理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

2 小保方氏批判の何が問題なのか?―桂調査委報告書の結論とタイミングとは特定研究開発法人法提出の環境作りのための政治的所産

 
「1 小保方氏批判の何が問題なのか?」との記事
について、なかなか理解していただけないようで、次のような指摘が、前々からしばしばなされます。
 
 「小保方氏による証明が先決である」
 「科学の論理と法律の論理とは違う」
 
 STAP論文に齟齬があり、小保方氏がそれを説明し、再現ができていないために、現時点では、STAP細胞・現象の存在は認められない、ということは、別に否定するものではありません。
ただ、再現は、小保方氏だけでできるものではなく、マウスの交配・管理から始まって、キメラマウス作製による万能性の確認に至るまでの分担があるのであって、小保方氏はSTAP細胞とテラトーマ、若山氏はマウスの交配・手交と、STAP幹細胞、FI幹細胞、キメラマウスの作製です。キメラマウスの作製ができて初めて万能性が証明できるので、そこまで含めてすべて小保方氏に責めを負わせるのはフェアではありません。ただ、そのSTAP細胞自体、再現実験と検証実験とで再現ができませんでしたから、その点では批判に甘んじざるを得ないのは確かです。
 
ですから、小保方氏を批判する皆さんが、「論文に齟齬があって、説明できないじゃないか!」「担当のSTAP細胞の再現に成功していないじゃないか!」と指摘して批判する分には仕方がないでしょう。
ただし、その場合には、若山氏が文藝春秋で詳細に説明した、当事者であってもSTAP細胞を作製することの難しさ、笹井氏が昨年4月の会見で説明した作製の難しさを念頭におくとおかないとでは、だいぶ理解が違ってきます。
 
小保方氏に対する批判が、この段階で止まっていれば別にいいのですが、ところが、批判派は、「STAP細胞の正体はES細胞だ」と言い始めたものですから、フェーズが大きく変わったわけです。遠藤氏を含めて、それぞれバリエーションのある説をあれこれ発信していましたが、ただの評論家なら、別に全ての材料について整合ある説明をしなくても構いません(名誉棄損的中傷にならない限り)。
しかし、それが不正調査委員会という公式の場で、「ES細胞とほぼ断定」をしてしまったわけです。そして、その調査をもとに、ネイチャー誌に投稿して、先日、科学論文として掲載されました。そこまで断言し、科学論文として世に問うたのであれば、それに対する反証材料にすべて答えることが、著者としての義務だと思います。それを否定するならば、典型的なダブルスタンダードではないでしょうか?
 
桂調査委員会報告書の問題点は、多々あります。
 
最大の問題点は、STAP細胞は「ES細胞だとほぼ断言」したことです。断言するならするで、遺伝子解析だけで結論づけるのではなくて、笹井氏、丹羽氏の指摘や、検証実験、再現実験の結果も含めて、より多角的材料を検証した上で、結論を出さなければならなかったはずです。遺伝子解析以外で、ES細胞では説明できない材料が山ほどあるのですから、それをひとつひとつ検証した上で、それでもESと断定できるならすればいいですし、断定できないならば、わからないとしなければならなかったはずです。
 
 笹井氏、丹羽氏の指摘という公式の記者会見で提起した材料はおろか、理研としてコストをかけて実施した検証実験、再現実験の結果も踏まえずに(直後の公表ですし、それらにも言及していませんから踏まえていないのでしょう)、報告書をまとめて公表するというのは理解に苦しみます。検証実験、再現実験は再現にはいたりませんでしたが、それでも参考になる材料はありましたし、不正調査と再現実験とはセットですから、その結果に言及しないというのは、報告の筋としておかしいと思います。
 人々も、再現実験、検証実験について、税金を使って高いコストを払って云々と批判したのに、それが、不正調査報告での検討に使われなかったことに、何らの疑義も呈していないというのは、実に不思議です。
 検証実験の一環だったのかどうかわかりませんが、FI培地ではES細胞は継代後に崩壊するという実験結果は、STAP細胞=ES細胞との断定を崩す重大材料なのではないのでしょうか?それも無視して、ESだと断定するのは科学とは言えないでしょう、というのが前々から言っている話です。
 
 そして、桂調査委報告には、隠していることがあります。これも以前に指摘してありますが、調査対象が、理研に帰属する試料のみで、共同研究先のハーバード大に帰属する試料については、調査、検証対象にできなかったということです。そのことを、全く説明しようとしませんでした。後でコンプライアンス点検委の参考資料にさらりと書いてあって初めてわかりましたが、要するに、自らの調査には大きな制約があったということを説明していないのです。具体的には、キメラマウスであり、胎盤の切片であり、実験ノートです。キメラマウスの検証の話に質問が及びそうになったら、桂委員長は、すぐに話しをそらしてしまいました(記者も追及しないのですから、それも理解に苦しみます)。
 そういう制約状況だったことを説明しないままに、ネックとなる胎盤の点は、報告書では、卵黄嚢の誤認の可能性大だと断定的に書いていますが、実際には、桂委員長が述べたように、「光っているものが、図によっては胎盤なのか別の組織なのか、専門家は、疑わしいと言っている人がいる。疑わしいという言い方だが・・・。」という程度の脆弱な感想にすぎません。その程度の話で、ES細胞だと断定するのにとりあえずネックとなる点を潰そうとしたというわけです。これが科学なのでしょうか?
 
 この制約に関して何より問題なのは、キメラマウスや切片と同様に、実験ノートも帰属の関係で小保方氏が提出できないことを知っていたであろうにもかかわらず、それに何も触れようとしないことです。このSTAP細胞の研究は、ハーバード側からの申し入れによる共同研究であり、実験成功の時点では、小保方氏はそのハーバードから派遣された単なる一研究員に過ぎませんでした。ですから、実験ノートは、ハーバード大の管理下にあるその知的財産であり、小保方氏の一存で公開なり提出なりができるものではないだろうということです。小保方氏はそのことを、昨年4月の会見で強く示唆していました。また、早稲田大の論文調査委員会が、ハーバードの研究室に出向いた調査の際に、実験ノートは、「小保方氏保有分は見せてもらえたが、ハーバード保有分は見せてもらえなかった」と述べ、関連資料も、報告書では黒塗りでしか公開されなかったことからも容易に想像ができます。


本件は組織対組織の契約に基づく共同研究なのですから、こういう構図と制約とは、理研が前提としてきちんと説明すべきですし、桂調査委も調査の前提として述べるべきでした。そういう構図の中では、小保方氏が説明責任を果たしたくても、法的(契約上の)制約があってそれができないということです。そういう組織としてやるべき説明もせずに、そして小保方氏がそういう制約下での窮地にある(しかも、そのことを自らは積極的に言及できない)ことを知っているはずにもかかわらず、「小保方氏に実験ノートの提出を求めたが、提出されなかった」と述べるのみです。それによって、「小保方氏は、説明責任を果たそうとしない、非協力的である」という負の印象を増幅させました。
 もしかすると、報告書で、「実験ノートが提出されなかったので確認できなかった。したがって、不正とは認定できない」という、各方面から批判された記述ぶりについては、そういう事情を踏まえたものだったのかもしれませんが、しかし、そういうハーバードとの関係における制約については、きちんと説明することが、当事者である組織としての責任というものです。
 
 こうやってみてくれば、桂調査委員会報告書というものが、いかに不合理で、科学的検証が不十分なものであったかということがわかると思います。
 ・様々公式に提示されている科学的検証材料(ESと断定するには否定的な材料をはじめとして)を検証しないままに、遺伝子分析の結果だけでES細胞だと断定した。
 ・調査に制約があったことをあえて秘して、十全な調査をやったかのように装い、「小保方氏は説明責任を果たさない」というマイナスイメージを増幅させた。
 ・検証実験、再現実験結果も実質的に待たずに、ばたばたと拙速で報告書をまとめ、公表し、処分(相当)もした。
 

 それではぜ、こういう非科学的な不合理なものを拙速でまとめなければならなかったのか? といえば、理由は明々白々です。
 理由は、特定国立研究開発法人法の提出、指定の環境作りを急ぐ必要があったということです。
 もともと、STAP細胞問題の調査は、最初から迷走を極めましたが、それは文科省の思惑によるものであることは明らかです。理研には当事者能力はありませんでした。論文撤回をいち早く下村文科相が呼びかけたり、不正調査対象を狭いものに限定して、1ヶ月でやれと無理難題を言ったりしたのは、昨年の通常国会に法案を出す必要があると文科省が考えたからでしょう。もともとその予定でしたから。
ところが、そのような拙速なやり方に批判も高まり、4月に発足した改革委も同様に批判的となり、小保方氏に再現実験の機会を与えないのはおかしいという声も政治家筋では出てきて、文科省も法案提出は断念したということでしょう。しかし、先延ばしといっても、産業技術総合研究所もともに指定される予定でしたから、これ以上他組織に迷惑をかけるわけにはいかないという焦りが文科省で募っていったことは容易に想像できます。そうすると、次の通常国会への法案提出のリミットは年明けでしょうから、それまでに、調査結果を出し,更に再発防止策とコンプライアンス体制の再構築について、第三者委員会にお墨付きを得る必要があります。そのためには、逆算すると、12月には報告書は公表されていなければならない、と考えたに違いありません。
そういう思惑と計算の下に、12月に調査委員会報告書公表というスケジュールが組まれ、それをもとにして、コンプライアンス体制の再構築についてのお墨付きを2月頃までに得て、なんとか通常国会への提出に間に合わせる・・・という想定だったと思われます。
 
 そして、問題はそのスケジュールだけではありません。内容が、曖昧なものであってはいけないという、暗黙裡か明示的かわかりませんが、そういう要請があったはずです。高いコストと時間、労力を費やして、「真相は不明」というのが結論では、更に、調査が長引きかねませんし、「調査委は何やっているのだ?」という批判も高まってきます。まして、その調査のための検証材料にハーバードとの関係で制約があって不十分なものだったことが明らかになってしまえば、ハーバードと交渉しろということになりますし、調査報告書の正当性にも疑問符が付くことになります。
 そんなことになってしまえば、法案提出どころではなくなります。何としてもシナリオ通りに持っていくためには、「STAP細胞の正体」を断定し、詳細かつ十全な調査をしたことを装い(=決して調査に制約があったことは悟られることなく)、小保方氏に限りなく疑惑が向くように印象付け、「ES細胞を混入させた犯人がいた」と印象づける必要があったと思います。それであれば、世間は、けしからんとは思いつつも、「真相」がわかって、再発防止のコンプライアンス体制を構築すれば、一件落着ということになるでしょう。
 
 かくして、桂調査委員会報告書のスケジュールと内容とは、政治的思惑によって決まったといえるでしょう。科学的検証は二の次で、ともかく世間と政治筋を納得させて、特定研究開法人法を提出し、指定を受ける環境を作るための材料を、タイミングよく提供することが、至上命題だった・・・ということが想像されます。
 
本心では、桂委員長も不本意だったのではないかと思います・・・いえ、思いたいです。

【あるべきはずだった、桂調査委報告書の骨子案】 ・・・僭越ながら。

●僭越ながら、桂調査委員会報告書が検討し、科学的に検証の上論述すべき内容の骨子は、次のようなものだったと思います。このように、材料はすべて並べた上で、あり得る可能性を含めて、諸々考察し、わからないことはわからないと言って、中途半端さ、解明できないもどかしさに耐えるというのが、科学ではないのでしょうか?
 
「当不正調査委員会では、理研内部からも様々なデータが寄せられ、社会的にも大きな関心となっていることを踏まえ、論文自体の不正の有無だけでなく、より広く科学的解明を目指して、調査を行った。
調査に当たっては、共著者の証言(理研での記者会見における発言、配布試料等を含む)、実験ノートその他残存試料の解析、検証実験及び再現実験の結果、その他理研内外から寄せられているデータ等を踏まえて、検証、調査を行った。その結果は、以下の通りである。
 
(1)保存されているSTAP幹細胞について、遺伝子解析の結果、若山研にあった大田氏由来のES細胞の特徴とほぼ一致した。
 
(2)このことは、論文に記載されたような、若山氏が手交したとするマウスからは、作製することができないことを意味する。
 
(3)遺伝子解析の結果は、二つの可能性を示唆する。
一つは、STAP幹細胞がES細胞に由来する可能性である。しかし、ES細胞かどうかを判断するメルクマールであるとされる胎盤への寄与・発光に関する丹羽氏の観察結果の説明や、ライブイメージング画像において観察されるSTAP細胞の大きさ、形態、性質等の点でES細胞とは異なるとの笹井氏の説明を覆す積極的材料もないことから、整合性ある説明をすることが難しい。大きさの点から見て、ESの浮遊細胞(胚葉体)ではないかとの指摘もあるが、それですべての観察事象と整合的説明をすることもまた困難である。専門家によっては、胎盤が光っているのではなく、卵黄嚢の誤認ではないかとする者もいる。
また、丹羽氏から提供されたデータによれば、ES細胞とTS細胞とは一つの塊にならないこと、及びES細胞をFI培地に置いた場合には4~5代の継代後に崩壊するとのことであり、この点はSTAP細胞がES細胞又はそのTS細胞との混合であることを否定する材料となる。
冷凍保存されているキメラマウスや胎盤の切片を検証することにより、判断材料が得られる可能性があるが、残念ながら、それらの試料はハーバード大の帰属になっているために、検証対象とすることが困難であった。以上の諸材料から、STAP幹細胞が、ES細胞由来である可能性の有無を判断することはできない。
 
(4)もう一つの可能性は、当該ES細胞由来のマウスの交配・手交ミスの可能性である。交配マウスの作成を専門に行い、コンタミが生じないように厳格に管理しているはずの理研バイオリソースセンターにおいても、同時期に数十件にのぼる交配ミスが生じ、供給先研究機関での実験に支障を来したことから、若山研においてもコンタミが生じた可能性も全く否定はできないと思われる。そして、当該ES細胞由来のマウスからSTAP細胞を作った場合に、遺伝子解析の結果は酷似する可能性があるが、ここまで酷似するかどうかは不明である。いずれにしても、この可能性は、若山氏の主張とは異なる上、実際に手交されたマウスが保存されていないので、検証は困難である。
 
(5)なお、若山氏は、小保方氏の指導で、一度だけSTAP細胞を作り、そこからSTAP幹細胞の作製に成功した旨証言している。これは、マウスから一から作製したとのことであり、保存されているその若山氏作製のSTAP幹細胞の遺伝子解析結果は、若山氏が使用したとするマウスのそれと整合している。この証言が事実であれば、論文に基づく手順によるSTAP細胞の作製を推定させる材料ではあるが、しかし、山梨大への移転直前だったこともあり、キメラマウス作製による万能性の確認までは行っておらず、(当該実験の実験ノートも確認できないため?)判断材料とすることはできない。
 
(6)小保方氏には、実験の裏付け等を検証するために、実験ノートの提出を求めたが、共同研究契約に基づく帰属及び知的財産権の関係から、ハーバード大の了解が得られず提出はされなかった。この帰属の問題については、理研からも同様の説明があった。
 
(7)また、不正調査規程に基づき、再現実験を小保方氏に行わせたが、与えられた期限までにSTAP細胞の再現はできなかった。また、異例ではあるが、理研としても別途、検証実験を行ったが、やはり再現はできなかった。
 
(8)以上から、当該論文には齟齬があり、STAP細胞の存在証明になっていないが、他方で、実際の実験過程がどういうものだったのか、当該細胞が何であるのか等の点を断定的に判断することはできない。また、その論文作成過程で、何らかの故意による不正があったのか、過失があったのかについても、残念ながら判断することは困難である。
 今後、科学界における研究の積み重ねの中で、解明にむすびつく材料が見いだされることに期待したい。
 
(9)なお、本件の理解のために、付言しておくと、問題となっているネイチャー投稿論文に関する研究、実験は、ハーバード大からの申し入れによる理研との共同研究である。STAP細胞の作製に成功したとされる時期は、小保方氏はハーバード大から共同研究契約に基づき派遣された客員研究員であった。その後、ネイチャー誌での掲載時点では、理研に採用され期限付き研究員となっていたというのが事実関係である。このような構図が、本件論文の不正調査の実施を複雑にさせており、小保方氏が客員研究員であった時期に実験に成功したとされる一連の実験ノート、試料は派遣元のハーバード大の帰属となりその管理下におかれている。このため、小保方氏はその一存では実験ノート等は提出することができず、また我々調査委員会においても、キメラマウスや胎盤切片等の検証をすることができなかった。いずれも、ハーバード大側から許可されなかった。
 このように、海外研究機関との共同研究による場合(そして更に特許等の知的財産権の問題が関係する場合)、当該論文についての不正調査については、実験ノートをはじめ、実験で得られた一連の試料の帰属がどうなるかによって、調査の遂行に困難が生じる場合があることが判明したわけであるが、この点は、現在の不正調査ガイドラインや不正調査規程では、想定されていない事態である。このような事態に、どのように対処がなされるべきなのか、今後、国際共同研究が更に進んでいく中では重要な検討課題となってくると思われるので、国際的なコンセンサスが得られるよう、科学界をはじめ関係者において検討を急ぐことが必要と考える。
                                     以上   」