理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

早稲田大が小保方氏の学位取消を決定したとの報道について

 
 小保方氏の早稲田大での学位取消が決定され、112日に総長が説明すると報じられています。
 第一報は、毎日新聞だったかと思います。
 
「小保方氏は博士論文に盗用や不適切な記述があると認定され、大学の指示で再提出したが、学内の審査委員会が検討した結果、博士号取り消しが妥当と判断したとみられる。早大が近く発表する。」
 
 他のマスコミ報道で、これ以外のファクトとして報じている点はあまり見受けられず、次の2点くらいでしょうか。
 
「方針は学内の委員会でまとめた。小保方氏側に伝え、近く公表する。小保方氏側は猶予期間の延長を求めたが、認められなかったという。」
 
「小保方さんの代理人をつとめる三木秀夫弁護士は、弁護士ドットコムのメール取材に対して、「(博士号の取り消しについて)大学から正式な発表がないので、現時点ではコメントすることはありません」と答えた。」
 
●どういう判断経緯なのかは、112日の総長会見と発表資料を見ないと何とも言えませんが、現時点での報道を見る限りでは、


 ①小保方氏は、論文を再提出した。
 ②しかし、学内の審査委員会では認められなかった。
 ③小保方氏は猶予期間の延長を求めたが、認められなかった。


ということだけしかわかりません。以下の主要な注目点は発表待ちということになります。
 
 ○学内審査委員会の審議経過
 ○論文が認められなかった理由、論理
―「論文を適切に訂正」しなかったということなのか、それとも、その
 後の理研調査委報告やネイチャー誌のレビュー結果を踏まえて、何か
 それ以外の理由が加えられているのか?
 ○学位維持要件の一つとして求められていた「研究倫理の再教育」を受け
  たのか否か
 
 
●小保方氏の学位問題の構図は、比較的単純です。前にも詳しく書きましたが、
 
 ①小保方氏は多忙のあまり、本来提出されるべき最終稿と間違えて、比較
  的初期の途中稿を製本・提出してしまった。
 ②小保方氏側も審査側も、てっきり最終稿が審査会に提出されているとば
  かり思ってろくに確認せずにパスさせたため、間違った途中稿で学位が
  授与された形になってしまった。
 ③最終稿であれば、学位授与は確実なものだった。
 
 ということが、早大の調査委員会による事実認定と判断です。ところが、マスコミ報道では、こういう構図であることを十分に説明しないままに、初期の途中稿を対象として「小保方氏の博士論文」として考察した調査委報告部分を取り上げて報じたため、「小保方氏の博士論文は盗用だらけの真っ黒で、博士号に値しない人物だ」というイメージが定着してしまいました。
 
「本報告書記載の調査結果のとおり、本件博士論文には、著作権侵害行為、創作者誤認惹起行為、意味不明な記載、論旨が不明瞭な記載、Tissue 誌論文との記載内容と整合性がない記載、及び論文の形式上の不備と多くの問題箇所が認められた。そして、本来であれば、これらの問題箇所を含む本件博士論文が博士論文審査において合格に値しないこと、本件博士論文の作成者である小保方氏が博士学位を授与されるべき人物に値しないことも、本報告書で検討したとおりである。」


「博士号を授与されるべき人物に値しない」
「内容の信ぴょう性が低く、学位が授与されることは到底考えられない」
 
 これは、形式上は、「あくまで、提出・審査の上、博士号が授与されたものが博士論文である」との筋論に立って調査考察したため、そういうことになるのでしょうが、調査委報告は、他方で、冒頭の構図を詳しく論証し、実験の実在もハーバード大まで出向いて検証した上で、本来提出されるべきだった最終稿であれば、問題点は解消されており、博士号授与に値する優れた論文であったことも述べています。
 
「小保方氏の場合でも、(注:最終稿が提出され)このような本来あるべき審査がきちんと行われていれば、上記Ⅱ.1.で検討した問題箇所はすべて解消され、その結果、博士論文は合格し、正しく博士の学位が与えられていた蓋然性が高い。」(p53のⅲ)
 
「(注:学位論文のベースとなった論文が掲載された)Tissue 誌は、いわゆる査読付欧文学術雑誌であり、その分野の高度の専門的知識をもち、かつ独立、公平性の高い査読者が論文内容のオリジナリティ、教育的価値及び有効性を考慮に入れた上で、内容を評価、検証し、その結果、内容の明確性、正確性、論理性等が掲載に値するとされた場合のみ、掲載を許される。そのため、Tissue 誌がその掲載を受理したことは、査読者が上記一連の実験の実在性に疑問をもたなかったことを示している。」
(p29~30)
 
 このように、早大調査委員会報告書は、一見、180度異なる見解が併存しているように見えるのですが、それは、「間違って提出・審査された初期の途中稿を博士論文としてみれば多くの問題があるが、本来提出されるべきだった(学内審査も実質的にクリアしていた)最終稿を博士論文としてみれば、優れた内容で博士号授与に十分値する」という2つの考察が盛り込まれていることによるものです。
 そして、前者の考察が前面に出されて、後者の(本来メインであるべき)考察が「補論」の形で付け足しになってしまっていて、最初と最後を読むと、前者の話しか書かれていないために、ミスリードなメッセージとなってしまったという構図です(最初に公表された要約ペーパーでも、その補論部分についてはほとんど言及されていませんでした)。
 
 ですから、最初の昨年7月の報告書公表時には、「そんな酷い代物だと認めておいて、学位取消規定がないから取消さないというのは筋が通らない! 盗用等は不正の方法ではないのか? 早稲田の威信は地に堕ちた!」と、批判が沸騰したというわけです。そしてそれに対する焦りがあったのでしょう、10月の総長会見では、
 
「小保方氏が公聴会による実質的な審査の対象となった論文とは大きく異なる博士学位論文を提出したことは、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったものであり、これによって最終的な合否判定が行われたことは「不正の方法により学位の授与を受けた事実」に該当すると認定し、博士学位の取り消しを決定した。」
 
 として、提出の際の基本的注意義務違反を「不正の方法」として、学位取消を決定し、しかし、一定期間内に、本来の論文に訂正し、倫理教育も受ければ学位は維持するという苦肉の結論としたという流れです。
 
 この総長会見時の、大学当局としての猶予付きの学位取消決定は、かなり無理筋のものでした。それは、次のような点においてです。
 
  調査委は、間違えて草稿を提出してしまったことについて、「不正の方法」に当たらないとして、取り消す根拠がないとしていたところを、処分時には、当たるとした。
  「不正の方法」は、本来、捏造、改竄、盗用等の、故意による欺罔的行為を指すものであるところを、基本的注意義務違反という重大な過失も含めてしまった。
  これは、文科省の研究不正ガイドラインの改定で、基本的注意義務違反も「不正」に含めたことを念頭においたものと思われるが、事後的な規定や解釈の変更を遡及適用することには、通常は認められない。
  しかも、不正の方法(=欺罔的行為)によって学位取得するという場合に想定していることは、それによって内容の水準を上げる(有利なように見せかける)ということなのに、小保方氏は逆に草稿を提出して水準を下げてしまっているのだから、想定しているパターンとは明らかに異なる。
  早大は、実質的審査もクリアしていた本来提出されるべきだった論文の内容については、一切問題とはしておらず、その内容について「不正」とは認めていない。
 
 弁護士を中心として構成された早大の調査委員会は、学位の授与に関して、厳格に解釈しています。
 
2. 学位取り消し規定の該当性
(1) 早稲田大学学位規則第 23 条の要件 早稲田大学における学位取り消しの要件は、「不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したとき」である。 (2) 学位取り消し規定の解釈と適用「不正の方法」 不正行為を広く捉え、過失による行為を含むとした上で、「著作権侵害行為、及び創作者誤認惹起行為は不正行為にあたる。」と認定した。但し、「不正の『方法』」といえるためには、不正行為を行う意思が必要と解釈すべきであるため、過失による不正行為は「不正の方法」に該当せず、「不正の方法」に該当する問題箇所は、序章の著作権侵害行為及び創作者誤認惹起行為など、6 箇所と認定した。
(3) 学位取り消し規定の解釈と適用「不正の方法により学位の授与を受けた」「不正の方法」と「学位の授与」との間に因果関係(重大な影響を与えたこと) が必要と解釈すべきであるところ、本研究科・本専攻における学位授与及び博士論文合格決定にいたる過程の実態等を詳細に検討した上で、「上記問題箇所は学位授与へ一定の影響を与えているものの、重要な影響を与えたとはいえないため、因果関係がない。」と認定した。
 その結果、本件博士論文に関して小保方氏が行った行為は、学位取り消しを定めた学位規則第 23 条の規定に該当しないと判断した。
 
V. 結論(付言)
・転載元を表示せずに他人作成の文書を自己が作成した文書のようにして利用する行為は、研究に携わる者が作成する論文等において、決して許されない。小保方氏について、学位取り消し要件に該当しないと判断したことは、この問題点の重大性を一切低減するものではない。
早稲田大学がひとたび学位を授与したら、それを取り消すことは容易ではない。それほど学位の授与は重みのあるものである。早稲田大学において学位審査に関与する者は、その重さを十分に認識すべきである。
 
 このような厳格な解釈と、一番最後の付言部分は、学位授与が法律に基づくものであることを認識していたからでしょう。根拠は、学校教育法にありますが、大学院課程を修了した者には、学位を授与「するものとする」とあります。「することができる」ではなく、大学側に裁量の余地はありません。
 
○学校教育法
第百四条  大学(…中略…)は、文部科学大臣の定めるところにより、大学を卒業した者に対し学士の学位を、大学院(…中略…)の課程を修了した者に対し修士又は博士の学位を、……授与するものとする
 
○学位規則
(博士の学位授与の要件)
第四条  法第百四条第一項 の規定による博士の学位の授与は、大学院を置く大学が、当該大学院の博士課程を修了した者に対し行うものとする
 
  こういった状況の中で、博士号を取り消すということは、どのような根拠によるのか、注視されるところです。これまでの経緯からして、それでも取消が考えられるのは、次のいずれかしかないはずです。

 ・小保方氏が、訂正論文を提出しなかった。
 ・小保方氏の訂正論文が、然るべく訂正がなされていなかった。
 ・小保方氏が、倫理教育を受けなかった、又は不十分だった。
 
 しかし早大は、これまでも少しずつ、世間の批判・非難を念頭において、政治的判断を滲ませて、判断を変更してきています。
 
第一段階 論文調査委員会報告において、本来提出されるべきだった実質審査済みの論文に問題がないことを認定していながら、小保方氏を酷評した。最初に発表された要約ペーパーでも、本来提出されるべきだった論文の審査経過、内容の問題のなさについては言及を控えた。
 
第二段階 処分決定時に、調査委が出した「不正の方法」には当たらないとの結論を覆し、解釈の遡及的変更により、「不正の方法」に当たるとした上で、猶予付き取消とした。
 
 その延長上での、今回の最終決定ですが、おそらく、昨年の猶予条件を実質的に変更して、政治的判断を多分に優先させたものになっているような予感がします。
 早大とすれば、昨年10月の猶予付き取消処分の時点では、まだSTAP細胞・現象の有無については検証実験中でしたが、その後、理研の桂調査委による「ES細胞混入」との結論、更に、ネイチャー誌の特集でのSTAP細胞の否定結論と続いていますから、その当事者である小保方氏の学位を維持をするとなると、早稲田大の学位や大学自体の威信が失墜すると考えているであろうことは想像に難くありません。
 大学当局としては、ここはどれだけ(昨年の猶予付き取消決定の経緯からして)無理筋であろうとも、取り消さないと大学が持たないと考えているような気がします。
 「無理筋だとは世間もマスコミも思わないだろうから、押し切ってしまえ」という姿勢がもし表れているとすれば、逆の意味で、早大の権威失墜です。
 せっかく、学内調査では、ハーバードまで出向いて現地での実験ノート、証言聴取等の確認もして論文の裏付けを取り、学位論文の審査過程についても詳細極まる検証を積み重ねて、厳格な判断をしたにもかかわらず、それらを放擲して、政治判断で小保方氏を切り捨てるとすれば残念な限りであり、組織防衛の圧力に耐えることができなかったということでしょう。
 
 112日の最終処分決定が、どのような内容になるのかわかりませんが、要注目点は、
 
(1)昨年の猶予条件(訂正論文の提出+倫理教育の受講)に照らして、どういう事実関係に基づき、どういう判断をしているのか?
(2)昨年の猶予条件以外の条件、要求を持ちだしていないか? たとえば、本来の論文の内容については問題なく博士号授与に値するとしていたのに対して、新たに追加的検証要求等を持ちだすとすれば、猶予条件とは異なりますし、その要求をした上で猶予期間延長なしに学位を剥奪するのだとすれば、手続き的に不当です。論文内容については、調査の上問題ない旨認定しているのですから、その内容について不正の疑いがあるというのであれば、新たに不正調査委を立ち上げて調査をしなければならないというのが、求められる校正手続きです。
(3)小保方氏の学位を剥奪するということになると、学校教育法に照らせば、博士課程の修了を取り消すということになるはずだが、そうなるのか?
     学士で言えば、その取消は卒業を取り消すということですから、それはよほ
    どのことです。早大論文調査委が縷々述べている授与の重み(それを前提と
    して社会での関係が構築されていくという趣旨)を無視するということになりま
    すから、剥奪するならばそれに見合う然るべき理由がなければなりません。
 
 なお、小保方氏の「コピペ」については、この博士論文の話がイメージ形成の元ととなっていると思いますし、例えば、今回の毎日新聞等でも、次のように書かれているなど、「不正」の事例としてしばしば言及されています。そのメインは、米国立衛生研究所NIH)のホームページの切り貼りと、企業のHPの絵の借用の件です。
 
「小保方氏は2011年3月に早大で博士号を取得。ところが昨年2月にSTAP論文の不正疑惑が浮上すると、博士論文でも全体の5分の1に当たる20ページ超に米国立衛生研究所のホームページと同じ記述があるなど多数の問題が指摘されるようになった。」
 
 しかし、NIHHPの文章等は、論文のイントロ部分での「万能細胞とは」といった基礎的解説の部分であり、早大報告書でも、「結論に重大な影響を与えたとは言えない」「本質部分ではない」としていますし、本来提出すべきだった論文では、絵の部分はなくなり、NIHHPについては参考文献としてきちんと記載されています。
 著作権法は、日米で異なり、NIHのような国の機関の文章は、そもそも著作権が発生しないパブリックドメインのものになっています。
 これらの事実関係から考えれば、少なくとも、本来提出されるべき実質審査済みの学位論文においては、NIHの文章を使ったことは、法令上も実質上も巷間言われるほどに問題があるとはいい難いところです。論文の根幹部分に影響を及ぼすものではなく、それがなくても関係ない部分です。
 それを、論文盗用と同様のイメージで拡散させることは、物事の本質とは乖離したミスリーディングな誘導だと感じます。
  


●STAP細胞の件は、桂調査委員会の結論と、ネイチャー誌の論文とで、「正体はES細胞」で決まりのようになってしまっています。しかし、ES細胞混入では説明できない点については解明されていないこと、解明しようという試みさえ行われていないこともまた否定できないところであり、科学的ではない状況のままに、否定的な既成事実が積みあがっていくことは、科学にとっても社会にとっても(もちろん小保方氏にとっても)不幸なことだと感じます。
 
 「定説」「大家」といった「権威」を壊すことの積み重ねが、科学の進歩だったはずなのに、STAP細胞否定の話になると、「万能細胞の世界的権威」(NHK)といった権威付けをして、その言い分で否定しようとするのですから、おかしな話です。
 理研の第三者委員会が、改革委が、万能細胞の世界的権威が、ハーバード大が、ネイチャー誌が・・・というだけで思考停止になってしまうのは、科学とは対極の世界です。
 科学なのですから、科学的論点の抽出と、各論点ごとの主張・反証材料の整理の積み重ねをして、真理に近づいていくという手法がとられるものと思っていましたが(そういう点では、犯罪捜査と似ています)、どうもそういうことではないようです。
 
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 以下、これまで書いた早大学位論文関係のブログ記事の一覧です。
 
【論文調査報告書公表時点】
早稲田大学位論文調査報告書について―実質的な小保方氏の潔白証明に
意外にも小保方氏の実質的潔白証明となった早大学位.論文調査報告書―理研調査委とは異なり実証の積み重ね
【補足2】小保方氏の米国NIHサイトのQA転載は.、本当に著作権侵害と言えるのか?(頭の体操)
 
早大当局による処分時点―猶予付き学位取消】
 
【その後の時点】