理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

1 NHKスペシャルの放送倫理上の具体的問題点(1) 【STAP細胞不正の深層】

 
 これまでの数回の記事において、次の点を説明しました。
 
1 NHKスペシャルの取材は、みなし公務員としての理研職員の、公益通報としての正当化もできない公益性が認められない秘密漏洩行為と著作権侵害行為の上に立ってなされたものであること。


それらは、単に一般的な守秘義務違反に留まらず、理研の営業秘密であり、特許出願の基礎となる知的財産を漏洩した行為であって、場合によってはそれによって公知化されてしまって、特許出願が認められなくなるおそれのある深刻な知財毀損行為でした。
秘密漏洩行為については、NHKも共犯として、リークした理研職員とともに刑事責任を問われるべきものであり、実験ノートの複写と放映については、著作権侵害行為として、同様に刑事、民事両面で責任が生じる行為だと思います。知財の毀損行為についても、財産権の侵害であり、やはり刑事、民事両面での責任が生じ得る危険で無思慮な行為だったと感じます。
 
2 小保方氏と笹井氏のメールの公開と読み上げとは、明白な人権侵害であること。
著作物であるメールの複写、公開は、著作権(複写権、公衆送信権著作者人格権としての公表権)に違反するだけでなく、あたかも不適切な関係があるかのような演出による読み上げは、週刊誌等で取り上げられていたゴシップ的報道の延長にあるものであり、明白な人権侵害です。
NHKが説明しているような、笹井氏の論文作成の上での積極的な関与などは、最初から会見やマスコミ取材等で説明されていることであり、それをメールの公開によって改めて裏づける必要はありませんでしたし、あのナレーション内容で、そういう観点から役立つ要素は皆無でした。
 
 
 以下、上記の点以外で、NHKスペシャルの不公正性、報道倫理違反等について、論点を抽出して、説明していきたいと思います。これまで本ブログで縷々述べてきたことを、NHKスペシャルの問題に即して整理してみます。
 幸い、番組の録画を見ることができましたので、それに即して述べることとします。
 
【番組を構成した諸材料が、STAP細胞捏造(ES細胞混入)との不正を強く印象づけるものであること】


このNHKスペシャルが、「不正」とタイトルに用い、番組構成においても不正があったことを強く印象づけるようとしている内容は、「STAP細胞は捏造だった」「ES細胞だった(混入だった)」というものです。NHKとしてのナレーションで、直接そう言っていなくても、そう言っているに等しい言いぶりは少なからずありますし、そのような前提に立って番組を構成し、極めて強い印象づけをしていることは、次の内容から明らかです。
 
①冒頭の奥まった部屋の暗い雰囲気でのクローズアップと、小保方氏はいつ もここで一人で研究していた旨のナレーション。
②最初の分子生物学会の学者たちの「単純ミスとは思えない」「こんなこと はあり得ない」「7割の画像に何らかの不自然な点や疑義がある」との立て 続けの指摘。
③実験ノートに、キメラマウスやその元となる細胞をどう作ったかの記述がない旨のナレーション。
ハーバード大のジョージ・デイリー教授の「万能細胞の世界的権威」との紹介の後の、再現できないかったことと、死細胞の発光だったと考えている旨の紹介。
⑤遠藤氏の「調べれば調べるほど、STAP細胞の存在自体がわからなくなる」との発言。
⑥若山氏によるアクロシンGFPの遺伝子混入の知らせを受けてのES細胞混入の可能性指摘。
⑦そこで「ある事実がわかった」として、留学生のES細胞紛失の「証言」を紹介。
⑧「これまで再現の成功例なし。異なる遺伝子の存在。ES細胞混入可能性の指摘、等に答えないまま検証を進めようとしている。」との批判。
分子生物学会メンバーによる論文の検討風景と7割の論文に疑義、不自然な点があるとして、画像を黒塗りしていく演出。
STAP幹細胞にTCR再構成がなかったことを以て、「根底から崩れた」とし、「立ち止まるべきだった」と指摘。
⑪自己点検委員会の鍋島委員長の「笹井氏は、この一件で、これまで人生かけて積み上げてきた本当に大事なものを失った」とのインタビュー発言。
⑫ネイチャー誌のインタビューでの「加工に注意を払う必要があった」旨の発言。
⑬中山教授の「段々不正を働く人が増えている。それを誰も防止しようとしない」等の締めくくり発言。
 
 これらの演出構成は、石井委員会のような意味での論文上の「不正」に留まらず、STAP細胞の存在自体を否定し、実験や細胞が捏造だったことを、視聴者に強く印象付けるものとなっています。
 しかし、このNHKが見立てた捏造シナリオにとって不都合な事実が多々あるのであって(後述)、科学的論点として、公式の記者会見やマスコミ対応で明らかになっている材料を全く無視したもので、極めて不当、不公正であり、放送倫理に反するものです。
 
【補足】お詫びと訂正(2015.9.2)
 以下の石井委員会云々の斜体にした部分は、私の勘違いでした。NHKが言っているのは、次のように、桂調査委員会でのグラフの捏造認定のことでした(ただ、その論文上の話が、STAP細胞がない(=ES細胞だ)ということに直結させているわけではないという点では共通です)。

NHKは)「理研の「研究論文に関する調査委員会」はその調査報告書の中で、「小保方氏が細胞増殖曲線実験とDNAメチル化解析において、データのねつ造という不正行為を行ったことを認定した」と端的に述べており、「このように、STAP論文における不正の存在は所与の事実であって、本件番組のタイトルを『調査報告 STAP細胞 不正の深層』とすることに、何らの問題もないと考える」としている。」
 
【石井委員会での論文上の不正認定を、STAP細胞自体の捏造・不正にすり替えていること】

NHKは、第一次不正調査委員会(石井委員会)で、不正が認定されたとして、「~~は自明だ」としていますが、同委員会の不正認定は、あくまで論文上の画像に関するものであって、STAP細胞の有無を判断しているわけではない旨が明確に述べられています。実際、理研はその前提に立って、その有無の確認のため、丹羽氏らによる検証実験と、小保方氏による再現実験とを開始しています。
 NHKが上記の様々な材料を以て印象づけようとした「不正」は、「STAP細胞はなかった」ということであることは明らかですから、石井委員会の論文画像上の「不正」とは全く次元が異なるものであり、その主張は正しくありません。
 
【補論】石井委員会の不正認定は、本来、過失による「科学的に不適切な行為」に該当するものであり、故意による「不正」ではないことについて。
 なお、石井委員会の論文画像上の不正認定についても、小保方氏は「不正」とは認めておらず、不服申立てが却下されたことにより、その結論に対してそれ以上争う手続きがないために、そのままとなったに過ぎません。石井委員会で、不正認定したもののうち、「改竄」認定では、実験が行われ正規に得られた画像があることは認めた上で、見やすくするとの目的で加工したことを以て、加工したこと自体は「故意」だとするものです。しかし、文科省ガイドライン及び理研規程に言う本来の「改竄」は、実験結果を有利にするための加工を故意に行うこと指すものであるところ、小保方氏が行った加工は、見やすくするとの目的に過ぎず、加工の前後によって得られた実験結果が有利になるというものではありませんから、規程に言う「改竄」に当たりません。過失による「科学的に不適切な加工」に分類されるべき行為です(ネイチャー誌からも、組み合わせた画像の間に線を引けばよかった旨の指摘がありました)。


 また、「捏造」は、規程上は、実験内容を元々ないものをあるように偽装することを指しますが、実態は、ネイチャーからの追加指示への対応等で忙殺されている中、数千枚(若山氏の説明による)ある画像のうちの1枚について、院生時代の実験画像と取り違えたままにしてしまったという「過失」でした。しかし、石井委員会は、パソコンの中で、複数の実験画像を混在させたままにする論文に使うことは、間違ってもいいという「未必の故意」があったとの認定の下に、不正と断じているものです。しかし小保方氏は、外部から指摘がなされる前に、自ら取り違えに気がつき、笹井氏と相談の上、正規の画像(保存されていた試料を再度撮影)に差し替えて、共著者連名でネイチャーに訂正論文を送っています。石井委員会のヒアリングに対しても、その旨明らかにしています。正規の実験に基づくサンプルの画像がある中で、他の実験における画像をあえて使用する理由はなく、故意による捏造認定は間違いです(データの管理の「杜撰さ」(=過失)を以て未必の故意認定をすること自体、無理があります。なお、石井委員会は、院生時代のものであることは言わなかったとして隠蔽の意図を指摘していますが、しかし、実験条件が異なった実験画像と取り違えたことは明確に述べており、隠蔽意図は全くありません)。
 

ES細胞混入では説明できない点について取材・言及が皆無であること】


 番組では、ES細胞が混入したとの前提に立って構成し、それに沿った「証言」その他の材料を集めて、視聴者に刷り込みをしようとしていると思われます。
 しかし、ES細胞混入では説明できない材料(NHKのストーリーにとって「不都合な事実」)は、山ほどあるのであり、記者会見やプレス取材によって示されています。これらについて、全く取材も言及もしないということは、不公正であり、客観性、科学性を旨とすべき報道倫理の逸脱、というか無視するものです。
 
(1)笹井氏の「ES細胞混入では説明できない事象」についての指摘 
ES細胞混入説については、それでは説明できない事象が多々あり、実際、笹井氏が昨年4月の記者会見で、具体的根拠を挙げて否定した上で、「STAP現象は、依然として最有力仮説である」と述べています。これは、理研主催の記者会見において、笹井氏も理研バッチをつけて、理研の研究者として説明し、資料も配布したものです。
ES細胞混入の疑いを指摘するのであれば、これらの点について科学的に取材し、その上で「笹井氏の説明は、こういう理由でおかしいのだ」という指摘を紹介するのであれば、まだ科学的議論ではありますが、「2000ページに及ぶ資料、100人を超える研究者に取材した」と述べているにも拘わらず、笹井氏の資料、説明について検証し、取材をした様子は、少なくとも番組の上では全く見受けられません。
 現時点でも、笹井氏の指摘する事象について、然るべき科学的根拠を以て反駁する指摘は、見当たらないのではないでしょうか。細胞の大きさと形状、凝集の仕方、細胞が光り始めるまでの時間等、ES細胞では説明できない特異の現象でしょう。サイエンスライター竹内薫氏も、STAP細胞に否定的ながら、「ES細胞ならばすぐ光りだすはずだが、しばらくしてから光り出すという点は不思議だ」と指摘していました。


 電子顕微鏡の撮影・録画を不正に操作したと言う人はさすがにいません。それらの撮影・録画は共著者の電子顕微鏡解析室の米村重信室長らが行ったことが、モニタリング委員会報告書の参考資料に記載されています。同氏は、単なる撮影技師ではないでしょうし、ES細胞の撮影については何十回、何百回と行っているでしょうから、STAP細胞の特異な形状、大きさ、発光までの時間等、ES細胞との相違については理解していると思われます。そういった研究者にNHKは取材したのでしょうか?
 
(2)丹羽氏の指摘 
 また、丹羽氏が、「ESTSとは混ざって一塊の細胞塊にならない」「ES細胞をFI幹細胞培養条件下で混ぜたら、特段の形態変化なく、4~5回の継代後に全滅した」と、理研4月と12月の記者会見で述べています。
さらに、ES細胞ではあり得ない胎盤分化については、「確かにSTAP細胞由来と思われるGFP陽性細胞が胎盤組織にインテグレートしていることを、切片を顕微鏡で自分の目で確認している」旨、明確に述べています。
これらは、すべて、4月の理研の公式の記者会見の席上で述べられたものです。当然、NHKはその指摘を知っていたはずですが、それらについて何らかの取材をした様子もありませんし、番組で紹介することもありませんでした。
 
(3)2月時点での若山氏の指摘 
また、若山氏は、昨年2月時点で、朝日新聞その他の内外のメディアによるインタビューで、自らが一からSTAP細胞を作ったことがあり、そこからSTAP幹細胞を作ったが、ES細胞より簡単にできたこと、ESと対比して明らかに異なることを指摘して、ES細胞ではない旨を主張していました。それが実はES細胞だったということになると、その時のES細胞と対比した若山氏の説明は何だったのか?ということになってしまいます。
 
(4)桂調査委員会による無視 
桂調査委委員会でも、これらの点を、解明しようとしませんでした。驚いたことに、「ES細胞混入でほぼ間違いない」と断定したにも拘わらず、それでは説明できないとする笹井氏の指摘について、同委員会は無視しました。その不正調査の趣旨を、内外から指摘されている点についての科学的検証だとし、実際「ES細胞混入」との結論まで導いたにも拘わらず、笹井氏や丹羽氏の指摘については、桂委員長は会見で、「両氏がどうしてそう考えたかは、わからない。我々は、論文がどうなのかを調べているので、その点は、調査対象外だと考えた。」と冒頭での趣旨説明と異なる説明をして、黙殺してしまいました。
 
 しかし、NHKは、7月下旬の番組放送時点で、公式の記者会見やメディアのインタビューという公開された場において、ES細胞だとすると説明できない旨の指摘が相次ぎ、実際報道もされていたのですから、ES細胞混入という見立てに立って報道するのであれば、それと相容れない材料についてもきちんと取材もし、言及すべきです。それにも拘わらず、NHKは、取材も言及すらもしませんでした。報道の公正性、中立性、客観性を大きく損なう偏向的姿勢をいわざるを得ません。


(注)後ほど、関係する本ブログの記事をリンクするようにします。