なぜ若山氏は、「共同研究者から譲与されたSTAP幹細胞」と表現したか?
1 若山氏の「共同研究者から譲与されたSTAP幹細胞」との表現について
もし、2014年3月に若山研が解析し、更に第三者機関に解析に出すとされた細胞が、若山氏が小保方氏に対して株分けした細胞のことだ、との前提に立つと、なぜ若山氏は、「共同研究者から譲与されたSTAP幹細胞がありますので」と表現したのでしょう?
「自分が作成・保有し、山梨大に持ってきた細胞を第三者機関に解析に出す。なお、同じ細胞について、小保方氏に株分けしているため、理研にも保管しているので理研側でも解析してもらいたい」と表現すればよかったのではないでしょうか。それを、「譲与された」という表現をとったのはなぜでしょうか?
「若山氏が小保方氏に株分けしたのだから、山梨大に移った若山氏の手元にあるのは当然」ということにはならないと思います。知財権の対象となっていることが明らかな試料だからです。ですから、「何らかの正当な手続きを経て自分の手元にあるのであり、それを第三者機関に解析に出すのだ」いう含みを出さないといけないので、「共同研究者から譲与された」との表現を取ったのだろうと想像しています。
2 STAP幹細胞は、機関管理でMTA対象であることについて
STAP幹細胞は、STAP細胞とともに、ハーバード大とともに理研等が共同特許出願をしている対象ですから、知財権の対象になっていることは明らかです。
特許出願となれば、その研究成果の知財化は、職務発明として研究者の手を離れますし、研究試料は、その資金、施設等で研究がなされた研究機関に帰属するもののはずです。STAP細胞研究においては、あるものはハーバード大であり、あるものは理研であったわけです。
そのような知財権の対象であり、理研の帰属となっているはずのSTAP幹細胞は、若山氏が山梨大に移るからといって、手続きになしに持っていけるわけではありません。理研から京大に移った大田氏のES細胞のように、知財権の対象でもなく、使用者管理で簡易な手続きで持っていける(使用権の付与)ものとは性格が大きく異なります。
また、若山氏は任期制研究者ですが、理研の「任期制職員就業規程」においても、他の機関に移転する際には、次のように、理研当局の許可が必要とされています(仮に受けていたとしても、機関管理である以上、MTAの締結は山梨大と理研との間で必要になってきます)。
http://www.riken.jp/~/media/riken/about/info/kkitei_ninki_160902.pdf
■このような経緯と性格の下にあったSTAP幹細胞ですから、若山氏が何らの手続きを経ずに、自分の手元に、STAP幹細胞があるということを問われると窮地に立つ恐れがあるため、「共同研究者から譲与を受けた」とコメントしたということでしょう(「譲与」という用語は、有体物管理規程にしばしば出てくる言葉です)。
それは、有体物管理規程との関係からしても、小保方氏の記憶からしても、事実に反していたからこそ、その後のMTA締結になり、小保方氏の『あの日』での不審の記述になったものと思います。
こういった事情を踏まえれば、「若山氏が作製して小保方氏に株分けしたのだから、作製した若山氏の手元にあるのは当然だ」という前提に立った議論は、生産的ではないということが理解されるかと思います。
■研究者の移籍に伴う研究試料の移転については、米国では経済スパイ法に基づき立件される例があります。理研職員が逮捕され、文科省ガイドライン策定のきっかけとなった事件や、その後も続いた日本人研究者逮捕に至った産業スパイ事件にしても、自らがその研究に携わっていたけれども、それがその研究室が受けた助成に基づくものであったり、蓄積されていた知見を応用して発見したものであったりというケースです。
http://www.arsvi.com/d/ss2002s.htm
http://www.arsvi.com/d/ss2001s.htm
自分が、その研究で貢献した研究者であっても、移籍する場合にはきちんと手続きを踏まなければ、刑事事件になってしまうという話です。
こういう経緯を踏まえれば、理研が若山氏に対して、「このままでは窃盗で訴える」と迫ったのも、(株分け云々に関わらず)小保方氏が若山氏の発言に不審を抱いたのも、決して不自然な話ではないと思います。