理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

2 NHKの反論コメントの問題点(2)


 今回のBPO決定では、双方の主張が詳しくは書かれておらず、断片的にわかる程度ですが、昨年4~5月のヒアリングの議事録が、それを補うものとして参考になります。
 
○小保方氏側の主張
NHK側の主張
 
 この中で、今回、人権侵害認定されたES細胞窃盗疑惑の提示ですが、双方の主張をみると、次の通りです。
 
【小保方氏側】
「また、番組で申立人が使用する冷凍庫からES細胞が見つかったことを伝える部分について申立人は、「NHKは表現には十分に気を付けたと言うが、視聴者に伝わったのは小保方によるES細胞の窃盗の疑惑であったことは弁明の余地はない。実際には若山研究室が引越しの際に残していった不用品を引き取っただけで、警察の捜査によっても窃盗の容疑がないことが判明している」と述べた。」
 
NHK側】
申立人が、視聴者に伝わったのは申立人によるES細胞の窃盗疑惑である、と主張している点については、「盗んだかどうかはわからないが、ファクトとして留学生のES細胞がそこにあったことを伝えた
 
 実に無責任な回答振りです。既に縷々述べましたが、既に帰国していた元留学生のES細胞の管理は、若山氏・若山研が山梨大移転までは管理していたわけですから、まず彼らに経緯を取材し、併せて、ボックス発見時点で管理者である可能性が高い理研の管財担当に取材をするというのが、小保方氏の「残されていたのを引き取った」との説明の裏取りのための初動対応です。
 それを、「盗んだかどうかわからないが」として、基本的取材もせず、「ファクトとしてそこにあったことを伝えた」ということは、小保方氏の窃盗疑惑を印象づけようという意図を持っていたことは明らかです。
 
 これは、笹井氏と小保方氏のメールの思わせぶりなナレーションの読み上げとも共通する手法です。
 つまり、自らは語らないが、それまでの他メディアでのリーク報道によって視聴者の念頭にあることを折り込んだ上で流すというやり方です。
 この点は、以下の記事で次のように書きました。
 
「あの当時、笹井氏と小保方氏の不適切な関係を、かなり強烈な表現でクローズアップする複数の週刊誌報道があり(週刊文春など)、STAP細胞問題に多少なりとも関心のある人であれば、それを念頭において、あのナレーションを聞けば、そのことを更に増幅させようとしていると感じたと思います。NHK自らは、「不適切な関係にあった」とは決して語らないまま、一般視聴者が既に念頭にあることを利用して、演出することによって、そのことを更に印象づける効果を持たせるという、卑劣な演出でした。」
 
この手法と全く同じパターンで、小保方氏の窃盗疑惑が深まるように演出しています。
小保方氏の窃盗疑惑については、この放送の時点で、週刊新潮など複数の週刊誌が、「若山研の移転のときに,小保方氏は手伝おうとせず、こっそり細胞を運び出していた」「移転のどさくさで、所在がわからなくなった」といった一連の報道をしていたことにより、既に世間では、小保方氏への疑惑として定着していました。
NHKはそれを利用して、自らは決して小保方氏が盗んだとは直接言わずに、世間の印象のだめ押しというか、決定打のつもりで、元留学生に語らせたというわけです。
 
この手法は、やはり以前の記事で述べた通り、理研の自主点検委報告書が、自らは「STAP細胞はES細胞による捏造だ」とは決して語らずに、ネットやマスコミでの疑惑報道による印象、先入観が読者側には既にあることを念頭において、(石井調査委による中身が全く異なる「捏造」「改竄」のレッテルを利用して)重大な研究不正事件だったという前提で、諸々提言したというやり方と共通するところがあります。名誉毀損訴訟を避けるための手法です。
 
■ことほど左様に、NHKスペシャルの演出手法は、極めて問題の多いものでした。
 ただ、今回は、元留学生のES細胞の小保方氏窃盗疑惑と、STAP細胞混入疑惑については、人権侵害認定になりましたが、もしNHKが、僅かな手間を惜しまなければ、人権侵害認定には至らなかった可能性があります。
 
 元留学生のES細胞のSTAP細胞混入疑惑については、場面の切り替えが明確ではなく、それまでのアクロシンが入ったES細胞の話と一連の流れだと印象づけられるとの判断から、それを裏付ける根拠がないとして、人権侵害認定となったものです。
 もしこれを、次のようなナレーションになっていたら、人権侵害認定は難しかったかもしれません。
 
「ところで、ES細胞に関しては、別途の不可解な話が指摘されています。201210月に帰国した元留学生が作製したES細胞が、小保方氏の研究室の冷凍庫に残されていたことがわかりました。元留学生は、なぜそこにあるのかわからないと訝しんでいます。小保方氏は、若山研移転時に残されていたものだとしていますが、ボックスを発見した理研関係者に取材したところ、経緯が確認できないとの回答でした。当事者によって異なる説明のES細胞の存在について、理研による解明が待たれます。」
 
 あるいはもっと簡単に、場面の切り替えをもう少し明確にした上で、「小保方氏に答えてもらいたいと思います。」というナレーションをカットするか、あるいは、「理研等による解明が待たれます。」というナレーションにしていたら、やはり人権侵害認定は難しかったかもしれません。
 
BPOでの人権侵害の判断は、名誉毀損訴訟やプライバシー侵害訴訟と同様、裁判所の判断の枠組みと同じですから、そのハードルは低くはありません。
 「人権侵害」認定にまで至らない「放送倫理上問題あり」との判断は、BPO等が定めた倫理綱領に照らして判断されますから、もう少し緩やかではありますが、しかしそこでも、番組の「編集権」との関係での比較衡量になってきます。今回の決定でも、各所に「番組編集権」という言葉が出てきました。
BPOは受動的立場で判断するものであり、BPOがこう取材すべきだったとか、こういう演出にすべきだったとかの指摘は、編集権への干渉や、報道の自由を萎縮させるといった議論を惹起しかねないため、どうしても抑制する方向になりがちです。
 ですから、客観的に見れば、取材すべきことを取材していなかったり、一方当事者の見方に偏ったりした偏向報道であっても、よほどのことでない限り、報道の自由とそれを支える編集権とによって守られてしまいます。世の中にごまんとある偏向報道、低劣報道が罷り通っているのもそのためです。
 
 それでも、公平性という観点は、放送倫理上の観点から判断する上で、重要な物差しになるとは思います(直前に出された放送倫理委員会の決定も、公平性が論点でした。)。今回も、若山氏の取材に偏っていることを一応は認めています。ただ、他方での勘案要素として、「小保方氏が体調不良とはいえ、説明を果たしていないと見られていた」ということも踏まえて、放送倫理上の問題はないとしています。
 しかし本来、調査報道だというのであれば、「ES細胞仮説」と相容れない笹井氏や丹羽氏の公式の場での指摘ついて、どう考えられるのかということも取り上げられるべきだったでしょうし、若山氏が「僕の研究室にいたマウス由来ではない」という大々的発表が間違っていたことや、それに伴う論文撤回の経緯も明らかに異様な経過になっていることは、番組取材時点で判明していましたし、マウス取り違えの可能性、研究室でのコンタミ排除の環境の確保等についても、もっと取材した上で触れるべきだったでしょう。
また、遠藤氏の分析が、理研から委託された外部識者によって、放映の2ヶ月前の時点で否定する報告書が提出されていたことは、もっと取材すれば判明したかもしれません。把握できなかったかもしれませんが(取材源である理研関係者が知らせるわけがありませんし)、しかし結果として、間違った分析をした遠藤氏と若山氏とに過剰に依拠して、番組を組み立てたことは、番組の質を揺るがすものであり、責任は免れないと感じます。
 
 どういう材料をとりあげるか、どういう角度から報じるか、どういう仮説に立つかといったことは、編集の自由に属するとしても、上記のようなSTAP細胞問題を論じる上で重要な材料をことごとく取り上げないということは、著しく公平性を欠くのではないかとの観点から、放送倫理上の問題の有無を検討することは可能だったとは思いますが、そこは生物学的専門性を多少は要するでしょうから、そこまで踏み込むのは難しかったようです。
 私は、BPO審議が始まった初期の時点で、生物学的な専門性がなくても、外形的な事実を以て公平性の可否を判断できるのではないか、そういう視点での問題提起をした三木弁護士の手腕を高く評価した次第ですし、今もそれは変わりませんが、結果として、そこまでは難しかったようです。
 どんなにバランスを欠いて質の劣る番組であっても、報道の自由、編集権の盾の下で保護されてしまうということは、質の劣る発言、コメントであっても、表現の自由の名の下に保護されてしまうことと同じです。
 
 そういう制約の中であっても、NHK民放の合意で自主的に設置した第三者機関(ADRの一種)であるBPOが下した人権侵害や放送倫理違反という判断に従わないということであれば、それは、NHKにとって自殺行為になることは、以前の記事で述べた通りです。
 テレビ放送の場合は、新聞や週刊誌とは異なり、電波法、放送法という政府にとっての伝家の宝刀がありますから、今回のような外形的なコンプライアンス違反を犯すのであれば、政府に介入する口実を与えることになるが、わかっているのか?と三木弁護士は警告しているのですが、NHKはわかっているのでしょうか? 堂々とHPの真ん中辺りに目立つように反論文書を掲げていますが・・・。
 
NHKは、次のように主張していますが、よく言うぜ、というのが、大方の見方でしょう。
 
「NHKは人権侵害があったとする申立人の主張に対して、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と答えた。」
「番組の中の事実関係に間違いはありません。」
 
「番組の中の事実関係に間違いはありません。」というのは、意味のない詭弁であって、どういう事実を並べるかによって、その番組のメッセージはまるで変わってきてしまいます。どういう文脈でその事実が提示されるのかで、印象はまるで違います。
 今回の決定でも、留学生がそう語ったことは事実であっても、それをどういう流れの中で報じたか、それによってどういう印象を一般視聴者に与えたかということが論点になっているわけですから、NHKの主張は反論にもなっていません。「俺はそうは言っていない」「俺はそういうつもりではなかった」と言っていても反論にはなりません。
 
■ともかく、今回、小保方氏の窃盗疑惑を決定的に印象付けるとともに、石川氏による告発の導火線となったNHKスペシャルの留学生のES細胞の件が、全く根拠なしとして、人権侵害認定されたことは、神戸地検の「事件の発生そのものが疑わしい事案」との判断による不起訴処分とともに、極めて大きい意義があります。
 
 今後引き続き、諸々、どれだけバイアスのかかった情報によって、STAP細胞問題が歪められてきたか? それを背後でどのように主導されたのか? 本当の一連の詳細な経過はどういうものだったのか? といったことが解明されることが期待されるところです。
 
 また、STAP細胞については、いずれ小保方氏が、心身の健康が回復し、きちんとした研究環境が確保された上で(検証実験のような非常識な制約がない通常の状態で)、実験を行えば、再現される日は来ると思います。あれだけ、丹羽氏や笹井氏が実際に見ている中で、STAP細胞の作製に成功し、電子顕微鏡にも記録されているわけですから、それは間違いないことでしょう。体や手指にそのSTAP細胞作成時の感覚が甦ると思います。婦人公論連載の日記のどこだったかに、調理の際にナイフを使っているときに、「この感覚は・・・」と言及する場面があったかと思います。
 それが頻度高くできることが認知されれば、協力者も増えてきて、キメラマウス作製による多能性の確認も、若山氏のような特殊な手技を要するというハードルがあるとしても、いずれは成功するのではないでしょうか。
また、バカンティ氏が行っているSTAP細胞による脊髄神経の修復実験結果も認知されるようになれば、また空気ががらりと変わってくるものと思います。
 
 
 (お詫び) 前回記事のコピペが残っておりました。失礼しました。