理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

BPOのNHK「出家詐欺報道」に対する放送倫理上重大問題ありとの決定・勧告

NHKの看板番組である「クローズアップ現代」の「出家詐欺報道」に対する人権侵害申立てについてのBPO放送人権委員会決定が、1211日に公表されています。
 決定内容は、人権侵害の申立ては却下していますが、放送倫理面で問題視し、「勧告:放送倫理上重大な問題あり」との内容になっています。
 
 「勧告」ですので、一番重いレベルの決定です。
BPOでは、1117日にも、佐村河内氏による「謝罪会見報道に対する申立て」(TBSテレビ)に関する委員会決定において、人権侵害での勧告がなされています。
当ブログでは、BPOではどのような視点、論法等で検討がなされるのかについて見ることによって、NHKスペシャル『STAP細胞 不正の深層』に対する小保方氏の人権侵害申立てについての検討振りを推測できるだろうとの問題意識に立って、先日の記事で、勧告内容を検討したところです。
 
今回の「出家詐欺報道」に対する勧告決定についても、参考となる部分があるだろうと思い、読んでみました。
ぼかしたはずだが本人と特定されてしまうとの人権侵害申立てについては、却下されていますが、放送倫理に関して別途検討を加え、重大な倫理上の問題ありとされました。問題とされたのは、
 
 ①NHKは、申立人をブローカーだと信じているが、その知り合いの者の話を聞いただけで、裏付け取材を何らしていないこと。
 ②ナレーション内容が、インタビューでは述べられておらず、設定も事実に反するなど明白な虚偽だったこと。
 
 以上の検討結果について、決定の結論部分では、次のように述べられています(P18)。
 
「「出家詐欺のブローカー」として申立人が登場した本件映像について、申立人は、「映像・音声に加工が施されていたが、体型・しぐさ・言葉の抑揚の特徴などから、申立人をよく知る人には申立人を特定できるもの」であり、人権侵害、名誉・信用を毀損されたと主張する。
申立人の主張に沿って、体型・しぐさ・言葉の抑揚の特徴などについて、本件映像と照らして申立人を特定できるものかどうかを詳細に検討した。その結果、本件映像は申立人を特定できるものではないと判断した。したがって、本件映像は申立人に対する人権侵害に当たらないと委員会は結論した。
次に放送倫理上の問題を検討した。人権侵害に当たらないとしても、番組が放送された場合、たとえ視聴者が申立人と特定できなくても、申立人自身は自らが放送されていることを当然認識できる。それが実際の申立人とは異なる虚構だったとすれば、そこには放送倫理上求められる「事実の正確性」に係る問題が生まれる。
記者は、取材協力者であるB氏の言葉を信用して申立人が「出家詐欺のブローカー」であると信じていたと思われ、本件映像で断定的に申立人を「出家詐欺のブローカー」として伝えた。実際に申立人が「出家詐欺のブローカー」であることの真実性についての裏付け取材が、そこには欠けていた。また、本件映像中に流れたナレーションは明確な虚偽を含み、実際の申立人とは異なる虚構が放送された。
こうした検討から、委員会は「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」(「放送倫理基本綱領」日本民間放送連盟日本放送協会制定)との規定に照らして、本件映像に放送倫理上重大な問題があったと結論した。」
 
 決定内容を読むとわかりますが、番組のすべての場面とナレーション、インタビュー内容を再現して、それを元に詳細に検討しています。
 今回の決定では、「事実の正確性」と裏付け取材の必要性が問われ、ナレーション内容は、扇情的で誇大な内容になっており、それが「明確な虚偽」「虚構」とまで断じられました。
 政府・自民党が事情聴取したことに対して批判していることの裏返しとして、権力側からの関与・干渉を受けずに、メディアとしての独立性を保つために、メディア自らが厳しい自律性を持たなければならないという問題意識に立って、厳しい検討と決定とがなされたようです。
 
 小保方氏のNHKスペシャルに関する申立て内容は、次のようになっています。
 
 その多くの指摘部分が、「人権侵害」が認定されると思いますが、同時に、「放送倫理」の面からも問題視されうると思います。
 特に、次の申立書が述べる場面の留学生なる者の主張を前提としていますが、理研当局、若山氏、若山研に事実関係を取材すれば、留学生の言っていることに裏付けがないことがすぐに判明したはずです。その試料が紛失して留学生が困ったという事実や、若山研としても探していたなどという事実はなかったことがすぐわかったことでしょう。実際、申立書が述べる通り、桂調査委のヒアリングに対しては、誰も知らないと答えていたのですから。
 
「・・・その後に、若山研が山梨大に移った後の小保方研究室の冷凍庫から容器と写真(出所不明)を画面上に出した上で、ナレーションは「中身はES細胞」と断定させた。さらにその容器について、氏名不詳の留学生が記者の電話に出て、驚きの声を挙げつつ「それを直接私が渡したことはない」と言わせ、続けてのナレーションは、「なぜ、このES細胞が小保方氏(申立人)の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか、私たちは、小保方氏(申立人)に、こうした疑問に答えて欲しいと考えている。」と、あたかも申立人が「ES細胞を盗んだ」ことが事実であるかのように断定的に番組作りをした。」
 
 そういう虚構の上に、あたかも小保方氏がその盗んだES細胞を使って、偽りのSTAP細胞実験を行ったかのような印象付けをしているわけですから、二重、三重に悪質です。留学生が述べる通りだったとしても、時系列的につじつまが合わないことは既に指摘されているとおりです。
 
 前にも書きましたが、そもそも、この留学生に対するインタビューというのは、極めて不自然です。
 まず、なぜ、このESと書かれた試料と留学生とを結びつけることができたのか?という点です。そして、その電話番号を誰に聞いたのでしょうか? また、これは電話によるやりとりですが、番組の場面では、記者が椅子に座って初めて電話でやりとりするかのような雰囲気で映されていました。初めて電話して、ESと書かれた容器をどうやって留学生に確認させたのでしょうか? 仮に初めての電話ではなく、事前に写真を送って確認させたとして、「ES」と書かれたラベル、文字、入った容器が自分が残したままの状態だったというのでしょうか? 紛失によって研究を断念するほどの大事な試料だったのであれば、その内容をきちんと容器に書くはずです。試料自体が、彼が作って保存しておいた細胞そのものという確認はどのように行ったのでしょうか?
 このように基本的部分で次から次に疑問が湧いてくるインタビューであり、桂調査委のヒアリングで、誰もこの試料のことを知らないということだったとすれば、このインタビュー自体、架空のシナリオに沿ってかなり脚色されているではないのか?という疑惑の目で見られ得るように感じます。このインタビュー実現においては、必ずリークした理研の研究者が存在しますから、その研究者のリーク目的に沿ったシナリオに乗って、留学生とNHK記者とがシナリオ通りに演じたのではないか?とも思えてきます。
 事前に打ち合わせをすること自体は、一概に否定されるものではないと思いますが、そこで語らせる留学生の証言内容がきちんと取材によって裏付けが取れたものなのか、事実に近いと判断できる材料が揃っているのか、という点は放送倫理の上で、追及されるべき点であることは間違いありません。その点は応酬において大きな論点になっていることでしょう。
 
「放送倫理基本綱領」では、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とされていますが、「客観性」「公平性」の観点からも多々問題視されうる番組内容です。
笹井氏や丹羽氏のES細胞では説明がつかない材料について一切紹介しなかったこと、若山氏の遺伝子分析結果の発表の間違いに言及しなかったこと、遺伝子分析結果に矛盾のなかった理研保有の試料の分析結果に言及がなかったこと、等の点は、客観性、公平性に著しく欠けています。佐村河内氏についての番組が人権侵害勧告を受けた際に指摘されていた如く、
 
「本件放送は全体的に、申立人による聴覚に関する発言は虚偽であるという前提で構成されており、本件放送で摘示された事実もそれに沿うように提示していると受け止められる箇所が存在する。」
 
と同様に、「小保方氏は窃盗による捏造を働いたという前提で構成され、それに沿うような材料を並べた」のが、あのNHKスペシャルだったと感じます。
他にも、不適切な関係を印象づける電子メールの読み上げというプライバシー侵害と名誉毀損、実験ノートの流出・公開という著作権侵害とその背後にある理研側の高度の守秘義務違反も、当然問題視される部分です。
 
 三木弁護士が指摘した「人権侵害の限りを尽くした」というのは、決して誇張ではなく、このままいくと、予想される人権侵害と放送倫理の両面からの勧告は、かなりの打撃をNHKに与えるのではないでしょうか?
 出家詐欺報道の「クローズアップ現代」に続き、それと並ぶ文字通りの看板番組である「NHKスペシャル」が極めて厳しい勧告を受けるとなると、誰も責任取らないで済ませるわけにはいかなくなることでしょう。
 
● ・・・と、ここまでは、NHKに対する改めての批判をしたわけですが、これは主として小保方氏に関する人権侵害についての問題が中心です。
 笹井氏に関しては、電子メールの公開の件もありますが、より本質的には、NHKの問題というより、番組の終わりのほうで、自己点検委員会の鍋島委員長が、「笹井氏は、一生かけて積み上げたものを、この一つの論文で失った」と断定的に語った発言に大きな問題があるのではないかと思います。
 自己点検委員会の報告書が、改革委員会提言のベースとなっていますが、両報告書、提言が出された時点では、理研としては、STAP細胞の有無は不明であり、今後検証実験、再現実験により確認するというスタンスでした。しかし、改革委提言が、支離滅裂に根拠なく「世界三大不正」「前代未聞の不正」と断じ、笹井氏に対して、次のような度し難い非科学的な非難を浴びせた如き、異様な雰囲気の中でのNHKによるインタビューだったかと思います。


「この2月の頃には、共著者として小保方氏の研究不正及び論文の真正性を疑うべき事情が生じているにもかかわらず、笹井氏は、「STAP 現象はリアルフェノメノンである」「STAP現象は有力仮説である」との発言を繰り返し、一般国民、とくに再生医療への応用を期待したパーキンソン病などの難病患者に大きな期待を生ぜしめた。
 日本の幹細胞研究の権威者としては軽率で無責任ではないか、とも見えるこの時点での笹井氏の一連の行動の背後には、iPS 細胞研究を凌駕する画期的な成果を無にしたくない、との動機も考えられる。成果主義に走るあまり、真実の解明を最優先として行動する、という科学者として当然に求められる基本を疎かにした笹井氏の行動は、厳しく責任が問われるべきものであると同時に、理研 CDB 成果主義の負の側面を端的に表しているものと評価できよう。」
 
 自己点検委の報告書は、小保方氏の採用経緯等、重大な事実誤認や歪曲がありますが、それらが一人歩きして、改革委の暴走につながったという面が多分にあります。そして、毎日新聞の須田記者にアプローチして、意図的にリークしたことからしても、自己点検委には特定の意図があったと思わざるを得ません。
 その集大成的発言が、あの鍋島委員長の断定的な一言だったと感じます。
 
NHKももちろん極めて問題である人権侵害や放送倫理違反があると思いますが、より本質的な人権侵害は、自己点検委であり改革委にあると思います。その両委員長の責任には大なるものがあります。
改革委が「前代未聞の不正」「世界三大不正」とまで述べたのは、遠藤氏と若山氏の分析があります。しかし、その遠藤氏の分析も、519日の時点で、理研が依頼した外部有識者より「これを以てSTAP細胞がES細胞だとすることには無理がある」との報告を受けている旨、モニタリング委報告書に記載されています(こんな重大なことが、なぜ黙殺されているのかわかりません)。
桂調査委報告書でも、遠藤氏の分析の話は触れられていません。若山氏の分析は間違っていたことが明らかになり、「若山研にはいないとしたマウスはいたが、それでも小保方氏に渡したマウスに間違いはない」とする主張も、そのマウスが残っていない以上何らの裏付けがあるわけではなく、桂調査委はそれをアプリオリに正しいという前提で解析、検討してしまっています(あれだけ、理研の専門マウス供給施設でさえ、マウス汚染が問題化していたにも拘わらずです)。
つまり、改革委は、それから始まる検証実験、再現実験の結果や桂調査委の調査結果も待たず、遠藤氏の解析について理研が公式に依頼した外部識者の否定的見解も無視し、被調査者であるはずの若山氏が知り合いに依頼して出された間違った解析の上に立って、小保方氏や笹井氏を断罪したという構図です。
そして、その流れと雰囲気の中で、NHKに対して語られたのが、自己点検委の鍋島委員長の断罪コメントでした。世界三大不正になるような前代未聞の不正に関わったという、実際には根拠のない(少なくとも、その時点では根拠となり得なかった材料に基づく)認識に立って、「笹井氏の研究者生命は終わった」と、NHKという主要メディアを通じて宣告したわけですから、これ以上の人権侵害(名誉棄損の極み)があるでしょうか? 
 
いずれ、STAP細胞の存在が証明、認知されるときが来た時に、人権侵害も含めて、徹底的に責任追及されるべきは、改革委だと思います。特に岸委員長や市川氏らは扇情的な非難を繰り返し、「CDB解体提言は、CDBに終止符を打つというよりは、怒れるマスコミを喜ばせるための戦略的選択であった」という不埒千万な思惑によって、STAP細胞問題を非科学的な混乱の業火にまで発展させてしまいましたから、責任は重大です。

BPOの放送人権委は、1117日の会合では事務局がこれまでの双方の主張をまとめた資料を提出、論点を整理するため起草委員が集まって協議することとなりましたが、1215日の会合では、起草委員によって整理された論点をもとに審理を進められたはずです。
 間もなく、その議事概要が公表されるでしょうから、それによって今後の方向性がある程度見えてくるのではないかと思います。起草することとなったとされれば、委員会としての方向性が固まったということですので、あとは決定までは時間の問題です。