理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 NHKの反論コメントの問題点(1)

 次に、NHKの反論内容についてコメントしていきたいと思います。
 
NHKが「人権侵害ではない」と主張している理由については、NHKのコメントの長尺版で、次のように述べられています。
 

「放送人権委員会の判断の中で指摘された元留学生の作製したES細胞をめぐるシーンは、(1)小保方研究室の冷凍庫から元留学生のES細胞が見つかったという事実、(2)小保方氏側は、保存していたES細胞について、「若山研究室から譲与された」と説明しているという事実、(3)一方、ES細胞を作製した元留学生本人にインタビューしたところ、小保方研究室の冷凍庫から見つかったことに驚き、自分が渡したことはないと証言しているという事実を踏まえて、なぜこのES細胞が小保方研究室から見つかったのか、疑問に答えて欲しいとコメントしたものです。放送人権委員会が指摘しているような「小保方氏が、元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」という内容にはなっていません。
 他の細胞の混入を防ぐことが極めて重要な細胞研究の現場で、本当に由来がわからない細胞が混入するのを防ぐ研究環境が確保されていたのか、そこにあるはずのないES細胞がなぜあったのか、国民の高い関心が集まる中、報道機関として当事者に説明を求めたものです。このシーンの前では、小保方氏がES細胞の混入を否定し、混入が起こりえない状況を確保していたと記者会見で述べたという事実についても伝えています。
 今回の決定では、この番組の中で、「小保方氏が、元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」と放送したとして人権侵害を認めています。
 しかし、今回の番組では、STAP細胞は、ES細胞の可能性があることと、小保方氏の冷凍庫から元留学生のES細胞が見つかった事実を放送したもので、決定が指摘するような内容は、放送しておらず、人権侵害にあたるという今回の判断とNHKの見解は異なります。
 また今回の決定では、委員会のメンバーのうち、2人の委員長代行がいずれも、少数意見として、名誉毀損による人権侵害にはあたらないという見解を述べています。

 
■それで、上記のNHKの反論コメントは、次のように述べています。
 
「放送人権委員会が指摘しているような「小保方氏が、元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」という内容にはなっていません。」
 
「ES細胞の可能性があることと、小保方氏の冷凍庫から元留学生のES細胞が見つかった事実を放送したもので、決定が指摘するような内容は、放送しておらず、・・・」
 
NHKのコメントは、少しわかりにくいところがありますが、BPOが人権侵害認定した次の2点とも、否定しているということでしょう。
 
ASTAP細胞は、元留学生作製のES細胞に由来する可能性がある」
B「元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」
 
 
■まず、Aの「STAP細胞は、元留学生作製のES細胞に由来する可能性がある」という論点に関して、こういうことは言っていないとして否定していることについてです。
 
第一の問題点は、それならば、なぜNHKは、元留学生のES細胞樹立時期や、遠藤氏の「関連していなかったとは言えない」との見解を持ち出したのか?ということです。
 決定が述べるような、「STAP細胞は、元留学生作製のES細胞に由来する可能性がある」という提示はしていないというのであれば、このような弁明は全く不要だったはずです。そのような弁明をしたことが、当該疑惑を提示しているということの何よりの証左です。
  
「摘示事実c)――STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある――について
元留学生が作製したES細胞が問題発覚後の申立人の研究室の冷凍庫で保管されていたこと自体は真実だと認められるが、次に述べる通り、このES細胞がSTAP細胞の正体である可能性があるという点には、以下の通り真実性・相当性が認められない。
NHKによれば、このES細胞は、STAP細胞実験が最初に成功したとされる2011年11月に先立つ同年7月に樹立されている。また、作製者である元留学生は、若山研究室でSTAP研究が行われていた時期には、同研究室で核移植ES細胞の実験などを行っており、2012年3月上旬には、若山研究室で最初に申立人からSTAP細胞の作製方法の教示を受けたという。さらに、同年10月の帰国前にはSTAP細胞に関連するテーマで実験を行っていた。
 しかし、これらの事情を超えて、若山氏や遠藤氏の解析対象となったSTAP細胞が、元留学生の作製したES細胞である可能性を裏付ける資料は示されていない。
NHKは「留学生のES細胞が、STAP問題に関連していなかったと言うことは科学的には出来ない」という遠藤氏の指摘を引用しているが、可能性が否定しきれないという程度では、摘示事実c)の真実性が証明されたとは言えない。また、摘示事実c)について真実であると信じるについて相当性があることを示す資料も示されていないから、相当性も認められない。」(p14
 
 第二の問題点は、この論点は、少数意見の2人の委員長代行とも、「人権侵害とまでは言えないものの、放送倫理上問題がある」という意見であるにもかかわらず、その点には言及しないまま、「2人の委員長代行が、人権侵害にはあたらないという見解を述べています。」と述べ、何らの問題もないように2人が判断しているかのように印象操作していることです。

 結局、この論点Aの「STAP細胞は、元留学生作製のES細胞に由来する可能性がある」ということは、いくらNHKが否定しても、やはり番組で提示されていたと言えますし、それは人権侵害又は放送倫理上問題だという全員一致の批判がなされているということです。それをNHKは、少数意見では潔白であるかのように印象操作しているのです。
 
■次に、Bの「元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑がある」との提示についてです。
 
「本当に由来がわからない細胞が混入するのを防ぐ研究環境が確保されていたのか、そこにあるはずのないES細胞がなぜあったのか、国民の高い関心が集まる中、報道機関として当事者に説明を求めたものです。」と説明していますが、BPOの決定文を見ると、NHKは異なる説明をしているようです。
 留学生へのインタビューを含む問題場面(⑥の場面)について、決定文では、次のようにNHKの主張に言及しています。
 
NHKは、⑥の場面を独立のものとして放送したのは、理研が当時、申立人の研究室に残存していた試料等についての調査に消極的であったことを指摘するためであると主張している。しかし、⑥では、NHKの主張する上記のような趣旨についての明示的な説明はおろか、理研という言葉すら出てきておらず、逆に、最後のナレーションは、先ほども指摘したように「なぜこのES細胞が、小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか。私たちは、小保方氏にこうした疑問に答えて欲しいと考えている」(傍点(注:アンダーライン)は委員会による)というもので、問いかけの対象は申立人である。こうした点からすると、この部分が理研を批判する趣旨のものであると受け止めることはできないだろう。さらに、⑥はあくまで「STAP細胞は存在するのか」について扱うパートの一部なのであり、その後⑦が挟まれたうえ、「エリート科学者問われる責任」という理研の対応を批判するパートに移るという構成になっているのである。
以上からすると、⑥の場面を独立のものとして一般視聴者は見るはずであるというNHKの主張には説得力がなく、一般視聴者は⑤までの場面と⑥とを連続したものと理解するものと考えられる。」(p11
  
 ⑥のインタビュー場面の趣旨の説明が大きく違っています。BPOの審議の際には、「この場面は、理研の調査に消極的な態度を指摘するためのものだ」と主張したものの、BPOからは、「しかし、小保方氏に答えてもらいたい、と言っているじゃないか」と反駁され、それで、小保方氏の盗み疑惑を提示したものだと判断されたものです。
 NHKの反論コメントでは、「当事者に説明を求めたものです。」として、「当事者」という言葉でぼかしていますが、BPO審議における主張と、反論コメントにおける主張とが矛盾してしまっています。
 
 そして、その当事者は、山梨大への移転時におけるボックスの管理主体である若山氏・若山研であり、発見時の管理主体は理研のはずです。元留学生は既に以前に中国に帰国していますから、管理面での当事者ではありません。「小保方氏は、若山研移転時に譲り受けた」と説明しているのですから、若山研と理研とに取材して確認するのが筋というものです。ところが、全く取材した様子がありません。理研が調査に消極的なのことを指摘するためだ」というなら、「理研当局に取材を申し込んだが、回答が得られなかった」ということを番組に盛り込むのが自然な流れでしょう。
そして何より、元留学生のES細胞は、山梨大への移転時には若山氏・若山研が管理していたわけですから、そのインタビューがあって当然です。そNHKは、反論コメントの中で、
 
「そこにあるはずのないES細胞がなぜあったのか」
 
という言い方をしていますが、小保方氏は「譲り受けた(残されていた)」と述べているわけですから、そういう言い方は、週刊誌が「引っ越しのどさくさに小保方氏が盗んだ」かのように報じていたことを、若山氏・若山研にきちんと扱いの経緯を確認してその通りであった場合に初めて言える台詞のはずです。しかし、まともにインタビューすれば、そんな事情ではないことがすぐにわかってしまうから、それをしなかったのでしょう。
 
■それから、BPOの決定を読むと、真実性・相当性について判断する場合、事後的にわかった事実も踏まえて判断しています。ES細胞の混入可能性の提示については、桂調査委報告書や、ネイチャー誌の検証結果論文等を踏まえて、ES細胞仮説が科学コミュニティでは有力仮説であることを事実として踏まえた上で、真実性・相当性を認めています。
 
 その理屈を援用すれば、
B「元留学生作製のES細胞を不正行為により入手し、STAP細胞を作製した疑惑」の提示については、以下の「事実」を以て、真実性・相当性なしと言えるはずです。
 
【事実①】兵庫県警の捜査結果を踏まえて、神戸地検は嫌疑不十分で不起訴処分としたが、その際、「事件の発生自体が疑わしい事案」とのコメントを付していること。
 
【事実②】元留学生氏は、警察から数時間の事情聴取を受けたけれども、警察は小保方氏の窃盗を認めなかったと証言していること。
「感想」さんが、元留学生のLi氏に直接、メールで照会された結果を紹介しておられます。そこでは、数時間の事情聴取を受けたが、不起訴になったことに怒っています。
 
「簡単に言うと、警察さんがあの3箱に指紋チェックをしたら、すべてわかるだと思います。今回の刑事訴訟が警察側の怠慢もあります。私に数時間の事情聴取をしても、あの変な結論を出したのは、私が被害者として納得できません。」
 
【事実③】理研→山梨大のMTAに記載されていないこと。
MTAに掲載されていなければ、普通は、移転先で不要だから置いていったのだろうと推測されます(そうでない事情があるのであれば、それを主張するほうが説明しなければなりません)。事件発生後も、MTAに追加記載して、移管した様子はありません。
 
 つまり、元留学生(+他の関係者)の事情聴取もした上で、「事件の発生自体疑わしい」と判断して不起訴にしたわけですから、元留学生が述べた話は、小保方氏に疑惑をかける上で、何の根拠にもならなかったということです。おそらく、MTAも確認し、若山研から事情聴取もして、「持っていくはずのもの」ではなかった、ということが確認されたということでしょう。元留学生氏の気持ちを考えれば、(そして、おそらく、若山研が元留学生氏のES細胞を不要と判断していた可能性が高いことを考えれば)お気の毒な話ではありますが・・・。
 
 したがって、元留学生の発言をもとに、「そこにあるはずのないES細胞がなぜあったのか」と設問すること自体、基本的な裏取り取材の欠如によるものであり、事後に判明した一連の事実からしても、真実性も相当性もなかったということです。
 
 NHKは、審議時に主張していたことが、かえって自分の首を絞めていた面もありますし、審議時と決定後とで、主張している内容が異なっているなど、ダッチロールに陥っている感があります。