる選択肢を検討したい」と話した。」とあります。微妙な言い方ですが、小保方氏本人も名誉のこともありますし、「捏造、改竄」の本来趣旨を明確にさせるためにも、ここは頑張ってほしいという気がします。バカンティ教授や他の研究組織からの誘いもあるでしょうが、こういう研究不正の認定の内容、手続きが良しとされるのは、理研のためにもよくないと思います。7月には、丹羽リーダーらによる再現実験の途中経過が公表されますし、小保方氏自身での再現実験もどこかの組織の協力で実現すれば、流れはがらりと変わることでしょう。
 
 次回以降、これまでのマスコミ報道や識者の発言で、繰り返し言われてきた話が、どうもそういうことではないらしい、ということがいくつか浮かび上がってきたと思いますので、それについて書いてみたいと思います。