理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

「理研研究員遺伝子産業スパイ事件」を踏まえたMTA締結の重要性


 研究試料の移譲に関するMTAの締結について、DORAさんが書いておられましたが、私も少し別の角度から書いてみたいと思います。


 理研当局が、若山氏に対して「手続きをしなければ窃盗で訴える」と警告したという、『あの日』で記述された点は、2001年に発生し日本の科学界に激震が走った「理研研究員遺伝子産業スパイ事件」を踏まえたものだろうと私は理解しています。
 
 同事件は、2001年に米国の医療機関に勤務していた2人の理研研究員が、研究の過程でできた組み換え用遺伝子や細胞の培養液などの研究材料を許可なく持ち出したとして、経済スパイ法違反で、米国司法当局に逮捕・起訴されたものです。以下のサイト等に当時の報道が掲載されています。
 
 この事件を踏まえて、総合科学技術会議は、各研究機関、大学における知財関係の手続きの整備状況を調査し、十分に整備されていない実態を踏まえて審議を重ね、起訴から半年後の200112月に提言を行っています。
 
「研究機関における知的財産権等研究成果の取扱いについて(意見)」(平成131225日)
 
 そこでは、研究成果の管理等について、次のように書かれています。
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1. 提言の趣旨
樹是言は、我が田形E開発にかかわる闘剰幾関・開系者の全てが、研究成果の取扱いの重要性と緊急なルール整備の必要性を認識し、関係府省・研究機関等において、相互に連携を図りつつ、これについての必要な対策を早急に講じることを求めるものである。
 
2.提言
(1) 研究成果の管理等について
 (略知財権関係)
研済機関等においては、当該機関での研究の過程で作成・取得された研究データ・情報、研究試料、研究材料、実験装置、試作品その他の研究成果物の取扱いについて、一定のルールを定める。この際、広く研究を進めるため、必要な研究成果物を研究者間で提供する場合と、研究成果物を民間企業等に提供し商業的に利用する場合の双方があることに配意する必要がある。
研究機関等においては、前項の研究成果等の取扱いに関する責任体制を明確にし、譲渡等の手続きを定め、適切な管理・保管を行う。特に、研究者の雇用の際、持ち込む研究成果等に関し前所属機関等からの移転手続きを確認するなど、適正に対応する。
 
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 ここで言う「研究成果」ですが、知財権に関わるものだけでなく、「研究データ・情報」、「研究試料・研究材料」等も広く含まれ、解析データ、遺伝子、細胞、遺伝子改変マウス、微生物等もその中に例示されています。
 
 理研から山梨大への細胞の移管に関して締結されているMTAについて、その必要性や議論について疑問視する向きもあるようですが、「広く研究を進めるための必要な研究成果物の研究者間での提供」とは異なり、正に、総合科学技術会議が念頭においている研究者の所属機関の移動に伴う研究試料、データ等の移管に直接関わるものです。
 
 理研も、15年前の事件の当事者として、厳しく関係規程を策定し運用している(せざるを得なかった)ということでしょう。・・・というか、今回のSTAP細胞事件が勃発し、当然、STAP細胞研究に関する研究試料等の帰属が問題になってくるのは、理研当局とすれば想像できたと思います。ところが実態を見てみれば、移管手続きが十分なされていないとなると、理研当局とすれば焦ったことでしょう。
 もし、移管手続きの不十分さが露呈したら、15年前の理研研究員遺伝子スパイ事件で日本の科学界を揺るがせたことの教訓を、当事者なのに忘れたのか?!ということになってしまいます。
ですから、遅ればせながらであっても、精緻な移管手続きを完了させなければならない!というのが理研当局の差し迫った心情であったと想像されます(もちろん、不正調査の関係で、ハーバードとの帰属関係もはっきりさせなければならないという事情もあります)。


 このような事情ですので、理研当局にとって、山梨大に若山研が移転するに際して、両組織間での研究試料の移管に関わるMTAの締結は必須事項であり、面倒であっても、そこにすべて記載しなければならない性格のものである、と理解されたはずです。
 だからこそ、なかなか動こうとしない若山氏に対して焦燥を募らせ、「手続きをしなければ窃盗で訴える」と強く警告したのでしょう(ちなみに、受入側である山梨大当局は、当初、その移管手続きについて、どう認識し確認したのでしょうか・・・?)
 そして、その結果、詳細な内容のMTAが出来上がったということでしょう。


こうやって見てくると、若山氏が、理研に強く警告されるまでMTAの締結手続きをしようとしなかったことと、手続きを踏まずに個人の裁量で、「第三者機関」やNHKSTAP幹細胞を渡したということとは、共通するところがあるように感じます。研究試料の管理についての基本的センスが欠けているということでしょう。
 そのNHKから更に東大に細胞が渡ったというのは、厳しい管理体制の下で管理すべし、という提言の世界からは、およそ想像しづらいところです。
 実験ノートが、リークをし続けた理研幹部?から、NHKスペシャルの取材陣に渡った(もしかするとその先、分子生物学会の研究者たちにも見せられた??)ことも、同様の想像外の事態でしょう。


 そして、「MTAはそんな厳密なものではない」「MTAのことを事更に取り上げるのはおかしい」等と述べる研究者の皆さんの感覚と、総合科学技術会議の緊急提言の問題意識や内容との乖離は、どう評価したらいいのでしょうか・・・
 本件は、提言が配意する必要があるとした「広く研究を進めるため、必要な研究成果物を研究者間で提供する場合」ではなく、提言の主要対象である「研究者の所属機関の移転に伴う研究成果の移転」の局面の問題ですから、厳密なものではないはずはないと思うのですが・・・。

 少々、想像が飛躍するかもしれませんが、小保方氏の手記に、あるはずの研究試料がなくなっていたという話が書かれています。真偽はわかりませんが、もし米国で同様のことが起これば、経済スパイ事件に発展する話ではないでしょうか。
 もし、その消えた試料が、ハーバード帰属のものであれば、ハーバード側が、被疑者不詳の窃盗容疑で告発する可能性もあり得るということになります。もう今となっては捜査も難しいとは思いますが・・・。

■なお、留学生だったLi氏が、4つあったうちの3つのBoxは若山研にあると断言していましたが、それが本当に若山研に存在し、しかしMTAに記載されていないとすれば、大きな問題となってきます。
 実際のところはどうなのでしょう・・・??

 そして、精緻な内容とされているはずの中で、小保方氏の冷凍庫から見つかったという一箱のLi氏細胞は記載されていないということは、どう評価すればいいのでしょう?(若山研にとっては、Li氏の理解とは異なり、ジャンク細胞扱いで残してきたものだった・・・ということにならないでしょうか?)

 
ちなみに、この総合科学技術会議提言において、


(2) 研究契約における研究成果の取扱いについて締結する契約内容については、研究成果の取扱いを含め、案件の性格等を踏まえ、両当事者の協議に従い、柔軟に対応するものとする。
研究機関等が締結する共同研究等の契約において、研究成果の帰属、特許等実施に当たっての取扱い、守秘義務等に関し、明確に定めることが望ましい。」


 ということも述べられています。


 以前にも述べましたが、STAP細胞に関する研究は、理研ハーバード大との共同研究契約に基づくものであり、小保方氏はそれに基づき派遣されてきた客員研究員です。
 理研の共同研究規程にもありますが、同契約において、知財権やその他の研究成果の帰属を定めることになっています。これに従って、実験ノートやキメラマウス、胎盤切片等の研究試料はハーバード大の帰属になっているものと思われます。
 桂調査委は、この極めて重要な点を曖昧にし、説明を回避したまま、また、多くの整合しない材料があるにも関わらず、「ES細胞混入」との結論を出しました。
 
 また、研究者やマスコミは、こういう構図を知ってか知らずか、ワンパターンで、「小保方氏が、生データや実験ノートを公開し説明するのが先決だ」と繰り返しています。会見で小保方氏が、「知財権の関係で、自分の一存では公開できないことをご理解下さい」と述べているのに、その点の裏付け取材もしようとしませんでしたし、今に至るもしていません。桂委員長に、「なぜキメラマウスや胎盤切片を調べることができなかったのか?」という基本中の基本の質問さえしませんでした。
 
 桂調査委の強引な結論の出し方といい、構図の理解の回避といい、MTAの重要性を軽視する動きといい、どれをとっても(本当はわかっているであろうに、それを回避する点で)異様に感じます。

【補足】
 書きあげてアップした後、「一研究者~」ブログのコメント欄を見たら、「愚民」さんが、同趣旨のことを既にコンパクトに指摘しておられました。本記事はその補足としてお読みください。(苦笑)