理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

【参考】小保方氏の実験の難しさを伝える若山氏のかつての文春インタビュー記事

 以下、先ほどの記事で言及した若山氏の文藝春秋誌4月号でのインタビュー記事の関係部分お抜粋です。
 いかに実験が、微妙なさじ加減を要求される難しいものであるかが、ビビッドに伝わってくる内容です。ポイントは次の通りです。


・レシピは単純でも、匙加減が難しい。
・マイクロマニュピュレーターの手足を使う操作は難しい。
・細胞の濃度を揃えたり、洗浄を何回やらなければならないというコツがある。
・実験室が変われば成功率も変わってくる。
・水でさえどの会社の水かで違ってくる。試薬も最適なものを使わないと再現できない。
・自分が成功し、自分が世界で一番テクニックを持っているはずでも、半年間うまくいかなかった。
 
そして、さらっと、自ら作製に成功していることを紹介しています。


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文藝春秋平成264月号掲載
 
STAP細胞握造疑惑に答える
 小保方さんがかけてきた涙の電話(関係部分抜粋)
                     若山照彦 聞き手 緑慎也
 
理化学研究所小保方晴子さんが作製に成功した「STAP細胞」(刺激惹起性多能性獲得細胞)は、国内外で大きな反響を巻き起こしました。共同研究者として発表会見に出席した僕も、研究成果が科学の世界で大騒ぎになることはおおむね予想できましたが、その後の取材の過熱ぶりには驚かされました。
小保方さんが発表したSTAP細胞の作製法は、マウスの体細胞を弱酸性の液体に浸したあとに培養し、体のどんな細胞にもなる万能細胞を作るというもので、これまでにない新しい方法でした。協力を頼まれたとき、はじめは僕も「あり得ない」と思っていたほどです。それだけ画期的で独創的な研究であり、それを突破した小保方さんの努力はすごいものがありました。
(中略)
現在、発見を報告したネイチャー誌の論文二篇に、さまざまな批判が寄せられています。詳しくはあとで述べたいと思いますが、批判の内容は大きくいって二点。一つは論文で使用した画像に使い回しや加工の痕跡など、おかしなところがあるのではないかという点。そして、もう一つは小保方さんの実験が再現できないという点です。
まず、僕の考えを端的にいうならば、論文の画像にみられる不備は、僕の見る限り単純ミスに過ぎず、結果に淀大きく影響するものではありません。小保方さんと研究していたハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授も「些細なミス」と声明を発表しておられます。一方、再現性については時間がかかる問題だと思います。
たとえば、一九九七年に世界初の体細胞クローン羊「ドリー」が発表されました。しかし、哺乳類の体細胞クローンを作るのはとても難しく、マウスで再現できたのは、一年半も経ってからだったのです。クローンマウスの作製に最初に成功したのが、僕でした
小保方さんの研究はむしろ、大きな視野でみれば、生物学の未来を拓く重要な発見と言えるでしょう。それなのに、些細なことで彼女の論文や研究姿勢の評価が下がるのは、非常にもったいないことです。
騒ぎを受け、ネイチャー誌をはじめ、小保方さんの所属する理化学研究所、共同研究者のバカンティ先生が属するハーバード大などが独自に調査することを決めました。まだ結果は出ていませんが、現在(二月二十六日)も、科学論文に匿名でコメントできる研究者のためのソーシャルメディア「パブピア」を中心に、活発な議論が交わされています。
 
常識を覆すアイデア
神戸の理研でゲノム・リブログラミング研究チームリーダーを務めていた僕に、小保方さんからはじめてコンタクトがあったのは、二○一○年七月頃のことでした。留学先のハーバード大の小島宏司准教授から、メールで小保方さんに協力してほしいと連絡があったのです。
神戸で彼女に会ったのは十月。第一印象は「普通の若い女の子」という感じでしたが、話してみて、その知識量にびっくりしました。自分の意見もはっきり言うし、プレゼンテーションもうまい。その頃、彼女はまだ博士課程の三年生でしたが、相当レベルの高い学生だなと思いました。小保方さんがSTAP細胞の着想を得たのは、留学中の二○○八年のこと。バカンティ教授の指導で、ほかの体細胞に比べて小さな幹細胞を細い管を通してふるい分けする実験をしていたとき、小保方さんは細い管に通すという外部刺激によって体細胞が初期化され、万能細胞に変化すると考えた。
実際、外部刺激を与えて得られたSTAP細胞らしき細胞は、万能細胞特有のタンパク質を作ったそうです。しかし、生物学の常識を覆すアイデアを、当時は誰も信じなかった。
細胞の万能性を証明する決定打になるのが、キメラマウスの作製です。細胞に万能性があれば、その細胞を受精卵に注入することで、正常な発生に組みこむことができます。そうして成長したマウスの胎児の体は、元々持っていた受精卵に由来する体細胞と、外から注入した万能細胞に由来する細胞のまだらな状態で構成されます。そこで万能細胞に由来する体細胞だけ緑色に光らせる技術を使うことで、見た目で実験の成否を確認できるわけです。この実験を行うために必要なのが、マイクロマニピュレーターです。顕微鏡を覗きながら、両手、両足で極小のマジックハンドを精密操作して細胞をいじる実験装置です。僕だけでなく、ハーバード大にもマイクロマニピュレ-ターを使ってキメラ実験ができる人はいますが、当時、同大でその実験をしてくれる協力者は、誰一人、いなかったのです。
 
「歴史を愚弄している」
なぜ引き受け手が誰もいなかったのか。それはいまと同じく、当時から、実現不可能だと思われていたということです。バカンティ先生は有名な人ですが、それでも(その研究室の留学生が言っていることでも)そんなことはあり得ないと、最初は拒否された。
はじめは僕もそう思いました。それでも実験を引き受けたのは、「思いっきりやりたい」と言われ、力になりたいと思ったからです。そこで二○一一年から小保方さんを理研の研究室に受け入れ、僕がキメラ実験で彼女が作る細胞の万能性を調べることになりました。
不可能とされている実験に挑戦するんだから、いきなり成功するはずはありません。何度も失敗を繰り返しました。しかし、小保方さんは決して諦めず、少しずつ実験条件を変えては、新たな細胞を作って僕のところに持ってきた。科学に失敗はつきものです。失敗したからといって、すぐやめようとはまったく思いませんでした。
そして二○一二年四月、STAP細胞の作製に成功したので、ネイチャーに投稿しました。ところがネイチャーは、「何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」という厳しいコメントをつけ、掲載を拒否しました。
最大のネックは文章力でした。小保方さんと僕には、ネイチャーのようなトップジャーナルに載せるだけの文章力がなく、掲載のために必要な実験の種類もわからなかった。実験技術はある。でも、編集者や審査員を納得させるための論理の流れをうまく書けなかったのです。
そこで、理研発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長のアドバイスを得て、笹井先生や熟練研究者にあらたに共同研究に加わってもらい、どういう実験をすれば審査員が納得するか、また説得力のある英語の文章にするにはどうすればいいか、と課題を順にクリアしていったのです。
僕が彼女に協力したいと思ったのは、僕の若い頃に苦い経験があるからです。
ハワイ大学ポスドク(博士研究員)だった一九九七年の頃、僕はマイクロマニピュレーターを使って、マウスの体外受精の実験に明け暮れていました。その年の二月、ネイチャーが衝撃的な論文を掲載したのです。スコットランドにあるロスリン研究所のイァン・ウィルムットらが、世界初の体細胞クローン羊「ドリー」の作製に成功したことを伝える論文でした。僕は大きなショックを受けました。当時は、哺乳類の体細胞クローンを作るのは不可能とされていて、自分はそれを鵜呑みにして挑戦しなかったのです。でも、ウィルムットらの論文を読むと、ドリーに必要なテクニックは、そのとき既に僕も身につけていたものだったのです。なのに、不可能と思い込んでやらなかった。だからこそ、小保方さんのように不可能と言われていることに挑戦する若者の力になりたい―そういう気持が、僕の中に強くありました。
 
なぜミスが生じたのか
では、問題となっているデータについて話を戻したいと思います。
いま指摘されているのは、STAP細胞をマウスの受精卵に注入して作られた胎盤の写真と、別の方法で作られた胎盤の写真が同じだったことですが、これもご指摘の通り、同じ対象を別の角度から撮ったものです。この写真は僕が撮影したものですが、パッと見れば明らかに間違いだと気がつくもので、偽装の意図はまったくなく、単純ミスのレベルなんです。
ではなぜ、こんなミスが生じたのか。
本来、推敲に推敲を重ねて書かれる科学論文の世界では、こうしたミスはあまり見られません。しかし、今回の論文はデータや写真の数がとても多かった。僕らの論文はネイチャーに二篇同時掲載されましたが、一篇の論文に五十枚程度の写真を使っています。サプリメントといって、インターネットに載せる補足文書に使う追加写真まで含めると、一篇の論文作成に使う写真の数は全部で百枚程度にもなる。そして掲載に至るまでに、合計四〜五回は再投稿しましたが、ネイチャーの編集者や審査員が『ここはおかしい』『配置をこう変えろ』と何度も要求してくるたびに、小保方さんは写真を入れ替えたり、場所を移動したりをくり返した。とにかく大変な作業量をこなすなかで生じたミスだと思います。
さらに画像を加工した痕跡があるという指摘もなされていますが、これは、僕が担当した実験ではないので正確なところはわかりません。
しかし、理解していただきたいのは、いずれにせよ、取り違えの写真も細工の痕跡があるとされる写真も、最も肝心なSTAP細胞の実験結果の写真ではなく、比較対照するためのものなのです。僕が実験の結果には影響がないと考えるのはそのためです。
二月十四日に、小保方さんが泣きながら僕に電話をかけてきました。彼女自身も写真のミスに気づかなかったようです。それで、ようやく論文が発表されたときに、僕らを騒動に巻きこんでしまってごめんなさい、と。ほんとにかわいそうだなと思いました。彼女には、周囲の研究者から「きっと間違いだ」と言われて泣き明かした日もありますから・・・。こんな単純なミスで論文自体の価値を疑われている現状は、精神的に辛いと思います。
 
(中略)
もちろん、ミスを正当化するわけではありません。画期的な成果であるほど世間の目は厳しくなる。僕たちもこれまで以上に慎重さ、精密さを求められていると考えていますが、今回のミスは、発表結果そのものにかかわるものではないと思います。
 
STAP細胞の再現性
一方、再現性については、はじめから議論になることは想定していました。僕はクローンマウスの作製に成功しましたが、当時の教科書では、マウスのクローンも不可能とされ、たとえ可能だったとしても、大型哺乳類の羊や牛よりも難しいと考えられていたのです。
論文は、一九九八年七月二十三日のネイチャーに掲載され、僕が作製したクローンマウス六匹の写真が表紙を飾りました。ニューヨークタイムズワシントンポストをはじめとする一流紙の一面トップにも載せていただきました。いま思えば、僕は三十一歳でした
から、小保方さんとほぼ同年齢だったわけです。
ドリーについて言えば、成功が報告されたあと、しばらく誰も再現実験に成功しませんでした。だからウィルムットらの論文も握造だと疑われていた。本物だと受け入れられるようになったのは、僕らが、彼らの一年半後に体細胞クローンマウスの論文を発表してからのことです。論文は、哺乳類の体細胞クローンの可能性をあらためて示したことから、ドリーの再現実験として研究者たちに評価されました。
科学の世界は、再現性が物を言います。再現されなかったら間違いだし、再現されれば、間違いといった人が間違いになる。 
現在、STAP細胞の作製については、小保方さんや僕ら共同研究者以外、世界中の誰も再現実験に成功していません。STAP細胞の作製が再現されるまで、もしかすると一年以上かかるかもしれない。
 
結果には自信がある
しかし、科学の実証はそんな簡単なものではありません。発表して間もないのに、こんなに大騒ぎになる方がおかしい。ドリーは、僕が再現したわけですけど、今回は立場が逆。誰か別の研究者が再現してくれれば、騒ぎはきつと収まるでしょう。その意味で反省点があるとすれば、僕たちが「(STAP細胞の)作り方は簡単。紅茶程度の弱酸性の液体に浸だけ」と強調しすぎたことでしよう。
iPS細胞は作製できるまでに数週間を要しますが、STAP細胞は弱酸性の液体に二十五分浸したあと、一週間培養するだけ。一見、簡単なように見えますが、実際に再現は簡単ではなかつた。現時点で、世界中のどの研究者も実験結果を再現できていません。レシピは単純なのに、火加減、塩加減の難しい料理のようなものです。
作製法の簡便さでは、STAP細胞はiPS細胞に完全に負けていると思います。マイクロマニピュレーターも同じですが、手のさじ加減が大事。iPS細胞は、皮膚とか血液などの体細胞に遺伝子を入れて作りますが、遺伝子を入れるだけなら、素人がその日はじめて教わってもできる。一方、マイクロマニピュレーターで行う体外受精や核移植などは、覚えるのに数カ月かかります。
STAP細胞は、体細胞を弱酸性の液体に浸して作るので、小学生でもできそうですが、細胞の濃度を揃えるといったことや、洗浄は何回しなければならないといったコツがあります。遺伝子を入れるか入れないかは作業としてはっきりしていますが、コツが含まれる作業というのは、際限なく難しい場合がある。僕も理研から山梨大に引っ越す直前、STAP細胞の作り方を教わってやってみたら成功しましたが、山梨大に移ってからは、まだ成功していません。
コツの習得以外に、どの実験室でやるかによって成功率も変わってきます。昔、ハワイ大学からロックフェラー大学に移ったときも、ハワイ大学で何度も成功していた体細胞クローンマウスの作製に半年間、成功できなかった。自分自身が開発して世界でいちばんのテクニックを持っているにもかかわらず、うまくいかないことがある。
水ひとつとっても、どの会社の水でなければならないとか、すべての試薬について最適なものを使わないと、再現できない場合があるんです。
ひょっとすると、近いうちに小保方さんらは詳細なプロトコル(Ⅱ作り方の手順)を発表するかもしれません。ただし、プロトコルを出したからといって、すぐに再現できるとは限らない。
結局、小保方さんらが実地にやってみせるしかないかもしれません。理研も、いまのように疑われている状態が続くのは嫌でしょうから、どこかの時点で研究者を招いて講習会を開くかもしれませんね。ただ、手の内をすべて見せると、今度は彼らのアドバンテージが失われてしまうという問題もあるので、難しいところですが。
体細胞クローンマウスのときも、作製に成功したあと、誰も再現できませんでした。そこで僕自身、あちこちのラボに教えに出かけ、実験をやってみせたのです。
実際に成功すると、ラボの人たちは信じてくれるし、批判を免れることもできる。しかし、その代わりに、教えを受けたラボの人たちが、僕よりもいい成果を出すと僕は損をするわけです。テクニックを教えることで疑惑は晴れるけれども、自分のアドバンテージがなくなってしまう。
理研も、疑惑を晴らすためにSTAP細胞の講習会を開くか、アドバンテージを維持するために情報を小出しにしていくのか、難しい判断を迫られているのではないでしょうか。
いまSTAP細胞については、厳しい目を向けられていますが、僕は今回の結果に揺るぎない自信を持っています。いまはただ、どこかでSTAP細胞の実験結果が再現されるのを待つしかありません。
会見でも小保方さんがお話しされたように、STAP細胞には、移植手術によらず、体内で臓器を再生させる究極の再生医療や細胞レベルの若返りを実現できるという大きな可能性があります。STAP細胞ができる仕組みの解明によってがんの理解も深まるかもしれません。
 
 (以下略)