理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

実験ノート・試料等の研究成果物の帰属の問題から来るSTAP問題理解の難しさ


 小保方氏の研究データの公開の話については、以前、テーマとして議論したことがありました。
 小保方氏に実験ノートを始め、データの公開を求めても難しいという点について、改めて、概要を整理しておきたいと思います。

 この問題がややこしいのは、次の事情によります。

STAP細胞研究は、ハーバード大からの要請に基づく理研との共同研究であったこと。

理研が、STAP細胞について発表した時点では、小保方氏は理研の研究員になっ
 ていたが、STAP論文の実験が行われたのは、ハーバードから派遣された研究員
 としての身分だったこと

③したがって、研究成果物の帰属も、共同研究の契約に基づき決められたこと。

④このような構図であることが、第一次調査である石井調査委員会による調査過程でも必ずしも認識されておらず、また、研究成果物の帰属の問題が桂調査委員会の調査において存在したことが、同調査委員会報告の公表時点では、対外的に明らかとされていなかったこと。

⑤研究成果物の帰属も問題が桂調査委員会の調査の上で問題となったことが対外的に明らかになったのは、同調査報告書が公表された2ヶ月後の運営・改革モニタリング委員会報告書においてであること。

⑥実験ノート(データ)の帰属も同様に組織に帰属するものであり、小保方氏個人では決められないが、理研がこのような構図を十分説明しなかったため、(東大分生研での不正のように)通常の一研究室内で完結する研究と同じような構図で受け止められがちだったこと(「開示し説明できるし、すべきなのにそれをしない」という誤解の発生・蔓延)。

■順次説明していきます。
 もともと、ハーバード大理研・若山研究室との共同研究をオファーしたのは、STAP細胞(当時は「スフェア細胞」と呼称)の多能性を、キメラマウスの作製という形で証明しなければならないという事情にあったものの、バカンティ研では技術も設備もないため、理研の若山氏にその支援を求めたという経緯によるものでした。
 PNASという三大雑誌に次ぐ権威ある雑誌に投稿して、一度はテラトーマ作製までの実験結果を以てアクセプトの連絡がきたものの、やはりリジェクトされてしまったという事情がありました(『あの日』p60前後に詳細が書かれています)。

 そして、理研若山研との共同研究となり、若山氏にキメラマウス作製のための支援が求められたわけです。小保方氏はハーバードから派遣された客員研究員の身分でした。その点は、自主点検委員会報告書にも書かれています(p6以下)。

「②若山氏
若山氏は、小保方氏を理研の客員規程に従ってハーバード大学から受け入れたが、小保方氏はC.バカンティ研究室に籍があり、受入れの目的は技術支援であると認識していた。そのため、実験計画や結果の判断に深入りしない方針で共同研究を進め、批判的な観点からの議論や詳細なデータの確認を行わなかった。客員研究員の身分でも、小保方氏は研究室に常勤の状態にあり、若山氏自身がその研究に深く関わっていたからには、小保方氏に対し通常の研究室メンバーと同様の研究指導をすべきであった。」

 小保方氏の身分の変遷については、同報告書の参考資料に詳しく載っています。

■そのような研究の経緯、位置づけを知らない理研の人事担当の事務方と理事は、石井調査委の報告書が不服申立て却下を経て確定した後、懲戒処分のために小保方氏の聴取をしていた際に初めてそのことに気が付きました。小保方氏が理研に採用された後の独立した小保方研の主宰者としての研究だと誤解していたため、「判断がつかなくなった」として、処分保留のままになってしまったことが、『あの日』で描かれています(p180)。

■その後、桂調査委での調査前の予備調査段階で、共同研究という枠組みの下で、研究成果物の帰属を決めなければならなかったが、それに手間取ったことにが、モニタリング委報告書では書かれています。

「CDBセンター長の判断で、残存試料保全の措置(平成26年3月18日)を行ってから、試料の帰属を確定させるまで約3カ月の期間を要したが、理研はこれらの検討結果を踏まえて、予備調査を開始した。」(p18) 
「保存試料の分析計画に関して、保存試料の帰属が確定していない段階での公式表明を行わなかったことは理解するが、理研はもっと早い段階で、検証の方針を公表すべきでだった。」(p20)
 
 この辺のことは、本ブログの以下の記事をご覧下さい。

◎「時限爆弾を抱えた理研―ハーバードに帰属したキメラマウスの分析結果は如何に??」


■ここで書かれているのは、直接的には、細胞等の保存試料のことと思われますが、実験ノートも研究成果有体物の一つですので、その帰属が決められたはずです。
 実験ノートは、研究者個人ではなく、組織に帰属するということはどの組織でも規定されていて、理研においても、研究成果有体物取扱規程において決められています。
 なぜか、同規程は、以前から検索してもヒットしないのですが、別途の資料においてその旨が規定されていることが確認できます(以下の資料のp8の第4条(2))

■実験ノートは全部で4~5冊あるようですが、桂調査委員会の調査で使われたもの以外に、ハーバードその他の在籍した組織にあることが小保方氏の会見でも説明されています。
    https://logmi.jp/10299 
 
「提出が2冊だったという点におきましては、ノートの提出自体を突然その場で求められたので、その時にあったノートが2冊だった、ということです。」

「小保方 調査委員会の方が資料を確認されに来たときには、ノートの何々に対する記述の部分を、ということでしたので、すべてのノートの用意をしておりませんでした。で、私は幾つかの研究所を渡り歩いておりますので、残りのノートにつきましては、それぞれ別のところに保管してあります。
記者 テラトーマに関する記述というのは、今提出していないノートに書かれているんでしょうか。
小保方 テラトーマに関しては提出しているノートに書かれてあります。ただ調査委員会の方は、詳しくこの、どこの部分に記載がありますか、と質問をするわけではなく、ご自分たちでノートを精査して追跡ができない、というご判断をきっとされたんだと思いますので、もし詳しく聞いてくだされば、もう少し理解していただけたのかなとは考えております。」

 桂調査委の調査で使われたのは、枚数ベースですが、「179枚」だということが、DORAさんの情報公開請求結果により判明しています(ちなみに、若山氏の実験ノートは534枚)。
しかし、理研への公開請求結果は「不開示」となっています。理由は「以後の同種の調査に支障をきたすおそれがある」とのことです(以下の記事でご紹介しています)。

■他方、ハーバードの帰属となったであろう実験ノートについては、管理が厳重で、早稲田の学位論文のもととなった実験内容について、早稲田の調査委が出向いて調査しても、厳しい制約があったことが、小林委員長が会見で語っています。

 記者「ハーバード大にある実験ノートは取り寄せられたのですか?
 小林委員長「ハーバード大の規定で持ち出し禁止,コピーも禁止で見ることはできなかった。

 それは、理研での共同研究においても同様と考えられますが、そこには特許出願が密接に絡んでいるものと推測されます。その辺の事情は、以下の記事に書いています。

◎「STAP細胞問題を論じる前提となる「複雑な構図」を理研はきちんと説明すべきである」

 小保方氏は、実験ノートには秘密実験も書かれていることや、レシピ等は知財権等の関係もあると、記者会見(+補充説明)で述べ、一般には公開はできないことを理解してほしいと述べています。

実験ノートにつきましても、秘密実験等もたくさんありますので、ちょっとあの、全ての方に公開するという気持ちはありません。」

「現在開発中の効率の良い STAP 細胞作成の酸処理溶液のレシピや実験手順につきましては、所属機関の知的財産であることや特許等の事情もあり、現時点では私個人からすべてを公表できないことをご理解いただきたく存じます。」(文書での補足説明)

 ハーバードは、特許出願の権利を、V-CELL社に譲渡しているようですが、他方で日本の特許庁への出願では、最後まで自ら(ブリガムウィメンズ病院)が出願人となって手続きをしています。他の数十カ国への国際出願がどの名義で行われているかわかりませんが、主要国においても、そのように自ら出願人として維持したということであれば、それに支障が生じるような公開はできないでしょう。
 また、V-CELL社に出願人としての地位(特許を受ける権利)を譲渡したとしても、その基本的ベースとなる実験ノートを、ハーバードが公開するわけにもいかないと思われます。

桂調査委は、このような事情によって、ハーバード側に帰属する実験ノートや試料があることを、報告書でも会見でも説明しないまま、「小保方氏から提出されない」として、小保方氏が拒否しているような印象を与えた感があります。
 しかし本来、組織対組織の共同研究であり、実験ノートもそれぞれの組織に帰属するものなのですから、不正調査に必要だということであれば、ハーバード側と自らが交渉して、閲覧等を求めるということが必要だったはずです(もっとも、国際共同研究における研究不正調査の方法自体が、文科省ガイドラインでも想定外のことですので、桂調査委としても対応に苦慮したという面はあったのかもしれません)。

 ただ、早稲田大の調査委員会は、小林委員長がハーバードでは閲覧、コピーをしようとしても、一切不可で、バカンティ研での一部ヒアリング内容も非公開で、報告書でも黒塗りとなっていました。こういう早稲田大の調査の事例や特許出願中ということを考えれば、仮に桂調査委が協力要請したとしても、内々であっても開示は難しかったものと思われます。


■以上まとめると、

①実験ノートは、研究者個人ではなく、組織に帰属するものであり、理研の研究成果有体物取扱規程でもそのように規定されている。

STAP細胞の研究は、ハーバードとの共同研究によるもので、実験ノートは他の研究成果有体物」と同様に、ハーバードと理研との間で帰属が決められている。

理研の帰属とされ、桂調査委員会での調査に供されたものは、179枚だが、理研は情報公開請求に対して、今後の同様の調査に支障が生じるからとして、不開示としている。

ハーバード大側は、その研究に基づき特許出願中であること、実験ノートには秘密実験のことも記載されていると小保方氏も述べていること、早稲田大の調査委も拒否されたこと等を考え併せると、自らに帰属する実験ノートを公開することは考えにくい。

⑤このように、実験データを含む実験ノートは、小保方氏個人に帰属するものではなく、それぞれの組織の所有と判断とに委ねられているため、組織を離れている小保方氏に実験データや研究試料の開示を求めても、応じることは困難な事情にあることが理解される必要がある。

⑥なお、小保方氏個人としては、知財権や秘密実験が含まれることから、自らの判断では開示できないという事情を会見で説明しているほか、BPOヒアリングでも、実験ノートには「私のこれまでの、全ての秘密が書かれている。私が見つけた細胞の秘密、細胞の神秘、私の発見、私のその時の感動、それが全て書かれたものだった」として、勝手に開示されることをに拒絶感を示している。

⑦以上のとおり、実験ノートの作製者である小保方氏個人だけでなく、実験ノートや試料が帰属する理研、ハーバードともに、開示は拒否する事情にある。


■以上ですが、2016年5月に、以下の記事も書いていましたので、ご参照ください。上記記事と重複するところが多いですが、併せ読んでいただき、趣旨を酌み取っていただければ幸いです。
 
◎【再論】小保方氏に「実験データ・ノートを開示して説明せよ」との指摘は、構図の複雑さを踏まえていないと思われる