理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【補足2】研究試料を外部に提供・受け入れる場合にはMTA締結が必要と規程で定められている

 
 MTAについて、「がんばれ小保方晴子先生!」のサイトで、島野浩一さんのコメントを拝見して気が付きましたが、MTAでは、帰属(所有権)は、元の所属機関にあり、その貸与というか使用権を与えるという形を取るのが一般的なのですね。たしかに、情報公開された理研と山梨大と間のMTAをよく見ると、「理研に帰属し」と書いてありました。「提供」という言葉で勘違いしてしまいました。失礼しました。
 
 それで、この際なのでもう少し調べてみました。「研究成果物移転契約」や「研究成果有体物取扱規程」で検索すると、文科省ガイドラインや各大学等の規程がヒットします。
 文科省ガイドラインは、既に触れた理研遺伝子スパイ事件を踏まえた総合科学技術会議の提言を受けて策定されたものです。
 
 国立大学時代の平成14年に策定されたものなので、平成16年に移行した国立大学法人の場合とは異なりますので、読んでいて少し違和感がありますが、趣旨はわかります。他に提供する場合の雛型となる承諾書例も掲載されています。
 ガイドラインの趣旨は、MTAの必要性は謳いつつも、研究の円滑な実施のために簡素化された手続きも認めるということかと思います。
 
 それで、根拠規程となる「研究成果有体物取扱規程」について、理研と山梨大の規程を見ようと思ってそれぞれのHPから検索すると、なぜか双方ともヒットしません。MTA絡みで注目されているのでいったん非公開にでもしてあるのでしょうか・・・。
 それで、Googleの検索でヒットした上位大学からざっと10校ほど規程をみていくと、表現はそれぞれでバリエーションがかなりありますが、骨格は、当たり前ですがほぼ共通です。


 他に提供する場合、受け入れる場合の両方が書かれていますが、とりあえず、提供する場合についての共通要素をピックアップしてみます。
 
 ①その研究機関で教職員が職務上行った研究過程で得られた研究試料は、そ
  の機関に帰属する。
  教職員以外の学生、外来研究員、研修生、共同研究者による研究成果物の扱いは、組織によって異なる。理研は検索できないので不明。類似の産総研は、すべて含めて適用。
他に提供するときは、部門長の承認を得た上で、契約を締結すること(契約書その他の書面)。ただし、公開されていて、問題が生じないことが明らかな場合はそれによらずともよい。
必要に応じて、その研究試料の作製者等関係者の了解を得る。
④提供(譲渡、貸与等)によって、管理は相手に移る(その意味で「移管」)。
⑤適切かつ厳重な管理義務。
他に研究・教育用途で提供する場合は原則無償で、産業用途の場合は有償とする。
退職後の無断持ち出し禁止。
退職後も含めた秘密保持義務。
提供したものによる知財権発生等の場合は双方で協議/使用可とする 等
MTAの内容として)目的外使用の禁止/第三者への無断提供の禁止。
 
昨日の記事を書く前に、きちんと根拠規程となる「研究成果有体物取扱規程」に当たっておけばよかったです。昨日書き連ねたことは当たり前過ぎることで、論じるまでもありませんでした。
要約を繰り返していえば、
 
「公開されたもので問題が生じない場合等には簡素な手続きで構わないが、それらの場合を除き、MTAの締結は必須。」
 
ということでしょう。「未公開・未解析」の研究試料は、MTA締結不要という話などどこにも根拠はありませんし、昨日書いた記事の理由から、常識的に考えてあり得ないことです。ご自分も含め周囲にそれに賛同する研究者の方がいて実際にそうしているのであれば、これらの規程の存在及びコンプライアンスに関する認識はどういうものなのでしょうか??
 
 
■さて、こうやってきちんと、他に提供する場合のルールが決められている中で、STAP細胞問題に関して生じた事例はどういうことになるのか、考えてみます。
 
(1)STAP細胞研究自体は、理研ハーバード大の共同研究なので、得られた研究試料は、共同研究協定に従って帰属が決まる。いずれにしても山梨大には帰属しない。
(2)Li氏の立場は「留学生」のようだが、理研の規程が産総研と同様に、外来研究員、研修生等も含めて適用されるのであれば、4つの細胞Boxは、理研の若山研での研究員としての研究成果なので、理研に帰属する(規程内容次第)。
(3)若山氏の、以下の行動は大きな問題。
①当初MTAを結ばずに、STAP細胞関連及びそれ以外の研究試料を山梨大に 持ち出したこと。
②小保方氏作製の研究試料を、小保方氏の了解を取らずに持ち出したとすればその行為。
③「第三者機関」(放医研)に、解析のために(少なくとも当初)無断で渡した行為。
NHK記者に渡した行為(NHKから更に東大に解析のために渡った)。
 
 当局である理研も山梨大も認識が甘かったことはもちろんですが、若山氏も、10年間理研で研究室を構えてきて、そこでの研究成果については、取扱規程の存在や内容を認識しないまま、個人商店的感覚で、自分のものと考えて、移転時に手続きを取ることなく持ち出し、外部にも渡してしまった・・・ということかと思います。

※ 細かい点で恐縮ですが、一部の機関で、どうも取扱規程やMTAの文言が妙で、日本語として??と感じる部分があります。
 「提供」の定義として、「譲渡又は貸与」と書いているところもあります。理研の他のMTAの雛型をみると、「譲与」という用語を使っています(譲渡+貸与)。
 そういう定義により相手に「提供」する一方で、「帰属」は提供元の機関にあるというのは、用語として混乱している印象があります。「帰属」は、所有権の話ですが、「譲渡」も「権利・財産・法律上の地位を有償・無償を問わず譲り渡すこと」ということですから、所有権の移転も含まれる用語のはずです。「帰属は変わりないが、譲渡する」というのはどういう日本語??と思ってしまいます。 
 理研の取扱規程は、検索で出てきませんが、情報公開異議申立て関係の決定書で垣間見ると、「使用する権利を与える」と定義されているそうなので、それであれば明確です。

 どうも、文科省ガイドラインも含めて日本語がおかしいところがあって、重いペナルティを課する「研究不正」の範囲を、STAP細胞問題の件を契機に重過失も含めることにしたのはいいのですが、例の「捏造」「改竄」の定義自体を、過失を含むという書き方にしてしまったので、日本語として完全におかしくなっています。捏造や改竄は故意に決まっていますから、「過失による捏造・改竄」などという言葉は形容矛盾です。それがそのまま有名国立大学の規程で使われているケースがかなりあります。
STAP細胞事件の思わぬ後遺症のひとつだと思います。

【再補足1】(2016.8.6)
 もうこの辺でやめておきますが、より明確にするために再度の補足を書いておきます。議論しているのは、有体物である財産の管理の問題です。その財産はその研究者の所属する組織に帰属します(「所有権」があります)。公開・未公開、解析済み・未解析を問いません。
 財産である以上、それを他者に使わせる(「貸与する」「占有させる」等)場合には、いつ、誰が、どこに、どういう目的で使うために渡すのかを、組織の管理当局は把握して管理しなければなりません。有体物としての物品管理的面、知的財産の面も含めての管理です。
 その際、その有体物の内容、性格にもいろいろありますから、公開済みなどの比較的問題の生じにくいものについては、手続きを簡易にし、研究者間でのメール等でのやりとりで済ませ、あとは事後報告や届出をさせるという方法もあれば、そもそも提供自体の可否を当局(部門長等)が事前判断した上で、可の場合には契約を書面で締結することを義務付けるという場合もあるということです。

 そのように相手方への提供手続きについては、ケースによって簡易なものから厳格なもの(文書によるMTAの締結)までいろいろあるとしても、大事なことは、いずれの場合であっても、

 ①その有体物についての権利の変動状況が、対外的に明確になるような手続きでなければならないこと、
 ②管理当局が、その提供の事実と内容(=権利の変動の状況)とを把握し管理できるようになっていなければならないこと、

 ということです。 ①の手法として、メールから契約書締結まであるように、②の手段としても、事前承認、事前報告、事後報告、届出等、様々あるということです。
 提供相手との間、所属機関の中で、そういった一連の定められた手続き等を踏むことや、提供相手との間での無断での目的外使用や第三者提供等の禁止などの順守など、研究者間、研究機関間、機関内部の信頼関係においてなされるものであるというのはその通りですが、規程に基づき、上記2点がきちんと担保されるような手続きを踏まなければ、アウトですということを繰り返し述べているものです。

 MTAの手続きまでが必要かどうかは、その所属機関と提供先機関の「研究成果有体物取扱規程」に即して決まる話です。「規程で定められた手続きをきちんと踏んでいますか?」ということが問題の所在です。
 「MTAに記載されていないからといって問題だとは限らない」ということであれば、「上記の2点を担保する手続きはいつどのように取られたのですか? その手続きは、規程に合致したものなのですか?」
 という質問に対して明快に答えられるものでなければなりません。少なくとも、「未公開、未解析だから不要なのだ」ということは、あり得ないことは間違いありません。
そういう権利関係の明確化の要請からして考えられないことを規程に定めている研究機関などないでしょう。

 なお、ざっと10機関ほどの規程を見る限りでは、公開されたもので問題が生じないことが明らかな場合以外は、契約書(承認書、同意書等表現は様々)を結ぶことを義務付けているのがだいたいの相場だと読みとりました。それを義務付けてはいるが、内部の管理部門へは事後報告、届出でもいいとしている機関もあるようです。
 
【再補足2】
 Li氏の細胞に関して補足しますと、島野浩一さんのコメントは、それが理研の帰属とは限らないかもしれないという可能性を指摘されているものと理解しました。
Li氏は「留学生」と報じられていましたが、実際のステータスがどういうものかわからず(大学院生扱い?雇用関係にない海外研究者扱い??)、また理研の規程がわからないので、断定できないのではないか、ということかと思います(少なくとも共同研究協定に基づくものではないと思われます)。
 その規程上の扱いは組織によって異なるようですで、類似した性格の産総研のように、それらの者であっても、原則として教職員と同じ扱いにするものもありますし、京大などのように、規程の適用を本人の同意に係らしめるものもあります。そもそも学生については規定されていない場合もあります。
 ですから、Li氏の当時のステータスと規程の内容がわからないことには断定的なことは言えず、もし、理研の帰属にならないのであれば、理研と山梨大の間でのMTAの対象にならないのではないか、ということかと思います。
 ただ、もしLi氏に帰属するものであれば、若山研が委託を受けて管理するのはいいとして、それを山梨大が受け入れる場合には、別途の手続きが必要になってくるように思われます。山梨大として、受け入れる場合も含めて「研究成果有体物取扱規程」に手続きが規定されていますから(そういう受入れ局面がまさに、理研遺伝子スパイ事件で理研が巻き込まれたケースでもあったわけです)、それに即した手続きをしているということなのかもしれません。
 
 事実関係、権利関係を明確にするためには、まず、理研及び山梨大の「研究成果有体物取扱規程」にはどう書かれているのか?を確認することが先決ですね(なぜ、両組織の規程はネットでヒットしないようになっているのでしょう?)
 その上で、(産総研のように)学生、雇用関係にない海外研究者であっても、規程が適用されるのであれば、Li氏細胞はMTAに記載されなければならないということになります。それらが適用外であれば、今度は、若山研との管理委託関係がどういうものか、山梨大での受け入れ手続きがどのようになされたのか?が確認される必要があります。
 Li氏が言うには、3箱は山梨大の若山研に移ったというのですから、もしLi氏自身に帰属するものだという理解であれば、若山研との管理委託関係はどういうものなのか? 移管先のがわかれば、事実関係、権利関係がより明確になるかと思います。また、小保方氏の冷凍庫で見つかった1箱は、現在どういう扱いになっているのでしょうか?

 ただ、その場合でも、神戸地検の「事件の発生自体疑わしい」との判断がなされたことは厳然たる事実であり、いずれにしても、小保方氏には関係のないことであることは間違いありません。
 問題は、若山氏、理研、山梨大の規程遵守のコンプライアンスに関する問題ということかと思います。