理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【補足】所属機関の変更を伴う場合のMTAの締結の必要性について


前回記事のコメント欄で各種コメントをいただいていますので、補足的にご説明しておきたいと思います。
 
■「このままでは、窃盗で訴える」と理研が言ったという台詞について
「窃盗で訴える」という小保方氏の手記で伝聞として記載された台詞ですが、事務方のものとして十分にあり得ると思っています。私がその立場だったら、最後はそう言うでしょう。
もちろん、持って行き方には順番というものがありますし、物言いにもいろいろあります。最初はこういう切り出し方になります。
 
理研としても大変迂闊だったが、若山研の移転に伴い、本来MTAをきちんと結ばなくてはいけなかった。ご承知の通り、理研では15年前に遺伝子スパイ事件で研究員が逮捕・起訴されたという苦い経験があり、それを踏まえて各研究機関や大学等での研究成果の管理について総合科学技術会議で緊急提言がなされたことはご存じかと思う。以降、研究員の所属機関の変更に伴う研究試料の移管手続きはきちんとすることが求められ、理研としてもそのように対応してきた。しかし、今回それをおろそかにしてしまったのは本当に反省しているところである。
ご承知のように、STAP細胞問題が社会的に注目され、若山研が山梨大に移転したこと、そしてレター論文も含めて不正調査が始まったことから、研究試料の帰属を至急明らかにするとともに、移管手続きとしてのMTAをきちんと整備することが必要となっている。会計検査院との関係でも、もし検査対象となった場合に備えて急ぐ必要がある。
若山研移転から1年以上、MTAを締結せずに放置していたことが露見すれば、理研だけでなく山梨大の当局も移転先として確認義務があることから、双方が窮地に陥ってしまう。ついては、今の時期になってしまって大変申し訳ないが、事情をご理解いただき、至急、リストアップとMTAの締結に向けて作業にご協力いただきたい。」
 
普通は、こうやって依頼するでしょうし、依頼されたほうも、総合科学技術会議提言の趣旨等がわかっていれば、大変だとは思いつつも、協力すると思います。
ところが、詳細なリストアップは大変ですので、若山研もなかなか対応しようとしなかったのでしょう。それで焦っている理研は、次のように警告トーンに上げたのだろうと思います。
 
MTAの締結に向けた作業がはかばかしく進捗していないので、大変憂慮している。事情は先般来ご説明している通りであり、双方が窮地に立たされないようにするためには、大至急、作業を完了させる必要がある。このため、もし、×月×日までにリストを出していただけないようであれば、理研としても立場があるので、不本意ながら、貴大学、若山研を研究試料の窃盗で訴えざるを得なくなる。そのようなことはもとより本意ではないが、それだけ状況が差し迫っているということをどうかご理解いただきたい。」
 
 こういう台詞を一行で要約すれば、「このままでは窃盗で訴える」ということであり、十分にあり得る台詞です。彼らは独立行政法人であり国立大学法人なのですから、会計検査院の検査対象にもなるはずです。STAP細胞問題を契機に注目され、MTA未締結が検査院に指摘されたら、一巻の終わりです。内部監査が杜撰だったことも含めてアウトです。全体の価額がいくらになるのかわかりませんが、規程に即して研究成果として管理が求められている中で、それを怠っていたということを指摘されれば、担当者と幹部の責任問題に発展するでしょう。関係者は懲戒処分です。これは決して大げさな話ではありません。
 こういった事情を念頭におけば、「このままでは窃盗で訴える」という台詞を言ったとしても、違和感は特段ないと思います。
 
■次に、MTAの重要性についての補足です。
前回記事で述べた通り、本件は、配意を要するとされている「広く研究を進めるための必要な研究成果物の研究者間での提供」とは異なり、正に、総合科学技術会議が念頭においている研究者の所属機関の移動に伴う研究試料、データ等の移管に直接関わるものです。
前者の「広く研究を進めるための必要な研究成果物の研究者間での提供」にしても、必ず規程のどこかに手続きが定められているはずで、そこでは許容される場合の条件、方法等が規定されていると思います。もともとは、研究試料は組織のもののはずですから、それを外部に譲与する場合には、簡易ではあっても、必ず根拠と条件、手続きが必要のはずです。それによって、おそらく公開された研究成果に関する試料であればメールベースのやり取りでも可とするというようにして、研究者間の提供の慣行に配慮しているものと想像しています。それは、大元の権利帰属が明確ですし、公開されたものですからトラブルになることもまずないでしょう。
「論文で発表済みの細胞は、「ください」「あげます」というメールのやり取りの後、Fedexで送るだけ」「目的外に使用しない、再頒布しない、といった約束は、メール上で交わす」といった実例は、そういう研究者間の提供の慣行に配慮している方法だろうと思います。
 
問題になるのは、研究者が所属組織を移転する場合の、研究試料の移管手続きについてです。MTAは、所属組織の移転の場合であっても一切必要ないのだ」という人はさすがにいないと思いますし、実際に経験された方は、組織から求められたと言っておられるかと思います。
議論になっているのが、「未公開、未解析」の研究試料についてのMTA記載の要否だと理解しています。
「未公開、未解析」の研究試料についてのMTA記載は不要ということになってしまったら、様々な不都合が発生すると思います。


第一の問題は、権利の帰属が曖昧になり、所属組織が職務発明として承継、使用する権利が損なわれる可能性があることです。
「未公開、未解析」か否かを峻別する客観基準があるのかどうかよくわかりませんが、それは措くとしても、「未公開、未解析」であっても「研究成果」であることには変わりありません。
「未公開」の試料であれば、「公開」されたものよりも知財としての価値は高いかもしれません。それは、「発明」でなくとも、「ノウハウ」の一種として分類され、不正競争防止法上の要件(秘密管理性・非公知性)を充たすのであれば、「営業秘密」に該当し得るものです。
  
「(ノウハウとは)発明(特許)とは異なり内容上の制約はない。文書化されている必要はなく、有体物(試作品、動物・細胞等)でもよい。」
 
 未公開試料自体が「発明」として、特許出願をする価値があるものかもしれません。また「発明」でなくとも、「ノウハウ」「営業秘密」に該当するかもしれません。
 いずれにしても、それらは、職務発明規程により、その研究者の所属する組織に権利は帰属することになります。「未解析」の試料でも、そういう知財権につながる可能性があるものも含まれます。
 そうすると、本来、その研究機関での研究成果を職務発明(ノウハウも含まれます)としてその研究機関が権利として承継し使用することができたはずのものを、その手続きを経ることなく、「未公開、未解析」だからといって、MTAに載せずに移転してしまっては、権利の帰属が曖昧になってしまいます。
 
 第二の問題は、研究者による恣意的な取扱い、場合によっては重要試料の横領も可能になってしまうことです。
研究者が、この研究試料は「未公開、未解析」だと勝手に判断し、MTAに載せないまま移籍すると、その試料は、移籍先の組織の管理に入るかというと、移管されたという公式書類がないのですから移籍先組織として管理下に置く根拠がありません。したがって管理下に入りようがありません。その後、仮に公開、解析がなされた段階で突然管理下に入るというのは非常におかしな話です。
 その「未公開、未解析」の試料は、MTAに載せずとも持ち出して良いなどということになってしまったら、その試料はどの組織の管理下にも置かれなくなり、その研究者の恣意のままに扱われることになってしまいます。どこの誰に譲与しようと、誰の干渉、監督も受けることはありません。そのような事態は許されないのは言うまでもありません。そして、そのような事態を招くことが確実なMTAへの記載の省略は許されないということです。少なくとも建前としては・・・。
 
 実態として、研究試料といっても様々でしょうし、そのすべてを記載するのは大変だということはわからないでもありませんが、移籍する際に持っていく以上は、それなりの研究上の価値があると思うからこそ持っていくのでしょう。ゴミのようなもので無価値だと思えば、ジャンクとして残していくと思います。研究試料はその研究が行われた組織の管理下にあるというのが大原則です。その管理を離れるのであれば、次の移籍先組織の管理下に入るように書類を整える必要があります。それは組織の財産管理の基本です。
以上の理由から、「研究成果」である研究試料はすべてMTAに記載しなければならないということは建前としては崩すことはできないはずです。
 
 これらのMTAの作製・締結作業は、もちろん、研究者の信用ベースの上に行われるということはその通りです。そういう手続き類は何でもそうで、書類が正しいかどうかをいちいち裏取りチェックしていては、世の中とても回っていきません。
 ですから、その記載内容は信用した上で、移管するわけですが、もし後に、元の組織下で作製されたはずの研究試料が、MTAに載っていないままに、移籍先又は別の組織で見つかったということになれば、それは研究者だけでなく、所属組織にも説明責任が生じ、ケースによっては刑事面も含めてペナルティを受けることになります。
 いざとなれば、そういう事態になるということを十分念頭において、信頼を裏切ることにならないように誠実に手続きを遂行するということに尽きます。
 
 以上のご説明で、「一研究者~」ブログのコメント欄で実体験のある研究者の皆さんが言っておられる「(公開された研究成果に関する試料の研究者間のやりとりなど)後に成果物の帰属等で問題が生じる可能性がない限り、MTAを結ぶ必要がない」というご説明と乖離したことを言っているわけではないということがご理解いただけると思います。
ごく一部の方が、所属機関の変更の場合であっても、「研究試料で「未公開、未解析」のものは、MTAに記載しなくてもいい」と言っておられるようですが、それを支持している方はいないと思いますし、上記のご説明の通り、「後に成果物の帰属等で問題が生じる可能性」があることは確実である以上、そのような議論はあり得ないということもご理解いただけると思います。
 
※ Li氏の細胞4箱は、「未解析」だとのことですが、もし、そのうちの3箱が若山研に現在あり、MTAに掲載されていなかったとすれば、それは大きな問題です。
 
 偉そうな言い方で申し訳ありませんが、こういう話は、研究と密接不可分の権利関係を明確にし、適切な事務管理を行わなければならない責任を負う事務部門の常識で判断され、処理されるべき筋合いのものです。観念論ではなく、法律論です。もし研究者の方で、その所属機関が変わる場合であっても、MTAは不要だと思っている方がおられるのであれば、その「常識」は間違っていると言わざるを得ません。
理研研究員遺伝子スパイ事件を受けた総合科学技術会議の提言は、それまでの研究者、研究機関の「常識」に冷水を浴びせ、然るべくきちんと手続きを整備して、問題が生じないようにせよということだったと思います。それが15年経って、その当時の「常識」に戻ってしまいつつある研究者の方がいるのであれば、由々しきことだと思います。