理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

研究成果有体物規程等から見るMTA締結の要否―何を公開請求すればいいか?

Ooboeさんが、有志の会の「STAP細胞事件についての議論」の記事のコメント欄で、情報開示文書の内容を、順次紹介されつつあります。
 
 その中で、MTAの開示の件について紹介されています。そこにアップされている不開示決定や異議申立てについての理由説明書を読むと、私も少し誤解していた点があったようです。Ooboeさんにも私と同様の誤解があると思います。
 
 ここでは、研究成果物の提供に関して、誤解していたと考えた点も含めてメモっておきたいと思います。
 Ooboeさんとパートナーさんの動きに水をかけるものになる面もあるかもしれませんが、あくまでルールに即した対処が必要ですので、ご理解をお願いします。
 
文科省ガイドラインでは、研究成果物の管理については、「機関管理」と「研究者管理」とがありますが、「機関管理」が学術的・経済的価値が高いものが中心で、他は「研究者管理」になるようです(「2.成果有体物の管理について」)。
 
これを受けた大学等の規程では、研究交流の円滑化の観点からだと思いますが、研究者管理を原則としているようです。京都大学の例を見ると、次のようになっています(いくつかの大学の規程を見てみましたが、京都大学のものはかなり詳しめに書かれています)。
 
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(管理等)
4条 研究者等は、研究成果有体物を作製したときは、当該研究成果有体物の特性に応じて適切に管理・保管し、又は使用しなければならない。
2 部局の長は、当該部局における研究成果有体物の管理について、統括するものとする。
(申出)
5条 研究者等は、次の各号の一に該当するときは、あらかじめ部局の長に申し出てその承認を得なければならない。
(1) 外部機関に研究成果有体物を提供する場合(分析依頼のための提供及び特許出願のための生物寄託を除く)
(2) 外部機関から研究成果有体物を受け入れる場合(市販されている物を購入する場合はこの場合に含まない。)
2 前項の規定にかかわらず、研究者等が、外部機関に有償で研究成果有体物を提供する場合は、あらかじめ部局の長を通じて産官学連携本部長に申し出て、その承認を得なければならない。
(研究者等の異動等)
6条 研究者等は、異動、退職、卒業、退学等により本学における身分を失い、又は長期間に渡って出向、出張等する場合であって、次の各号の一に該当するときは、部局の長に申し出るものとする。
(1) 当該研究者等が保管する研究成果有体物が存在する場合
(2) 当該研究者等が当該研究成果有体物について本学外で引続き使用することを希望する場合
2 研究者等が、外部機関から本学への異動に伴い、本学に研究成果有体物を持ち込む場合には、部局の長に申し出て、その承認を得るものとする。
3 前2項の申出を受けた部局の長は、当該研究者等と協議の上、当該研究成果有体物の取扱いについて決定するものとする。
(提供等の契約)
7 5条第1項又は第2項の場合において、研究成果有体物を外部機関に提供し、又は外部機関から提供を受けることを認めた場合には、当該外部機関と契約を締結し、必要に応じ、契約書その他の書面を作成するものとする。この場合において、当該研究成果有体物が知的財産権等の権利の対象となることが明らかである場合は、契約を締結するにあたり、当該権利に配慮して契約を締結するものとする。 
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 これを整理してみると、次のようになります。
  ①「分析依頼のための提供」は、部局の長への申し出、承認は不要。
  ②研究者が外部機関からの異動に伴って研究成果物を持ち込む場合には、部
   局長への申し出、承認が必要。
  ③上記の①②の場合は、いずれもMTAが必要な場合には該当しない。
 
それで、局面ごとにみてみます。
 
1 大田浩氏が、理研から京大に移った局面


大田浩氏が理研から京大に移った局面では、異動になるので、部局長の承認は必要なものの、MTAは不要ということになるように受け取れます。
ただ、京大の平成27622日付の不開示決定通知書では、
 
「当該細胞は、文部科学省の研究開発成果有体物取扱ガイドラインに照らして研究者管理に該当する成果有体物に該当する。その為、契約書その他の書面を作成することを必要としないことから、移管手続き書面(MTA)についても作成しておらず、保有していない」3856. Ooboe 20171012 00:04
 
とあって、規程の異動の場合の条項を援用しているわけではないのは少々妙な気がしますが、ともかく文科省ガイドラインを見てみました。
 
 以下の「4. 成果有体物の提供手続きの簡素化」では、MTAが必要になるのは、「機関管理」のものだけで、「研究者管理」のものは必要とはされていませんので、このことを京大の不開示決定通知書は指しているということでしょう。
 
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3.成果有体物の提供について
(1)提供経緯の明確化
  成果有体物は、研究開発の場及び産業利用への積極的活用を図ることが重要であるが、その提供にあたっては、事後に問題が生じないよう成果有体物の帰属や提供の相手方などを明確に記録しておくことが必要である。
(2)提供の指針
  成果有体物を提供する場合には、成果有体物の性質、提供の相手方及び利用目的に応じ、適切な提供を行うことが必要であることを考慮し、提供の指針は次のとおりとする。
○提供の指針
  1国の機関へ提供する場合
    他機関からの要請により提供する場合には、要請する機関からの申請に対して、相手方に成果有体物の取扱に関する必要な条件を提示をしたうえで承諾する。
    ・研究の必要から能動的に提供する場合には、提供先の機関に対し、事前に成果有体物の取扱に関する必要な条件を提示したうえで提供する。
 
2国以外の者へ提供する場合
    1  学術・研究開発を目的として利用する者への成果有体物の提供
・国以外の者からの要請により提供する場合には、要請する者からの申請に対して、相手方に成果有体物の取扱に関する必要な条件を提示したうえで承諾する。
・研究の必要から能動的に提供する場合には、提供先の者に対し、事前に成果有体物の取扱に関する必要な条件を提示したうえで提供する。
・国以外の者へ提供する場合には、「文部科学省所管に属する物品の無償貸付及び譲与に関する省令」の範囲内で無償提供が可能である。
    2  産業利用(収益事業)を目的として利用する者への成果有体物の提供
 
4.成果有体物の提供手続きの簡素化
  成果有体物の提供要請は膨大であるため、これに円滑かつ迅速に対応するためには提供手続きの簡素化が求められる。簡素化にあたっては、提供の相手方と成果有体物の性質等を考慮し、また物品管理関係法令等に留意しつつ、一定の範囲内で実施することを可能とする。
(1) 機関が管理する成果有体物の提供
  機関が管理する成果有体物(備品等)を国の機関に一定期間継続して提供する場合には、次の方策で物品管理法の管理換手続の簡略化を図る。
  機関間で当初に成果有体物の提供対象を定めた管理換協議書を取り交わすこと
  この協議書の取り交わし後は研究者間で提供を行う
  提供した場合には、定期に物品管理官等に報告すること
  研究者は責任をもって提供に関する記録を保管すること
  研究者間での提供に関する記録は、FAXや電子メール等による記録も可能とする
(2)研究者が管理する成果有体物の提供
  研究者が管理する成果有体物を、研究に供するため国の機関に所属する研究者に提供する場合には、次により研究者間での提供を可能とする。
  提供した場合には、定期に機関で定めた適当な者(所属の学部長等)に報告すること
  研究者は責任をもって提供に関する記録を保管すること
  ・研究者間での提供に関する記録は、FAXや電子メール等による記録も可能とする。 
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となってくると、大田氏が理研から京大に移った際に持っていった細胞について、MTAの開示請求をかけても、空振りとなり、「不存在」となってしまいます。
理研から京大に管理が移ったことの裏付けを京大に求めるのであれば、次の一件書類ということになると思われます。
 
①「異動に伴う受け入れ」条項の適用があるように思われますので、京大の規程第62項、3項に基づく申し出、承認、取扱決定に関する一件書類。
②京大が援用する文科省ガイドラインに即して言えば、受け入れ側の手続きは書いていませんが、提供を受けた側においても、学部長等への報告、研究者における記録という手続きが求められると思われますので、それらに関する一件書類。

京大の回答は、
「当該細胞は、研究者管理に該当する成果有体物に該当する」

というように、「当該細胞」と述べているのですから、Ooboeさんのパートナーさんが情報公開請求された、

「大田氏作成大田マウスES細胞(核移植ntES)4株(受精卵FLS1)(受精卵FES2)の2株」

という細胞の存在は、きちんと認知しているわけです。
この京大の回答は、「MTAを出せと言われても規程上ないが、別の手続きで受け入れて管理しているから、それに即した書類ならありますよ」と言っているようなものです(笑)
 
なお、理研に対する情報公開請求は、MTAに限定せずに、
20103月、若山研究室の研究員が京都大学に転出する際に提出されたES細胞等の移転手続きに関する書類」
を対象にされていましたが、それに対する回答は、

(開示請求書に記載された「大田浩氏」特定の研究者が作製したものか否かにかかわらず、若山研究室のES細胞等を京都大学に移転した手続き書類はありませんでした。)
という理由での不存在・非開示でした。
理研の文書保存規程をみると、3~5年となっています。おそらく、異動に伴う試料の移転についての報告、承認等は、3年が相場だろうと思います。したがって、書類保存期間切れということなのでしょう。
 
■いずれにしても、大田氏が理研から京大に移った際に、自らの研究成果であることは確かである細胞を共に持っていったこと自体は、自然な話ですし(このことに何か疑義が呈されているわけではないと思います)、仮に報告等の手続きに不備があったとしても、対象が「機関管理」のような学術的、経済的価値が高いような研究試料ではないこともあり、研究成果有体物管理の趣旨を大きく損ねるというものではないと思われます。
 
また、これは私も以前は誤解していたのですが、MTAは、あくまで使用権の付与ということなのですね。研究成果有体物の「帰属」は、あくまで、その資金、施設、設備等を用いて研究が行われた機関にあって、MTAで譲与等の名目で移管されるのは、使用権ということのようです。
 
いずれにしても、Ooboeさんとそのパートナーさんが、大田氏や京大に対してMTAに関して質問や締結要求を続けても、空振りになってしまいます。
細胞の移転状況を公的文書によってトレースすることによって、解明の契機にしたいというお気持ちはよくわかるのですが、「MTAが締結されているはずだ。されていなければ不適正だ」という立論から主張を展開されても、手続き規程と乖離したものになってしまっては、せっかくの精力と時間とを空費してしまうことにもなり、相手方機関、研究者に対しても、手続き処理だけでもかなりの事務負担をかけることになって悪印象をもたれかねませんので、冷静・慎重な対応をされたほうがいいいのでは・・・と懸念しています。
(もう少し踏み込んで、失礼を顧みず申し上げると、告発と、それに対する神戸地検の不起訴処分への抗議、時効中断の要求、検察審査会への申し立て、審査会での聴取をしないことへの非難、というあの一件と同種のパターンを連想してしまいます。あれは法律(法治)からかなり乖離したご主張でしたから、マイナスが大きかったと感じています・・・)。

京大の回答が、せっかく、その公開を求めた細胞の存在を認知してくれているわけですから、それに即した対応が必要になってきます。

■Ooboeさんらが、MTAの情報開示を通じて追求されようとしている問題の所在は、大田氏が理研から持ってきた細胞のタイプ、調査の際に提供したルート、細胞のタイプ等でしょうから、次のような情報開示請求をかけてみると、もしかすると可能性があるかもしれません。

①大田浩氏が、理研から京大に異動した際に、研究成果有体物管理規程第6条及び文科省ガイドラインの趣旨に基づき、京大に持ちこまれた研究試料のうち細胞(×××)に関してなされた報告、承認、取扱決定、管理についての記録。
研究成果有体物に該当しない細胞の場合には、その持ち込みと管理状況に関する記録。

大田浩氏が、理研から2014年以降に、山梨大、理研又はそれらの研究員に対して提供した細胞とその提供に関する一件記録(依頼・提供の時期、依頼・提供の相手方、内部手続き、提供した細胞の種類、株数その他を含む)

        ※ 以下続きます(「解析のための提供」関連)