理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

2 早稲田大の小保方氏学位取消し会見を見ての感想―その2

 
 早稲田大の総長会見を全部見ました。YouTube録画をダウンロードして、倍速で視聴すると、効率よく見ることができました。
 前回の記事↓は、最初から40分のところまでしか見られなかったものですから、その時点での感想となりましたが、その後の質疑応答で明らかになった部分もありました。
 
この長時間の質疑応答の全部を聞き通してみると、全体構図の根幹に関わる大きな問題点がいくつか明らかになったと思います。記者の皆さんも、理研桂調査委員会の会見時と異なり、専門分野の話ではなく、手続き論の話であるだけに理解しやすいのでしょうか、鋭い質問をしていましたし、NHKの記者団も同じく、筋論からの質問をしていました。


3時間を超える質疑応答で、当局側も記者側も大変だったと思うのですが、その疲れのせいでしょうか、終盤になってくると、鎌田総長も、かなり本音に近い発言をしていました。それは、大学当局最高責任者としての正直な悩みの吐露で、聞いているうちに、「大変だな、総長も」と同情しないでもありませんでしたが、しかし、それは大学側としては致命傷になりかねない発言だったような気がします。
向かって右側の副総長は、用意した想定問答の範囲での発言の繰り返しに終始していましたが、その発言の前提が、昨年10月の発表内容や、7月の調査委員会報告での事実認定と齟齬があるように感じられました。
順次ご説明します。
 
. 学位規則や文科省ガイドラインでは、想定外のケースだとの認識を明らかにしたこと。
 終盤の方で、総長は、質問に答えて、次のような趣旨の発言をしていました(2時間46分目当たりからです)。

「これから学位を授与するまでの審査は厳しくやるが、いったん与えた学位、権利利益を剥奪するのは、根拠が必要。それが学位規則23条であり、そこでの「不正の方法」の定義はないが、文科省ガイドラインが故意による剽窃その他と定めていて、それに依拠するのが、客観的、一般的、社会的妥当性があると考えられる。
 他方、今回のケースは、学位規則や文科省ガイドラインでは、二つの意味で想定されていないものだった。
一つ目は、審査会に全く違う草稿が提出されるなどという事態は、全く想定されていないこと。
二つ目は、審査側は完璧で、その審査で騙す,騙されるというものだけが取消の対象となると想定しているが、今回の場合はそういう構図ではないこと。
しかし、審査に手落ちがあったので、それによる不利益を小保方氏に一方的に押し付けるわけにはいかない。他方で、あの博士論文が残り続けることは、許容できないので、本来のものに置き換えないといけない。そこで、昨年10月のような決定をしたもの。」

 総長は、昨年10月の処分決定時にも説明したとしています。 
こういう悩ましさは、誰しも感じる共通の感想だと思いますが、しかし、それを、あくまで、想定外であるはずの学位規則や文科省ガイドラインの既存の条文の中で処理しようとしたのが、間違いだったと思います。上記の発言は、間違って初期の草稿を出してしまい、それで審査合格したことを以て、「不正の方法」と認定したわけですが、それは本来想定されていない解釈だということを、当局としても自ら認めたわけです。論文調査委員会報告では、まさに、今回のような想定外の事態に対応した取消規定はないと判断して、学位を維持せざるを得ないと結論付けたわけですが、大学当局はそれを覆した解釈をしたにもかかわらず、実際には、その判断が実は正しいということを、総長自らが認めたという構図になります。


 「不正」の意味合いの定義はないということで強行したのかもしれませんが、通常は、捏造、改竄、盗用によって、結論に導くために有利なデータであるように故意に偽装するというものです。基本的注意義務違反にしても、過って挿入してしまったデータが有利に働くことを想定しています。しかし、小保方氏の場合には、結論に不利に働く内容で提出してしまったわけですから、「不正」の意味合い、趣旨からは、大きく乖離しています。
 
 更に,業務担当理事が補足説明していましたが、「不正」の意味合いを、基本的注意義務違反も含めて解釈することについて、文科省ガイドラインが昨年(2014年)頃から改訂されて、その基本的注意義務違反も含まれるようになったことを援用していました。しかし、総長が説明したように、本件については、旧ガイドラインの下での事案ですから、(仮に本件が基本的注意義務違反に該当すると解釈するとしても)、解釈の不利益変更の遡及適用をした、ということになってしまいます。不利益変更の遡及適用は許されないということは、公正手続き原則の基本ですから、早大の措置は、その点でも大きな問題があるということになります。
 
 このように、二つの意味で、小保方氏による初期の草稿の提出行為を、学位規則の「不正の方法」と捉えたことは誤りであることを、早大当局も、今回の会見で事実上認めたということになります。
 
 そして、誤った解釈であることを認識しながら、あえてそう無理な解釈した動機が、過って提出された博士論文が残り続けるのは早稲田の恥であり、対処しなければならないという懸念だったということも、率直に認めた形です。
 せっかく、いったん与えた権利・利益を剥奪するには積極的根拠が必要との認識を持っていたのであれば、その根拠の解釈についても厳格に適用するということも、併せて認識を持つことだできたのでは・・・と感じます。 


 誰か記者が質問していましたが、提出すべきものが間違っていたと気がついた時点で、差し替えればよかったのではないか、と述べていましたが、私もそのように感じます。
要するに、これは「錯誤」だったわけです。過った提出した論文を、本来提出すべきもの、審査すべきものと思い込んでしまったということです。
規則等で想定されていないケースに対応する場合には、個別の対処によるほかありませんから、その個別事案に関する状況を総合勘案して、個別の方針を検討し、内部決裁で決定するという段取りだと思います。ただし、その際には、学位取消ということは、規程上の根拠がないのでできません(学位規則の上位規範は学校教育法ですが、それにも根拠はありません)。それを前提とした合目的的対処を検討するということです。


「錯誤による意思表示は無効」という考え方はあるのかもしれませんが、法律行為というよりは、教育指導の中での話であり、本来提出されるべき最終稿に近いものは存在していたことが、双方の共通認識であることが、調査委員会によって事実認定されていますから、補正(差し替え)によって、瑕疵は治癒されて、合格判定は維持されるということでよかったのではないでしょうか。それで、総長が言っていた懸念も解消されるわけです。
それらの修正すべき問題点にしても、残っているのは、論文の結論、根幹に関わらない部分だというのが、調査委員会の判断だったはずでしたから、なおのこと、そういう対処で問題なかったはずです。


国会図書館には、差し替えたものを提出すればいいわけですし、早大の論文データベースには、事情を説明の上、差し替えたものを収録すればいいのではないかと思います。
 
 昨年10月の猶予条件付き取消という処分は、誤って初期の草稿を出してしまったことを「不正の方法」に当たるとした部分は、無理が大きいと思いましたが、それでも結果として、本来提出・審査されるはずだった論文に差し替えられるに等しい処分内容だと思いましたので、それでいいだろうと思ったわけです。その当時書いた以下の記事もそういう認識に立つものでした。
 
 
ところが、蓋をあけてみたら、そういうことにはならず、取消確定となったから、驚きです。そして,大学側の説明が、修正すべき点が論文の根幹に関わるのかどうかという点を,にわかに曖昧にして、「訂正」に名を借りて、実質的に審査、査読のやり直し、論文疑惑の応答まで求めた、ということではないか?という疑念が次の論点です。

昨年10月の猶予条件付き処分で、不服申立ての手続きがなされているとのことですので、「不正の方法」の解釈は小保方氏も認めたではないかとの主張もあるかもしれませんが、そうすると、この猶予条件の解釈がどういうことか、ということが大きな争点になってくるかと思われます。

 
                           (続く)