理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【コメント2】BPOによるNHKスペシャルへの人権侵害決定・勧告について

 先ほど書いたコメント記事では、私の事前の期待がやや大きかったこともあり、今回の決定に関する不満を中心に書いてしまい、BPOとしてはその検証範囲の中で、然るべき判断を示したということについて、十分書いていませんでした。その点は、マスコミの一連の報道で、示されていると思ったので、それを前提にして、更に他の論点についてどうだったか?ということを書いたつもりでした。
 
 主要論点の「小保方氏が留学生のES細胞を盗んでSTAP細胞に混入させた疑惑がある」という印象付けについては、もう既に各ブログ等で示されている通りですが、改めて、該当部分を抜粋しておきます。
念のためですが、人権侵害(名誉棄損)の認定を否定する少数意見を、NHKは紹介していますが、その2人の少数意見においても、次のように、放送倫理上問題があると判断しています。したがって、この点については、全会一致で「大きな問題あり」と判断されたということです。
 
「人権侵害とまでは言えないが、放送倫理上の問題がある(奥委員)
「不正確な放送で勇み足である。一部に過ぎないから、などと問題を小さく捉えるべきではない。・・・・放送倫理上、問題がある。(市川委員)
 
●整理すると、次のようになるかと思います。
 
①「小保方氏が、留学生のES細胞をSTAP細胞に混入した疑惑」の提示
→多数意見、少数意見共通で、極めて問題(人権侵害又は放送倫理上問題)と判断。


②「小保方氏が、留学生のES細胞を不正に入手した疑惑」の提示
→多数意見:真実性、相当性ともになく、人権侵害。
→少数意見:
  ・奥委員:(事実の摘示の理解が異なる)真実性・相当性あり(放送倫理上 
   の評価は?)
  ・市川委員:真実性なし。相当性あり。放送倫理上問題なし。

  (お詫びと訂正)当初、少数意見の整理が混乱していました。訂正します。

NHKが抗弁しているのは、
「小保方氏が、留学生のES細胞を不正に入手した疑惑」の提示は、「STAP細胞にES細胞を混入させた疑惑」をとは別箇の疑惑として行ったものであり、その点は番組上、分けていることはわかるはずだ、というだろうと思います。
 つまり、「あるはずのない留学生のES細胞が小保方氏の元にあったということは、小保方氏がそれを盗んだ疑いがある」という提示自体は、正当なものであるとの主張です。
 
STAP細胞にES細胞を混入させた疑惑」についても、留学生のES細胞が作製された時期(なくなった時期ではなく)からして可能性があることや、遠藤氏もその可能性がないとはいえないと述べていることを以て、疑惑として信じるに相当性があったと主張しています。
 
●多数意見の言わんとすることを、平易に言い換えると、次のようなことでしょう。
 
「留学生の話だけをもとに、窃盗疑惑は正しいんだと言っても通らないぞ。しかるべき根拠となる材料を持ってこい!」
 
「留学生のES細胞の混入可能性を、遠藤氏が否定していないからといって、それでは根拠になど到底ならない」
 
 
●以下、多数意見の記述です。
 
摘示事実c)――STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究 室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある――について 元留学生が作製したES細胞が問題発覚後の申立人の研究室の冷凍庫で保管されていたこと自体は真実だと認められるが、次に述べる通り、このES細胞がSTAP細胞の正体である可能性があるという点には、以下の通り真実性・相当性が認められない。
NHKによれば、このES細胞は、STAP細胞実験が最初に成功したとされる 2011年11月に先立つ同年7月に樹立されている。また、作製者である元留学生は、若山研究室でSTAP研究が行われていた時期には、同研究室で核移植ES細胞の実験などを行っており、2012年3月上旬には、若山研究室で最初に申立 人からSTAP細胞の作製方法の教示を受けたという。さらに、同年10月の帰国 前にはSTAP細胞に関連するテーマで実験を行っていた。しかし、これらの事情を超えて、若山氏や遠藤氏の解析対象となったSTAP細胞が、元留学生の作製したES細胞である可能性を裏付ける資料は示されていない。
NHKは「留学生のES細胞が、STAP問題に関連していなかったと言うことは 科学的には出来ない」という遠藤氏の指摘を引用しているが、可能性が否定しきれないという程度では、摘示事実c)の真実性が証明されたとは言えない。また、摘示事実c)について真実であると信じるについて相当性があることを示す資料も示されていないから、相当性も認められない。
 
摘示事実d)――申立人は元留学生作製の細胞を何らかの不正行為により入手し、 混入してSTAP細胞を作製した疑惑がある――について 次に述べる通り、真実性・相当性は認められない。
まず、摘示事実c)の真実性・相当性の検討の際に示した通り、元留学生のES細胞がSTAP細胞であった可能性に真実性・相当性が認められない以上、元留学生のES細胞を混入してSTAP細胞を作製したとの疑惑は、真実性・相当性のいずれも認められない。次に、申立人が元留学生作製の細胞を何らかの不正行為により入手したとの点についても、その真実性・相当性を基礎づける資料は示されていない。
もっとも、ここで問題としているのは、何らかの不正行為による入手や混入そのものの真実性・相当性ではなく、これらの点について疑惑をかけるだけの相当の理由があったかどうかということである。この点を考えてみると、まず、元留学生の ES細胞を何らかの不正行為によって入手したという疑惑については、確かに、この細胞が申立人の研究室の冷凍庫に保管されるに至った経緯については申立人とNHKとの間で主張に食い違いがあり、不透明なところがある。しかし、疑惑を提示するについての相当の理由があることがNHKによって証明される必要があるところ、何らかの不正行為による入手疑惑については具体的な根拠が示されていないし、そもそもSTAP細胞が元留学生のES細胞であるとの可能性についても真実性・ 相当性が認められないから、結局、この点を前提とする摘示事実d)についても疑惑をかけるだけの相当な根拠はないと言わざるをえない。
 (5)小括 これまでの検討をまとめると、本件放送におけるES細胞混入疑惑に関する部分は申立人の社会的評価を低下させるものであり、摘示事実a)、b)については真実性又 は相当性が認められるが、摘示事実c)及びd)については真実性と相当性のいずれもが認められないから、これらの点については名誉毀損の人権侵害が認められる。また、不正疑惑の発覚後、申立人は心的外傷後ストレス障害(PTSD)で治療を 受ける事態に至っている。これは申立人に対するマスメディアによる、あるいはイン ターネット上での過熱したバッシングが数か月にわたって継続したことなどの結果であり、本件放送の影響は全体から見れば一部に過ぎないとはいえ、本件放送がNHKの看板番組の1つである『NHKスペシャル』として全国に放送され、相応の社会的 影響があったことからすれば、本件放送による名誉毀損によって申立人の受けた被害は小さいものではない。
 
●次に、少数意見の内容です。
(奥武則委員)
「本件放送の関係部分の摘示事実――視聴者がどのように受け取ったかを考える。ごく分かりやすく記すと、次のようにまとめられるだろう。
 A.STAP細胞は結局、従来からある別の万能細胞のES細胞だったらしい。
 B.しかし、作製に係った若山氏、小保方氏(申立人)はともにES細胞混入の可 能性を否定している。
 C.ところが、小保方氏が使う冷凍庫にES細胞が保存されていることが分かった。 これを作製した人物は「なぜ、そこにあるのか分からない。驚いた」と言っている。
D.やはり、ES細胞の混入あるいは何らかの不正行為があったのではないか。
 
 Dの疑惑を投げかけられたのは申立人である。A~Dによって申立人の社会的評価は低下したことは明らかである。だが、A~Cには名誉毀損の免責事由に当たる真実性が認められる。では、Dはどうか。すでに述べたように、本件放送の関係部分はCで言及されるES細胞(前記のZ)がSTAP細胞=ES細胞(前記のX=Y)と同 一である可能性にはふれていない。しかし、Cは、ES細胞の混入可能性を否定していた申立人のもとに、あるはずのないES細胞があったという真実性が認められる事実を摘示しており、同様に真実性が認められるA、Bとあいまって、Dの疑惑を投げかける相当な根拠になっていると言うべきである。したがって疑惑を投げかけた報道という点では、Dにも相当性が認められる。 以上の検討から、私は本件放送の関係部分に名誉毀損の人権侵害があったとまでは 言えないと考える。」
 
「私は調査報道の持つ重要な役割に鑑みて、当委員会の決定が果敢な取材と報道の萎縮につながることは避けたいと考える。しかし、その見地に立っても、本件放送の関係部分には名誉毀損の人権侵害があったとまでは言えないものの、放送倫理上の問題があったことを指摘せざるを得ない。
 
 
(市川正司 委員)
「しかし、さらに進んで、他にもES細胞がある中で、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これがSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑があると信じたことについてはどうであろうか。この点については、
 ア)元留学生の作製したES細胞は、2011年7月に樹立されており、その後 の時期に作製されたSTAP細胞の由来となっていても時期的な矛盾はない。
 イ)小保方研究室には、複数のES細胞が存在し、申立人はこれらのES細胞を 若山研究室から譲与されたとしたが、その中の一部のES細胞を作製した元留学生は、自ら作製したES細胞が、何故、小保方研究室の冷凍庫にあったのか わからないと述べていた。この点について申立人はさらなる説明をしていない。 以上の事情は存在するものの、元留学生の作製したES細胞が混入してSTAP細胞ができたのではないかという疑惑を裏付ける積極的な事情は示されていない。 とすれば、元留学生の作製したES細胞とSTAP細胞を結びつける疑惑について は、真実と信じたことの相当性があるとはいえない。
 (2)「申立人はこの元留学生のES細胞を何らかの不正な行為で入手した疑惑がある。」に関しては、以下の事情があった。 申立人は、STAP細胞は、ES細胞とのコンタミが生じる可能性がない環境で作製されたと記者会見で述べていたが、その一方で、STAP細胞の正体はES細胞ではないかとの疑惑が生じており、申立人の周囲にES細胞が存在していた可能性が生じた。また、元留学生が、自ら作製したES細胞が何故小保方研究室にあったのかわからないと述べている状況の中で、小保方研究室の冷凍庫にES細胞が保管されるに至った経緯について、申立人は明確な説明をしていなかった。このような中で、本件放送が示した程度において、疑惑があるとNHKが信じたとしても、相当性はあると考える。
 
名誉毀損の成否について
以上によれば、私は、本件放送は、ES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあるとの疑惑を示したこと以上に、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これがSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑を示した点においては真実と信じたことが相当とはいえないと考える。しかし、この点についてのみ真実との証明ができず、真実と信じたことについて相当性がなかったとしても、この部分の摘示事実のみを捉えて申立人の社会的評価が相当程度低下したと評価することは考えにくく、その他の主要な部分が、真実であり、あるいは真実と信じたことについて相当性がある本件放送について、私は、委員会が あえて名誉毀損とするべきものではないと考える。
 
放送倫理上の問題
3で述べたとおり、NHKの取材が、小保方研究室の冷凍庫に残されていた複数の ES細胞にまで迫り、それらの中のいずれかのES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあると推論したことに不合理な点はないと私は考える。この点、NHKが独自の調査・取材によって事実を探求したことの意義が認められる。
しかし、さらにすすんで、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これ がSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑があるように表現したことは、その部分のみとらえて名誉毀損とは評価しないとしても、不正確な放送で、勇み足である。一部に過ぎないから、などと問題を小さく捉えるべきではなく、今後、慎重に事実を伝える姿勢を持ち、表現にも留意するべきである。この点、報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならないとする放送倫理上、問題がある。
 
 
■「留学生のES細胞を小保方氏が盗んだ疑惑がある」との提示については、多数意見は、留学生の話だけでは足りない、というか疑惑の提示にすぎないとしていることは、裏を返せば、この点は取材不十分だということを言っているに等しいということになります。
 多数意見は、人権侵害認定は、取材不十分ということではなく、編集上の問題だと述べていますが、しかし、留学生の話だけでは根拠にならないとしているのですから、取材不十分ということでしょう。取材不十分と言っているわけではないとの注釈は、番組編集権への配慮が働いているのだろうと思います。
 
■この点に関しては、多数意見ついても少し問題があると感じるところがありますが、全般的に抑制的に感じるのは、以下の2点によるものかと思います。

①事実関係について調査権限を有さず、生物学の専門的な知見をないので、立ち入った判断はできないとのスタンスを取っていること。
BPOの判断が萎縮効果をもたらすとの批判をかなり意識し、番組編集の自由に介入するものではないとのスタンスを前面に出していること。
 
 このあと、「留学生のES細胞を小保方氏が盗んだ疑惑がある」との提示について、多数意見が、留学生の話だけでは足りない、としていることに関して、稿を改めて、少し補足したいと思います。