理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

遠藤氏の解析は、外部識者の検証報告でほぼ全否定されていた-佐藤貴彦氏の新刊より


 佐藤貴彦氏の最新刊 『STAP細胞-事件の真相』 を入手しました。
 まだ、ざっと斜め読みで眼を通しただけですが、期待通りの内容のような印象です。

 それで、とりあえず、目に入った1点だけご紹介しておきます。
 本ブログで何度も言及してきましたが、遠藤氏による「STAP細胞ES細胞」だとする解析結果について、理研当局からの依頼に応じて、外部識者が2014年5月19日に提出していた検証報告書がありますが(それは桂調査委員会報告書が2014年12月末に公表されてすべてが終わった後で判明しました)、佐藤氏はそれを情報公開請求により入手し、その内容を紹介している箇所があります。

 この検証報告書に関しては、桂調査委報告書公表後の翌2015年2月の運営・改革モニタリング委報告書の参考資料(理研作成の経緯整理ペーパー)に次のように、そっと記載されていました。

「・(2014年)519日外部有識者から「内容はほぼ再現でき、その意味では正しい。しかしながら、その解析結果をもってSTAP細胞=ES細胞と結論づけることには無理があると思われる」との報告を受けた。」

 これに関して、私は次の記事などで、その存在を隠したまま、自己点検委報告書がまとめられ、更には改革委提言が遠藤氏のこの解析と同氏とを最大限称えて、それを主要根拠の一つとして、STAP細胞を、「前代未聞の不正」「世界三大不正」と断じたことが、如何におかしいかということを述べました。

◎「遠藤氏の解析によるES細胞説を「無理がある」とした理研依頼の外部有識者の評価内容は?」


■佐藤貴彦氏は、情報公開請求を行って、この外部有識者の報告書を入手したのだそうです。
 同氏の著書のその記述部分を抜粋すると、

「なお、ここにある「外部有識者に依頼した解析結果の検証」の資料を理研の情報公開窓口を通じた入手したところ、詳細な検証の結果として次のように述べられている。

・今回の解析で見られている細胞間の違いがCNV(コピー数多型)に起因すると見なすことは極めて困難である。
・今回の解析に見られている細胞間の違いは、単にマウスの系統を見ているに過ぎない可能性が極めて高い。

 つまり、「STAP細胞ES細胞」という解釈については、ほぼ否定されている。このように、遠藤氏の解析については、その信憑性を大いに疑問とするような報告がすでに出されているにもかかわらず、これを無視して遠藤氏の他の解析を無批判に受け入れるという姿勢は理解し難い。」(p120~121)

 その「詳細な検証」内容までは紹介されていませんが、結論として、遠藤氏の解析による「STAP細胞ES細胞」という解釈は、「無理がある」というモニタリング委参考資料の書きぶりとは違って、「極めて困難」という書き方がされていたことが、これでわかりました(あるいは、「無理がある」という表現の記述も別途あったのでしょうか・・・?)。

 桂報告書が出されて、すべてが終わったあとに、モニタリング委報告書の参考資料にそっと触れたというやり方も極めて政治的ですが、書き方も、全否定に近い「極めて困難」という書き方と、「無理がある」という書き方では、ニュアンスにかなりのギャップが感じられます。

 これは、下記に再掲した記事でも書いたように、本来、大スキャンダルです。
 改革委提言の主たる根拠のひとつとした遠藤氏の解析が実は早期の時点で、公式に依頼した外部識者から全否定されていたことを隠したまま報告書や提言を出し、更にもう一つの根拠だった若山氏の「僕の研究室にいなかったマウス由来」という「第三者機関」の解析も間違いだったわけですから、とんでもない話です。

 もともと、丹羽氏らの検証実験もまだ始まったばかりで、桂調査委員会の調査もこれからというなかで、STAP細胞ES細胞と断じて世界三大不正とのレッテルを貼って、理研CDBの解体を導いたのですから、ひどいものです。
 そういうどう考えてもおかしいと感じる改革委提言を、本来諌めるべき日本学術会議までが追認して、同じことを表明しているのですから、学術会議の権威も何もあったものではありません。

 佐藤貴彦氏の新刊は、これまで議論されてきている論点について、改めて整理して書かれているようなので、頭の整理にもなり、新しい発見もありそうです。

 そう遠からず、BPOの決定もなされるでしょうから、改めてSTAP細胞問題が注目され議論されるに際して、佐藤氏の著書は貴重な存在となるのではないでしょうか。


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【再掲】

◎「1 理研・自己点検委への違和感、怪しさ(1)―徐々に浮き彫りになってきたその「政治性」」

(3)遠藤氏の主張を否定する公式の外部有識者の評価書の存在を隠していたこと。
 そして更に、違和感をほぼ決定的にしたのが、昨年2月に公表されたモニタリング委員会報告書に参考添付されていた「STAP論文問題に対する理研の対応」という、一連の経過と対応についてまとめた資料に記載されていた、遠藤氏の解析手法に対する有識者の評価書の存在です。
 この点は既に何度もご紹介しています。詳細は以下をご覧ください。
 
「インターネット上の公開NGSデータの解析結果を把握した職員から、311日に研究担当理事に連絡があった。監査・コンプライアンス室長は、318日に解析結果の検証を外部有識者に依頼した。519日外部有識者から「内容はほぼ再現でき、その意味では正しい。しかしながら、その解析結果をもってSTAP細胞=ES細胞と結論づけることには無理があると思われる」との報告を受けた。」
 
という評価結果が、あのドタバタしている真っ最中の2014年5月19日に提出されていたというのです。後ほど述べますが、この時点では、自己点検委の会合は終わってはいましたが(5月11日が4回目の最終)、しかし、報告書の公表は6月10日です(改革委提言と同時)。
 極めて重要であるこの外部有識者の評価書の存在及び内容を、研究担当理事と監査・コンプライアンス室長が関わって依頼し報告を受けているのですから、点検委のチーム員である理研の幹部が知らないはずがありません(チーム員には全GDが名前を連ねています)。
 言うまでもなく、この遠藤氏の解析結果は、改革委においても、若山氏の「自分の研究室にはいなかったマウス」という例の誤った分析とともに、「前代未聞の不正」「世界三大不正」と断じた際の根拠となるものでした。
 この二本柱の根拠のうちの遠藤氏の解析が、実は5月19日段階で、ES細胞だとするのには無理があるとの外部評価を理研当局が得ていたのですから、それを隠したままあの改革委提言がなされたというのは、本来、大スキャンダルです。
 STAP細胞の有無を確かめるために、検証実験がこれからという段階で、しかもそれによって有無を確かめよと提言しておきながら、他方でSTAPESとの先入観で前代未聞の不正だとし、遠藤、若山両氏を目一杯褒め称え、あげくにCDB解体まで提言してしまっているのですから、その支離滅裂さ自体がまずスキャンダルです。加えて、ネイチャー誌は、昨年のインタビューに応じた岸、中村両氏の発言として、次のような趣旨のものを紹介しています。
 
「改革委は、真実をどうせ言わないからと考え、当事者から話を聞こうとせずに、テレビの会見中継に拠って、推測だけで判断したと岸らは述べた。」
「中村委員は、竹市氏によるCDBの研究倫理教育は他に比較してかなり進んでいたと言い、岸、中村両氏は、『解体』という言葉は、CDBに終止符を打つというよりは、怒れるマスコミを喜ばせるための戦略的選択であった、と述べた。」
 
 これらの発言の具体的ニュアンスがどうであったのか、正確にはわかりませんが、しかし、解体提言は、その根拠となる実態にはなかったということを自ら認めているようなものですから(「竹市氏によるCDBの研究倫理教育は他に比較してかなり進んでいた」)、これもスキャンダルです。
 それに加えて、「前代未聞の不正」とまで述べたその「根拠」である遠藤氏の解析は、理研として委託した外部有識者の評価として「ES細胞と結論づけるには無理がある」ということだったにも拘らず、自己点検委、理研幹部は、その評価の存在を改革委提言前に把握していながら、敢えて隠して、点検委報告書にも言及しないまま、改革委に遠藤氏の主張をを不正の根拠として援用させ、解体提言までさせたのですから、これをスキャンダルと言わずして、何を言うのでしょうか?
 
 理研は、桂報告書でES細胞の混入で決着させ、モニタリング委にコンプライアンスのお墨付きを得ることがほぼ確実になった時点で(=すべてが終わった後に)、そっと、このことに触れたわけですが、公開すべきタイミングで公開しなかった、報告しなかったということは、重要な判断材料を「隠蔽した」といわざるを得ません。
 改革委の提言の根拠が、実は砂上の楼閣だったということです(遠藤氏の解析の外部評価+若山氏の解析間違い+実はCDBの研究倫理教育は進んでいた)。
 ここでも、自己点検委のかなりの「政治性」を強く感じさせます。公式の外部識者の報告書の存在を隠蔽したのですから、そこまでくると、「政治性」というよりも、「陰謀性」に近いでしょう。