STAP特許の出願費用の扱いはどうなるのか?―「職務発明」としての扱いに関する頭の体操
JISAIさんのコメントを拝見しながら、小保方氏に対する論文投稿費用の返還請求の件に関して、素朴な疑問がふと湧いてきました。研究者の世界の一般的慣行を知らないのですが、論文投稿というのは研究者個人の話ではないのか? であれば、投稿費用というのはその研究者個人が負担するのが筋ではないのか? ということなのですが、そうでもないのでしょうか? 理研という職場が投稿費用について負担するというのは、どういう局面でどういう理由によるものなのか、よくわかりません。
撤回の議論がなされているときも、その判断は研究者がするのであって、理研がするわけではないということは明確になっていましたから、その前提は、投稿はその研究者個人のマターだということかと思います。
職場である理研が、研究者の便宜を図るために、投稿作業を代行するとか、費用を立て替えるとかであればわかるのですが、理研が負担する筋合いの費用があって、それの返還請求をするということであれば、どういう事情なのか、ぴんときません。
【補足】上記は私の勘違いですね。理研での研究費でSTAP研究がなされ、その成果の論文投稿もその研究の一貫でなされることから、研究費の中ら投稿費用も賄われるということですね。実際は独立行政法人に国から交付される運営費交付金のようですが、そこで要した費用を返還せよ、という趣旨かと思います。論文自体は執筆者個人のもので、その撤回も執筆者の判断・・・というところに引きずられました。コスト負担は職場がするけれども、成果たる論文は個人のものという形ですね。
論文投稿をどうやってやるのか(宅配便で送るのか、ネットでアップロードするのか?)について、イロハも知らない素人の疑問なのですが、どなたかご教示いただけると幸いです。
●さて、それはそれとして、論文投稿費用の返還を求めるとすると、特許出願費用はどういう扱いになるのだろうか? という疑問も湧いてきました。
そこでは、日米における状況が紹介されています。
「まず、日本への国内移行の出願番号がわかりました。特願2015-509109です。国内の出願公開はされていません(少なくともIPDLでは見られません)。ただし、審査書類情報は見られるようになっており、そこから判断する限り、期間内に日本語の翻訳文が提出されてないのではないかと思います。もしそうなら、結果的には取り下げと同じことになります。そういえば、以前に自腹で審査請求すると言われてた方がいましたが、仮にこの状況で出願審査請求をすると手続却下になると思われます(この場合に、審査請求料が返ってくるかどうかは定かではありません)。
また、米国への国内移行(14/397,080)も、まだ放棄・取り下げはされておらず、審査官が割り当てられて審査準備が完了してしまいました。」
日本では、翻訳文が提出されていない模様であるので、取り下げとみなされるだろう、米国では審査準備が整ったので、今後審査に入る、ということのようです。
国際特許出願の国内移行に関しては、次のサイトにわかりやすく解説されています。
STAP特許出願については、今年の1月8日付けで、74項目以上あった請求項が補正されて削除となり、2つの請求項が新たに追加された旨が、栗原氏から紹介されています。
その内容は私にはよくわかりませんが、栗原氏のブログでの補正で追加された請求項の写真を拡大すると読み取れますので、どなたか解説していただけると助かります。
【補足・訂正】
コメント欄の「JISAI」さんのコメントによれば、下記の通りで、20項目に再編した請求項になっている模様だそうです。
「1/8 の新たな請求項Claimsの中身は、ざっとみた感じではキャンセルされた当初の74項目の請求項の内から不要な項を削除して、20項目の請求項に編集して再度追加し直しているようで、内容的に新しいものは付け加えられていない模様」
今もそのままであれば、この請求項について審査が米国で行われることになります。
国際特許出願の国内移行手続きは、日米豪で行われたようですので、1月8日に請求項を補正で追加して絞って間がないにもかかわらず、日本でこれらの請求項について、翻訳文を出さないままに実質取り下げにするとは考えづらいところがあります。
取り下げると、いったん出願公開されたものは「公知」扱いとなって、再度の特許出願はできなくなります。もっとも、最初の74の請求項のうち、もっとも包括的な請求項は、先願ありとの調査結果が出ていますので、それではどのみち特許取得はできなかったことでしょう。あとの削除した73の請求項も、公知扱いになってしまっていることになりますが、ただ、そこからまたバリエーションをつけた請求項を新たに出願するのであれば、特許として認められることでしょう。応用特許ということかと思います。
仮に取り下げ扱いとなったとしても、実験により確かめられたバリエーション版により、特許取得の可能性もあるのかもしれません。いずれにしても、そのうちに状況が見えてくることでしょう。
これを読みながら理屈を考えてみると、理研が承継を決定して出願人の地位(=「特許を受ける権利」)を得たわけですが、承継を受けるかどうかは、理研の判断であるから、承継を受けて出願したのも理研の判断によるものであり、その出願費用を小保方氏らに請求するのは筋としておかしい、という気がします。
「瑕疵のある発明だった」、あるいは「発明ではそもそもなかった」という認識であれば、承継決定が錯誤によるものだったから、小保方氏に「特許を受ける権利」を戻す、というのが手続き的筋道だと思います。ただ、特許出願は既になされていますから、手続き的には、理研から小保方氏に出願人の地位を譲渡し、出願費用の理研負担分を小保方氏に請求するということになるのではないかと想像します。それはもちろん、「返還を求める」云々の話とは次元の異なる話です。
理研の理事は、12月26日の会見で、「放棄する方向で検討する」と述べていましたが、東京女子医大のように単純に自ら放棄するというわけにはいかない事情があると思われます(そういえば、女子医大は、誰の職務発明を承継したのでしょうか? 大和氏でしょうか? それとも小保方氏が籍を置いていたときの発明が含まれるということでしょうか? 誰かの職務発明だったということになると、単純放棄というわけにもいきませんが、もう放棄手続きは取られたのでしょうか・・・??)
小保方氏を告訴しない旨や、論文投稿費用返還請求をすることについて、明3月20日(金)までに臨時理事会で決定するそうですので、その後、記者会見が開かれるとすれば、特許出願の件も質問が出て、説明がなされることでしょう。
第9条
2 発明者等は、第5条の規定により当該発明等は職務発明等であると認定後に特許を受ける権利等の承継をしないことを決定した後でなければ、自らが特許出願等、又は、第三者へ特許を受ける権利等を譲渡することはできない。
小保方氏に出願人の地位が譲渡されて、小保方氏の実験も改めて成功して、もし特許が成立したとすると、その通常実施権を理研は得て使うことができるのでしょうか? 理研は「STAP細胞はES細胞だった」との認定をしたわけですから、「発明はそもそもなかった」という立場になります。それであれば、職務発明以前の話ですから、理研は通常実施権は得ることはない、ということになるでしょう。
しかし、あの再現実験、検証実験は不備なもので、然るべき実験環境を整えるのであれば再現できるものだったということで、実際に再現に成功して、それに基づいて特許が認められたということになると、それは理研時代の職務発明によるものだということになります。 ・・・ということになると、理研は通常実施権を得ることができる、ということに規定上はなるようにも思います。しかし、やはり、桂不正調査委員会報告書とそれに基づく懲戒処分をしたわけですから、「職務発明」以前に、「発明」ではなかったというのが、理研の公式の立場ということになり、通常実施権を主張できないということになるでしょう。
もしあの桂報告書が、「どの仮説に立っても説明がつかない。科学的真実の解明については今後の研究に委ねる」との科学的見地からの正直な結論にしていたとすれば、その後小保方氏の実験が成功して特許権を取得したとしても、通常実施権を主張することができたかもしれません。
・・・と考えると、もしかして、再現実験の失敗は、理研の束縛から逃れるための深謀遠慮だったりして?!
まさかですね(笑) しかし、結果としては、そういうことになりました。バカンティ氏や米国側は、これで独占できるとほくそ笑んでいるかも??
STAP特許出願の話は、いろいろと頭の体操と、想像をめぐらすことができる格好の材料です。
【補足】