理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

8-2 理研・自己点検委への違和感、怪しさ(8)―疑問⑦CDBの運営・組織改革提言にまで至るのは唐突で飛躍しすぎ。

(続き)
 
 自己点検委報告書の構成は、次のようになっています。「Ⅰ」で検証している内容は、秘密主義、採用手続き・審査の不十分さ、囲い込み、第三者のチェック・関与の不十分さ等の指摘ですが、それらは既に述べたように、牽強付会なものであり、ともかく何か問題ありとしないと、潜在目的であるその後の「Ⅱ」「Ⅲ」の提言ができないから、無理無理「問題点」として提起し、筋として考えにくい組織としての責任を問うた、というものでした。
 
検証すべき各項目の概要と検証
1.STAP 問題発生に至る経緯の検証結果
2.STAP 論文の作成に関する検証
3.小保方氏の研究ユニットリーダー採用
4.報道発表に関する検証
 
検証結果を踏まえた提言
1.人事制度の在り方、PI 採用に関する改善策
2.PI 教育の強化
3.研究の健全性の向上
4.広報・報道発表の在り方
 
IIICDB の運営、組織改革に関する提案
.CDB の運営体制及びガバナンスの再構築
.CDB の研究組織の再構築
 
 
 本当は、「Ⅰ」で提起した「問題点」は、実際にはたいした問題ではないことは、点検委自身わかっていたと思います。それは、次の提言の記述を読めば推測できます。
 「採用人事は概ね順調に推移してきた」というのが基本認識であり、小保方氏の採用時・採用後において、公開セミナー等を省いたことについても、「理解はできる」としていますし、「当該研究者が秘密性の高い研究を行っていても、非公開の面接セミナーに加えて、秘密保持に配慮した公開セミナーや異なる主題による公開セミナーを行うことを原則とし」という提言からも、「研究を秘密扱いしたこと自体はやむなし」という認識に立っていることがわかります。
 
「(2)人事制度の明文化、公平性・透明性・客観性の担保
CDB PI 採用プロセスによる採用人事自体はおおむね順調に機能してきた。とはいえ、理事長へ推薦するまでのCDB 内の人事プロセスは明文化されておらず、運営が慣例に基づいて行われてきたことは、採用時のリスク管理及び客観性・公平性担保の観点から問題であった。基本原則からの逸脱を未然に防ぐために、どのような場合でも人事システムとして公平性、透明性、客観性を担保する仕組みを構築すべきである。以下に具体案を提案する。
①通常のPI 公募や審査の手続は慣例として定着していたが、規定や人事委員会の申合せとして十分に明文化されていない。また、公開セミナーを省く場合等、例外措置に関する手続も定まっていない。(中略)
⑤当該研究者が秘密性の高い研究を行っていても、非公開の面接セミナーに加えて、秘密保持に配慮した公開セミナーや異なる主題による公開セミナーを行うことを原則とし、第三者の視点で候補者を評価する機会を設けるべきである。」
 
 「採用時のリスク管理及び客観性・公平性担保の観点から問題であった」といいますが、「リスク」や「客観性」については、既に述べた通り、山ほど客観的材料があり、理研自らが小保方氏の研究の成果を、採用手続きの半年以上前に特許出願しているのですから、その点について問題などありません。「公平性」という点についても、コネ採用ではなく、他の候補者と同じ時期、同じ方式で選考を受けて通ったのですから、問題にはなり得ません。公開セミナーを開かなかったという点を捉えて公平性に問題があるというのであれば、提言に例として挙げている「秘密保持に配慮した公開セミナー」とは具体的にどういうものなのか説明すべきでしょう。そちらのほうが、秘密漏洩、知財喪失という観点から、はるかにハイリスクです。
 
 以上のように、「Ⅰ」での検証は、全く的外れであり、大きな問題として提起し得ないものだと思いますし、「Ⅱ」で提言していることも、(人事委員会のメンバー構成に関する言及を除けば)「慣例でやってきたことを明文化して、それを徹底すべき」とか、「できる限り客観性、公平性を担保すべき」「PI教育・支援を充実すべき」といった、ごく当たり前のことを述べているにすぎません。
 したがって、せいぜい、「Ⅱ」の留意事項を、確認的に示し、注意喚起をするということで、完結する類いのものでした。しかし、そこから、奪権を念頭において、「Ⅲ」にあるような運営・組織の問題にまで無理矢理飛躍させてしまったところに、本報告書の大きな問題があります。
 何が問題かと言えば、大きく分ければ次の2点だと思います。
 
①CDBの運営のシステム、実績、評価は優れたものであり、点検委自体もそれは認
 めているにもかかわらず、STAP問題にかこつけて、敢えて問題視しようとしているこ
 と。
②提言している内容はかえって改悪であり、無責任体制につながる時代錯誤的なも
 のであること。
 
■ 第一点目は、報告書の「Ⅲ」の提言内容をみればわかります。現行のCDBのシステムが極めて優れており、独立・自由の研究環境と優れた支援システムがあることにより、ハイレベルの業績を蓄積し、若い人材も積極的に登用され、大学にも教授職の人材を供給してきた、と高く評価しているのです。そして、それらは慣例で運営されている部分もあるので明文化して再確認して徹底せよ、今まで以上に相互交流・批判・情報シェアをすべきである、といっているわけです。
 それであれば、運営・組織に改革など必要ないはずですが、それでも目指すシナリオでは、何としても「問題あり」としなければならないので、ワンパターンの「秘密主義(情報シェアの欠如)+採用手続きに問題+囲い込み」という、本来問題でもなんでもないことを(秘密性確保の必要性は「理解できる」として認めているのですから)問題として提起して、改革が必要だとして、(初めからそれが目的であったであろう)「改革」案を提案しているというわけです。


 運営・組織の改革を提言するのであれば、「現行システムが時代遅れで,他と比べて環境も劣っており、業績も低迷状態で、長期政権の老害で研究者の志気も低下してきていて、もうこのままではじり貧になるから、体制、組織の思い切った改革が必要だ!」という実態があっての改革提言になると普通は思うのですが、この点検委の報告書では、「CDBのシステム、パフォーマンスは素晴らしく、これは是非維持していかなければならない!センター長による強力な戦略的リーダーシップが必要だ!」と実質的に述べ高く評価しているにも拘わらず、唐突に、それに逆行するような、時代錯誤的な「改革」提案をしている形です。
 以下の記述をみれば、点検委がいかに現行システムを高く評価しているかがわかるでしょう。
 
 CDB は独自の発想に基づく研究、優れた若手研究者の抜擢と育成、自由でオープンなディスカッション、相互批判等を基本理念として運営することにより、高い研究レベルを維持し、優れた業績を蓄積してきた。一方で、発足以来、順調に進んできたこともあって、CDB PI 人事制度と育成制度の整備及び不測の事態に対するリスク管理体制の整備に遅れが認められ、それらがSTAP 問題の遠因となった。科学的インパクトの強い課題に挑む若い研究者に研究の機会を提供することは科学の発展にとって重要なことであるが、STAP 研究のような秘密性を要した研究においても、研究内容の科学的議論を行う機会を確保し、またメンターによる研究倫理を含めた多面的な研修・研さんのシステムを構築することが不可欠であった。」
 
「1.人事制度の在り方、PI 採用に関する改善策
(1)人事制度、基本理念の再確認
CDB においては、上記Ⅰ3.(1)のとおりの採用システムによって、独創性の高い、若いPIを抜擢してきた。CDB の設立から約14 年の間、 上記の仕組みによってPI 採用人事の理念や手順が効果的であり、現に、CDB には多くの優れた研究者が集結し、我が国の研究機関の中でも高い評価を得てきた。したがって、CDB が確立してきた理念及び手順を再確認し、ルールとしてその徹底を図る仕組みを構築することが重要である。
(2)人事制度の明文化、公平性・透明性・客観性の担保
CDB PI 採用プロセスによる採用人事自体はおおむね順調に機能してきた。とはいえ、理事長へ推薦するまでのCDB 内の人事プロセスは明文化されておらず、運営が慣例に基づいて行われてきたことは、採用時のリスク管理及び客観性・公平性担保の観点から問題であった。基本原則からの逸脱を未然に防ぐために、どのような場合でも人事システムとして公平性、透明性、客観性を担保する仕組みを構築すべきである。以下に具体案を提案する。」
 
「1.CDB の運営体制及びガバナンスの再構築
CDB 2000 4 月発足以来、竹市センター長の下、2013 3 月末に2 名の副センター長(GD)が退任するまで、2005 年に1名のGD が交代した以外、同じGD メンバーで運営されてきた。この体制は意思の疎通、科学的評価における観点の共有、信頼関係の醸成を促し、円滑な運営をもたらした。一方、この10 年余の間に、運営主体を構成するメンバーは、それぞれが担当するマネージメント領域を牽引する立場となり、このことがCDB の運営における専門化、分業化をもたらし、同時に醸成された相互信頼意識が、「彼が言うことなら間違いない」、 「彼に任せておけば安心」との無意識のお任せ、寄り掛かりをもたらし、又はその結果としての独善を拡大させてきた可能性がある。
 
「2.CDB の研究組織の再構築
CDB の研究組織の基本構成の特徴はセンター長の下にGDPLTLRUL のチームが並列するフラットな構造である。この構造の下でチームの独立性、自由度の高い交流、オープンな情報交換が担保されてきた。また、CDB にはレベルの高い支援部門があり、最先端の解析技術を提供してきた。その結果としておおむね各チームの研究は健全かつ順調に発展してきており、現に、これまでに在籍した多くのチームリーダーが大学で教授職を得ている。
CDB のような戦略的な運営が求められる研究組織においては、センター長の強いリーダーシップの下で組織運営が一体的に行われる必要があり、外部の視点を入れてセンター長を支援、補佐する機能を強化する必要がある。研究グループの組立てについては、二つの視点からの改革が必要である。第1は、これまで以上に活発な相互交流、相互批判、オープンな情報交換を促す体制を構築することである。そのために、よりシンプルでフラットな組織構築の実現を目指すべきであり、分野横断的な交流の促進にも注意を払う必要がある。また、センター長戦略プログラム等、研究グループの枠組みを複雑化・重層化する可能性があるくくりは改めるべきである。一方、CDB の中期計画で設定されたミッション、CDB が担うプロジェクト研究に直結した組織の見直しも必須であり、これが第2 の視点である。重要なことはバランスの取れた運営を図り、二つのミッションを実現することである。」

 「その結果としての独善を拡大させてきた可能性がある。」との記述がありますが、「可能性がある」とは奇妙な表現です。具体的に、どういう事象が独善なのか明確にしないまま、こういうことを述べるというのはおかしな話です。ともかく、なにか問題あるのだ、ということに結び付けたいという思惑からくる一文でしょう。
 
■ 報告書の改革提言の第二の問題は、「提言している内容はかえって改悪であり、無責任体制を指向する時代錯誤的なものである」ということです。
唐突に提案している内容は、数日前の記事で書きましたが、中堅と外部(=分子生物学会の主要メンバー)の影響力を確保するための仕掛け作りと見做されるような内容でした。
 
・外部識者も参加する運営会議、
・アドバイスと評価を行うアドバイザリー・カウンシル、
・運営内容(研究内容)の報告義務、相互監視化
PLTLRULまで参加する人事委員会、
・その人事委員会について運営会議の下部機関化
・センター長の裁量限定(支援・補佐の名の下に)
 
 これは、改革というよりも、むしろ、無責任体制を招く可能性が高い改悪でしょう。要するに、大学の教授会や、小中学校の教職員会議の発想だと感じます。
 本来の責任の所在が曖昧になり、よく言えば「みんなで決めた」、悪く言えば「誰が決めたのかわからない」という状態を招くでしょう。そして、やがて権限など本来はないボス的存在の人物が牛耳るようになる、というのはしばしば見られる悪しき事態です。


 今の時代、企業では、取締役は少数に絞り、他は執行役とすることによって、組織としての意思決定と業務執行とを分けて、それぞれの責任を明確化させています。理研のような独立行政法人でも、所管大臣が任命した理事長の裁量の下、中期目標を達成すべくそのリーダーシップで運営を行わせるという発想で制度ができているのではないでしょうか。いずれも、株主や大臣からの信託に応えることができなければ、任期とともに(あるいは中途で)辞任するということになりますし、善管注意義務を怠り独善的な運営を行えば、監査役による監査、株主代表訴訟、ひいては背任で刑事責任を追及されるということになるわけです。
 
 ところが、この自己点検委が提言する「改革」案なるものは、そういう責任の明確化、強いリーダーシップによる業務遂行という要請に逆行する代物だと思います。
 GD会議に代えて設置する運営会議に外部識者が入り、人事委員会にPLTLクラスまで入れて運営会議の下部機関化するとなると、責任の所在の曖昧化、意思決定や業務執行の迅速性、効率性への影響、人事の独立性の低下などが考えられます。また、アドバイスや評価を行うアドバイザリー・カウンシルの設置を、といいますが、評価委員会との関係はどういうことになるのか不明であり、屋上屋を架すことになり、組織系統の二元化による混乱を招きかねません。
 
 CDB2000年にスタートして以降、10数年にわたって、センター長、副センター長が代わらなかったというのは、確かに長いようにも思いますので、任期がなかったのであれば、定めておくということはいいと思います。ただ、内外から高く評価されているCDBをここまで持ってきたのは、竹市センター長や西川副センター長のリーダーシップと識見によるものでしょう。若手研究者にどんどん機会を与え、自由闊達な雰囲気で設備インフラ面でも充実した研究環境を用意し、笹井氏らの高度な人材を揃えて吸引力を高めたといった優れた実績は、高く評価されるべきではないのでしょうか? 世間が抱く「理研」というイメージ通りの実態だったのではないかと思います。このような優れたパフォーマンスを示すリーダーであれば、任期を更新し、結果として長期に在任するということはあり得るでしょう。


 そういうリーダーシップを、点検委が提言するような外部識者も入る運営会議、その下でのTLも入る人事委員会、「アドバイスと評価」を行うアドバイザリー・カウンシルなどの体制下で十全に発揮できるのかといえば、はなはだ疑問です。外部識者だ、アドバイザーだといえば聞こえはいいですが(あるいは社外取締役みたいな独善を防ぐ役割だというかもしれませんが)、具体的には分子生物学会の有力者が就くでしょうから、小姑ばかりで、学界のヒエラルキーによるごたごたが持ち込まれ兼ねないという懸念が多分にあると感じます。
 一連のSTAP細胞事件の経過をみれば、分子生物学会の研究者や関係者らが一色に染まってしまうような異様さで、とてもとても異論を言い出すことができないような世界なのでしょう。それこそ独善の世界であり、それを世界の至宝であるはずの理研に持ちこまれてたまるか、と正直感じます。
 
 前にも述べましたが、自己点検委員会報告書を受けた改革委提言では、理研PIを大学の准教授になぞらえて云々する箇所が繰り返し出てきますが、そういう発想で理研の仕組みを捉えること自体、時代錯誤的であり、大学の徒弟制的研究室のセンスでものを言っているということではないでしょうか。そんなセンスの「識者」が、運営会議に参加し、アドバイザリー・カウンシルでごたごた言われたのでは、CDB15年にわたって築き上げてきた研究環境、研究風土、人事制度はがたがたになってしまい兼ねません。
 
 この自己点検委報告書が、改革委提言につながったわけですが、その改革委提言では、まさかのCDB解体提言ですから、自己点検委の点検チームメンバーとしては、そんなはずではなかったとほぞを噛んだのではないかと思います。
 神戸新聞が、当時、林GDに対するインタビューを載せていますが。林氏の言い分はもっともなことであり、正論だと思います。このブログで指摘していることとかなり重なります(一問一答は、末尾に転載しています)。
 
◎「解体提言は不当」理研再生研幹部研究員・林氏に聞く2014/6/18
 
 しかし、林氏がそのメンバーとして、報告書作りに密接に関わった自己点検委の提言は、こういう改革委の暴走を招く要素が多分にあったわけです。この林氏の回答自体、STAP細胞は捏造、小保方氏は捏造犯ということを当然のように前提としていますし、聴き取り調査をすべきだったと述べていますが、自己点検委が当事者からそれをやったのかといえば、メインの小保方氏、笹井氏にはやっておらず、それでいて厳しく断罪しているわけです。ダブルスタンダードでしょう。
 本来は、個別の事案として処理すべきであり、組織全体として問題となるべきことはなかったにも拘わらず、それがあるかのような点検委報告書をまとめてしまったがために、それに輪をかけたような改革委の暴走的で支離滅裂な提言を招いてしまった、という構図であることは、もっと認識されて然るべきでしょう。
 CDB解体提言によって、職場を失った研究者からすれば、小保方氏を恨む向きも多いようですが、恨む相手が違います。もちろん最大の恨み先は、個別研究の問題の責任を研究者全体、組織全体の連帯責任にするような理不尽な提言をした改革委ですが、その提言につながるような、火のないところに煙を立てた自己点検委にも責任があります。


 改革委は、まともな神経ではないとはいうものの、彼らに付け入られ、CDBの縮小という大混乱を招く原因を作ってしまったのは、自己点検委だということです。大学と独法とで、利害は対立関係にあるという面も多分にあるでしょう。研究開発に関する予算のパイは限られ、しかも大学は年々削減されていますから、比較的潤沢な交付金その他の研究資金を得る独法に対して面白くないという受け止め方もあると思います。ですから、隙あらば、独法の予算を大学に回したいという思惑があると思いますので、自ら「大きな問題あり!」と叫んでいる理研などは、鴨ネギのようなもので、大学関係者が中心の改革委とすれば、もうこれはいただき、とばかり、CDB解体!というところまで突っ走ったという面もあることでしょう。