威力/偽計業務妨害による刑事告発という議論+守秘義務違反の件
私も弁護士ではありませんし、特に刑事事件の相場観はよくわかりませんが、少しネット等で情報を集めつつ述べてみます。
また、末尾では、守秘義務違反の件にも触れておきます。
威力/偽計業務妨害罪については、例えば以下のサイトが、いろいろな事例が載っていてわかりやすいように感じます。こういったサイトを眺めながらメモってみます。
要件として、当然のことながら、以下の点が明確にならないといけません。
①「威力」なり「偽計」に当たるものは何か?
②「業務妨害」の具体的内容は何か?
■それで、Ooboeさんによれば、若山氏が6月16日の記者会見で、「第三者機関」に依頼して解析してもらったことについて、実は法医研という機関とではなく、「知人の個人解析を公的第三者機関解析と偽称して記者会見した事実」を以て、「威力」とするとされています。
この点は、私も本ブログで、会見から間もない時点で、「知人に過ぎない研究者を『第三者機関』と称して、解析を権威づけたことはおかしいではないか。」と批判し、具体的名称も明かさず、委託費のことを曖昧にしていることについても問題だとして記事を書いています(ポケットマネーだと言ったり、公正を期するために無償だと言ったり、やっぱり理研が払うようなことを言ったりと、話が変遷していました)。
それはそれで大きな問題であることは間違いありませんが、ただ、そのように偽称したこと自体が、「威力」なり「偽計」になるかというと、そこまでは言えないのではないかと思います。理由は2つあって、
①ここで若山氏が主張しようとしたことは、「自らが解析したのではなく、外部の者によって解析したもらった(客観的な)ものである」ということかと思います。それを、「第三者機関」という表現で表したとしても、その「外部」という趣旨が大きく損なわれることはないと思われます一研究者ではなく、研究室のチームだった可能性もあります(古い話で、天皇機関説というのがありましたが、天皇の役割に着目して「機関」という表現を美濃部教授がして大きな問題になったこともありました)。
ですから、問題は、「外部」「第三者」の実態が「個人」であるにも拘らず、「公的機関」と偽称としたことではないと思われます。問題は、その解析結果が誤っていたことが判明したにも拘らず、それを速やかに訂正せずに、一連の「業務」(後述します)を妨害したことにあります。
■それから、「業務妨害」の点ですが、あの会見では、その解析結果に加えて、「マウスは、ポケットに入れて持ち込める」と述べて、あたかも小保方氏が実験を不正に行ったかのような発言もありましたので、小保方氏に対する混入疑いが一段と濃くなり、その後の研究活動に著しい支障をもたらしたということは確かでしょう。その意味で、「信用棄損による偽計」はあったと言うことはできるかもしれませんが、ではそれによって、具体的にどういう「業務」が損なわれたのか?という点は、なかなか特定しづらいところです。
■そうやってあれこれ考えを巡らしつつ、仮に「威力/偽計業務妨害」を想定するとして、どうやったら構成できるか?ということを頭の体操として検討してみると、次のような構成が、もっともすっきりし、裏付けも容易ではないかと思いました。
そしてそれが可能であれば、STAP細胞事件の核心に迫ることができるかも・・・とも感じます。
どういうことかと言うと、ネイチャー誌の「論文の撤回」に焦点を当てるということです。論文撤回の決め手になったのは、言うまでもなく、若山氏による「第三者機関」に依頼した解析結果です。それによって、撤回理由書では、次のように書かれたわけです。
「ドナーマウスと報告されたSTAP 幹細胞では遺伝背景と遺伝子挿入部位に説明のつかない齟齬がある。」
「STAP幹細胞に関する現象の真実性を疑いの念無く述べることができない。」
ところが、実はその「説明できない齟齬」の根拠が、崩れていたわけです。
小保方氏の『あの日』では、撤回理由書がウェブ上で公開となった日、「巧妙に書き換えられている」と、丹羽氏が憤然として持ってきたとあります。
「プリントアウトされた撤回理由書を読み、その内容に目を疑った。最も重要な撤回理由が、著者たちが合意したものとは異なる内容に書き換えられていたのだ。著者たちが合意しサインした理由書は、「STAP幹細胞は若山研に決して維持されていなかったマウスの系統であった」というもので、マウス系統管理者の若山先生には誰も反論する材料がなく同意を強いられたものだったが、書き換えられた理由書には、「STAP幹細胞は若山研で維持されていたマウスとES細胞の系統に一致する」とあった。」(p196)
(ネイチャー編集部に理由を照会したところ)「若山先生が他の著者たちに知らせずにネイチャー編集部に送付した修正依頼のメールが共著者らに転送されてきて、やはり若山先生が著者たちが全員同意のサインをした後に、他の著者たちに知らせずに単独で撤回理由書の修正を依頼していたことが明らかとなった。」(p197)
撤回公表時の笹井氏のコメントを見ても、この遺伝子型の齟齬が決定打となっていることがわかります。
「今回の撤回により実験的な根拠が失われ、その後新たに判明してきた細胞の遺伝子型などの齟齬などを照らしあわせると、STAP 現象全体の整合性を疑念なく語ることは現在困難であると言えます。」
米国の著者たちは、撤回には絶対反対していたわけであり、『あの日』での説明のように、バカンティ教授が最終的に撤回に同意したのもこの点にありました。
「その後、バカンティ先生とネイチャー編集部との話し合いの結果、「STAP幹細胞のマウス系統のデータに関しては研究室の責任者であった若山先生しか情報を持ち得ない。その人が、データが間違っているとネイチャーに連絡を入れている。STAP幹細胞のデータがアーティクルに入ってしまっている以上、仕方がない。アーティクルも撤回に同意する方向で進めよう」と連絡が入った。」(p195)
■このように、
「若山氏の解析データを根幹的理由として、著者全員が論文撤回にサインせざるを得なくなったが、その後解析データが間違っていたことが判明したにも拘らず、他の共著者に連絡することなく、更には、シニアオーサーではないにも拘らず、権限なく秘密裏にネイチャー編集部と連絡を取り、全共著者がサインして提出した撤回理由書を書き変えつつ撤回を維持せしめた。これによって、論文を維持し、STAP細胞の研究成果を科学コミュニティの中で有効ならしめて研究活動を継続する機会を失わせた。」
ということを以て、「偽計業務妨害」が構成できるのではないか、と考えました。
「偽計」は明らかだと思います。
① 解析間違いを他の共著者に連絡・共有しなかったという点
②共著者に連絡しないことにより、撤回理由が間違いではないという「錯
誤」を維持せしめたという点
③権限なくネイチャー誌と交渉し、理由書を書き換えたという点
冒頭に記したサイトでは、
「偽計とは、人を欺く、または人の錯誤や不知を利用したり人を誘惑したりする、あるいは計略や策略を講じるなど、威力以外の不正な手段を用いることをいいます。」
とあります。人の錯誤を利用することも、「偽計」に含まれるとしています。
「業務妨害」も、若山氏が共著者に解析間違いを連絡すれば、撤回理由の根幹が失われ、サインされた撤回通知書も撤回・破棄されたことは確実でしょうから、「論文を維持し、STAP細胞の研究成果を引き続き有効ならしめた上で、研究活動を継続する機会を喪失させた。」と言えると思います。実際、その後の特許出願においても、論文が撤回されていることを以て、拒絶理由通知が打たれていることからも、その撤回の影響は及んでいます(甚大です)。
■こういう構成での「偽計業務妨害」が成り立つのであれば、告発材料も単純ですし、捜査当局としても、立証は比較的容易ではないかと感じます。
告発根拠は、
①小保方氏の『あの日』の当該部分
②笹井氏の撤回時のコメント
③特許拒絶理由通知に対するバカンティ氏による宣誓供述書
④特許出願に対する拒絶理由通知において、論文撤回が理由の一つとなっていること。
捜査当局がこれを裏付ける証拠資料としては、次のようなものになるでしょうが、書面提出なり任意聴取なりは容易かと思います。小保方氏ももちろん参考人として聴取されるでしょうが、『あの日』で書かれていることを述べ、その裏付け資料を提出するだけですから、負担は少なくて済むと思います。米国著者との間でやりとりしたメール類は揃っていることでしょう。自らが訴えるという心理的負担・抵抗も、第三者による「告発」への対応であれば、少なくて済むような気がします(勝手な想像ですが・・・)。
①共著者全員でサインした撤回理由書。
②一連の撤回経緯についての関係者の供述―丹羽氏、米国著者、ネイチャー誌編集部ら。
③若山氏の解析結果が誤りであることが分かっていれば撤回に同意しなかった旨の供述―特に米国著者ら。
④若山氏が、シニアオーサーではないにも拘わらず無権限で撤回交渉をしていたこと。
■なお、米国側著者から聴取する場合、『あの日』に書かれている以下の奇怪な話も、裏付けが取れることが期待できるかもしれません。
「そんな時にアメリカの先生から電話があり、「若山先生が、著者は持っていないはずの自己点検委員会の資料を所持しているようで、それが著者以外から通報されると今後ネイチャーに投稿できなくなるかもしれないので論文の撤回を急ぎたいと言ってきた」という話を聞いた。同じ調査をされる立場の著者の中でも、調査する側の情報を持っている人がいるという異常な状態が作り上げられていることを知った。」(p181)
様々な情報公開資料から、不審な点を浮かび上がらせていく取り組みを実践されていることには敬意を表しますし、私などはそれを利用させていただいているだけですから、水をかけるようなことは申し上げにくいのですが、客観的にみて、労多くして功少なしでは? の感があります。
それよりは、上記のような「論文撤回」に焦点を当てるほうが、比較的容易にSTAP細胞事件の解明にもつながりますし、小保方氏の著書の裏付けにもなります。更には、小保方氏、笹井氏のみならず米国側著者の無念を晴らす機会にもなるのではないかと感じます。
【守秘義務違反について】
しかし、だからといって、理研職員による秘密漏えい行為が正当化されるわけでは全くありません。不正調査にのみ使用されるという前提で提出されたものを、調査担当部局が右から左にNHKに流したわけですが、実験ノートには秘密実験のことも書かれているわけですから、知財権を損なう可能性もありました。また電子メールのやり取りは、プライバシーの保護、通信の秘密の観点から当然保護されるべきものです。ですから、その漏洩行為の違法性には大なるものがあります。
なお、自己点検委員会報告書の毎日新聞須田記者に対する事前漏洩がありますが、これはすぐ直後に全文が公開されましたので、その責任を問うのは難しいかもしれません。
なお、「小保方~地獄の底は深いぜ~」のオホホポエムがあります。これは、理研の内部の者でなければ知らない情報が含まれています。この投稿者に対する情報漏洩も守秘義務違反に問える可能性があるかもしれません。
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■以上まとめると、訴訟で真実を明らかにできる選択肢としては、次の3つということになります。
①論文撤回に係る偽計業務妨害(刑事)
②独法通則法の守秘義務違反(刑事)
③石川氏に対する名誉棄損訴訟(民事)
なにやら教唆しているようで申し訳ありませんが、選択肢を頭の体操として考えてみた結果が以上の通りだということです。