理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

ネイチャーでのSTAP否定2論文の掲載に関してのとりあえずの感想

 ネイチャー誌で、STAP細胞に関して二つの論文が載り、
 一つは、ハーバード大のほか、世界の7つのチームがSTAP細胞の再現ができなかったというもの。もう一つは、理研の桂調査委員会報告書の詳細分析?のようです。
 
Failure toreplicate the STAP cell phenomenon
STAP cells arederived from ES cells
 
NATURE |EDITORIAL
 STAP revisited
NATURENEWS
 
 これらについての日本の報道の個別記事ではよくわからない点もあるのですが、一通りみて、構図が少し見えたような気がします。共同電が一番まとまっている印象です。あと、他のメディアで目に止まったところを抜粋してみます。
 
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●STAP細胞、米大なども「作製できず」 133回試み失敗
日経新聞 2015/9/24 2:00
「【ワシントン=共同】STAP細胞論文の共著者チャールズ・バカンティ教授が所属するハーバード大など7つの研究チームが「細胞作製を試みたが、できなかった」とする研究報告をまとめ、英科学誌ネイチャーに23日発表した。合計で133回試みたが全て失敗に終わったという。
 ネイチャー誌は論説記事の中で「多くの研究者が参加した結果、STAP細胞は再現できないことが分かった」とコメントした。STAP細胞の存在が改めて否定された形だ。
 研究に参加したのはハーバード大のチームや中国・北京大、イスラエル・ワイツマン科学研究所など。バカンティ教授の研究室や共著者の一部も協力した。報告の著者の一人、ハーバード大ボストン小児病院のジョージ・デイリー教授は共同通信の取材に対し「この研究は大学当局による公式な調査ではない」と答えており、バカンティ氏の今後の処遇とは無関係とみられる。バカンティ氏の勤務先病院は同氏のコメントを出していない。
 理化学研究所も同じ日付のネイチャー誌に「STAP細胞は胚性幹細胞(ES細胞)が混入したものだ」とする論文を発表した。同内容の報告は、STAP論文問題を調べた調査委員会が昨年12月にまとめている。
 ハーバード大などの報告では、論文著者の小保方晴子氏や共著者のバカンティ教授が主張する手法に沿って、マウスの脾臓(ひぞう)や肺の細胞に、酸や物理的圧力などのストレスをかけ、どのように変化するかを観察した。
 細胞は、様々な組織に分化できる万能性を持つような変化があった場合、緑色に光るように遺伝子操作した。だが光る細胞はあったものの、ほとんどは死ぬ間際に光る「自家蛍光」という現象によるものだった。死なずに光っているわずかな細胞を調べても、万能性を証明できるような結果は得られなかった。」
 
●STAP細胞:133回の再現実験ですべて作れず
毎日新聞 20150924日 0200
「・・・同誌に掲載されたSTAP論文は昨年7月に撤回されており、撤回済みの論文に関する報告を載せるのは異例という。ネイチャーは論説欄で「論文撤回時の説明はSTAP現象が本物である可能性を残していたが、2本の報告は現象が本当ではないことを立証した」とコメントした。」
 
●「STAPはES細胞」確定…再現実験全て失敗
読売新聞 20150924
http://www.yomiuri.co.jp/science/20150923-OYT1T50106.html のネット版では掲載されていませんが、紙版では、次のように続いています。
「・・・同誌は、「STAPは存在しなかった」とした上で、今後、同様の論文には詳しい作製法の公開と、使った細胞の起源の確認を著者に求めていくという。
 理研の松崎文雄チームリーダーらは、理研の内部調査の一環で、小保方氏らがSTAP細胞から得たと主張したSTAP幹細胞の全遺伝情報を解析。小保方氏の共同研究者で、当時、理研に在籍した若山照彦・山梨大教授の研究室で作製されたES細胞と、遺伝子の細かい傷までが一致、STAP細胞が作られた可能性は極めて低いと結論づけた。
 さらにSTAP細胞をマウスの体内入れて作ったとされる腫瘍「テラト―マ」や、万能性確認のために作ったとされる特殊なマウス「キメラマウス」にも、既存のES細胞が使われていた。松崎氏は、読売新聞の取材に、「STAP論文の主要な結論が誤りであると、決着がついたと考える」と述べた。」
 
●後は、コメント欄でご紹介のあった
 New Nature papers debunk STAP cells
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 整理すると、次のようなことでしょうか・・・。

①二つの論文の発表は、ネイチャー誌主導のもの。撤回された論文に関するものである点で異例ではあるが、撤回理由では、STAP現象の有無は明確ではなかったので、今回それを明確しようとしたもの。ネイチャー誌としては、これら2論文を以て、STAP細胞はなかったと結論した。
ハーバード大の論文発表は、ハーバード大研究室が含まれていたり、ヴァカンティ研究室の研究者の一部も協力しているようだが、ハーバード大としての公式の調査ではない。また、共著者のヴァカンティ教授や、特許出願を継続しているブリガム・アンド・ウィメンズ病院は、現時点ではコメントをしていない。
ハーバード大等の論文では、発光するほとんどは、死細胞の自家蛍光だとしている(ES細胞の混入だと言っているわけではない?)。
理研の発表論文は、桂調査委員会が昨年12月の報告時に予告していた詳細論文だと思われる。同論文は、松崎リーダー以下9名の研究員による連名になっており、これらの人々が理研の桂調査委員会での解析を担当したと思われる。
⑤桂調査報告では、理研帰属分の試料だけで解析したとされるが、桂委員長は記者会見では、キメラマウス(や胎盤の切片等の試料)による確認の有無を問われて、直接答えず、「確認できなかった。しかし、証明できているとは思っていない。胎盤ではなく卵黄嚢と見間違えた可能性が高い。」というすれ違いの答をしていた。
 しかし、今回の報道をみると、松崎リーダーは、キメラマウスやテラト―マも遺伝子解析している由。
 
●こうやって整理してみると、自然と質問したくなる点があります。
 
第一には、ネイチャー誌に対してです。
EDITORIALの最後で、「検証は完了した。科学とは、究極的には、科学界が極めて重要な役割を果たす自己修正過程であり、今回、幹細胞コミュニティはその役割を立派に果たしたことは祝福されるべきだ」と書いていますが、「ネイチャーは自己検証をしたのか?」ということです。
もともと査読段階で、「ES細胞の混入ではないのか?」「死細胞の自家蛍光ではないのか?」という指摘があったわけであり、数か月のやり取りの結果、アクセプトに至ったのは、それらの指摘に対する反駁材料があり、それに納得したからのはずです。「それらはどういう材料だったのか?」ということです。それらは、おそらく、笹井氏が昨年4月の会見で指摘していた諸点や丹羽、かつての若山氏の指摘した点だったのだろうと思われます。自家蛍光ではないことは、FACS等で確認したということであり、ES細胞ではないということは、その形状、特性、光り方等であり、人為的操作ができない録画画像だったのではないのでしょうか?
それらの査読での指摘からアクセプトに至る過程を、ネイチャー誌は明らかにすべきでしょう。そして、それらの死細胞やES細胞では考えにくい材料について、今回の2つの論文で否定できたのかどうかについてもコメントすべきでしょう。“the stem-cell community has excelled in that role and should becongratulated.”などと、他人事のように言っている場合ではないと思います。
もし、理研の今回の発表論文の中で、それらについての検証も併せて行われているのであれば、それは大変有意義で興味深いものですが、おそらく昨年12月の発表通り、遺伝子解析だけしかやっていないのでしょう。それでは、それらの点は、依然として、ミステリーとして残ったままになります。それらの点について何も整合的説明がなされないことが、いつまでたってもSTAP否定派と擁護派とですれ違いになる根本原因のひとつなのですから、科学界はその解明に取り組むことが、今回のSTAP問題検証における役割だと思うのですが、今回の2論文によっても、それは果たされていないのではないでしょうか。
 
第二は、理研に対してです。
上述の通り、桂調査委員会は、理研帰属試料でしか検証ができませんでした。そして、桂委員長は、キメラマウス等の残存試料での検証はできなかったと述べ、テラト―マ、胎盤の切片も含めて、理研帰属ではないことを示唆していました。
 http://blogs.yahoo.co.jp/teabreakt2/16134077.html の記事の「疑問2」の部分
しかし、今回、キメラマウスやテラト―マの遺伝子解析も行い、研究室の(岡部研由来の)ES細胞の特徴を見出したとあります。残存試料の帰属問題を解決し、検証ができたのであれば、キメラマウスや胎盤の切片での最も肝心な検証対象は、胎盤の件だったはずですから、それらの検証も行われて然るべきです。毎日新聞須田記者をはじめ、多くのマスコミ、研究者らが、キメラマウス等の残存試料を検証すればはっきりすると言ってわけですし、一時は理研理事も、検証するようなことを会見で述べていたと思います。
そして、丹羽氏は、会見で次のように、自分の目での観察について自信を持って述べていました。
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Q 胎盤に分化していることを確認しているのか? 血管が光っているのではなく、細胞が光っていることを。
A 自分自身もその点は、実験に参画した上で最も強いモチベーションだったので、・・・GFPの自家蛍光の問題は、免疫染色等で確認すべきだとのご意見があったが、まさにそのような手段を用いて、かつ 胎盤実質細胞で発現するマーカーともキョーセンショクを以って、確かにSTAP細胞由来と思われるGFP陽性細胞が胎盤組織にインテグレートしていることを、切片を顕微鏡で自分の目で確認している。
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したがって、キメラマウス等の遺伝子解析ができたのであれば、胎盤についての、この丹羽氏の証言に照らしてどうだったのかの検証もするのは当然の流れであって、もし、それが今回の理研の論文に含まれているのであれば、それは新材料ということになるでしょう。しかし、おそらくそういうことではないのでしょう。
桂調査委員会として、「あれは卵黄嚢(の見間違えで)ある可能性が高い」「STAP 細胞の胎盤への寄与は、Letterの論点として重要であり、研究の価値を高めるために強引に胎盤と断定した可能性がある」とまで述べてしまった以上、それを覆すようなことは言えないでしょうから。
いずれにしても、この点は、昨年12月の桂委員長の発言と齟齬を来している重要部分であり、理研には説明責任があると思います。

また、相澤氏の下で丹羽氏らによって行われた検証実験と、小保方氏による再現実験の結果についても、詳細をまとめて公表するとしていたかと思います。それは興味深いものがありますし、できれば、丹羽氏の付加実験(FI培地ではES細胞は数世代の継代後にぼろぼろにあって全滅)の結果についても公表してほしいところです。これも、昨年12月の会見時の約束ですから、早期に実現してほしいものです。
 
 第三は、論文を執筆したハーバード大等のグループに対してです。
この論文著者の一人のハーバード大のジョージ・デイリー教授は、NHKスペシャルで、「万能細胞の世界的権威」と紹介され、緑色発光を、「死細胞の自家蛍光だと思っている」と語っていた研究者かと思います。
この論文では死細胞の自家蛍光だといい、理研論文ではES細胞だとしているわけですが、両者は並立するのでしょうか? 自家蛍光論については、3月のNHKニュースの調査委ヒアリング記録の不適切編集の問題で焦点ともなりました。
小保方氏や笹井氏らは、PI色素とFACSによって、死細胞の自家蛍光ではないことを確認したそうですし、人為的操作ができないライブセルイメージングの画像の経時的観察によってもそれは示されているということかと思います(上記記事のコメント欄でのご指摘による)。
また、ライブイメージング画像が、ES細胞であるならば、形状と大きさから死細胞の発光とは見間違いようがないでしょうし、ES細胞であれば発光が最初から生じるはずですから、そうでなくて徐々に発光している様子はES細胞でも死細胞でもないということではないのでしょうか。
 まずは、ES細胞論と両立するのか? そして、死細胞の蛍光だとするのであれば、FACS等での(そうではないとの)確認結果との関係はどう考えるべきなのか?ということについて、どう捉えられているのか知りたいところです。
 
 第四は、ヴァカンティ教授らやブリガム・アンド・ウィメンズ病院に対してです。
特許出願を継続していますので、今回のネイチャー誌の論文は痛手になると思われます。ヴァカンティ教授は、1年の休暇明けで9月初めから復帰しているはずですが、今回、昨年9月にヴァカンティ研究室が公表したプロトコルの製法も再現できなかったということですので、コメントがほしいところです。
また、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院は、今は唯一の特許出願者ですので、その審査は行われつつあるでしょうから、大きな利害関係があります。
※ おそらく、この両者としてみると、小保方氏と同じ「困惑」ということなのだろうと思います。再現の難しさは、笹井氏や、昨年2~3月時点での若山氏がビビッドに語っていますから、そこで指摘されている条件をクリアすれば再現できる、ということなのでしょう。「コツを伴うものは、際限なく難しい」という若山氏の言は当たっているようです。
 
第五は、ハーバード大当局に対してです。
今回の論文は。ハーバード大当局の正式の調査ではないとのことですが、それならば、その正式の調査はどうなっているのか?ということです。
不正調査を行っているのかいないのかすら、さっぱりわかりません。調査過程では水面下で密やかに調べるということはあるのかもしれませんが、調査プロセスとして、調査に入るのなら入るということだけは公表するのが、公正手続きというものであり、透明性のある対応だと感じます。
 
どうも、一口にハーバード大といっても、次のようにいろいろありますから、混同しないように気をつけないといけませんね。
①幹細胞研究を行っている別途の研究室の属するハーバード大
②ヴァカンティ教授の研究室、ウィメンズ病院の属するハーバード大
(=特許出願をしているハーバード大
③不正調査当局としてのハーバード大

 
●思うのですが、笹井氏や丹羽氏での記者会見の指摘や、若山氏の論文撤回呼び掛け前の一連の発言は、ES細胞の混入や死細胞の自家蛍光を否定するものですが、それは英訳されて海外の科学コミュニティには伝わっているのでしょうか・・・。
 また、若山氏が語ったコツの微妙さ、再現の難しさについてのインタビュー発言も貴重なものです。それらが海外に伝われば、また少し違うような気がするのですが・・・。
 
 以上、今回の2論文発表に関して、とりあえず感じたことでした。またいろいろと追加情報が出てくるでしょうから、それを見ながら、また書きたいと思います。