理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

8-1 理研・自己点検委への違和感、怪しさ(8)―疑問⑦CDBの運営・組織改革提言にまで至るのは唐突で飛躍しすぎ。


疑問7:あの検証内容からCDBの運営・組織改革の提言にまで至るのは唐突で飛躍しすぎ。
 
 以上述べてきたことを踏まえれば、自己点検委員会報告書の冒頭で、問題の原因として書いてある次の記述は、個別の研究者に責任が帰されるべきものを、組織の責任として仕立てようとしているところに無理があり、問題があると思います。
 
STAP 問題の主な原因としては、
(1)中心研究者の小保方晴子氏によるデータ管理の不備があったこと、また、基本を逸脱して論文を執筆したこと、
(2)小保方氏の研究倫理や研究活動全般に注意を払うべき立場にあった若山照彦氏と笹井芳樹GD において小保方氏の実験結果の第1 次データを十分確認することなく受け入れたという認識の甘さや指導力不足があったこと、
(3)適正で、再現性のあるデータに基づいて論文を執筆するという科学論文執筆の原則に従い、根幹を成すデータの確認実験を行うなどして論文の不備を未然に防ぐことを怠ったこと などが挙げられる。
 
しかし、委員会は、これらに加え、
(4)STAP 研究に関しては、CDB 内の研究者間の議論・相互批判の欠如、実験データの確認・取扱いに不備があったこと、
(5)小保方氏の採用及びその後のPI としての育成のプロセスに十分な注意が払われていなかったこと、
(6)STAP 研究の強い科学的、社会的インパクトが予想されたことから、ほぼ全ての過程が秘密扱いとして進められ、第三者の客観的批判を受ける機会を失ったことなど、
CDB リスク管理の欠如も、この論文問題を引き起こした要因であると考えている。これらの事態を招き、見過ごし、適切な対処を怠ったCDB のセンター長、副センター長及びGD 会議メンバーにも原因がある。さらに、
(7)科学的な成果に対して必要以上に社会の注目を集めるような報道発表になったことや、論文不正の可能性が指摘された後の対応の仕方も、STAP 問題を複雑にした。」
 
 上記の(1)~(3)は、個別の研究者の問題です。(2)において、あたかも小保方氏が幹細胞研究実験も含めて主導したかのような構図をとっていることの問題性はとりあえず措くとしても、一般論として、研究者のデータの管理、ルールに基づく論文執筆、研究室としてのデータの確認、再現性の確認等の必要性は、その通りなのだろうと思います。ですから、それらの留意点について、改めて注意喚起をし、再発防止に努めるということは何の問題もありません。
 
 しかし、点検委が問題なのは、それを組織運営の責任にまで問題を拡大しようとしたこと、それも牽強付会な理由付けによって責任を問おうとしたところにあります。
(4)~(6)の諸点が、恣意的な問題提起であり、実際にはほとんど問題とはなり得ないことは、既に述べた通りです。
 研究者個人に帰責されるべきことを、組織の責任にしようとすることについては、たしか野依理事長も、退任の記者会見で否定的な見方をしていたかと思いますし、竹市センター長も、『捏造の科学者』だったでしょうか、須田記者のロングインタビューの中で同旨の話をしていたように記憶しています。
 「理研の身分では自由な発言ができないから」といって、渦中に自ら辞任した西川元副センター長・顧問も、次のように語っています。
 
小保方さんの人事については、今も管理責任を感じていません。自由な人事が出来ないと、金太郎あめの様な人間ばかりの研究所になります。理研のシステムでは失敗すれば5年再任が出来ないようになっています。捏造が人事システムの問題なら、岸さんのいた産総研、東大では平良事件と言う大きな捏造事件がありましたし、最近では東大分生研、筑波大学医学部、そして京都府医大、東大医学部と捏造事件があった大学では全て教授会解体になります。今回の辞任は、筋を通すと言うより、政府に対する批判も含めて自由に発言しますので理研にも迷惑がかかると思ってのことです。」
 
 全くその通りでしょう。研究不正の疑いが生じれば、速やかに不正調査委員会を立ち上げ、文科省ガイドラインとそれを踏まえた研究不正規程に基づき、公正な不正調査を行い、定義に基づく不正の有無を認定し、不正が認定されれば人事当局が必要な処分を行う、というのが想定されている対応であり、手続きです。それが組織に求められている責任のはずです。
 それを、研究者・室の問題を、研究機関を企業や官庁の如く捉えて、組織的責任を問おうとしたところに無理があります。
 
 西川氏は、生物関係の不正事件を挙げていますが、世間を驚愕させたのは、東大工学系で2010年に発覚したアニリール・セルカン事件でしょう。トルコ人「研究者」が盗用論文により東大の学位を得、経歴も詐称して(真っ赤な嘘)、助教の地位に収まり、更にはJAXAの研究員にもなったという不祥事です。
 NASAトルコ人初の宇宙飛行士だ、プロジェクトチームリーダーだ、プリンストン大学の講師だ、ケンブリッジ大学の特別物理化学賞受賞だ、等々等・・・の華麗なる経歴を詐称し、宇宙エレベータだ、多次元空間だ、インフラフリーだのといった架空のものもある論文への言及で自らの業績を飾り立て、そして盗用が半分弱の学位論文によって東大で博士号を取得して、助教の地位を得た、という、信じがたい不祥事でした。
 これの顛末については、以下のサイトに載っています。
 
◎東大工学系研究科建築学専攻教員 アニリール・セルカン博士の経歴・業績に関わる疑惑
 
この不祥事に対する大学としての対応について、ウィキペディアから抜粋します。
 
「事態を重く見た東京大学は特別調査委員会を設置し、学位の不正取得に至った経緯の徹底的な調査を行った。その結果、セルカンの博士論文のうち、全体の4割は盗用だったことが明らかになった[12]。また、同委員会の調査に際して、セルカンの指導教員を担当し学位論文の主審査員も務めた松村秀一は「元助教を信じていたが、裏切られた」[13]と主張していた。しかし、同委員会の調査によれば、副審査員4名のうち2名が「論文の水準やオリジナリティーに疑問がある」[13]と指摘していたにもかかわらず、松村はそれを無視して独断で学位を与えていたことが明らかになった[14]。同委員会の委員長として調査を指揮した東京大学副学長の佐藤慎一は、松村が行った審査について「恣意的でずさんであり、責任を厳しく問われなければならない」[15]と批判した。松村は学生指導の担当を外され[16]、追って懲戒処分が下される見通しとなった[13][15]。さらに、建築学専攻では、成績判定を担当教員が一人で判断することが横行するなど[12]、他専攻に比べ論文審査体制に不備があると指摘された[13]。これらの問題点を考慮し、建築学専攻では他の専攻と同等の審査体制を構築するとともに[13]、大学全体として学位審査体制を再確認するなど[12]、具体的な再発防止策が取り纏められた。」
 
 これほどの話であっても、東大の大学院工学系の組織としての責任が追及されるわけではなく、もちろん解体などという話にはなりません(ただ、「成績判定を担当教員が一人で判断することが横行する」などは、学科という組織運営の問題といえますが)企業が組織として事業を行うのとは異なり、研究者は基本的には個人又は研究室単位で研究を行い、その成果についても責任を持つというのが原則でしょう。文科省ガイドラインにおいても、そういう考え方が基本にあって、全体の仕組みが構築されていると思います。もちろん、そこでは、再現実験の機会の付与も権利として保証されています。


 組織の責任は、そういう調査を速やかに、かつ適切に行うということです。ところが、自己点検委員会などは、事実解明は二の次で、というよりも、STAP細胞の否定と、理研上層部の責任追及がまず潜在目的としてあり、それに見合う「事実関係」を無理無理並べたという順番ではないでしょうか。STAP細胞の有無は今後検証するという理研の公式スタンスを無視して、STAP細胞は捏造だとのスタンスに立ち、「検証」と「提言」を行っているのですから、無茶苦茶な話です。しかも、自己点検チームは、理研の公式スタンスを決め表明しているはずの理研幹部そのものなのですから、なお無茶苦茶な話です。
 
 石井調査委員会は、STAP細胞の有無については留保したまま、論文だけの不正調査という、文科省ガイドライン理研不正調査規程に則らない、極めてイレギュラーな「不正調査」を行いました。
 改革委や桂調査委員会に至っては、不正調査対象であるべき若山氏を調査側に位置づけ、若山氏の説明を所与のものとし、調査情報を共有するという、およそ信じがたい対応をとりました。ES細胞では説明できない事象についての説明責任も果たしませんでした。
 組織として、こういった一連の信じがたい対応を行ったことについてこそ、組織責任が追及されるべきものです。特定国立研究開発法人法案の早期提出・成立の必要性の思惑から、自らが定めた文科省ガイドラインを無視した誘導をした文科省にももちろん責任があります。
 研究者の不正は研究者の責任であり、不正調査委員会を立ち上げ、その事実解明、帰責の可否、不正認定の作業を行い、必要な再発防止策を講じることによって、組織としての責任は果たされるもののはずです。
 自己点検委や改革委が、理研の組織としての責任を問うのであれば、こういうあるべき不正調査をしようとしなかったことに対して問うべきだったのです。
                         続く