理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

BPOは、「NHK放送ガイドライン」も含めて直接の判断指針にし得る


912日に、テレビ朝日の「世田谷一家殺害事件特番への申立て」に関する委員会決定が公表されました。
 
 BPOの決定は、裁判と同様に、「解釈と判例」の積み重ねで行われる筋のものですから(=シングルスタンダードで判断される)、それぞれの決定で、どのような観点、論理等でどういう判断がなされたのか、という点は、近いうちに決定がなされるであろうSTAP細胞に関するNHKスペシャルについての判断を予測する上でも参考になると思われます。
 
 本件は、論点はただ一点だけです。「取材された者が、その考え方と違うことがわかっていはずにも関わらず、そのように受け取られるような演出を放送局がしたことは、人権侵害だ」という申立てを認めるかどうか、という点です。
 結論としては、取材者の周囲はともかく、広く社会的評価を低下させたとまではいえないから、人権侵害とまでは言えないが、その取材者の考えはわかっていたはずだから、それと異なるように受け止められかねない演出をしたのは、被害者家族への配慮の欠如とも併せて、放送倫理上重大な問題がある、というものでした。
 
 判断は、二つのパートに分かれます。
 
【人権侵害の有無
「申立人は、本件面談場面は、規制音・ナレーション・テロップなどを駆使したテレビ的技法による過剰な演出と恣意的な編集によって、申立人があたかも元捜査官の見立てに賛同したかのようにみられる内容で、申立人の名誉、自己決定権等の人権侵害があったと委員会に申し立てた。これに対し、テレビ朝日は、過剰な演出と恣意的な編集を否定し、本件面談場面は申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる内容ではないと反論した。」
「しかし、本件面談場面は、申立人が元捜査官の見立てに賛同したかのように視聴者に受け取られる可能性が強い内容だったとはいえ、申立人が自身の考えを変えたとまで視聴者に明確に認識されるものではなかったこと、さらにたとえ元捜査官の見立てに賛同したと受け取られたとしても、そのことが申立人の社会的評価の低下にただちにつながるとは言えないことなどから、本件放送は申立人の人権侵害には当たらないと委員会は判断した。」
「これらの批判や反発は申立人にごく近い人々からの反応や意見であって、申立人が元捜査官の見立てに賛同するという事実がただちに社会的評価の低下をもたらすとは言えないことを考えると、申立人の人権侵害があったとまでは言えないと委員会は判断した。」
 
【放送倫理上の問題】
「次に放送倫理上の問題について判断した。テレビ朝日は申立人に取材を依頼した時点で、申立人が事件をめぐる怨恨を否定し、悲しみからの再生をテーマにさまざまな活動を行っていることをよく知っていたという。また、番組に出演する際には、衝撃的な事件の被害者遺族ということへの配慮が必要なことも十分認識していたという。にもかかわらず、申立人の考えや生き方について誤解を招きかねないかたちで本件放送を制作したことになる。番組内容の告知としてきわめて不適切である新聞テレビ欄の表記とともに、「過度の演出や視聴者・聴取者に誤解を与える表現手法(中略)の濫用は避ける」、「取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る」とした「日本民間放送連盟報道指針」に照らして、本件放送は申立人に対する公正さと適切な配慮を著しく欠き、放送倫理上重大な問題があったと委員会は判断する。」
 

■本件決定で、参考になると感じた点は、三つあります。
 
1 社会的評価の低下(名誉棄損)の判断基準
一つは、社会的評価の低下に関して、申立人の周囲での批判を招いたというだけでは人権侵害に当たらないという判断で、逆に言えば、広く社会的評価を低下させるようなものであれば、人権侵害に当たるということのようです。
ただこれは、「今まで言っていた考え方と違う」かのように周囲に受け止められて摩擦が生じたということで、その考え方自体が社会的評価を低下させるわけではないという判断だろうと思います。
たしか他の決定では、ある会社でイジメの首謀者でストーカーをさせていたかのような再現ドラマを放送されため、人権侵害を申立てて認められた事案がありました(2016215日 フジテレビ「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」に関する委員会決定)。
 イジメ、ストーカーという社会的に非難されるべき行為の首謀者と思われたのでは、その人のことを世間一般は知らなくても、本人にとっては大変な辛い思いをすることになりますから、人権侵害が認められるのは当然でしょう。要は、社会的評価の内容や影響を個別に判断するということかと思います。
 
 NHKスペシャルの場合、少なくとも次の2点で、広く社会の関心の対象だった小保方氏の社会的評価を著しく低下させる放送内容がありました。

 ①「小保方氏が、留学生の作製したES細胞を盗んだ」かのように印象付ける構成。
②「小保方氏と笹井氏とが不適切な関係にあった」かのように印象付ける演出。
 
 これらの放送内容は、その後の石川氏の告発などにもつながりましたし、「人権侵害」が認められるのはまず間違いないように思います。「重大な放送倫理違反」であれば、当確と言えるでしょう。
 
2 「日本民間放送連盟 報道指針」の援用
 ちょっとびっくりしたのが、「重大な放送倫理違反」判断に際して、「日本民間放送連盟報道指針」を援用していたことです。
 
 ◎日本民間放送連盟 報道指針
 
 総論的な指針で、当たり前のことが書いてある心得程度の位置づけかと思っていましたが、実際にBPOの判断に際して、根拠法規として機能するとは思いませんでした。決定文を見る限りでは、申立人からもその主張において、同指針の援用はなかったようです。
 同指針は、民放局に関するものですが、NHKでこれに相当するのが、「NHK放送ガイドライン」です。
 
 
 これが判断根拠となり得るということになると、NHKスペシャルは、それはそれは「突っ込みどころ満載」ということになります。
 コピー&ペーストできないので、そのまま紹介できないのですが、たとえば、P5以下を見て下さい。「②公正公平」という項目の中に、意見が対立するものについては、公平に取り上げる、多角的に問題を明らかにする、等の指針が書かれています。
 あるいは、「③人権の尊重」で、人権は最優先されるべきであり、名誉侵害やプライバシー侵害にならないよう、取材・制作のあらゆる過程で細心の注意を払う、とあります。そしてその項目の中に、名誉権、プライバシー権、肖像権等について、個別に留意事項を記載しています。
 
 「4 取材・制作の基本ルール」(p10~)まで、放送自体の判断内容に含まれるのかはよくわかりませんが、もしこれも含めて判断されるのであれば、小保方氏へのパパラッチ取材は完全にアウトでしょう。
 「8 著作権」(p24~)の項目もあります。そこで、「③引用・時事の報道のための利用」という小項目がありますが、そこで紹介している「時事の報道のための利用」の事例は、画像や音のいわゆる「映り込み」の場合のみです。メール、実験ノート等のああいう形で取り上げ方が、これに該当し得るとは、ガイドライン上は想定されていないということでしょう。
 
3 事前の番組告知も含めた判断
 新聞のテレビ欄にどう書かれていたかも含めて、総合的に判断されています。STAP細胞問題に関するNHKスペシャルの場合、たしか、しばらく前から「仮題」となっていたものが、直前になって、正式タイトルが告知されたという流れだったかと思います。
 その当時、どういう告知内容だったか記憶が曖昧ですが、場合によっては、それも含めて判断され得るということは、念頭においておいていいかと思います。
 

 ■ 以上が、個別の気付きの点ですが、全体として改めて感じることは、裁判では当事者の主張の枠内だけで判断されますが、BPOの場合はそれに留まらず、委員自らが各種材料にも当たり、援用して判断するということです。これは、放送局側とすると恐いところで、申立人は弁護士ではなく、一般人であることがほとんどですから、何を主張すれば訴えが通るのかよくわからないままに申し立てている例も少なくないと思われます。そこを委員が補うという意味合いもあるのだろうと想像しています。
 そして、一審制ですから、ここで人権侵害、重大な放送倫理違反と判断されれば、放送局はそれを受け容れるほかなく、原因究明と再発防止策とを、一定期間内に報告公表しなければなりませんから、戦々兢々といったところでしょう。
 
 しかしそれにしても、論点がひとつだけであっても、実に30ページ以上に亘って、詳細を極める決定内容になっています。
 
STAP問題のNHKスぺシャルは、「人権侵害の限りを尽くした」と弁護団が述べたように、論点が多岐にわたりますから、どれだけのページ数を費やして判断内容を説明することになるのか、その点からも大きな関心対象です。もしかすると、反対意見はおそらくないと思いますが、補足意見はあり得るでしょうし、それも含めれば、かなり大部の決定文になる可能性もあるのかもしれません。
 
9月会合は、既に913日に開催されています。そこで、第2回起草委員会で練られた決定案について、どのように審理されているのか、決定時期の見通しは出ているのか、注目されるところです。もう間もなく、議事録が公表されるでしょうから、そこでその辺の様子が分かってくると思います。