理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

科学的探究が最大関心だった竹市センター長―マイノリティーの尊重

 
 
 須田記者の『捏造の科学者』には、竹市センター長へのロングインタビュー内容が掲載されています。改革委で批判された直後に、個別にインタビューを受けたことにも驚きますが、その発言もまた、大変率直です。笹井氏といい竹市氏といい、丹羽氏といい、組織人としての立場よりも、科学的探究ということに最大関心があるからこそ、ブリーフィング的意味合いで、取材に応じているのだろうと感じます。「広報を通してくれ!」というセリフとは無縁の、文字どおりの「科学者」たちです。
 
 このインタビューでの発言を読んでいくと、竹市センター長の念頭にあるのは、科学的真実は何なのか? 実際に何が生じていたのか? どこまでが正しくてどこが間違っているのか? ということだということが、よく伝わってきます。そして、研究者としては、前向きな建設的作業をしたい、ということも語っています。
 次の発言には、拍手喝采ものです。いくら批判されようとも、検証実験を行うことについては、このような認識があったということです。
 
「自然科学においてはマイノリティー(少数派)でも、可能性があるとしたら全部偏見を持たずに調べるべきであると僕は思う。マイノリティーって、ある時代には非常に辛い思いをするけど、次の時代に花開くこともある。そういう立場を見捨てるわけにはいかないです」
 
ES細胞やiPS細胞自体、ついこの間までは常識外だったはずなのに、いつの間にか、ES細胞の常識の枠でしか考えられなくなってしまっている科学者たちへの警鐘にも聞こえます。
 
 改革委に対しても、言葉は選びつつも、批判的姿勢を明確にしています。その概要は次のようなことです。


①解体とまで言及するからには、自分への二回のヒアリングだけでなく、研究所まで来ていただいて、皆にインタビューするなど全体を調査すべきではなかったか。STAP問題だけで解体というのは不合理に感じる。
②「iPS細胞を凌駕したいという動機があった」とか、(提言書は)主観的な推論に満ちている。成果主義が悪いようにも書かれているが、CDBが成果を出そうとするのは当たり前である。
③自己点検検証委員会の報告書案を、改革委員会は会合で何度も見ていた。非常に不満なのは、(改革委員会の報告書で)自己点検の報告書を多数引用していること。こんな重大な提言をされるなら、独自に調査したうえでしてほしい。
④論文不正は悪いが、たった一つの不正で研究所全体が解体というのはおかしいという趣旨のメールが海外から多数きた。日本と世界とで、情勢がやや乖離している。
⑤「国立大学では准教授に相当する」というが、研究ユニットは、数理科学分野など小規模で研究可能なテーマの場合と、萌芽的な研究テーマで、未完成だが将来性豊かな研究者に主宰させる場合の二種類あり、小保方氏は後者の目的での初めての採用例だった。
 
 このブログでは、以前から、改革委提言を個別具体的に批判し、支離滅裂であると繰り返し書いています。


1 理不尽極まりない理研改革委提言は破棄されるべきである―支離滅裂な非科学的内容
【補足】提言の「再現実験」に関する提言趣旨と、委員の会見時の発言との大幅な乖離について 
3-1 理不尽極まりない理研改革委提言は破棄されべきである―CDBの「構造的欠陥」の論拠の空疎さ、理不尽さ
 
 この須田記者の毎日新聞インタビューでの竹市氏の発言は、上記の批判と概ね合致するものと思います。
 ただ一点だけ、少し違和感を感じたのは、秘密主義批判への反論として、特段、特許との関係には触れず、「小保方さんの研究は、当時の認識としては非常に易しい技術で皆がすぐにやれること。」と述べていることです。他方で、「非常にインパクトのある研究」と言い、次のような言い方をしています。
 
「非常にインパクトのある研究は誰も発表まで話さない。喋らないこと自体はそう批判されることではない。小保方さんの研究は、当時の認識としては非常に易しい技術で皆がすぐにやれること。普段は喋らないようにしようと、(幹部は)みな心の中でそう思った。」
 
 趣旨は、「簡単な技術で驚くほどの結果が生み出される研究だ」ということでしょう。 いずれにしても、特許出願との関係は、少なくとも竹市氏の念頭にはなかったようだ・・・ということが、このインタビューからは伝わってきます。
 しかし、特許だけでなく、論文発表であっても新規性は問われるのでしょうから、どちらにしても、竹市氏らCDB幹部の判断は妥当なものでしょう。 

 以下、須田氏の著書に掲載された、改革委提言後の竹市センター長のやりとりの抜粋です。
 
1 記者会見での発言(p275)
 
自らの進退については「理研と相談しながら考えたい」とし、竹市氏の責任に触れた提言書の具体的な内容についての質問には「文書は頂いたがほとんど読んでいない」と回答を避けた。
また、遠藤・若山解析を受けて、改革委員会のメンバーから「検証実験は無意味」という声も挙がったことについては、自らの信念を交えてこう語った。
遺伝子解析データが論文の大きな矛盾点を指摘し、論文の多くのデータが間違っていることは承知しているが、それが全てを否定しきるものであるかは、データを出した方から直接説明を受けていない。科学の歴史はある時代には間違っていたとされても次の時代には正しいとされる、というようなことの繰り返し。全てが間違っているかは相当慎重に考える必要がある。科学者の立場からは全ての可能性は調べるべきで、検証実験も意味があると思っている」
 
2 メールでのやり取り(P284~285)
 
翌日の夕方、私は青野由利・専門編集委員と共に、毎日新聞東京本社の応接室で、竹市氏と面会した。きっかけはメールのやりとりだった。
前章で書いたように、関係者への取材によれば、若山氏が第三者機関に依頼したSTAP幹細胞の解析結果を六月五日に理研の改革推進本部に報告した際、竹市氏は公表に強く反対したとされる。反対の理由や、遠藤・若山解析への見解を改めて求めると、竹市氏は丁寧な返信をくれた。若山解析については、「STAP幹細胞がES細胞由来という疑惑が高まったのだと思う」と認めつつも、次のように答えた。
――分析された細胞の由来が全く分からないままなので、奇妙な事実が発見されたという他には、このデータから何らかの確定的な結論(例えば、疑われているようにES細胞由来なのかなどについての結論)を引き出すことができないと考えている。最終結論を導き出すためには、継続して由来細胞を探すことが必要なのではないか。真実を知るには、当時いったいどのような状況で実験がなされたのか、正確に検証してみる必要があると感じている――
 
3 直接のインタビュー(P285~)
 
「できれば直接お目にかかってお話ししたい」と打診したところ、
「互いの見解を尊重し合うという前提」で会ってくれることになったのだった。
 
(1)隠蔽体質との批判について
眼下に皇居の緑が広がる応接室で、竹市氏がまず語ったのは、CDBが「隠蔽体質」であるという批判への反論だった。
「非常にインパクトのある研究は誰も発表まで話さない。喋らないこと自体はそう批判されることではない。小保方さんの研究は、当時の認識としては非常に易しい技術で皆がすぐにやれること。普段は喋らないようにしようと、(幹部は)みな心の中でそう思った。組織として隠したわけではないんです」
一方で、小保方氏が研究ユニットリーダーになった後も、所内の非公開のセミナーですら一度もSTAP研究について語らなかったことについては、「小保方さんが何をやっているのか公開されないままPI(研究室主宰者)になったから、非常にストレンジ(奇妙)な状況が生じたわけですよ。これはちょっとまずいな、とは僕も思っていたが、なかなか判断が難しくて黙認していた」と振り返った。
「そこは何とかした方がよかったと?」。青野・専門編集委員が尋ねると、竹市氏は「そうですね。普通よりもつとコンフィデンシャル(非公開)な形で喋るようにすればよかったかもしい」と認め、「でも、喋ったからといって不正が見付かったわけでは絶対にないですよ」
小保方氏の採用時にも、すでにあったSTAP研究の主要な実験データに疑問を呈した人はいなかったという。
 
(2)小保方氏をPIとしたことについて
「ただし、いきなりPIにしていいのかという議論は当然ありました」
研究員でもいいのでは、という意見もあったが、小保方氏自身の発見であるSTAP細胞を研究室のテーマに据えるには、規模は小さくともPIになる方がよいという結論になったという。
改革委員会は提言の中で、研究ユニットリーダーを「国立大学では准教授に相当する」と説明したが、竹市氏はこれにも反論した研究ユニットは、数理科学分野など小規模で研究可能なテーマの場合と、萌芽的な研究テーマで、未完成だが将来性豊かな研究者に主宰させる場合の二種類あり、小保方氏は後者の目的での初めての採用例だったという。「この人をいれたらすごく面白いことになるんじゃないかという場合に、リスクを覚悟でPIにし、それからトレーニングしよう、という目的。准教授クラスの人を選んだつもりは元々ない」。
 
(3)メンターがオーサーになったことについて
実際に、小保方氏には、丹羽氏と笹井氏という二人のメンター(助言役)がついた。竹市氏によると、メーンの指導は丹羽氏に任せることになったため、小保方研究室の部屋も丹羽研究室の隣に設置された。笹井氏には論文執筆の指導を頼んだが、自己点検検証委員会の報告書が指摘したように、笹井氏は「指導の枠を超えて」STAP論文に深く参画し、STAP論文の二本目の責任著者にまでなった。竹市氏も「メンターとオーサー(著者)がごちゃごちゃになったのは一つの問題」と認めたが、笹井氏が共著者になったことを「論文のゲラ刷りを見るまで知らなかった」と明かした。
驚いたことに、竹市氏は小保方氏や若山氏が、過去にネイチャーだけでなく、セルやサイエンスにも投稿していたことを知らなかったという。「それはオーサー達(小保方氏ら)がやっていることであって。笹井さんだって知らないんじゃないですか。(CDBの自己点検で)調査したから分かった」。
一誌に投稿して不採択になったのと、三誌連続で不採択になったのでは意味が違う。
「そんな重要なことを話さないなんて……」。思わず口にすると、「おっしゃるとおり、普通の感覚ならそうでしょうね。そのことを(小保方氏が)はっきり言わなかったのは、問題が大きくなった原因の一つかもしれない」と竹市氏もうなずいた。
 
(4)改革委提言全般について
青野・専門編集委員が、改革委員会の提言書への見解を尋ねると、竹市氏は「いろいろ思うことは多いが、反論の仕方によっては反省していないということになる」としつつも、研究ユニットリーダーの定義に関する「誤り」などに触れ、「解体というとすごく大きな提言ですから、そこまで言及されるからには、僕への二回のヒアリングだけでなく、研究所まで来ていただいて、皆にインタビューするなど全体を調査していただくべきではなかったか。STAP問題だけで解体というのは不合理に感じる。「iPS細胞を凌駕したいという動機があった」とか、(提言書は)主観的な推論に満ちている。成果主義が悪いようにも書かれているが、CDBが成果を出そうとするのは当たり前なんですよね」と述べた。
自己点検検証委員会の報告書案を、改革委員会は会合で「何度も見ていた」といい、非常に不満なのは、(改革委員会の報告書で)自己点検の報告書を多数引用していることです。こんな重大な提言をされるなら、独自に調査したうえでしてほしいな、という感じに思いましたね」とも語った。
海外の研究者や研究機関からは、CDBの解体に反対する手紙が百五十通以上、届いているという。「基本は、論文不正は悪いけど、たった一つの不正で研究所全体が解体というのはおかしいという趣旨。日本と世界とで、情勢がやや乖離している」。
 
(5)検証実験について
ところで、五月半ばに聞いた小保方氏の検証実験への立ち会いについては、(中略)「理事会からも、彼女の助言を得ることは許されている。主治医の許可のあるときCDBに出勤している」と認めたうえで、「未公表の段階で中途半端に参加というのはよろしくないと強く認識していて、一刻も早く小保方さんが正式に参加する検証チームを発足してもらいたいと思っている」と話した。
(中略)
遠藤・若山解析によってSTAP細胞の信畷性がますます薄れ、提造の疑いを指摘する声も大きくなっている中で、竹市氏は小保方氏による検証実験をどう位置付けるのか。
竹市氏は「疑惑は増えているが、決定打になっていないというところがある」とメールでのやりとりと同様の見解を示し、「STAPが自然現象としてあるのかどうか、もう一回ゼロから見極めたい」と語った。
「自然科学においてはマイノリティー(少数派)でも、可能性があるとしたら全部偏見を持たずに調べるべきであると僕は思う。マイノリティーって、ある時代には非常に辛い思いをするけど、次の時代に花開くこともある。そういう立場を見捨てるわけにはいかないです」
「論文検証の意味合いでの実験は意味がないということですか」
「それは、四月に検証実験を始めたときは夢にも思わなかった。改革委員会のヒアリングでも、なぜ(論文にある)テラトーマ実験をやらないのか聞かれたけれど、質問が理解できず全然かみ合わなかった」
「改革委員会の提言書を読んで必要性を認識されたということですね」
「今でも心の中では、何となく反発を感じていますけど。なぜそんなに後ろ向きに、一つひとつをたどってやる必要があるのかと。研究者としては前向きにいきたいんですよ」
「それ自体(注:不正の有無、内容)は非常に知りたいですよね、僕も。誰が悪かったのか。小保方さん一人だけが悪いと言われているけれど、本当にそうなのか、という疑惑すらある。真犯人がほかにいたら問題じゃないですか。でも、研究者がそれを全部やらされるのは……。だって、研究者にとっては何の生産性もない。本来、新しいことを研究すべきところを過去の調査に入るわけだから。重要だとはよく分かっているけれど。膨大なお金と労力もかかる」
 
(6)小保方氏について
小保方氏については、「個人の評価は喋るわけにはいかない」と言及を避けたが、わずかにこう語った。
「何を言ってくれても証拠がない。ノートがあればそれで証明すればいいけれど、みんな頭の中にあるみたいだから。僕は、小保方さんがどういう人か、今一つ分からないです」