理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 「STAP細胞事件」における科学と法律


 この2年近くに及ぶ「STAP細胞事件」(「事件」の意味合いは、人によって捉え方が異なるでしょうが)では、「科学は法律と無縁ではいられない」ということを、改めて感じさせるものでした。
 研究不正問題、学位取消問題ともに、法律的フィルターを通した思考が必要となるはずですが、そういうことが理解できない「科学界」の人々が多いのは驚きでもありました。

今回のSTAP細胞問題が、何らかの形で訴訟になる可能性は、小保方氏側、研究機関(大学)側の双方からし潜在的にはある(あった)わけですが、ただ、実際に司法に訴えるかどうかは、総合的判断によります(理研OBの研究員氏は、第三者ながら訴えましたが)。
しかし、STAP細胞問題で、仮に何らかの形で訴訟に至った場合には、小保方氏に批判的な研究者らが、ES細胞混入とか盗んだとかの立場で、「科学とはそういうものではない」とか、「論文に書かれていなければ科学的価値はない」とか主張しても通用しないわけで、個別具体的に反駁できなければ、負けてしまいます。
 
 研究不正関係で、訴訟になる(なった)可能性としては、様々なケースがあります(ここでは、早稲田の学位取消問題は除く)。
 研究機関なり第三者の者から、業務妨害、窃盗、詐欺等の刑事で、又は研究費の返還、関連投資(研究室の整備等)等の損害賠償等の民事での訴えがあったかと思います。一時は匂わせるようなことも述べていましたが、沙汰止みとなり、もう今となっては理研からの提起はないでしょう。ただ、理研OB氏による告発が未処理ですので、その展開次第では、焦点が当たる可能性もないではありません。
 
 小保方氏側からは、懲戒処分と名誉毀損が契機としてはあります(ありました)。しかし、懲戒処分については、理研を退職していましたので対象になりませんでしたし、桂調査委員会の結論自体は、「ES細胞の混入」と「ほぼ断定」され、人為的になされた可能性が高いとしつつも、誰によってなされたかはわからない、という判断内容ですから、小保方氏が抗弁する立場にはありませんし、委員会の判断自体は司法判断の対象には手続き上なりません。

 そうすると、名誉毀損の上からの訴えということになります。NHKスペシャルについてのBPOへの人権侵害の訴えは、裁判に準じた手続きです。理研元研究員氏の如く、暴走して、「小保方氏は名誉ほしさにES細胞を盗んで実験に使って結果を偽装した」とまで断言して、告発までしたことに対しては、名誉毀損で訴えることは当然できます。あるいは、科学者や識者が、「小保方氏が、ES細胞をSTAP細胞と偽装して、混入させた(すり替えた)捏造を行った」と断定的に(今や当たり前のように)述べる例は数多くありますが、これに対して、小保方氏が名誉毀損で訴えて、実質的にES細胞との結論への疑義を呈する選択肢もあります。
 実際に司法に訴えるかどうかは、それに要する労力、時間的、経済的コスト、体調、その他の要素を総合的に勘案して決めることです。しかし、小保方氏を捏造犯であるかのように決め付けて言い募る科学者や識者らは、小保方氏が訴えないだろうと甘えているから言えるのであって、いざ、名誉毀損で訴えられたら窮地に陥ることでしょう。
 
 「STAP細胞は矛盾が生じて仮説に戻ったので、証明されていない。だから、現時点ではSTAP細胞は(あるとはいえ)ない」と述べているだけならば、名誉毀損の余地はありませんし、「あれは何らかの要因で、ES細胞が混入したのだろう」という桂調査委員会報告の範囲で述べているならば、同様に名誉毀損が認められることは難しいでしょう。そのことを信ずるに足る材料として桂報告書やその関連の報道があるわけですので、免責される可能性が大きいと思います。
 しかし、その域を超えて、「小保方氏が混入(すり替え)の捏造犯だ」(更には、「ES細胞を盗んだのだ」)ということまで言ってしまうと、小保方氏に訴えられたときに、その立証をしなくてはならなくなります。桂報告書にはそんなことは書かれていませんから立証材料にもなりません。その時、小保方氏側からは、小保方氏が捏造犯だということに対する反駁の中で、あれがES細胞ということでは説明がつかない材料として、笹井氏や丹羽氏の指摘、若山氏のかつての指摘などが指摘されることでしょう。

 それに対して、「そんなものは論文として示されたものではないから、証拠にならない」「科学とはそういう方法で判断するものではない」と抗弁しても無意味であり、反論できなかったということになってしまいます。笹井氏の指摘は、論文中やその実験記録(ライブイメージング画像等)における材料をもとにしていますし、丹羽氏の指摘についても、公式の記者会見での指摘です。若山氏が昨年2月時点で述べた話(ES細胞混入とは考えられない旨)や、自らマウスから始めて一からSTAP細胞~幹細胞の作製に成功した話なども、小保方氏側の主張材料になってきます。桂調査委員会は、これらの点について調査対象外としてしまっていますから、反論の拠り所がどこにもないということになります。
 
 そういう局面に至った場合、小保方氏をES細胞混入(すり替えの)捏造犯扱いして訴えられている者は、どうするのでしょう? 今は、「小保方氏が証明するのが先だ」と、小保方氏バッシングの空気に乗じてうやむやにしていても、訴訟では、いやが応でも明確な説明・反論を求められ、それを準備書面の形で示さなくてはならなくなります。ES細胞説にも各種あって、統一的な見解があるわけではありません。そのような状態の中で統一的かつ整合的に説明できるのでしょうか?

 更に小保方氏側から、ES細胞から作ったキメラマウスから更にSTAP細胞(発光が弱いSTAP様細胞でもいいと思いますが)を作ってみて(STAP様細胞はすぐ冷凍して保存)、各遺伝子構成が酷似しているという結果をもし示されたなら、桂調査委員会報告の「手交されたマウスにコンタミはない」という前提が大きく揺らぐことにならないでしょうか(ここの部分は、私の素人考えですが)。
 名誉毀損訴訟において、そこまでの話に発展する可能性は十分あると思います。
 
 自らが再現できないからといって、不正の証拠ともいえません。この点は、井上東北大元学長が、研究不正で告発されたため、告発者を名誉棄損で訴えた訴訟の仙台地裁判決があります。
 STAP細胞作製の難しさについては、笹井氏、若山氏が詳しく述べていますから、なおさらです。
 仙台地裁の判決文は、次のように、学術論争で決着すべきと述べています。
 
「被告らの指摘を踏まえても,上記再現性の有無については見解が対立しているにとどまり,原告と被告らの主張内容のいずれが学術的に正当であるかについては学術論争において決着が図られるべきものであるから,少なくとも,被告らの主張やこれに沿うL,O両教授の意見のみをもって,96年論文の手法(吸引鋳造法)が再現性のない虚偽のものであるということはできない。」
 
 現在、小保方氏を捏造を働いた如くにバッシングしている人々は、そのような謙抑性が欠如していると感じます。
 「STAP細胞は仮説に戻った。再現に至らず証明ができていない。しかし、ES細胞で説明できる部分もあるが、説明がつかない材料も少なからずある。だから真相はわからない。ここは、引き続き科学的解明を待つことにしよう。」
 として静観するのが、科学的姿勢ではないのでしょうか?
 それでも、ES細胞では説明がつかない材料を無意味だとして、小保方氏を捏造犯と決め付けて非難を続けるならば、模擬裁判でもいいですから、一度、名誉毀損で訴えられた被告の立場になって考えてみればいいと思います。いかに自分が(名誉毀損で損害賠償責任を負わせられかねない)危うい立場に潜在的に置かれているかがわかると思います。
 
 それに近い立場に立たされているのが、NHKでしょう。NHKスペシャルが、BPOに「人権侵害の限りを尽くした」として訴えられていますが、名誉毀損とプライバシーの侵害がメインでしょうが、放送倫理の観点からも厳しく審査がなされることでしょう。知的財産権の侵害行為の話もありますが、先日ご紹介したTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』についての人権侵害の勧告におけるように、社会の空気に乗じて、結論先にありきの番組構成であり、「予断を排し、事実をありのまま伝える」という要請に応えていないという判断まで至るかどうかが要注目かと思っています。
 
 その中で、「STAP細胞は捏造だとの前提に立ち、それに沿うように材料(摘示事実)を提示している」(=「笹井氏や丹羽氏の指摘や、若山氏自身が記者会見で間違った説明をしたこと等についての事実を、バランスを取って紹介することをしなかった」)というところまで放送倫理違反で指摘がなされるならば、それは、NHKに対してのみならず、小保方氏バッシングを続けた(続けている)科学者、識者、マスコミ等に対する警告にもなることでしょう。
 そういうことで、BPOにおける決定が、STAP細胞問題に関する異様な空気を冷やす契機になればいいと期待しているところです。