理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

自己点検委側に利用されたことに気が付かない須田記者と毎日新聞―特ダネには盲目になるマスコミの悪弊

 マスコミの悪弊としての典型的なパターンが、須田記者の『捏造の科学者』の中には見られます。
 ここで悪弊というのは、自社だけ、自分だけにリークされたもの、入手した材料に対しては、無批判的になってしまい、大きく報じてしまうということです。
 
 STAP細胞問題では、そういう事例がしばしば見られました。NHKが、その取材源であった遠藤氏や若山氏、理研の「有志研究者」らの言い分を丸呑みして、特ダネのように流していたのが、一番分かりやすい例です。そこに、理屈に合わない話、時系列的におかしな話など、ちょっと考えれば気が付きそうなことも、どこかに吹っ飛んでしまって、大きく報じられることによって、世間に対して強烈な印象付けをしてしまうことになります。
  NHKの報道は、保存庫が小保方研にあり、その中の容器の中身がES細胞に酷似しているということがその一つでしたが、小保方氏と若山氏がキメラマウス実験に成功した時点と、若山氏が山梨大に移ることになった時点(その保存庫も移ることになった時点)とは、相当の時間的開きがあります。小保方研に今あるということを以て、それより遡る時点でのSTAP細胞からキメラマウス作製成功が「捏造」であることの証左であるかのように印象操作をすることは、問題でしょう。
それに、小保方氏は、若山研が山梨大に移るときに、移譲されたという説明をしていたかと思います。そうであれば、保存庫は立派な備品ですから、必ず備品台帳で登録がされていると思います。STAP幹細胞やES細胞の株なども、移管記録があるわけですから、保存庫だって当然あるでしょう。保存庫の中身のES細胞にしても、登録がなされていることでしょう。それを理研に取材して、そういうこ備品登録状況を確認するのは容易だったはずです。しかし、そういう裏付け取材をした記事は、私が見落としたのかもしれませんが、見たことがありません。そういう単純簡易な取材もせずに、小保方氏をパパラッチの如く追い回したのですから、単に、「自分の特ダネには無批判的になってしまう」という悪弊以上に、「ES細胞を盗んでの捏造」を印象付ける作為が感じられます。
 
 そこまでのあくどさ?ではありませんが、毎日新聞の須田記者らにも同様の悪弊が見られます。それは、理研の自己点検委員会報告書をリークによって入手して、舞いあがってしまって、「他社が報じていない」ということでことさらに強調して、大きく報じたことです。
 以下、須田記者の『捏造の科学者』から当該部分を抜粋します。
 
「CDB自己点検検証委員会の報告書案、目を通しに来られますか」
その頃、私はさる人物から願ってもない提案を受けた。数日後、指定された場所に向かうと、前置きもそこそこに資料を手渡された。
急いで目を通すと、幾つかの初めて知る内容に気付いた。記事になる、と確信したが、さすがにコピーをとるわけにもいかない。おそるおそるバッグからカメラを取り出し、撮るジエスチャーをして目で了承を求めると、相手は軽くうなずき、別の作業を始めた。
撮影を終え、会社に戻ると、永山悦子デスクや清水健二・遊軍キャップと記事化について検討した。
報告書案は、STAP研究や論文の作成の過程、小保方氏の採用、報道発表などの各経緯を検証し、問題点をくみ取ったうえで、改善策を提言する内容だった。
「これは面白い」。無言で最後まで読み終えた清水キャップは、開口一番、そう言った。
すでに過去の連載で特ダネとして紹介した内容も多かったが、「これまでに報道や発表をされていない新たな事実」という観点で私たちが最も注目したのは、CDBが小保方氏を研究ユニットリーダーに採用する際、STAP研究の秘密保持のため、審査の一部を省略するなど例外的な措置を容認していたという部分だった。
報告書案によると、CDBは二○一二年十月から新しいPI(研究室主宰者)の公募を開始し、四十七人が応募した中から、小保方氏を含む五人を採用した。その際、CDB運営の重要事項を決めるグループディレクター会議(幹部会議)は、STAP研究を論文発表まで秘密とすることを容認した。その結果、PI候補者を審査する人事委員会は、応募書類に基づく一次選考を通過した候補者に通常求められる英語による公開セミナーを実施せず、非公開の日本語による面接と質疑応答のみという例外的措置を採った。
実績がなかった小保方氏について、人事委は過去の論文を精査せず、若山研での客員研究員としての小保方氏の研究活動について聴取しないなど、PIとしての資質を慎重に検討しなかったとみられる。CDBにはPI採用に関する明文化された規定がなく、例外的な措置をとる場合のルールもなかった。
次に目に留まったのは、笹井氏の関与に関する内容だった。報告書案によると、笹井氏は二○一二年十二月二十一日にあった人事委員会の小保方氏の面接で、初めてSTAP研究について知った。竹市氏から依頼されて論文の執筆指導に積極的に取り組み、チャールズ・バヵンティ教授ら米ハーバード大学の著者との調整にも対応した。その際、小保方氏の過去のデータを信頼し、批判的に再検討することはなく、結果的に誤りを見逃した。
 小保方氏は二○一三年三月一日に研究ユニットリーダーに着任したが、新研究室に移転するまでの八カ月間を主に笹井研究室の中で過ごし、人事や物品の管理は笹井氏が取り仕切っていた。CDBでは若手のPIにシニアの研究者二人をメンター(助言役)としてつけることになっており、小保方氏のメンターには笹井氏と丹羽氏が指名された。しかし、笹井氏は「研究指導の枠を超えて」STAP論文に直接関与するようになり、二本目の論文の責任著者に入ったばかりか、特許申請にも発明者として加わった。
報告書案ではこうした状況を、笹井氏による「囲い込み状態」が出現し、小保方氏の教育がないがしろになったうえに、共著者への連絡が不十分で、データ検証の機会が減ったと指摘した。
   (中略)
 これらの内容をまとめた記事は「小保方氏採用も特例」「笹井氏枠超え『囲い込み」」の見出しで、五月二十二日付朝刊の社会面で大きく掲載された。」P224226
 
 これらの記述は、改革委がほぼそのまま採用しています。竹市氏が、「改革委は、ヒアリングもろくにせず、自主点検委の報告書ばかり見ていた」と批判していたように、改革委は、この点検委報告書を、何の疑問も持たず、コピペしたわけです。
 「実績がない小保方氏」や「資質を見極めずに、特例で採用」という、いかにも俗耳に入りやすいような記述が、その後一人歩きしたわけですが、須田記者と毎日新聞も、これ飛びついてしまいました。
 この点は、このブログ記事で前に詳細に書いたとおり、時系列で分析すれば、全く根拠のない話だということは、すぐにわかります。小保方氏の採用の件は、次の記事の後半の時系列に基づく分析を見ていただければ、どれだけ根拠がない話かが一目瞭然です。
 
 そこでは、こう書きました。


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こうやって順を追って見て行けば、「実績がない」とか「客観資料を精査しなかった」とかの指摘が空疎なものかわかるだろう。
 
①元々が、ハーバード側からの共同研究の申し入れがあり、その担い手として小保方氏が送り込まれてきたこと。
②女子医大の指導教授らとともに投稿した論文があり、専門性、公平性の高い査読付き学術誌として著名なティッシュ誌で論文採用もされていること。
  ※「Tissue 誌は、いわゆる査読付欧文学術雑誌であり、その分野の高度の専門的知識をもち、かつ独立、公平性の高い査読者が論文内容のオリジナリティ、教育的価値及び有効性を考慮に入れた上で、内容を評価、検証し、その結果、内容の明確性、正確性、論理性等が掲載に値するとされた場合のみ、掲載を許される。」(早稲田大報告書)
③何と言っても、公募の1年も前に、若山氏も驚愕したキメラマウスの作製に成功していたこと。
ハーバード大バカンティ研究室と若山研との共同研究であり、キメラマウスの成功をもとに、ネイチャー誌等への論文投稿を行っていたこと。
⑤共同研究の成果をもとに、理研として、20124月に特許の仮出願をしていたこと。
⑥それらの研究成果は、20124月の倫理委員会で小保方氏が発表し、それがGLらの関心を呼んだという経緯であること。
 
 公募開始、面接のはるか以前に、これだけの「客観的資料」があるのである。
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(注)公募~小保方氏の採用は、20129月~12
 
そういう基本的な裏付け作業をせずに、報告書を鵜呑みにしてしまうから、こういう杜撰報告書を拡散するような記事が一人歩きしてしまったのです。
 
「「これまでに報道や発表をされていない新たな事実」という観点で私たちが最も注目した」
 というところで、盲目になってしまったということですね。「これはおもしろい」と開口一番言ったというキャップも、「おもしろい」かどうかだけに関心が行き、その妥当性についてのチェックはなされなかったわけです。ずっと取材していたのであれば、上記の小生のブログ記事で書いたような時系列の事実はすぐに把握し、報告書の記載に疑義があることに気付いたはずですが、そうはなりませんでした。その後も依然として気が付かず、こうやって著書で平気で載せているのですから、笑止です。
  須田氏の著書では、遠藤氏の解析について、NHKに抜かれたとして悔しがる様子や、日経サイエンスが先にこう書いたとかの記述がありますが、マスコミはそういう先んじられた、後追いになってしまったとかいった物差しで動くから、中身の正否は二の次になってしまうという本末転倒の事態になってしまっているのでしょう。
 
 そもそも、これは、点検委報告書をマスコミに大きく取り上げさせたい関係者に、須田記者は利用されたのだ、ということに気が付いていないことが、情けないところです。わざわざ呼び出して、報告書の中身を見せて写真にも撮らせるなど、その狙いは明明白白です。須田記者を呼び出した関係者は、「してやったり」とほくそ笑んでいることは間違いありません。
 
 いったん報じられると、影響が大きくそれを後から覆すことが難しいだけに、マスコミのこの悪弊は、もっと自省的に自覚がなされ、新聞社内で、第三者的なチェックがなされることを期待したいところです。大本営発表の拡声器だった時代の体質と変わっていないのでは、情けないでしょうに・・・。