理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

BPO決定での人権侵害、放送倫理違反認定以外の問題指摘も看過すべきではない

 BPOが、NHKスペシャルについて人権侵害認定をし、少数意見も放送倫理違反を一部で指摘したということではありますが、放送倫理違反に問われていない部分であっても、問題指摘されている部分があることは、もう少し認識されてもいいのではないかと思います。
 それらを看過されることは、BPO委員としても本意ではないのではないかと思いますので、備忘的に書いておきたいと思います。
 
 BPOが検討の際に立脚し、配慮していたことは、次の諸点ではないかと思われます。
 
 番組の編集の自由を必要以上に侵し、萎縮効果与えるとの批判は招かない
  ように配慮すること。
紙媒体のメディアとは異なり、放送法、電波法の制約があるとしても、番組編集の自由は尊重されるべきということが、前提にあると思われます。最近、放送局からはBPOに対する内々の恨み節は出ているとも報じられていましたから、そういう視線を意識しているということはあるでしょう。それに一審制ですから、BPOの結論がそのまま最終判断になり改善と報告が求められるということですので、おのずと慎重になるはずです。


「科学コミュニティ」が出した結論は尊重すること。
真実性、相当性の判断に当たっては、事後的に判明したことも踏まえるというのは一般的にはそういうことなのでしょう。しかし今回の場合には、それが、桂調査委報告やネイチャー誌の論文だったり、あるいは検証実験結果であったりということで、「科学コミュニティ」が出した結論や枠組みだったということが、もの足りない感を多少もたらす要因だろうと思います。ですが、「科学コミュニティ」が出した結論への疑問を多少なりとも滲ませることまで期待することは、客観的に考えれば、無理筋というものなのでしょう。


視聴者は予断を持たない「一般視聴者」を前提に評価すること。
 この点は、最高裁判例がそうなっているから、ということなのでしょうが、既に何回も述べたように、NHKはこの点を最大限利用しています。週刊誌や月刊誌で、放送までにはさんざん「疑惑」が指摘されていましたから、視聴者にはそれらが念頭にあることに乗じて番組構成・演出をして、「疑惑」を印象付けています(というか、「疑惑」を確信に変えさせています)。
BPO決定では、「本件放送の問題点の背景には、STAP研究の公表以来、若き女性研究者として注目されたのが申立人であり、不正疑惑の浮上後も、申立人が世間の注目を集めていたという点に引きずられ、」とまで認定していたのですから、全く更地で予断をもたない「一般視聴者」を前提にすることは、かえって不公正な感がないでもないですが、ここは法律判断としては仕方がないのかもしれません。
 
 こういうかなりの制約があり、抑制的なスタンスが取られる中で、あえて人権侵害や放送倫理違反だと判断されたことは、NHKとしては重く受け止めるべきでしょうし、そこまで至らないまでも、問題として指摘された部分についても、適切とは言えない演出として、然るべく受け止める必要があると思います。
 
●まず、冒頭の研究室の配置のCGについては、ES混入疑惑指摘の名誉棄損の問題に吸収されるから、「独立した評価をする必要はない」としているだけですから、混入疑惑の指摘が名誉棄損とされた以上、このCG画面も、名誉棄損の一要素として評価され得るということです。あの場面を視れば、誰しも怪しい印象を持つことは否定できませんから、演出としては問題です。
 
「④ 若山研究室の配置を再現したCGの放送について
 「疑惑の論文はこうして生まれた」というパートで、CDBにおける実験の状況を検証する部分があり、若山研究室の配置を再現したCGが放送され、申立人は壁で仕切られた奥まった小部屋で一人作業をしていたとするナレーションがなされた。
この点について申立人は、完全に死角になる場所で、誰にも知られることのない何かをしていたというイメージを想起させるが、実際にはこの小部屋は研究室の他のメンバーも使用していたと主張する。確かに、2で詳しく述べたES細胞混入疑惑と併せて考えれば、このようなCG及びナレーションは、申立人が不正を行ったという印象を強めるものとも言える。
しかし、この部分は結局、ES細胞混入疑惑の指摘による名誉毀損の問題に吸収されるものと捉えることができる。したがって、本決定ではこの点について独立して評価する必要はないと判断する。」
 

●また、放送冒頭の専門家たちのナレーション・演出ですが、「専門家による論評であり、人身攻撃に至るなど論評の域を逸脱しているとも言えないから、名誉毀損は成立しないし、放送倫理上の問題も認められない」としてはいますが、「ことさらに申立人に対する否定的評価を強調するもので、不適当である」という委員の意見もあえて紹介しています。
 人身攻撃にまでは至っていないといいますが、中核の中山九大教授は、この番組放送より2カ月以上前に発売された文藝春秋6月号(2014510日発売)において、小保方氏のSTAP細胞研究は、「わが国における史上最大の捏造事件であると言っても過言ではない」「シェーン事件と小保方事件は、いろいろな点で酷似する」として、シェーン事件に匹敵する研究不正、即ち捏造だと断定していました。自主点検委報告、改革委提言よりはるか以前の時点で、小保方氏を非難しています。それも、研究不正についての文科省ガイドラインや各機関の研究不正規程の存在も知らないことを自認しつつです。少なくともこの文芸春秋誌の記事は、人身攻撃に等しいものでしょう。
http://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2/16763813.html (2番目の【 】部分)
 こういうはるか以前から人身攻撃的非難をしている「専門家」たちの議論風景を冒頭に持ってきて、「7割以上に何らかの疑義や不自然な点があると指摘した」というナレーションは、「ことさらに申立人に対する否定的評価を強調するもので、不適当である」という委員の指摘は、まっとうなものだったと思います。
 
「④     専門家による画像やグラフに関するナレーションや演出について
 本件放送の冒頭で、専門家とされる複数の研究者による「単純なエラーがいっぱいありますよね」「こういうのはありえないっていう感じだね」「でもうっかりしたミスではないですね」との発言を放送した上で、「専門家たちは画像やグラフの7割以上に何らかの疑義や不自然な点があると指摘した」というナレーションが行われている。これらの指摘も申立人に対する否定的な印象を与えるものであるが、これらは専門家による論評であり、人身攻撃に至るなど論評の域を逸脱しているとも言えないから、名誉毀損は成立しないし、放送倫理上の問題も認められない。ただ、個々の画像やグラフについて具体的な指摘をするのではなく(ただし、番組の途中で、グラフ1点について具体的な問題点の指摘が放送されている)、上記のような一般的かつ印象論的な発言を番組の冒頭で紹介することは、ことさらに申立人に対する否定的評価を強調するもので、不適当であるという委員の意見もあった。」


●また、若山氏と小保方との取扱いが公平性を欠いているという点についても、小保方氏側の主張に一定の理解を示しています。
結論としては、「放送局の有する番組編集の自由をも考慮すれば、本件放送の全体的な構成が放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない。」ということになっていますが、「公平性を欠いている」点については、認めています。「放送倫理違反となるほどの」公平性を欠いているとまではいかない、というのが、ここでの判断の趣旨です。
 
「5.その他の放送倫理上の問題について
(1)若山氏と申立人との間での取扱いの違いと公平性
 ヒアリングで申立人が本件放送に関する問題点として強調した点の1つは、若山氏と申立人との取扱いが公平性を欠いているということであった。すなわち、STAP研究は若山研究室で行われたもので、研究室の責任者は若山氏であり、他方、申立人は研究室の一構成員にすぎず、若山氏の指示の下で研究に従事する立場であった。それにもかかわらず、本件放送では、疑惑の原因がもっぱら申立人にあるかのような放送がされたことが問題であるという主張である。
確かに、本件放送は、若山氏の説明に沿って作られている面があり、例えば、後述する実験ノートの扱いについても、キメラ実験を担当した若山氏の実験ノートではなく、申立人の実験ノートを取り上げるなどしており、申立人に対し不公平感を与える面があるかもしれない。
 また、第2次調査報告書において、実験記録やオリジナルデータがないことや、見ただけで疑念が湧く図表があること、明らかに怪しいデータがあるのに、それを追求する実験を怠ったことなどについて、若山氏や笹井氏の責任は特に大きいとされている(別の箇所では、若山氏の責任は過失とはいえ極めて重大だともされている)。また、同報告書では申立人が若山氏の過剰な期待に応えようとして捏造を行った面も否定できないとされていることからも、客観的事実として、研究遂行過程において、若山氏と申立人との間には多かれ少なかれ上下関係があったものと思われる。
 しかし他方で、申立人は、STAP論文2本の筆頭著者であり、同論文の内容について主たる責任を負う者の1人である。また、若山氏は自ら検証を行い、自らの疑惑に対して一定の説明を試みているのに対し、申立人は、当時の状況からして斟酌すべき点はあるが、納得のいく説明を行っていないとみられていたことも事実であろう。
以上のような事情を踏まえつつ、放送局の有する番組編集の自由をも考慮すれば、本件放送の全体的な構成が放送倫理上の問題があるほどに公平性を欠いているとまでは言えない。」
 

 ●その他、問題は少なからずあります。

第一に、桂調査委員会での「ES細胞混入」を前提とせざるを得ないというのはわかりますが、しかし、その考え方に立脚するのであれば、最初の方に持ってきたデイリー教授による死細胞の自家蛍光との考え方とは相容れないはずです(BPO決定P37の場面)。ES細胞なら、最初から発光するはずではないか? という疑問は、小保方氏批判派の評論家も言っていましたが、その疑問は宙に浮いてしまい、結局、デイリー教授の再現できないという話と合わせて、STAP細胞に対する否定的印象を強める材料となっただけです。
自家蛍光説でもES細胞混入説でも、ともかく、STAP細胞と小保方氏とを否定する材料であれば何でもいいという姿勢だからこそ、こういう一貫しない構成になるわけで、それは藤原記者が、NHKスペシャルの7ヶ月後のニュースで、小保方氏が自家蛍光であることの確認をしなかったかのように、聴取記録を切り貼りして報じたこととも共通するものです。ともかく否定できればなんでもいいのでしょう。科学とは対極の姿勢です。
 
第二に、ネイチャー誌編集長へのインタビュー場面です。語ったことはごくわずかで、発言内容は「我々も画像の加工に注意を払う必要があった」ということのみです。この時点で、ネイチャー誌は、ES細胞混入という判断にはもちろん至っていませんし、撤回の決め手となったという話も、そういう類いのものではありません。この6月か7月かの時点で、インタビューして語られる内容というのは、ES細胞混入に与した話ではあり得ないはずです。小保方氏は、ネイチャー誌からは、画像に線を引けばよかったと言われたとありますから(それは、石井氏も若山氏も言っている話dせう)、この時点で「画像の加工」と言われて思い当たるのはそのことしかありません。
 この点について、以前の記事で、「もし、ネイチャー誌側が、単に電気泳動画像の切り貼り加工の線引きの必要性のことを指して述べたにすぎない話を、あたかも、STAP細胞が捏造という印象付けをする中で使われたとすると、これは大きな問題になりえます。」と書きましたが、それはおそらく当たっていると思います。あの場面を、「一般視聴者」が見れば、前後のES細胞による捏造的インタビュー内容と併せて、そういうメッセージだと受け取ることでしょう。
BPO決定では言及がありませんでしたが、問題の性格としては、「放送倫理違反と判断された、テレビ朝日川内原発の安全審査に関する原子力規制委委員長の回答画面を、別の質問の答えであるかのように切り貼りした一件と共通するパターン」と、上記記事で書いた通りかと思います。