理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

疑問材料が増え続ける桂調査委報告書


  桂調査委員会報告の問題点は、このブログでも多々書いてきました。
 やや重複もありますが、少し書いてみたいと思います。
 
1. 和モガさんの「何故、遺伝子発現解析をしていないのか」との問題提起


 和モガさんの最新記事を読んで、大変驚きました。
 
STAP細胞は増殖力がなく、時間が経つと死滅するので小保方研には残っていない。しかし、STAP幹細胞とFI幹細胞は残っており、調査委員会はこれらの細胞株について調べている。
ところが、面白いことにこれら細胞株の特性を調べた遺伝子発現解析の結果が報告書には全く書かれていない。書かれているのは全ゲノム解析の結果で、塩基配列の並びがどうなっていたかということだけである。例えて言うと、どんな性格の人間か調べなければならないのに、身長、体重を測ってよしとしたようなものである。
そのような調べ方しかしていない「STAP関連細胞はES細胞由来」という結論は果たして信用できるのかということである。」
 
として、遺伝子発現解析結果が書かれていない事情を推測していますが、説得的な内容に思えます。私は専門的なことはわかりませんし、漠然と、「ゲノム解析」を以て遺伝子解析が行われたものと受け止めていたのですが、「遺伝子発現解析」はまた別で、細胞の同一性を調べるためにはそれも基本的な材料であり、それが調べられていないというのであれば大きな問題です。
他方、こういう遺伝子発現解析がなされていない(書かれていない)まま、STAP細胞はES細胞である(ES細胞混入で説明できる)とした桂報告書なり、それを論文化したネイチャー論文なりに対して、細胞の同一性を判断する上での基本的解析がなされていない、という指摘は今まで(和モガさんも含めて?)どこからもなかったように思いますし、なぜネイチャー論文化の際の査読過程で指摘されなかったのだろう?という素朴な疑問も感じます。
この和モガさんの今回の記事の指摘に対して、どういう反論があり得るのか? 一連の経過をフォローしている方であれば、誰でも大きな関心があると思います。
 
2. Ooboeさんからのご指摘―京大から取り寄せたはずのサンプル試料の真正性

Ooboeさんが、学とみ子さんのブログに投稿された雌雄の違いの件も、桂報告書の解析対象である、京大から取り寄せたはずのサンプル試料の真正性に疑問を呈するものになっているかと思います(もともと、取り寄せ過程について、Ooboeさんらは疑義を呈していましたし)。
 
3. 理研幹部の「解析中」だとの公式の言及にも拘らず、CDB保存試料の解析をしなかった桂調査委
 
 以前から書いていますが、桂調査委は、残っていたはずの細胞株等の保存試料のすべてを解析していません。解析する、していると記者会見で理研幹部が表明していたにも拘わらず、「解析できなかった」で済ませていますから、これは根幹に関わる大きな問題です。
 
■もともと、残存試料の解析は、立場を問わず、当然行われるものと思っていましたし、何より、野依理事長が改革委提言を受けて発表したコメントの中で言及しています。
 
理研は、社会的な説明責任を果たしていくために、本年四月から進めているSTAP現象の科学的検証実験に加え、STAP研究で使用された細胞株等の保存試料の分析・評価等を進めております。また、公開データに基づく解析についても理研内外の有識者の意見を伺いつつ進めているところです。これらの結果に関しては、中間的なものも含めて適宜公表してまいります。」
 
 このコメント中の「保存試料の分析・評価」に関して、毎日新聞の須田記者は、『捏造の科学者』の中で、改革委提言に続く自己点検委報告書についての記者会見での、竹市センター長との質疑内容を次のように紹介しています(p277)。
 
「この日発表された野依理事長のコメントには、「STAP研究で使用された細胞株等の保存試料の分析・評価等を進めている」という一文もあった。私は自分の質問の最後に、その分析の具体的状況を竹市氏に尋ねた。
「若山先生が持っているものとCDBに残っているものはかなり重複するが、CDBにしかないものもどうもあると思われるので、解析をやっております。
CDBにしかないものというと、生きたキメラマウスとかテラト―マのプレパラートだと思いますが、すでに解析しているということでしょうか
おっしゃる通りです。」結果は出ていないが、「データが出て、その確認をしてから公表する」いう。解析はいったいいつ始めたのだろうか。私は4月の丹羽氏の記者会見で、残存試料の全容や、解析の計画を公表するよう要望したが、理研からその後、特に発表はなかった。」
 
 その残存試料については、須田記者は、(2014年)4月の段階では、次のように書いています(同書p181)。
 
「小保方氏の記者会見後、私は主に、研究で残された細胞などの試料に関する取材に力を入れていた。理研は残存試料の状況を公表する気は皆無のようだったが、複数の記者会見や取材の中で、少しずつ状況が明らかになっていた。それまでに判明した残存試料は次の通りだった。
・STAP細胞由来のキメラマウスの胎児と胎盤(おそらくホルマリン固定液で保存)
・ES細胞に似た増殖能を持つSTAP幹細胞
胎盤に分化する能力を残し、増殖能も併せ持つF1幹細胞
・STAP幹細胞由来の生きたキメラマウス
・STAP細胞由来のテラトーマの切片  
 
 これらを解析することで、何をどこまで分かるのだろうか。
 菅野純夫・東京大学教授(ゲノム医科学)は、「試料から、(遺伝情報を担う)DNAを少量でも抽出できれば、元になったマウスの系統や性別、TCR再構成の有無などの大切な情報が得られ、実験の過程の検証に役立つだろう。」
 
■ 小保方氏も,20144月の記者会見では次のように述べています。胎盤の切片は記者からも注目を浴びていたわけです。
 
記者 不服申立の論理構成よくわかりました。実際に正しい画像があるとか、実際に実験が行われたことがあるから不正ではないという主張は理解しましたけれども、実験ノートも45冊とおっしゃってました。で、たぶん最もすごい証拠というか決定的な証拠はあのネイチャーの論文に掲載なさった胎盤が光り胎児が光っている細胞の標本があることだと思うんですけれども、それはどこにあるんでしょうか。
小保方 それはまだ保存してあります。
記者 理研の小保方さんの研究室のフリーザーにあるってことですか。
小保方 フリーザーといいますか、固定器の中に保存してあります。
 
 
■そして、検証実験結果報告の記者会見(20141219日)で、丹羽氏及び坪井理事は、次のように答えています。
 
記者 論文のデータだけではなくて実際に目にされ、物を見たわけですよね。丹羽さんや笹井さんは。その事実っていうのはどう説明できるんですか?
丹羽 だから先ほど相澤先生もご説明されたように、緑色蛍光は出てきたんです。で、あの論文の時点では、そうやって出た蛍光は、その後の定量PCRデータにおいて、内在性タンパクの発現を反映したものであり、さらにはそれでキメラマウスが作られたと。こういう事実があったから、最初の、蛍光を発したものはリプログラミング現象である、と解釈したわけですね。
でも今回、実際に検証実験として行ってみると、なるほど、緑色蛍光はまあ、自家蛍光であるか否かはさておき、出ると。出るんだけれども、そこから先が道が無くなっちゃったわけですよ。というか我々の手では、そこから先へつなげることは出来なかった。
だとすると、見たものはなんだったんですかと聞かれれば、見たものは見たもので、ただその解釈が変わった、というふうに理解しています。
記者 ただこれまでの説明だと、緑色蛍光についても確かにそのGFPに特異的なものであるとか、当然可能性が考えられるので、ES細胞になることは注意を持って確認したと。
あるいは、胎児と胎盤が緑色に光る、あの物が残っていますよね。で、あれにES細胞、TS細胞の混入が無いとすると、いったいあれはどうやって作ったんだ、という話になると思います。
つまり今まで得られたデータ、残っているものを、STAPが存在しない、という前提で全て説明できるんですか? それとも出来ないんですか?
丹羽 まずその残っているもんがなんだったのか、というのは我々の検証実験ではなく調査委員会の調査対象ですので、その結果を待って判断することだと思います。
記者 今後、残っているもののさらに詳しい解析というのは、理研のほうでやられるんですか?
坪井 今、調査委員会のほうで、これは9月から外部の有識者だけで構成されているものですが、そこがそういった残されたデータの分析なども含めて調査を行っていますので、そういったことも含めて、これから調査結果がまとまればそれが報告される、ということになろうかと思います。
 
■こうした6月以来の理研の一連の説明からすれば、当然、桂調査委報告において、残存試料の解析もなされた上で報告がなされると思います。
 ところが、検証委報告発表のわずか1週間後の桂調査委報告の発表は、意外なことに、主要な残存試料すべては解析しておらず、理由を説明しないまま、「解析できなかった」旨を桂委員長は述べています。
 
Q 胎盤がなぜあるのか?という疑問についてはどう考えるのか?
A これに関しては、我々は疑っている。あの光る胎盤は、血液とか胎盤以外ものだった可能性があるということは、専門家に見てもらったところ、そのような回答を得ている。これは切片を切ったらそうでなかったというのがあるが、それがどうだったかは最終的に検証できなかった。しかし、胎盤であるとの証明があるとは思っていない。胎盤でないというところまで突き詰めて証明することは難しかったが・・・、胎盤であったとの証明があったとは思っていない。
Q つまり、GFPで光っている胎盤が確認できていないのか?
A 我々の調査委では確認できなかった。
Q はぁ・・・、胎盤の形状を保持しているものは確認していないのか?
A 光っているものが、図によっては胎盤なのか別の組織なのか、専門家は、疑わしいと言っている人がいる。疑わしいという言い方だが・・・。

 ※ブログ記事のhttp://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2/16134077.html の「疑問2」参照。
 
 桂委員長は、主要残存試料であるはずの、「胎児と胎盤」そのもの・切片の確認をしなかったことについて、直接答えようとせず、必死に話を逸らそうとしています。しかし、二の矢に対して、「確認できなかった」と言わざるをえなかったわけですが、桂氏にとって幸いなことに、記者からは三の矢が飛ばなかったので、残存試料の確認の件は、それっきりになってしまいました。
 なぜ、須田記者を含めて、あれだけ高い関心を示していた記者たちが、それ以上追及しなかったのか不思議です。
 
 
■ 私は、この時点では、「確認できなかった」のは、試料の帰属の問題によるものだと思っていました。
もともと、ハーバード大から持ち込まれた共同研究であり、モニタリング委員会報告書では、帰属の確定作業に時間を要したとありますので、ハーバードとの調整だろうと考えるのは自然だと思います。つまり、物理的にはあるけれども、権利面から解析できないものと思っていました。
ただ、その後もう少し見てみると、モニタリング報告書では、(2014年)318日に保全措置を取って以降、帰属確定に3か月の時間を要したとありますので、ちょうど、改革委提言、自己点検委員会報告書が公表された619日までには、ほぼ帰属は明らかになっていたと思われます(最終確定は7月)。
須田記者からの質問に対する竹市センター長の「残存試料についてすでに解析を進めている」という発言は、その619日の記者会見でのものですから、もし、ハーバードに帰属するために解析ができないという事情にあったのであれば、それについての説明と留保がつかなければおかしいのでは?とも感じました。まして、野依理事長のコメントで言及する以上は、残存試料の解析に制約があるのであれば、もう少し慎重な言い回しになると思います。
 
また、桂調査委員会の1週間前の検証実験報告の記者会見で、坪井理事が、「残存試料については、桂調査委によって解析が進められているので、報告に含まれることになるだろう」との旨が、淡々と述べています。主要試料について解析できないということがわかっていたならば、やはりもう少し留保がついた言い回しになるはずです。
 
これらからすると、権利面での制約によって解析できないという以外の事情があったのではないか? 
そして少なくとも理研本部(和光市)は、桂調査委の具体的調査内容については、第三者委ということで全面的に委ねていたこともあり、あまり把握していなかったのではないか? 残存試料は当然解析されるものと思っていたが、実際はそうならなかったことを把握していなかったのではないか? その事情をCDBは(桂調査委の調査チームは)本部に説明していなかったのではないか?  という疑問が湧いてきます。
 
 ■ その後、小保方氏の『あの日』が出て、残存試料のうちの重要なサンプルの一部がなくなっていることが記述されていました。
 以下の記述は、正確な日付は書かれていませんが、(2014年)6月の話だと思われます(第12章の冒頭に、「6月に立て続けに起きた出来事がある。」とありますので)。3月に細胞のサンプルが証拠保全されていたものの、キメラマウスやテラト―マなどのサンプルが小保方研に残されたままだったことから、竹市氏にすべて調査のために提出させてほしいと申し出て、回収されていった時の話です。
 
「しかし、この際とても不可解な出来事に気づく。若山研にいた頃に作製され、大切に箱に保存していたサンプルのいくつかが、箱の中から消えていたのだ。特に重要な、ほぼすベての組織が初期胚に注入した細胞から形成されるSTAP細胞からの4Nキメラと呼ばれるサンプルのホルマリン漬けなどがなくなっていた。これが解析されていれば、STAP細胞としてキメラ実験に用いられていた細胞の由来が明確にわかったはずだった。もちろん、若山研から笹井研、笹井研から小保方研に引っ越しをする際、整理されたサンプルもあったが、その箱に入れていたサンプルは若山研にいた時から一切触っていなかった。STAP細胞からのテラトーマの実験も複数回行われていたが、それらのサンプルもなくなっていた。
後の93日に設立された第一次調査委員会によって実際に解析されたキメラマウスは、若山先生から「成功したキメラ」として渡され、DNA抽出が若山研の他のスタッフによって行われ、DNAとして保存されていたものだった。テラトーマに関しては、私がアメリカ出張の間にできてきたサンプルだった。そして調査の結果それらは、すべて既存のES細胞由来だったと結論付けられた。キメラマウスの実験は若山先生に全面的に任せてしまっていたが、一度だけリンパ球以外のさまざまな臟器からSTAP細胞を作製しキメラ実験を行ってもらったことがあり、それらのサンプルは別の箱に保存してあった。この実験を行ってもらった時は、「各臓器から作製したSTAP細胞を渡すところから、キメラ実験を行い、胎児を取り出すところまで」を若山先生の隣でずっと観察していた。若山先生の言う「成功したキメラ」に比べると、これらのキメラマウスのSTAP細胞からの組織形成率は不十分だったかもしれないが、その実験に関しては自分も見ていたので「ぜひそのサンプルを解析してほしい」と申し出たが叶わなかった。」(p205206
 
■こういう話も踏まえると、桂調査委員会による残存試料の調査については、一層の疑念が生じざるを得ません。
 
(1)主要な残存試料の「解析を進めている」と、理研が理事長名、竹市氏、坪井理事が公式の場で繰り返し表明しているにも拘わらず、実際にはすべては行われなかった。桂委員長はその点の説明を回避しようとして、質問に直接答えようとしなかった。
 
(2)最も注目された胎盤の切片について、「卵黄嚢の見間違い」だという結論を出して、ES細胞でない証拠を否定した。しかしそれは、胎児・胎盤そのものや胎盤の切片そのものではなく、論文掲載の画像観察によるものであり、しかも、「光っているものが、図によっては胎盤なのか別の組織なのか、専門家は、疑わしいと言っている人がいる。疑わしいという言い方だが・・・。」というように極めて根拠薄弱であるにも拘わらず、「研究の価値を高めるために強引に胎盤と断定した可能性がある」との強い言い方までして断定している。石井調査委の胎盤前提での調査とも齟齬がある。
  以下記事の「疑問2
 
(3)丹羽氏の「確かにSTAP細胞由来と思われるGFP陽性細胞が胎盤組織にインテグレートしていることを、切片を顕微鏡で自分の目で確認している。」という公式会見での指摘も含め、丹羽氏、笹井氏の「ES細胞では説明できない」ことに関する一連の証言を「調査対象外」として無視している。
 桂井委員長は会見で、「彼らがなぜそういうのかわからない」とも述べており、丹羽氏の観察との明白な齟齬についての説明を回避している。
 
(4)小保方氏が、自分の残存試料のサンプルがなくなっていることを証言している。
 
(5)遺伝子解析といっても、ゲノム解析のみで遺伝子発現解析を行って(示して)いない(和モガ氏)


(6)京大から取り寄せたはずのサンプル試料の雌雄、入手過程の観点から、真正性に疑問がある(Ooboe氏)
 ※ 雄雌の問題に関しては、GLSの雌雄の判定も二転三転している。
 
(7)佐藤貴彦氏の指摘する一連の疑問(『STAP細胞 事件の真相』p137以下にまとめあり)
 
 等々、残存試料の解析に関して疑問が多すぎます。しかもそれが、時間の経過とともに増幅しつつあります。


■そもそも、桂調査委報告には、残存試料の解析以前に問題がありました。
 
(1)「若山氏が小保方氏に渡したマウス」について、若山氏の発表に間違いがあったにもかかわらず、コンタミや手交ミスはなかったということを大前提にしていること、

(2)解析結果について、それがもたらされる別の可能性の選択肢について検討していないこと、

(3)遠藤氏は、ES細胞「混入」ではなく、「シャーレごとすり替え」だとして、疑問を提示していること(「ES細胞は通常シャーレに接着し浮遊細胞塊とはなりませんのでやはり見た目で区別がつきます」)。
 
(4)ES細胞だというのであれば、それによる再現実験がなされるべきところ、なされていないこと。論文調査の範疇である「STAP細胞の存在について証明材料がない」という以上に、STAP細胞の「正体」について、「科学的調査」として結論を出す以上、行われて然るべき(桂氏冒頭発言「報告としては、主に科学的調査が主体だが、論文についても調査した、論文の製作過程についても調査した」)。痴漢や放火で主張や証拠による推定で争いがある場合には、再現実験が行われる)。
 
 それらに加えて、小保方氏の『あの日』で、若山研での実験の実態について証拠資料としてメール類を提出しようとしたら、指導の名の下に阻止されたというという実態まで明らかになってしまうと、「科学的調査」とは名ばかりで、「ES細胞混入で決着させる」という強力な意図とそれを誘導する力の存在を感じざるを得ません(お上である文科省がそうしようとしたというような単純な話ではありません)。