小保方氏の立件可能性など考えにくい―5W1Hの立証は困難+被害意識なし
小保方氏が兵庫県警に事情聴取されたことに関して、メディアによっては、これが小保方氏の立件に向けた動きであるかのように、「期待」を煽るところもあるようです。
東スポは相当なものですね。
東スポWeb 2月19日(金)5時32分配信
STAP細胞は論文に疑義が指摘された当時から「ES細胞混入」が疑われ、小保方氏は一貫して否定してきた。刑事告発についても、小保方氏が盗んだという決定的な証拠が見つからない限り、逮捕や起訴は難しいだろう。
それでも今回、告発状が受理されたという点は大きい。
被害届は警察に対し被害があったことを届け出るもので、概して受理されやすいが、捜査するかしないかは警察次第。
一方、告発状は犯人の処罰を求めるもので、受理されにくいが、捜査義務があるため、警察の負担は大きい。
もっとも、STAP細胞研究においては「(実験で使う)マウスの系統管理や、細胞の管理はすべて若山(照彦)先生が行っていた」と小保方氏は手記で主張。
「若山研の凍結細胞が保存されていた冷凍庫は誰でも自由に出入りできる場所に置かれ、施錠などの管理はされていなかった」とも記している。
今後、捜査の進展によってどんな結論が出されるのか。
東スポWeb 2月19日
他方、同じ板倉教授のコメントでも、スポーツ報知は正反対の印象です。
●「小保方氏、県警聴取に嫌疑を明確に否定…同席の三木弁護士明かす」
スポーツ報知 / 2016年2月19日 8時0分
今回の聴取について、刑法に詳しい板倉宏・日大名誉教授は「告発があれば聴取は行われるものですし、容疑者不詳での聴取ですから、大勢の関係者に対して行うものの一環。小保方氏が有名だから記事になっているだけです」と指摘。その上で「このような事案で立件された例は聞いたことがない。逮捕なんて絶対にありません。あるとしたら書類送検ですが、可能性は極めて低い」と分析している。
※ なお、J-CASTニュースの記事で、板倉教授が、「略式起訴の可能性は否定しなかった」と書いてありますが、絶対あり得ません。略式起訴は、本人が有罪と認めて即日罰金払って終わりにするというものですから、小保方氏が認めるはずもありません。書いた執筆者が、書類送検とごちゃごちゃにしているのでしょう。
「また、何者かが別の研究室からES細胞を盗んだという告発内容に関しては、「それが事実でも、大きく法に抵触するようなことはない」と分析したが、「略式起訴」の可能性は否定しなかった。」
同じ板倉教授に対する取材ですが、媒体によって丸で正反対に聞こえます。私も専門家でありませんが、スポーツ報知が報じるところの板倉教授の見方に近いです。
理由は以下の通りです。
【5W1Hを,証拠とともに立証するのは困難】
しかし、考えてもみてほしいのですが、起訴するということは、犯罪の事実の詳細をすべて検察側が立証しなければならないわけです。5W1Hについて詳細な事実関係を、証拠ととともに明らかにするとともに、動機なども明らかにすることがしばしばです。
小保方氏をそのLi氏の細胞を盗んだというのであれば、いつ、どこで、どういう手口で、なぜ、盗んだのか?ということを、立証しなければなりません。
田中角栄の贈収賄事件のときに、どの運転手がどういう箱に入れて、どこからどこにいつ運んだ、誰が同行した、といったことを生々しく、物証と証言をもとに検察は明らかにしていましたが。どのような刑事事件であれ、こういった詳細な事実関係を立証しなければなりません。「いつ」というのが特定できたとしても、アリバイであれば終わりだというのは、テレビドラマでよくご存じかと思います。
あのLi氏のES細胞の容器について、このような、5W1Hを立証するなど、できるとは思えません。
三木弁護士が取材での応答によれば、
「後に、引き継いだ細胞を保管するフリーザーに、盗まれたとされる研究者の名が書かれた箱があることに気づいたが、小保方氏は勝手に捨てることもできず残していた」
ということであり、若山氏からの指示も、おそらくメールがあるのではないでしょうか。ないとしても、須田記者の『捏造の科学者』でも(あるいは週刊誌でしたか・・)、若山氏は、若山研のラボメンバーに、「期間内に必要なものはピックアップするように」と指示し、「残りは処分する」旨告げていたとのことです。処分するということは、そのまま残していくということですから、小保方氏に小保方研に移動するよう指示した、ということなのでしょう。ごく自然に話しがつながります。ジャンク細胞を残していることは、当たり前の慣行のようですから、その面でも矛盾はありません。
このように、小保方氏の証言と若山氏側の状況とが一致する中で、これを崩して、「小保方氏が盗んだのだ」と立証することなど、できようはずがないと思います。
【被害者、被害意識なき窃盗などあり得ない】
それに、そもそも若山研での研究の試料であれば、理研が所有者のはずですから、理研がそのLi氏の細胞を自ら所有していたという意識があるのか?ということ自体、おそらくないでしょうし、ましてや盗まれたという被害意識自体ないわけです。被害者なき窃盗など、あり得ないでしょう。この点は、石川氏が告発したときに、三木弁護士が述べていたかと思います。
理研の若山研での研究による試料は、理研が所有・占有しており、それがそのまま残って、理研の小保方研にそのままあるのですから、理研の所有・占有のものが引き続き理研の研究室にあるということになり、所有・占有を侵害したということにはなりようがないのではないでしょうか。
これがもし、移管契約があり、山梨大に所有権が移ったものを、小保方氏が盗んだということであれば、また話は別ですが、移管契約にもそんなものは載っていないわけです。あるいは、小保方氏が家に持ち帰って保管していたということであれば、やはり話は別です。しかし、そんなことはありようがありません。
Li氏を占有者とみて、占有離脱物横領の観点で考えても同じでしょう。
では、そんな無理筋案件であるならば、なぜ不受理とせずに、受理したのか?ということはあるかと思います。少なくとも、「小保方氏」と被疑者を特定した告発は却下されたという事実はあります(この経緯に触れないニュースが多いですね)。
「盗まれた」(=理研の所有・占有が侵害された)という事実は明確ではありませんが、これだけ世の中を騒がした事件なので、受理した上で、所有・占有関係や経過等を整理しようと考えたのかもしれません。
また、なぜこの時期に、事情聴取なのか? ということですが、この点について、東スポなどは、「周囲を固めて、満を持して容疑者の小保方氏から聴取したのだ」という構図で見ようとしているようです。あるいは、「手記の出版に刺激されて、小保方憎しの感情が警察内で高まった」と見ようとしている向きもあるようです。確かに、「聴取の事実は外部にも言わないから」と言っていたにも拘わらず、すぐにマスコミに漏れたというのは、兵庫県警内に小保方氏に悪意をもっている者がいる可能性はあるかもしれません。
しかし、おそらく理由は単純で、
①告発の受理から、1年が経とうとしているから、そろそろ処理する必要があ
ること。
平成14年と少々古い統計ですが、ネットで探したデータによると、告発・告訴案件は、概ね6割強が、1年以内に処理されています。
一定期間内に処理しなければならないことになっていますから、殺人ならともかく、窃盗案件で、いつまでも放置するわけにいかないということでしょう。
ウィキペデイアで検索すると、告発・告訴案件については然るべくきちんと処理するようにとの警察庁からの通達が出ていますから、平均的な期間内には処理しようということはあることでしょう。
② 担当検事が、3月末で異動の予定の可能性があること。
検事も一介の宮仕えの公務員ですから、定期的に人事異動があります。任期内に案件を片付けてしまおうということは、当然あり得るでしょう。
案外、これがメインの理由のような気もします。だとすると、気が抜けるかもし
なお、「もしかすると、書類送検はあるかもしれない」と聞くと、あたかも、逮捕して身柄を確保するほどではないが、犯罪ありで起訴すべきものとして検察につなぐ、というイメージがあります。確かにそういうのが一般的なのでしょうが、告訴・告発案件は、検察に一件書類を送ることが義務づけられていますから、当然、捜査資料、事情聴取の調書等も送ることになるはずです。それも含めて、「書類送検」と呼ぶそうですから、本件においても、そういう意味での「書類送検」はあるのかもしれません。しかし、それは一般的イメージとは違う送検ということでしょう。
起訴あるいは起訴猶予のような、犯罪ありとの前提に立つ立件にはつながる可能性はないと思っています。