理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

2-3  「STAP細胞事件」における科学と法律―学位取消問題についての補足


問題9:NHKスペシャルに凝縮されている如く、マスコミ報道等において様々な人権侵害行為が行われたこと
 三木弁護士より、「人権侵害の限りを尽くした」と表現されたように、あのNHKスペシャルは、マスコミ報道、世間の非難の問題点を凝縮して備えています。
 根拠なき決め付けによる名誉毀損、プライバシー侵害を典型として、予断を持った番組構成、事実関係の公平な扱いの欠如、著作権(著作人格権を含む)侵害、知財権侵害等、人権侵害と放送倫理上の問題の数々を内包しています。
 その詳細は、既に述べましたので省略します。
 http://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2/16777852.html (冒頭のカテゴリー)
 
問題10:学位取消において、公正手続き違反が凝縮して存在したこと。
 学位は、学校教育法に基づき授与されるものですから、授与されたものを取り消す行為は、行政処分に準じたものとして扱われるべきものです。
 みずほ中央法律事務所という弁護士事務所のHPに、
「単位認定や論文審査における司法審査の可否」という解説が載っていました。
 様々なケースで、司法判断の対象となったりならなかったりしていますが、いずれも、学位授与前の話です。学位授与した後に、これを取り消すことの可否は、行政行為の取消」に準じた検討が必要になってくると思います。ネットで検索すると最初の方に出てくる次のサイト(論文抜粋)がわかりやすいです。
 ○「行政行為の取消・撤回の事由」
 
 行政行為の取消が認められるには、公益的理由が必要であることや、事由の類型は約20パターンほどあり、その中の一類型として、早稲田大の学位規則の取消事由として規定されているような「不正の手段により許認可等を取得したとき」というものがあることが説明されています(P46
早稲田の調査報告書は、学位規則にある「不正の方法により」を詳細に検討しています。
序章のNIHサイトからの借用部分、クリップアート的絵の借用部分については、小保方氏主張論文にも残っているので、論文に含まれることを認容していた箇所だから、「不正の方法」に当たるとしています(他は残っていないので、当たらない)。しかし、「により」の解釈として、他法での同様の規定の解釈、刑法の犯罪の成立要件や民法不法行為成立要件としての因果関係の解釈から導いて、

「その不正の方法と学位授与との間に因果関係がなければ、学位を取り消すことはできない。(中略)因果関係があるといえるためには、少なくとも、不正の方法が学位授与(その前提としての博士論文合格)に対して重大な影響を与えることが必要だといえる。」P50

としています。その上で、個別に検討して、「研究業績を示すに足りる学術論文または他の種の業績」を単位取得の要件として定め、具体的には、申し合わせにより、「査読付欧文学術雑誌に一報が掲載又は掲載可となっていること」が要件とされており、Tissue誌への掲載によってその要件はクリアされていることを述べるとともに、「博士論文の科学的な価値の評価を、第三者というべき査読付欧文学術雑誌に委ねている」と判断しています(p51)。

 企業でいうと一種のOEM(他ブランド向け供給)のようなものかもしれませんが(雑誌側から見てですが)、そういった審査の外部への実質的委託の是非については、多くの批判的指摘がなされているように別途の論点となりうるところであることは確かでしょう。その雑誌で査読する研究者は無償奉仕していて、早稲田はそれにフリーライドしている形ですし、早稲田自身がその本質部分で判断することはないという二つの面で問題にはなり得るとは思います。ただ、報告書によれば、そういう査読付き欧文学術雑誌への掲載だけを以て学位授与する例もあるそうですから、早稲田だけの問題ではないでしょう。
 しかし、ここでは、そういう論点は関係ありません。学位規則がそうなっていて、その要件はクリアしているということを、調査委員会は認定し、早稲田当局も追認しているということが前提となっているということがここでのポイントになります。
 そして、Tissue誌掲載を以て、それをもとにした小保方氏の博士論文に科学的価値があることを認めた上で、いくつかの借用部分の問題点については、「学位授与に一定程度の影響を与えたとはいえるが、重大な影響を与えたとはまではいえない」「一般的・基礎的な知識をわかりやすく説明するための簡便な図であって本質的なものではない」と評価し、学位取得との因果関係を否定しています。
 このため、「不正の方法により」学位を得たとはいえない、との判断となったわけです。
 
 また、報告書には書かれていませんが、行政行為の取消については、学説、判例とも、明示の法律規定がなくてもできるが、侵益的、授益的いずれの行政行為であっても、取り消すためには、公益的理由が必要とされています。
判例も、受益者の既得権その他の利益の尊重や法的安定性の視点から、一般に取消はこれらを犠牲に供してまで取り消すに足るだけの公益上の理由がなくてはならないとする」(上記サイトのP2
 
 年金受給の取消などの場合には、受給権という私益と、年金財源や他との公平性等の関連での公益との比較衡量が司法判断でしばしば論点になるようです。小保方氏の学位取消に公益的理由など、もちろんありません。「早稲田大の審査ミスにより、間違った草稿段階のものが提出されていたことに気がつかないままに授与してしまった」という早稲田大の不名誉の挽回程度です。本質的部分について不正がある論文の放置を阻止するという理由は、本質部分については問題ないとしている以上、もちろんありません。
また、科学的価値のある本質部分については、Tissue誌論文によりクリアしており、小保方氏主張論文が「本来提出されるべき論文である可能性は相当程度ある」とまで認定している以上、まだ残っている本質に関わらない部分を修正して、差し替えることで、目的は達することができるという代替選択肢があります。また、取消に当たっては、比例原則との関係も出てきます。
「取り消さなければ、あの論文は残ってしまうんですよ!」という鎌田総長の発言がありましたが、取り消さなくても、目的を達することはできるのですから、総長発言は必然的理由にはならないのです。
 
このように、規定されている取消可能事由には該当せず、取消が必要な公益的理由もなく、代替選択肢もある以上、本来、小保方氏の学位取消はできなかったといえます。
早稲田大当局は、それを覆して取り消したわけですが、その場合には、上記の検討すべき諸点について、きちんと理論武装していなければならないはずです。早稲田当局としての、調査報告書の認定、評価をオーバーライドするようなきちんとした法律的説明が必要なはずです。ところが、あるのは、あの昨年10月の会見時に配られてHPに掲載されている一枚の資料だけです。あとは、会見時の説明で補うほかありません。
それらの配布資料や説明で、然るべき理由があるかといえば、具体的反駁も書かれず、単に、「不正の方法によって学位を得たと判断した」という結論だけです。これでは、早稲田の考え方を虚心坦懐に理解しろといわれても、理解しようがありません。
 
不正な方法「により」の通説的解釈についての反駁はありません。取り消さなければならない公益的理由の説明もありません。「受益者の既得権その他の利益の尊重や法的安定性の視点から」、報告書は「学位を取り消すことは、学位授与を前提として形成された、これらの生活及び社会的関係の多くを基礎から破壊することになり、学位を授与された者及びその者と関わり合いをもった多くの者に対し、不利益を中心とする多大な影響を与えることになる。」としていることに対する反駁もありません。
 それどころか、鎌田総長は、「拠るべきと思われる文科省ガイドラインにおいても、学位取消規定においても、欺す欺されるということを想定していると思われ、今回のようなケースは想定外だった」との趣旨を述べており、そうであれば、学位取消規定の「不正な方法により」には該当しない事由であることを吐露したに等しいわけです。

 更に、佐藤理事は、文科省ガイドラインで、「研究者としてわきまえるべき基本的注意義務」に違背するようにも説明していましたが、改定ガイドラインQAでその定義をみると、それはどうも、データの保存管理上のことを意味しているような印象を受けます。また仮に、今回の提出ミスがこれに該当するとしても、ガイドライン改定は昨年ですから、それをそれ以前のことに適用するのは、不利益規定の遡及適用不可という基本原則にも抵触してしまいます。不利益な規定改定の不遡及ということは、今回の会見でも、改めての博士号取得の可能性に関する説明の中で、早稲田当局は言及していますから、その原則の認識はあるはずです。
 こうやってみてくれば、どこをどうやっても、取消を正当化する理論武装になりえないということが理解できると思います。
 
 小保方氏がそれでも不服申立てをしなかったことは、小保方氏主張論文が真に提出されるはずだった論文である可能性が相当程度高いとの認定がなされている上で、猶予条件の内容が、報告書に基づいてのものである以上、その訂正は容易であり、学位維持されることは確実だと判断したことによるものです。マスコミの質問の様子からみても、そう思っている人は少なくないでしょうから、小保方氏側の勝手な思い込みではありません。そう思わせておいて、異なる前提で一から指導、審査するというのでは、それは「利益誘導」に近い行為でしょう。
 しかも、科学的本質に関わると考える部分で「疑惑」を提起して、その答えを求めるような「指導」は、別途の不正調査の枠組みにおいて行われるべきものであり、その点でも説明できない行為です。
 そして、猶予条件の内容が、実質的に変更され、報告書の事実認定と評価とから大きく乖離してしまい、その変更された条件に基づく取消確定措置などは無効であろうことは、既に述べた通りです。また、審査に付すべき論文提出期限を明示しないまま、指導を打ち切り、論文審査せずに取消確定としたことも、手続き的に不公正だと思います。
 そういう早稲田の措置の不当性を、小保方氏への反論ペーパーによって、かえって浮き彫りにしてしまったというのは皮肉な話です。

学位取消という重大な不利益処分の一環としての指導、訂正であるという枠組みを理解しない指導教員と、その枠組みの下で指導過程を監督し、趣旨を徹底すべき早大当局、先進理工学科の大チョンボでした。一連の行為、言動にどこにも一貫性と整合性がなく、したがって正当性もないのです。

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