若山氏の実験ノートが開示されない理由はないのではいか?
小保方氏と若山氏の実験ノートの開示請求に対する不開示決定書を、DORAさんが改めて紹介されています。
不開示決定書を交付された直後の8月にも紹介されていましたが、その際、私のほうで、以下の実験ノートの位置づけに関する記事を書きました。
不開示理由が、
「本件法人文書は、「研究論文に関する調査委員会」における調査に使用されたものであり、これを公にすることにより以後の同種の調査に支障をきたすおそれがあることから、「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律」第5条第3号の不開示情報に該当し、その全部を不開示とする。 」
というものでした。不開示根拠規定の、第5条第3号との関係でどういう趣旨なのかが曖昧な感がありますが、おそらくこういう趣旨だろうということで、次のように推測を書きました。結論としては、(調査内容の可否の裏付けができないので)釈然としないが、やむなしではないか、ということでした。
「―調査委員会の発足自体は、その研究機関の判断でできるが、調査に協力するかどうかは、調査対象者の任意に基づくものである(協力しなければ、対象者が不利になるだけ)。事実関係を見極めながら不正かどうかの判断をするためには、調査対象者からの実験ノートの提出やヒアリング等を行うことが必須となる。
■ この記事を書いた時点では、国公立大学や独法のような公的研究機関における実験ノートの位置づけがよくわからなかったのですが、検索してみると、興味深い材料がヒットしました(「実験ノート+情報公開」で検索)。
第一は、総務省の情報公開審査会の決定結果一覧です。研究機関の不開示決定に対する不服の審査請求に対して、決定したものです。
農研機構のバイオ研究における実験ノートについてですが、「研究者の実験ノートは,法人文書に該当しないとした例」として紹介されています。
「上記のように目標とする研究(実験)テーマ及びその方向性等は,組織として決定され,その範囲内において,研究者が立案し,組織による承認を経て研究が行われているというプロセスに鑑みれば,研究・実験における研究者の自由性がかなり多くあり,研究者の知識,経験及び創意に基づいて行われているものと推察され,この意味において,実験データ及びアイデア等が記載された実験ノートは研究者のものであるとする諮問庁の説明を著しく不合理と断ずることはできない。」
「現代においては,知的財産権重視の風潮が一般化すると共に,国立大学の法人化,国立の研究所の独立行政法人化に伴い,実験ノートの管理の在り方も変化しつつあると推察されるが,上記(ア)Dの特定独立行政法人Aのような実験ノートの管理を行うところがある一方で,上記(ア)Cのような実験ノートの使用状況,管理状況の独立行政法人もあり,その実情は,独立行政法人によって差があることが認められ,結局は,実験ノートが法人文書に該当するか否かは,開示請求の時期における各独立行政法人ごとの実情に即して判断するのが相当である。」
「しかしながら,上記(ア)Bのような諮問庁における実験ノートの使用状況,管理状況からすれば,本件開示請求から現在までの時点においては,実験ノートには組織共用性がなく,法人文書に該当しないと認めるのが相当である。このような実験ノート管理の在り方が上記の後者の視点からは問題とされる余地はあるが,農研機構の前身が国の試験研究機関であったこと,前記のような農業分野であることを考慮すれば,上記のような実情にあるとの諮問庁の説明は,必ずしも不自然,不合理とは言えない。」
要するに、ケースバイケースで判断されるということのようです。
■ 第二の材料は、実験ノートの開示請求を地裁にまで上げて争っている人が、準備書面等とともに、主張を訴えているサイトです。
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構が被告で、この秋に結審して、来年3月に判決言い渡しだそうです。地裁レベルでの判断となりますので、ひとつの先例となりそうです。
これを読むと、いくつかの事例が紹介されています。ただ少々バイアスがかかっていて、「組織共用性がある」ということを、「開示されるべき」と結びつけて述べていますが、そう直結するわけではありませから、その点を念頭において読む必要があります。
それで、紹介されているものをいくつか抜粋しますと、
(5)、実験ノートの組織共用性の有無について、他の組織・研究者の評価
ア、日本の科学技術の研究を牽引する以下の研究組織、研究者はいずれも実験ノートが「組織共用文書」であることを認めている。
被告と同様の遺伝子の組換えに関する実験と研究をおこなっていて、「STAP細胞」の実験ノートの作成・管理をめぐり話題となった理研に対し、原告代理人は2014年4月、遺伝子の組換えに関する実験の過程で作成された実験ノートの開示請求をしたところ、理研は5月19日付で不開示決定の処分を行い(甲21)、その不開示の理由の中で、当該の実験の過程で作成された実験ノートは理研の法人文書であることを明らかにした。
②.東北大学大学院農学研究科の西尾剛教授の研究室
被告より提出された西尾剛教授の陳述書(甲18)によれば、西尾研で行う研究で作成される実験ノートは「組織共用文書」であることを前提にしている。なぜなら、西尾研が実験ノートを非公開にした理由を「競争関係にあり、知的財産権の観点から」(つまり法5条4号ホの不公開事由「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」としているからである(2枚目のラスト)。
この中で、STAP細胞関連の実験ノートについて、「法人文書であることが明らかにされた」と言及されていますが、 実際の不開示決定の文面がここからはわかりませんので、どういう意味で組織共用性ありとしているのか不明です。
調査委員会として入手し調査対象とした、という意味では組織共用性があることは間違いありませんが、調査対象であることをはずした場合に、どう判断されるのかはよくわかりません。不正調査と関わりなく組織共用性ありとしたのであれば、それは理研のスタンスを明確にする材料ではあります。
他に紹介されている東北大と京大やその他の事例では、組織共用文書であることを前提として、開示か不開示かの判断が分かれているということのようです。
東北大の西尾研の場合には、特許等の知財の関係があるので、法第5条第4号を不開示の根拠としているのに対して、京大の吉村研の場合は、(知財権の対象ではないため?)誰にでも公開されるべきとのスタンスのようです。
■ さて、そういう観点から小保方氏と若山氏の実験ノートの公開の可否を考えるとどうなるでしょうか?
小保方氏の実験ノートの公開の問題については、以前まとまった記事を書きました。帰属、知財、秘密実験記載等の事情を踏まえれば、公開せよと言っても、そう簡単な話ではないということです。
小保方氏の実験ノート179枚の帰属先が理研なのかハーバードなのか、どうもよくわかりませんが、いずれにしても、小保方氏が「特許・知財の関係があって自らの一存では公開できないし、秘密実験もかかれている」と説明しているように、現に特許出願が現在進行中ですから、公開するわけにはいかないでしょう。ですから、本当は、上記の事例の東北大・西尾研のように、法第5条第4号を不開示理由にするのが筋だったのではないかと感じます。
■ ところが、「今後の同種調査の遂行に支障をきたすおそれがある」という少々不可解な不開示理由にしたのは、なぜだったのか?ということは興味を引くところです。
桂調査委員会は、小保方氏について2点の不正認定をし、加えて、STAP細胞をES細胞の可能性が高い(ES細胞混入で説明できる)と結論づけました。さらに、(多能性が確認できる細胞としての)STAP細胞の再現はできなかったとした検証実験結果も踏まえて、特許出願権は放棄しています。
ただ、小保方氏の実験ノートは、理研に帰属するとしても、OCT4発現部分は、いまだに特許出願が共同出願人だったハーバードによってなされていますし、検証実験においても、「有意なOCT4発現あり」と結論づけています。そして、丹羽、小保方両氏によるそれぞれの検証実験においても、多くの時間的、物理的その他の制約があったことが報告書に記載されており、あくまで、「確認できなかった」というのが結論です。
不開示処分を争われた場合には、小保方氏やハーバードから、その特許・知財上の問題が主張されており、調査のために任意の提出を受けたものであるから不開示だと説明することになるのではないかと想像します。
他方、若山氏は、「小保方氏に騙された」というスタンスですし、ハーバードも若山氏によるSTAP幹細胞については、本来関知するところではないでしょう。
また、不正調査はすでに終了しています。
それであれば、若山氏の実験ノートが開示されない事情、理由は失われているのではないかと感じます。
若山氏は、自分は小保方氏の支援的立場に過ぎないと言っていたわけですし、記者会見で、小保方氏がマウスを持ち込んだ可能性も指摘し、(実験室には存在したかもしれないが)自分が提供したマウスからは説明できないとの立場を明らかにした以上、実験ノートを開示して、自らの立場、桂調査委の検証の裏付けの材料として提供しない理由はないと思われます。
若山氏の実験ノートであれば、不開示処分を争って、総務省の審査会での判断を仰ぐこともできるかもしれません。
若山氏の実験ノートは、STAP事件の全容解明においては、鍵となる材料でしょううから、不開示処分に対して、どういう争い方があるか考えてみます(Ooboeさんのパートナーさんは、すでに審査会まで争ったでしたか?)。