理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 小保方氏批判の何が問題なのか?―①科学的解明姿勢の欠如+②公正手続きの無視

 
 早稲田大の小保方氏学位取消の問題については、また後ほど続きを書きます。DORAさんが怒濤の如く書いておられて、言いたいことはかなり重なりますので、もう少し録画と調査報告書等を読んでから、気付きの点を書きたいと思います。


 今回は、そもそも論の話を少し述べたいと思います。
 
 小保方氏のSTAP細胞問題に関しては、ネイチャー投稿論文の問題にしても、早大博士論文の問題にしても、批判的見方と擁護的?見方との双方の受け止め方があるかと思います。世の中の大勢は、学界、マスコミを含めて、圧倒的に前者だろうと思います。
 このブログは、後者に属していますが、「擁護的」というのはややニュアンスが異なります。ここで言わんとしていることは、次の2点です。
 
(1)  STAP細胞・現象は何かについて、依然として科学的な解明がなされていないから、その解明を求めるということ。
(2)  社会において、物事を処理するには、公正手続きというものがあるのだから、本件についても、それに即した対応がなされるべきであるということ。
 
 本ブログを最初から読んでいただければわかりますが、すべての記事は、この2点に集約されています。至って平凡なことなのですが、なぜか、STAP細胞問題については、何か異様な空気が支配していて、この至極当然の2点がどこかに行ってしまっています。ですから、社会が冷静な議論に立ち戻ることに期待して、せっせと客観的材料を提供して水をかけているわけで、小保方氏個人を丸ごと擁護することが目的ではもちろんありません。
私自身も整理が雑なほうで、多忙を極める中で、小保方氏と似たような失態をしたことが2~3度ありますから、小保方氏に同情と共感?がないといえば嘘になりますが、別にそれだけで「擁護」しているわけではさらさらありません。小保方氏に批判的な方からは、「偏向している」と感じられるのかもしれませんが、上記の2点がクリアされれば、それでこのブログの目的は達せられます。
 
1.科学的に、解明も解明努力もなされていないこと
 
STAP細胞の正体は、ES細胞である」ということで決着が付いているではないか! 理研の調査委員会自身がそう結論を出し、ネイチャー誌も、万能細胞の世界的権威による実験失敗、STAP否定論文を掲載して間違いだったことを認めたではないか! 科学者で誰も擁護する人間などいないではないか! 早稲田大も学位を取り消したではないか! それでもまだ言い募るのか?」
・・・と批判される方は言うのでしょうが、別に権威ある人が言ったとしても、真実はそれで決まるわけではありません。科学の歴史は、権威を否定する歴史だったはずです。
 
科学は、科学的証明の世界のはずです。証明に対する反証―再証明の繰り返しで真実に近づいていくものであることは、誰も異論がないと思います。
ですから、小保方氏がSTAP細胞の存在を証明できておらず、笹井氏が述べたように仮説に戻ったままというのはその通りです。ですから、それは引き続き証明してもらわなくてはいけません。
しかし、「STAP細胞の正体が、ES細胞だった」というのは、それは別途の主張であり、それに対する反証に答えなければならないはずです。ここで、「小保方氏の証明が先だ」と主張することはできません。(論文調査に留まらず)科学的調査として行われた理研の桂調査委の報告書を基にした、先日のネイチャー誌に掲載された理研の論文は、それ自体が一つの科学的仮説に立った論文なのですから、反証に耐えるものでなければなりません。
 当方が言っているのはもう簡単な話で、先日も書いたように、STAP細胞=ES細胞正体説に即して、すべての事象を統一的、整合的に説明してほしい、ということに尽きます。
 
『1 STAP細胞=ES細胞正体説の根拠の脆弱さ―統一見解がない「閣内不一致」』
 
 この記事に、ご質問が書いてあります。それにさらさらっと全て整合的に答えていただければ、それで終わります。だめ押しで、以下の記事に書いたように、ES細胞で一連の事象をそのままに再現していただければ、完全決着です。
 
 『2 STAP細胞=ES細胞正体説の根拠の脆弱さ―なぜES細胞で再現実験をしようとしないのか?.
 
どうも、STAP細胞否定の皆さんは、完膚なきまで無きものにしようという様子ですが、それならば、上記記事で述べたようなES細胞で説明できない材料(しかも、理研の公式記者会見で提示されている材料です)に対して、ことごとく否定する説明、証明をされればいいものを、それをしようとせず、しようとしても、断片的に個人的見解ないしは感想を述べるのみで、統一的かつ整合的に述べることはないように思います。断片的であっても、整合をとるべく努力しようとしている向きも見当たらないように思いますが、もし、あるのであればご教示いただけると幸いです。浮遊細胞説(胚葉体説)によって一気通貫で全部の事象を説明できるかというと、ちょっと言っただけで終わっているのではないでしょうか。キメリズムの高いマウスなら胎盤が光って見えるかもしれないと若山氏は感想的に述べていますが、自らの研究室にそういうマウスはたくさんあるはずなのに、やって見せてみようという様子はみられませんでした。
公式中の公式調査である桂調査委員会にしても、遺伝子解析「しか」やっていない状況で、笹井氏、丹羽氏の指摘は調査対象外として逃げてしまっています。鍵だったはずのキメラマウスも胎盤の切片も調査していません。マウスの交配・手交ミスの可能性についての質問には結局答えきれていませんでした。
そのような状況なのに、「ES細胞が正体だと皆言っているのだから、もう決着だ」といわれても納得できようはずがありません。
 
小保方氏を批判し、ES細胞が正体だと信じている皆さんは、小保方氏が研究詐欺をはたらいたと思っているのでしょう。ES細胞を盗んで科学界と社会を騙し、高いコストをかけて検証実験,再現実験までさせてけしからん、相応の社会的、刑事的制裁を受けるべきだと思っているのではないでしょうか?
それであれば、ES細胞の窃盗罪などではなく、より包括的に、偽計業務妨害罪で告発すればいいのです。しかし、その場合には、
ES細胞が正体であることの説明
・小保方氏がES細胞を混入又はすり替えた手口についての説明
ES細胞では説明できないことに対する統一的、整合的説明
・マウスの交配・手交ミスではないことの証明
等の全ての点について、何らの矛盾なく整合的に説明しなければなりません。また更に、
  ・検証実験で生成されたSTAP様細胞は何なのか?(丹羽氏はESでもTSでもないと言っている)
 ということも派生的に説明しなければならないでしょう。若山氏も、証言を求められて、2月時点で説明したES細胞とは異なる観察や、ES細胞とは考えられない旨述べて指摘した点について、整合的説明を求められることになるでしょう。
 ES細胞が正体だと信じている皆さんは、上記の説明ができるのですか? 全部矛盾なく説明できるのですか?
犯罪は立件する側がすべて証明しなければなりませんから、この局面で、「小保方氏が存在証明するのが先決だ」などという台詞はもちろん通りません。
 
敢えて言えば、このSTAP細胞問題は、典型的な冤罪形成パターンを地で行っているように感じられます。
前にも例示で書きましたが、松本サリン事件でマスコミから完全に犯人扱いされ、警察からも厳しい尋問を受けた河野義行氏がそういう目にあった理由は、自宅で農薬の調合をしていたことや、「河野氏宅から白い煙をみた」という目撃証言(後に虚偽と判明)によるものでした。しかし、それらの農薬からサリンはできず、また別途の「白ずくめの服を着た男たち」の目撃証言は無視されました。
STAP細胞事件も、これに類似していて、河野氏宅にあった農薬からはサリンはできないという点は、ES細胞では、STAP細胞の形状、大きさ、性質、発光状況等を備えるものはできない、という点に相当すると思います。遺伝子解析ではES細胞の特徴とほぼ一致したということの一点のみが根拠ですが、それは前記の諸点及びマウスの交配・手交ミスという反証可能性を潰さなければなりません。
 
冤罪のパターンでは、そういう明らかな否定材料があるにもかかわらず、警察が強引に自白を強要したり、証拠を操作したりということがあります。そして、警察からのリークがどんどんなされて、マスコミがそれに乗り、怒濤のような報道によって、犯人であることが既成事実化し、最後は逮捕、有罪に至るというものです。
マスコミはそれで忘れますが、何年か、あるいは何十年か後に、再審請求が認められて、無罪釈放になったら、マスコミは今度は、正義が勝ったみたいな報道をして、警察を悪者扱いして、当時の報道の責任は取ろうとしません。
STAPの問題は、警察を理研、科学界と置き換えればいいでしょう。「理研内部からのリークがどんどんなされて、マスコミと科学界がそれに乗り、怒濤のような報道によって、犯人であることが既成事実化し、最後は有罪に至る」というものでした。松本サリン事件では、河野氏に落ち度はありませんでしたが、小保方氏の場合には、落ち度が多分にあったことと再現がなかなかできないことが、そういう決めつけを促進し、受け入れられやすい環境となったことは否定できません。しかし、だからといって、科学的裏付けが乏しい断罪が許されるということにはもちろんなりません。
 
別に私は、所謂人権派でも何でもありませんが、科学の世界の話は科学の論理と材料とで議論がなされるべきであるにもかかわらず、そうはなっていないことに異議申立てをしているものです。
 
. 公正手続きが軽視されていることについて
 
 何でもあっても、公正手続きの保障は、基本中の基本です。不利益措置、特に犯罪の被疑者への科刑手続きにおける公正さの保障は、必須です。犯罪を犯したことが明らかであっても、弁護士は必ず付きますし、厳密な証拠に基づく裁判でのやりとりを経て罪刑が決まります。裁判を受ける権利は誰であっても保障されます。
 公正手続きといっても、その意味するところは広く、解雇その他の懲戒等のように、不利益処分等の場合には、弁明の機会の付与等は保障されます。不利益変更は、遡及適用は許されません。罪と量刑のバランス(比例原則)、裁量の範囲、他の事例との比較衡量、公平性の確保等等、その要請は多岐に亘ります。
 小保方氏に対する理研及び早稲田大の一連の措置を、これらの公正手続きの確保の観点からみると、山ほど問題があります。

 まず、理研の第一次調査委員会報告は、きちんと報告書内容を示した上での聴聞をせずに、小保方氏の不正ありとの報告書を公表しました。不服申立ては受け付けたものの、その却下に対する訴訟に道は用意されていません。これは、理研の問題ではなく、我が国の研究不正手続き自体の問題なので仕方がありませんが、懲戒処分か名誉毀損で争うほかないのが現状です。これは、研究不正に関する調査制度自体の問題としてあり方が検討されるべき課題と思われます。
 
 また、第一次調査委は、「不正」の定義を事前に示しませんでした。裁くのにその基準となる定義が明確ではないなど聞いたことがありません。明確性、予測可能性の担保は基本中の基本です。却下裁定とともに定義を示したはいいものの、明らかに過失による画像配置ミスを、「複数実験のデータを整理しないままに一つのパソコン内で管理していたことは、間違ってもいいと思っていたからだ」という驚天動地の「未必の故意」論によって、故意である=従って捏造の不正であるという結論を出しました。改竄についても、有利な結果に見せかけるために加工することがその本来定義なのに、結果は変わらずとも、また加工の目的がどうでああっても、物理的に加工したことは故意だから、改竄である、というこれまた驚くべき珍説に基づく不正認定をしました。このような主張が、司法の場に持ち出されれば,認められるはずもありません。しかし、上述のように、研究不正の不服申立ての却下に対しては、司法での審査の道が閉ざされているのが現状です。おそらく、調査委は、それがわかっていて、こういう乱暴極まる不正認定をしたのでしょう。
 ちなみに、小保方氏の論文問題を契機に、文科省ガイドラインが改定されましたが、そこでは、「研究者としてわきまえるべき基本的注意義務違反」を「研究不正」の定義に追加するというものでした。重過失を研究不正に追加したというものです。つまり、小保方氏の行為は、基本的注意義務違反だったことを意味しており、この点からしても、第一次調査委の結論は間違いだったということが裏付けられるものです。
 
 次に、再現実験の問題です。文科省ガイドライン及び不正調査規程では、再現実験は、不正の嫌疑を晴らす権利として認められています。ところが、分子生物学会の面々やマスコミは、理事長以下、「税金の無駄遣い」、「不正の解明が先決」との台詞によって、それを封じようとしました。文科省ガイドラインの当該規定の存在を知らずに主張していたことが、後に明らかになりました。

 その再現実験にしても、研究実験環境としては不適切な環境しか与えられませんでした。小保方氏が不正を働いたとの前提に立って、監視カメラをつけ、横に監視人を立たせ、研究試料のやりとりや分析もすべて他人を介して行わせる、というのは、例えは悪いですが、監視されている中で用を足せというようなもので、再現実験の機会付与の趣旨からして不適当です。東大の研究不正で再現実験が求められた際も、もちろんそのようなことはなされていません。文藝春秋の昨年の4月号で、若山氏は、STAP細胞の作製がいかに微妙な配慮を要するかについて、具体的に述べていました。水や試薬一つにしても、少し違っただけで結果が変わってくるし、研究室が変わっただけで、なかなか再現できないことを自らの経験に照らして説明していました。理研の与えた再現実験環境は、それを無視したものでしょう。 そういうものにしてしまった原因は、理研改革委にありますが、その改革委は、不正調査委員会の調査結果を待たずに、「前代未聞の研究不正」「世界三大不正」と、報告書に書き込みました。不正調査によって事実関係を明らかにし、その上で改革提言を行うことが物事の順番ですが、それが逆になっていて、誰も不思議に思わないのですから、それこそ奇々怪々です。そして、提言をまとめるに際して、理研理事、笹井氏らのヒアリングをしないままに、思い込みで結論づけたことも、基本的手続き違反です。
 
早稲田大の小保方氏に対する処分もまた、相当の公正手続き違反がありそうです。
 昨年7月の論文調査委員会は、事実認定を詳細に行った上で、非常に緻密に論理構成をしていますが、その後の10月の猶予付き処分からおかしくなってきました。
「不正の方法」の定義を拡張していますが、もともとの「不正」の意味するところと異なります。不正とは、改竄、捏造、盗用によって有利な結果を偽装するというのが本来の意味ですが、小保方氏の行為はその逆で、大きく不利になるものを出したのですから、その定義には入りません。百歩譲って,仮にその定義に入るとしても、先日の早稲田の会見をみると、最近の文科省ガイドラインの改訂を援用して、過失も含まれるようになっていることを根拠づけているようですが、そうだとすれば、それは不利益変更の遡及適用で、典型的な公正手続き違反です。

 まだ、総長会見の録画を40分までのところしか見ていないので、またしっかり見てからコメントしますが、猶予条件付き取消処分は、上記の点を横に置くとしても、「条件」の内容変更を伴っているような印象が強くしますし、小保方氏に示した内容と実際の内容とが異なっていれば、それは論外です。
 また、論文が、公聴会で合格の域に達しているとの判断をし、それを前提に審査書を書き、訂正すべき箇所を赤字で書いて小保方氏に渡したのち、学位授与の審査委員会にかけたという手続き経緯についての「事実認定」と、問題部分が「論文の根幹部分には大きな影響を与えていない」との判断とを、調査委員会が行い、それを処分時にも前提としたことからすれば、それを覆すような「再審査」はできません。

 更に、先日の会見で、2013年の学位取消処分対象の論文の問題点が、盗用に終始し、「論文の根幹に関わるものであった」のに対して、小保方氏の論文の場合には、「根幹に関わるものではない」と認めていたように思います。本来提出されるべきだった論文の問題点は、NIHの無断引用(=「結論に大きな影響を与えない」)を除けば問題はなくなるとしていたことからも、裏付けられます。そうすると、公正手続きの視点からみれば、比例原則に反するということになります。今日の新聞に、中学校の教師が生徒に性的メールを送っていたことについて懲戒免職処分となったことに対して、裁判所は過重であるとして、停職処分が相当との判決を出したそうです。これも、罪と量刑との均衡、すなわち比例原則の適用が求められたということです。
 小保方氏の論文もそれと同じことで、根幹に影響を与えないにも拘わらず、学位取消という極刑を適用することは、比例原則に反するということです。


 また、実質的に、不正を疑ってその弁明、証明を求めるような「論文指導」であったとすれば、それは本来、不正調査委員会を新たに立ち上げて、そこで調査、弁明が行われるべき筋合いのものです。その意味からも、公正手続きに反している可能性が多分にあります。
 本日、小保方氏のコメントに対する反論を早稲田大が出していますが、
不明瞭な疑惑がひとつでもある場合、またそれを解消する姿勢が著者に見られない場合、信頼できる博士および論文として認めるのは難しいことは、昨年の一連の業界の反応を見ても自明なのではないか。」
 と、「疑惑」という言葉を使っています。語るに落ちるとはこのことでしょう。要するに、不正を疑ってその弁明を求めたということでしょう。それならば、「訂正」のための論文指導とは別途の不正調査手続きが必要であり、それが含まれた論文指導であることは、昨年10月の猶予付き取消処分の中には含まれていないはずです。またしても、早稲田当局のオウンゴールでした。
 
 鎌田総長の「そもそも学位を与えたのが間違い」という発言といい、上記の「疑惑」という用語の使用といい、対外的メッセージの出し方が不用意すぎます。総長発言は、小保方氏のコメントでの取消ありきとの主張を裏付けるものと解釈されますし、「疑惑」との言葉は、論文指導に名を借りて不正調査的行為を実質的に行ったことを認めたものと解釈されます。

 調査委員会報告に反して、学位取消というところまで踏み込むのであれば、よほど理論武装をしなければならないはずなのに、あまりにも発言、プレゼンの脇が甘すぎます。
 法曹界に多数の人材を輩出する早稲田がこれでは、情けない限りです。
せっかく、昨年7月の論文調査委員会が毅然として筋を通したのに、大学当局がそれを台無しにしていましました・・・。

 筋を通すのであれば、

「今回は、昨年10月の猶予付き取消処分において想定していた必要な訂正はなされ、倫理教育も終了したので、学位は維持することとする。ただし、昨年来のSTAP細胞問題の経過を踏まえ、前STAP細胞的位置づけの本論文の内容にも疑義が呈されているので、改めて不正調査委員会を設置し、本人から論述の根拠、裏付け等を求めることとする。その調査の結果、捏造、改竄等の不正の方法があると認められれば、学位取消はあり得る。」

 との決定とすれば、まだ問題は少なかったと感じます。
 ただし、そもそも、昨年10月の猶予付き取消処分自体が、7月の調査委員会による事実認定からは導くことが難しいものだったことには変わりはありません。