理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

STAP論文撤回過程の前代未聞振り、異様さ―組織内行為であれば懲戒処分必至


 STAP細胞、幹細胞に関する2つの論文は撤回されたわけですが、その撤回過程は、それこそ前代未聞だったと感じます。最もおかしいと思うのは、共著者が撤回にサインした理由が、実際には間違っており、実際に、公表された撤回理由からははずされていたという点と、アーティクル論文のシニアオーサーでない若山氏が、決定権がない同論文についても、そのシニアオーサーであるヴァカンティ氏や他の共著者の預かり知らぬところで、勝手に撤回手続きを進めていたという、2点です。
 
 小保方氏の手記では、p190~197にかけて、論文撤回の顛末が詳しく書かれています。それによれば、米国側著者は、アーティクル論文の撤回には絶対反対だったとのことであり、『捏造の科学者』でも、笹井氏も須田記者の取材に答えて、ネイチャー側も、(少なくとも3月段階では)「撤回は今後の立証を困難とさせるので、くれぐれも慎重に」との意向を笹井氏に伝えていたことを紹介しています。
 それが米国側著者も含めて撤回に同意のやむなきに至ったのは、元々ネイチャー側の意向もあってレター論文だけでなく、アーティクル論文にもSTAP幹細胞のことがパーツとして盛り込まれてしまっていたために、幹細胞については、若山氏が齟齬ありと主張する以上、それを覆す手立てがないことから、謂わば、(本来アーティクル論文には必要なかった)幹細胞研究パーツと「無理心中」させられる形になってしまったことによります。
 もし、当初投稿した通りに、幹細胞研究パーツがアーティクル論文に含まれていなかったら、その撤回は、米国側著者のスタンスからして、ほぼなかったことでしょう。
 
 そのことだけでも、アーティクル論文の著者たちとすれば悔しさの極みだったところに、その撤回やむなしとして、撤回に同意した理由である「若山研では維持されたことがなかったマウス由来」という点が、実は覆っていたということですから、その胸中は察して余りあります。
 若山氏は、共著者間でまずは共有し検討されるべきマウスの系統の「齟齬」の話を、いきなりマスコミに流したり、「自分が自己点検委員会の資料を有しており、それが外部に明らかになれば、今後論文投稿ができなくなる」という奇異な台詞を、米国側共著者の「説得」材料に使ったり、論文撤回理由の訂正交渉を共著者には秘密裡に独断で行ったり、撤回理由がサインしたはずの撤回理由と異なることが明らかになった際に「自分がやったものではない」として他に責任転嫁しようとしたりと、すべてが異様過ぎます。
 
 サインした撤回理由と、実際に公表された撤回理由が食い違っているなどという事態など、一般社会でも考えられない話です。組織内において意思決定し、その理由として内部決裁した内容と、公表・実施された内容とが食い違っていたら、大問題です。それを主導した者は間違いなく懲戒処分です。その重さも、停職か免職に相当する行為でしょうし、損害によっては、背任罪等の刑事責任も問われる可能性さえあります。
 例として適当かどうかわかりませんが、例えば、自動車会社の経営陣が、車のリコールを決めた際の判断根拠となったデータが、実は間違っていて、実際はリコールまでは不要であったのに、データが間違いであることが隠されたまま、リコールしてしまったというような事例を想起すれば明らかでしょう。
 このSTAP論文2報の撤回が、そういう組織内のものではなかったために、そのような責任問題にならなかっただけのことです。
 
 法律的感覚からすれば、サインした撤回理由が実は間違っていたということは、意思表示に関する「動機の錯誤」(契約内容そのものではなく契約締結にいたった理由ないし前提事情に関して勘違いがあった場合)に類したものでしょうし、責任著者ではないアーティクル論文も含めて撤回交渉をしていたというのは、「表見代理」(本来権限のない代理人の行為)のようなものですし、決裁内容と実際の公表内容とが食い違っていたというのは、重大な手続き的瑕疵であり、背任的行為でしょう。
 
このように、手続き的には、文字通り「無茶苦茶」ですが、結果としては、「撤回された」という事実だけが一人歩きし、定着することになりました(早稲田大による博士号剥奪が、理由と過程の無法さが忘却されて、「剥奪された」という事実だけが一人歩きし定着しているのと同じです)。
世間では、小保方氏のSTAP細胞に不正があったから撤回されたのだろうという印象だけが残っているのでしょうが、しかし、あの公表された撤回理由をよく見ればわかるように、「真実性を疑いの念なく説明できない」というのは、「STAP幹細胞」の話であって、「STAP細胞」そのものの話ではありませんし、あとはケアレスミス的なものがかなり書いてあるだけです(若山氏が、これでは訂正で済んでしまう話と言ったという事項)。
「真実性を疑いの念なく説明できない」というのも、もともとは、削除された「若山研では決して維持されたことがないマウス由来」という点が、「遺伝背景の説明のつかない齟齬」の中核的意味だったはずですから、それが間違いだったので、その説明も宙に浮いてしまった形です。
 
○撤回理由の理研仮訳
○若山氏の撤回理由の修正過程についての説明
 
結局訂正された撤回理由は、「若山研では決して維持されたことがないマウス由来」という点が削除され、「これらの挿入された gfp遺伝子の部位は、若山研究室で維持されていたマウス及び ES 細胞のものと一致している。」という不可解な一文が残り(若山氏は削除洩れとの説明)、挿入部位とホモ・ヘテロの話だけになり、全体として決定的な理由によるものではないような印象を与えるものとなりました。
 
「著者らは、Article Letter にこれらの過誤が含まれたことを謝罪する。こうした複数の過誤は、本研究の全体としての信頼性を損ねるものである。また、STAP幹細胞に関する現象の真実性を疑いの念無く述べることができない。これらの現象を新たに検証する研究は現在進行中である。しかし、これまでに見いだされた過誤が多岐にわたることから、筆者らは Article Letter の両者を撤回することが妥当であると考える。」
 
ネイチャー誌が、撤回されても参考掲載しているのは、そういった一連の撤回過程の混乱が伝わったためではないかという気もするのですが、そうではなくてこれまでの撤回論文の扱いでもそういう参考掲載は続けられるというのが一般的相場なのでしょうか・・・?
 最近に至って、撤回されたはずの小保方氏の論文が引用されたり、Austin Smith氏の評価コメントのようなものが出てきたり、といったことは、海外の研究者が、この論文の「撤回」の意味合いが、欧米の研究者の相場と異なることを感じているからではないのでしょうか・・・?
 
 笹井氏が、須田記者に説明した中で、
 
「欧米の研究者にとって、根幹の部分で結論が間違っているのが見つかったか、世の中で一定の期間が過ぎても全く再現されないか、どちらかのケースに該当する場合以外、考えられないということだ――。」(『捏造の科学者』P93
 
 実際、Austin Smith氏の相澤論文に対するコメントの中に、
 
「2つの論文は最早、複数のエラーや不正行為が認知されて却下されたが、撤回通知はその結果が再現性の無いことを述べてはいないのであって、ただ単に「STAP幹細胞現象が真実であるか否かの疑念を抱かずに言うことはできない」と述べているだけである。」
(「ryobu-0123のブログ」の訳)
 
 と述べていることとも符合すると思います。
 
 いずれにしても、STAP論文の撤回手続きは、常軌を逸しているものであり、撤回理由形成過程も含めて、いずれ検証されるべきものだと思います。

(以下、追加)
 そして、「撤回された」ということを一人歩きさせて、「STAP細胞は捏造だったから撤回されたのだ」という流布のさせ方は公正ではないと思います。撤回によって、笹井氏らが述べたごとく、「仮説に戻った」ということですから、その仮説に関する研究がなされて別におかしい話ではないはずです。小保方氏の論文を引用していることを以て、非科学的であるかのように言うのはそれこそ科学的とは思えません。
 撤回理由に言う、「これらの現象を新たに検証する研究は現在進行中である」というのは、直接は理研の検証実験のことではありますが、その正式な実験結果報告には多分に留保がついているのであり、その結果をどう評価するかは各研究者の判断であると責任者の相澤氏が述べているわけですから、それを受けて、今も各地で小保方論文を参照し、検証する研究、実験が行われても何の不思議もないでしょう。