理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

4 理研・自己点検委への違和感、怪しさ(4)―疑問①問題設定自体のおかしさと

自己点検委報告書について、前回、前々回書いた内容を踏まえて、具体的疑問点を説明していきます。
 
■疑問1:問題設定自体がおかしく、この時点で提言されるべき内容では全くない。
 前回述べたように、自己点検委が実質的に活動した3月中旬~5月時点というのは、理研としては、「石井委員会での不正認定はあくまで論文上のことであり、STAP細胞の有無についての判断は留保する。」というものでした。検証チームによる検証実験、小保方氏による再現実験を通じて、その有無について判断するというものでした。
 しかし、この点検委報告書は、
 
「2.検証目的と検証項目
本委員会は、STAP 論文が深刻な科学的、社会的問題を引き起こすに至った原因を究明し、それに基づいてCDB の改革を促す提言を行うことを目的とする。」
 
「論文発表直後から、主張の根幹に関わるデータを含む数々の図版の不備や文章の盗用が指摘され、理研の研究論文の疑義に関する調査委員会において2 点の不正行為が認定された。・・・現在に至るまで正式な追試成功の報告はない。」
 
 と述べ、既にこの時点で、「STAP細胞は存在せず、捏造された」というスタンスに立ち、「深刻な科学的、社会的問題を引き起こすに至った」という認識を示しているように感じられます。
そして、上記の文章は非常に巧妙な一文になっていて、
「主張の根幹に関わる数々のデータの不備、盗用が指摘された」と述べることによって、捏造の印象を持たせ、その上で、「調査委員会によって不正行為が認定された」とつなげることによって、ネット等で指摘されていた捏造疑惑が、石井調査委員会によって認定されたかのような書きぶりになっています。更にだめ押しで、「現在に至るまで正式な追試成功の報告はない。」とすることによって、捏造の印象を確定的にさせています。
 しかし、石井委員会での不正認定は、「主張の根幹に関わる数々のデータの不備、盗用」でも何でもありません。にも拘らず、上記のように文章をつなぐことによって、あたかも、石井委員会の不正認定が、巷間指摘されていたような「主張の根幹に関わる数々のデータの不備、盗用」であったかのような錯覚を持たせるような作為的なものになっています。
 
 以前からこのブログ記事で書いていますし、小保方氏側の不服申立てにもあったように、石井調査委員会の、「改竄」「捏造」認定は、文科省ガイドライン理研不正調査規程におけるそれらの定義とはかけ離れたものであり、本来、「過失」(重過失)の範疇に入るものです。「改竄」認定された、線を入れなかったことについては、実験自体と真正データは存在したことは認められており、二つの画像を使ってクリアにするとの操作によって真正データの意味が変わることはない以上、本来の「改竄」定義である「実験結果を虚偽のものに変更することによって有利な結果を偽装する」という意味合いとは全く異なります。
 
石井委員長自身も、中間報告の会見の席で、次のように、「線を入れればよかったのだ」と述べたわけですから、本来の「改竄」にはなり得ないはずです。
 
「ゲル1の方に・・・ここをまあ、貼り替えているんですけど、正直、調査委員会がビックリしたのは、これ、そのまま使ってれば良かったんですね。なんの改ざんにもならない。これがちゃんとマーカーになっているわけです。小保方さんの説明はここのバンドがクリアーでなかったので、よりクリアーに出てた別のゲルの写真を切り貼りしました。」
 
 これを、最終報告では、次のように、真正データの存在や結果を有利にするものかどうかという本来の論点は横において、単に「科学的な考察と手順を踏まない」ということを以て「改竄」認定するというトンデモ振りでした。
 
T 細胞受容体遺伝子再構成バンドを綺麗に見せる図を作成したいという目的性をもって行われたデータの加工であり、その手法が科学的な考察と手順を踏まないものであることは明白である。よって、改ざんに当たる研究不正と判断した。」
 
また、「捏造」認定についても、複数の実験データを十分整理せずにパソコンに保存しておいたとの認定を以て、「間違えても構わないという未必の故意があった」という驚天動地、奇妙奇天烈、前代未聞の「捏造」解釈をしています。そんな解釈が罷り通るなら、脇見運転で人を死亡させたことを以て、殺人罪に問うようなもので、全くあり得ません。
 ネイチャー論文で使用された1枚の画像の間違いであり、何百枚、何千枚もある中で、1枚の画像の取り違えです。しかも、論文の内容が、化学的刺激に限定するという方針変更があって混乱したことも指摘されています。
 もともと、この画像取り違えは、外部からの指摘以前に小保方氏が自ら気が付き、2月17~20日頃の間に、笹井氏と相談の上、早大への画像の扱いに関する照会を経て、画像を撮り直し、調査委からの聴取に際しても申告しています。化学的刺激による実験結果の画像を掲載すべきところを、物理的刺激による画像を掲載してしまっていたので差し替えて続きを進める旨を説明しています。そして、若山氏を含む共著者全員の連名で、3月9日にネイチャー宛に訂正送付しています。


 ところが、調査委は、博士論文に使った写真であったことを申告しなかったことを、不正認定の理由の一つに挙げています。実験条件が異なる画像を間違って載せてしまったということは正しく申告されているわけですし、それを全共著者の同意を経て連名で訂正手続きがなされているものを、博士論文掲載画像だと申告しなかったことを以て不正理由とし、更に驚天動地の未必の故意論で不正認定するというのは、ほとんどやくざの因縁のようなものでしょう。
 
若山氏も、この「捏造」「改竄」の疑念については、(直接、この画像のことではありませんが)論文撤回呼び掛け前に、「文藝春秋」の平成26年4月号のインタビューで、次のように小保方氏を擁護していました。3月10日に発売されていますので、2月中下旬頃のインタビューでしょう。
 
「ではなぜ、こんなミスが生じたのか。
本来、推敲に推敲を重ねて書かれる科学論文の世界では、こうしたミスはあまり見られません。しかし、今回の論文はデータや写真の数がとても多かった。僕らの論文はネイチャーに二篇同時掲載されましたが、一篇の論文に五十枚程度の写真を使っています。サプリメントといって、インターネットに載せる補足文書に使う追加写真まで含めると、一篇の論文作成に使う写真の数は全部で百枚程度にもなる。そして掲載に至るまでに、合計四〜五回は再投稿しましたが、ネイチャーの編集者や審査員が『ここはおかしい』『配置をこう変えろ』と何度も要求してくるたびに、小保方さんは写真を入れ替えたり、場所を移動したりをくり返した。とにかく大変な作業量をこなすなかで生じたミスだと思います。」
 
 また、文科省ガイドラインが本件を契機に改正されましたが、小保方氏の行為が問題とされた「科学者としてわきまえるべき注意を怠ったことによって本来の実験結果でないものが記載された」場合について、新たに「研究不正」に加えられたということは、従来のガイドラインや研究不正規程では、そのような重過失は研究不正には含まれていなかったということであり、小保方氏の場合が当時の定義における「研究不正」には該当しなかったことの証左と言えます。
 
 石井委員会において、「研究不正認定がされた」という事実のみが、一人歩きしてしまっていますが、内実はこのように根拠を欠く脆弱なものです。小保方氏の手記に、捏造と改竄との認定を告げられて、呆然とする場面が書かれていますが(P163)、そう受け取るのは当然でしょう。
本当は、そういう代物だということは、石井委員会のメンバーや理研関係者も、内々はわかっていたと思います。石井委員長が、「線を引いておけば改竄などという問題にはならない」と述べ、石井氏の後任委員長となった渡部弁護士が、三木弁護士からの「捏造、改竄の定義を示せ」との要請に応えず、5月7日の不服申立て却下決定において、真正データがあって加工によってその意味が変わらないとしても、何らかの加工を加えたこと自体が故意だから「改竄」とし、データ整理が十分でなかったことによるミスは、間違ってもいいという未必の故意によるものだから「捏造」だとし、そのあり得ない定義、論法を糊塗するために、「~は明らかである」という文言を連発していることからも、その焦りは容易に想像できます。


 3月末の最初の不正決定は、書きぶりが相当アバウトなものになっていますが、小保方氏が、弁護士をつけて不服申立てをしてくるとは、彼らとしても想定外だったのでしょう。小保方氏の手記では、石井調査委の高圧的で冷笑するようなヒアリングの様子が描かれていますが、動揺するばかりの小保方氏相手であれば、研究不正だと断定すれば、それで決着すると思っていたことでしょう。ところが、弁護士をつけてきて、承服できないと述べ、不服申立てをするとの行動に出たのですから、大きな目論み違いとなったものと思われます。
 
自己点検委の実働部隊と石井調査委員会の実働部隊とは、同じ理研内部の研究者であり、つながっていることも十分想像できます。時系列でみると、
「何も結果が出ていないはずの3月中旬の時点で、すでに内部調査委員会は総括として「日本の科学に対する信用、神戸医療産業都市構想、女性研究者、科学に興味を持つ若者の夢を裏切った、理研CDBの研究者への悪影響、共同研究における信頼関係を損なう事例」と結論付けていた。」(小保方氏手記p173)ということは、石井委員会で不正認定が出ることは織り込み済みだった・・・というか、理研内部関係者間でそういうシナリオを既に描いていた・・・という気がします。


 そのシナリオに基づいて、3月末に不正認定を行い、ただちに43日に理事長から自己点検指示を出させ、同11日に第一回会合を開いたと思ったら、1週間も経たない同17日には「報告書たたき台」が提出され、同23日には「報告書案」が提出されています。あとは、不服申立て却下を見極めた上で、最後の511日会合で「報告書案」を実質的にセットしたということでしょう。あまりの速さに驚くばかりですが、それは要するに、そういう内容にするということがあらかじめ決まっていたということだと思います。
 そこでは、ともかく、「不正認定された」ということを以て、その具体的内容に関わらず、あたかもES細胞による捏造事件だったのだとの前提に立ち、そこから「運営体制とガバナンスの再構築」の提言まで持っていくことが狙いであり、シナリオであったわけでしょうから、その不正認定が崩れてしまっては、そのシナリオも破綻してしまいます。
 ですから、法律論に立った不服申立てに対して、理研内部の関係者からすればシナリオの貫徹のために、また、ヤメ検の弁護士とすればそのメンツにかけて、何としても不正認定は維持しなければならないというインセンティブが働き、結果、あのような本来の定義からかけ離れた驚天動地の「捏造」「改竄」認定が、却下決定においてなされたのだと思われます。もしあれが、何らかの形で訴訟に持ち込まれたら、調査委側の敗訴は確実だったでしょう。
 
 自己点検委はわかっていたのでしょう。ほんの一行、
理研では、2014 4 1 日、STAP 現象の検証実験を開始した。」
とだけ書いていますが、その検証実験の趣旨は、石井委員会の見解と同様、STAP細胞・現象の有無はわからないので検証するということだったことは、重々承知していたのです。しかし、もし、それが有るとの結果になってしまえば、提言における「STAP細胞は捏造」という前提が崩れ、提言も宙に浮いてしまいますから、そういう構図に気がつかれないよう、ここでは検証実験やその評価に関しては言及を避けたのだろうと思います。
 
 いずれにしても、この2014年の3~5月時点では、STAP細胞の有無は不明であり検証する、というのが理研の公式スタンスだったわけですから、実質的に「STAP細胞は捏造である」というスタンスに立って提言するような内容ではなかったということです。