理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

再論・理不尽極まりない理研改革委報告書と学術会議声明

 
 STAP細胞問題に関連して、2つのニュースがありました。
 ひとつは、iPS細胞の移植成功のニュース。
 もうひとつは、ハーバードのバカンティ教授と小島教授連名によるSTAP細胞が簡単にできるという発言の訂正と、作製法の改定版の公表についてのニュース。
 
●後者のハーバード大のバカンティ教授と小島教授の発表には、改定プロトコルとして次のようにあるそうですが、ハーバード側は、これで再現成功しているのかどうかは不明ですが、「より効率的に作製できる方法が見つかったため」としているのは、注目したいところです。そのプロトコルも含めて、丹羽氏の検証チームでトライすることを期待したいところです。

STAP細胞のNature誌の論文著者だった米ハーバード大学のチャールズ・バカンティ氏と小島宏司氏が201493日、STAP細胞を効率的に作製するための改訂版プロトコルを公開していたことが明らかになった。
 バカンティ氏は、今回プロトコルを改訂した理由について冒頭で、「STAP細胞の研究を進めたところ、より効率的にSTAP細胞を作製できる方法が見つかったため、Nature誌の論文や20143月に発表したプロトコルを一部修正する」と説明。その上で、「以前のプロトコルでは、STAP細胞は“簡単にできる”としていたが、それは間違っていたと分かった」とし、STAP細胞が作製できるかどうかは、研究者のテクニックによるところが大きいと釈明した。
 バカンティ氏が20143月に発表したプロトコルでは、先端に小さな穴を開けたピペットで、細胞を吸ったり出したりした上で、Nature誌に示された方法に従って、細胞をHBSS培地で酸処理するとされていた。
 改定版プロトコルでは、まず粉末状のATPを水に溶かし、pH3.0ATP溶液を準備。ATP溶液を滴下してHBSS培地をpH5.0に調整した上で、細胞を懸濁し、ピペッティングするとしている。」
 ※2014/9/16  日経バイオテク
 
 
●前者の、理研高橋政代氏によるiPS細胞移植成功のニュースは、画期的成果で明るいニュースとして報じられました。これは、理研再生研(CDB)の基礎研究の上に立った臨床研究の成果です。 
 ここから改めて言いたいことは、やはり理研改革委提言の理不尽さについてです。一連の指摘をしてきましたが、もっともインパクトが強く、笹井氏の死を招いた「CDB解体」提言がおよそ根拠に乏しいものだったということについては、まだ十分述べていませんでした。それに関連する改革委の認識の間違いについては縷々述べたところですので、それも含めて、整理しておきたいと思います。
 
 これまで指摘した改革委の「CDBの組織としての在り方」に関する認識と提言の間違いは、次のようなものでした。
 
①「小保方氏に部内発表させないCDBの秘密主義」
【コメント】
→特許申請を控えている以上、周囲に漏れないようにするのは当然で部内発表など論外。特許制度では、部内会議でも発表したら「公知」になりかねない(伝える相手が1人でも公知になり得る)。海外ではそれを救済するグレースピリオド制度もない。特許申請前の発表行為は、ハーバード、理研等の知的財産を無に帰しかねないものであり、背任の可能性さえある。改革委提言は、特許との関係についての根本的理解が欠如。
 
②「小保方氏の採用・登用の不透明さ、実績のなさ」
【コメント】
→小保方氏は元々、ハーバードからの共同研究申し入れの合意の後に、ハーバードからその担い手として送り込まれてきた人間。そして、若山氏と取り組んだキメラマウス実験は募集の1年前に成功し、各科学誌に投稿していた。特許の仮出願も、理研も名を連ねて半年前に既にしていた。募集半年前の倫理委(特許申請直後)で既に研究概要を発表しており、それが小保方氏注目の契機となったもの。難関のテッシュ誌に論文もされており、女子医大教授との共同論文もある。
CDBとしてのどういう研究目標を立てるか、それに沿ってどういう研究者を採用するかはCDBの裁量の問題。任期付き研究員であり、大学の正規准教授と比較するのはおかしい。比較するのあれば特任教員である。
→「若山氏に研究ぶりを聞かなかった」「ハーバードから推薦状が間に合わなかった」等はためにする議論であり、一連の経緯を全く無視した言いがかりに等しい。
 
③「竹市センター長らの低いコンプライアンス意識、小保方氏の研究チェックせず」
【コメント】
理研自体が、かつての研究不正を教訓に質の高いコンプライアンスマニ ュアルを配布し、研修会も続けてきていることは、改革委自身も認めてい るところ。他の研究機関と比べてかなり取組レベルは高いはずであり、こ れだけのことが東大等他の機関で行われているか? マニュアル確認書提 出率75%が低いと言えるか? 組織的な研究データ管理・保存の取組をしよ うとしたものの、研究分野によって事情が異なるとして停滞しているとい うが、もともと他の研究機関、大学ではそのような検討さえなされていな いのではないのか?
 →竹内センター長は、若山氏の転出後、形式上小保方氏の上司となったが、 二人は社長と課長代理の関係に等しく、個別の研究員のデータチェックな どあり得ない。そして、笹井氏と丹羽氏を小保方氏のフォロー・指導要員 として指名していることにより責任は果たしている。
 

●以上に見る如く、改革委のCDBの組織の在り方に対する批判は、全く基本的理解に欠けるものであり、「解体」に導くための材料を強引にこじつけるための作業だったことは明らかです。
 それらの問題に加えて指摘したかったことは、
 
第一に CDBの再生研究のこれまでの実績と評価について、何ら触れられないままに、上記の「いいがかり」的指摘のみによって、「研究不正行為を誘発する構造的欠陥」があるとして、解体提言に導いていること
 そもそも、「研究不正行為」だったのかどうかを調べるために、第一論文、第二論文とも不正調査をせよ、小保方氏にも再現実験をさせよ、ということだったはずですが、途中から遠藤氏、若山氏の主張に引きずられて、「研究不正だった」「STSP細胞はなかった」「世界三大不正だ」と論旨が激変してしまい、提言の前提となる研究不正の有無についての認識が、個々の提言によって異なるという信じがたい代物となってしまっています。研究不正行為があったかどうかをこれからの不正調査と再現実験によって確定させていくのであれば、「研究不正行為を誘発した」とは言えないわけです。
 その問題はおくとして、CDBの成果は、笹井氏が追悼記事で言及されたようなES細胞に関する画期的研究もあれば、高橋氏のようなiPS細胞に関する先進的研究もあるわけです。そして、異例なことに、CDBでは基礎研究に留まらず、臨床応用にまで踏み込んだ医療施設まで併設し、神戸市が設けた先端研究都市の中核ともなっているのです。

 こういう世界的にも地域的にも多大な貢献をしているCDBに対して、いったいどうしたら解体提言などできるのか、理解に苦しみます。改革委は、決してこれらの成果と貢献について評価をしようとはしていません。言っていることは、
「京大でiPS細胞研究が進んでいるから、理研CDBはもういらないだろう。他のニーズのある研究分野を探して出直せ」
 と言うことにほかなりません。提言のP21にある次のフレーズはそういうことを言っています。
 
CDB設立以来14年が経過し、この間に再生医療の分野でiPS細胞が出現し、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が設立されるなど、発生・再生科学分野の研究をめぐる状況は、大きく変化していることも併せ鑑み、理研は、CDBの任期制の職員の雇用を確保したうえで、早急にCDBを解体すべきである。
そして、仮に理研CDB解体後に、新たに発生・再生科学分野を含む新組織を立ち上げる場合は、次の事項を実行し、真に国益に合致する組織とすべきである。」
 
CDBのこれまでの研究の成果と貢献とを評価しているのであれば、「現在の任期付き職員の雇用は確保した上で」とかいう言い方にはなりません。任期付き研究員というのは、採用の前提となった研究を行うからこそ研究員として存在しているわけであり、CDBを解体して研究環境が失われれば、雇用を維持する意味がなくなってしまいます。
これまでのES細胞、iPS細胞等に関する研究成果は誰もが認めているわけであり、臨床応用にまで至っているのは、CDBの基礎研究に対する多大な評価と社会の期待があるからこそでしょう。
それらの状況を全く無視して、言いがかりに等しい指摘によって一方的に「解体」を提言し、研究に従事している研究者と臨床応用を待ち望んでいる人々を不安に陥れたこと、そして、再生研究分野の宝であった笹井氏を死に追い込んだ罪は、万死に値するということです。
 
 
第二に指摘したいことは、「研究不正を招く構造的欠陥」と言いますが、他の事例があったのか?ということです。
 通常、「研究不正を招く構造的欠陥があるから解体すべし」というのであれば、不祥事が相次いでいて、再発防止策も実効を伴わず、それがかくかくしかじかの体質的問題であり、他によっては更生不可能であるとの認定があって初めて言える話です。改革委提言には、それが何もありません。ただ、先ほど述べたような根本的認識間違いからする、極めてバイアスのかかった指摘のみによるものです。研究不正が相次いでいるという点では、東大の方がよほど問題でしょう。
 そして、組織解体と言う場合には、その組織に事業に対する社会的ニーズが失われているということが最も大きな要因になるはずですが、その点は、上記に述べたように何も真剣に評価しようとせず、京大のiPS研究が進んでいるからいいだろう、程度の認識に過ぎません。
解体のような激変措置を提言するには、その論拠となるべき点についての考察が欠落しているのです。
 
 第三に指摘したいことは、解体提言は、研究者の連帯責任を問うような話ではないか、ということです。
 上記の第一、第二の点と密接に関連してきますが、(STAP研究自体、まだ研究不正の有無はこれからの判断になってきますがそれはおくとして)仮にSTAP研究自体が不正だったとしても、他の研究者には何らの責任もありません。
 研究というのは、基本的には個々の研究者、共同研究を行う研究室単位で行われるものであって、研究発表もそれに従事する研究者の名前と責任とによって行われるもののはずです。それをあたかも、STAP研究での不祥事の責任を、CDBの研究者全員で負わせるに等しい「組織解体」ということは、理不尽な措置です。責任の取り方の比例原則からしてもおかしなことです。
 東大で、加藤教授、平比良教授の研究不正があり、捏造と盗用の塊であったトルコ人助教授への学位授与、採用の不祥事があったとして、東大の理系研究室全体を、構造的欠陥ありとして解体するでしょうか? 塩見教授など同分野ですから、そうなれば被害甚大です。そんな馬鹿な、と思うようなことを、理研CDBに対して言っているということです。

 これが、企業であればまだわかります。一事業分野の不祥事が会社の倒産に至ることはしばしば生じることです。しかし、こういう大学や研究機関の場合には、研究者は独立した存在ですから、不正が相次ぐという文字通りの組織としての構造的欠陥があるというのでなければ、一研究者の不祥事の責任を、解体という形で他の研究者にも負わせるというのは筋としておかしいと思います。不祥事が起きることはありうることで、その場合に、迅速適切に不正調査を行い、原因究明と再発防止策を講じ、その研究者に責任を取らせるということが、組織としての責任ある対応の在り方でしょう。
 今回の場合には、研究不正の有無(STAP細胞自体が捏造だったかどうかという意味での)をこれから調査するという段階にも拘らず、再生研究の研究環境を奪うに等しい解体提言ですから、理不尽さも極まれりです。
 
 
 以上が、理研改革委とその提言に関する問題指摘です。
 これらの記事を書く過程で、30ページに及ぶ提言書を何度も読み返しましたが、そのたびに感じることは、
 
 よくもよくも、これだけの杜撰な内容の提言を公にすることができたものだ!
 
 ということです。既に指摘しましたが、大前提である、「STAP研究の不正の有無」という点が、ページによって、あるいは提言によって異なっているのです。
 p20以降の提言順に見て行くと、このダッチロールが明らかになります。
 まず、「1」の「小保方氏に厳格な処分を」と述べている箇所は、どうも調査委が4月に認定した「研究不正」や研究データの整理が杜撰ということを指しているように取れます。
「2」の「CDB解体」提言は、明らかにP15当たりの遠藤、若山両氏の主張を丸のみにした「STAP研究自体の捏造の疑い」を前提としてものでしょう。
 と思ったら、今度は「3」の「STAP現象の有無を明らかにするため、再現実験を」との提言は、不正の有無と不正を犯した人物を明確にするためだとして、不正の有無自体は留保した前提になっています。「4」の「第二論文も調査を」の提言も同様です。その後の「5」から「7」の一連の体制関係の提言は、明確ではないですが、おそらく、研究自体の捏造の疑いを前提としたものでしょう。
 
 最後の「第5 結語」では、「前代未聞の研究不正の解明を」としていることから、研究自体を捏造と考えているのでしょう。しかし、この結語の論旨自体がダッチロールになってしまっています。下線部を追っていけば、それぞれ指している「研究不正」が何を意味しているのかわかりますが、次々と変遷してしまっています。
 何より、「再現可能性」の検証と「研究不正」の認定とが一体不可分であるという点の認識が根本的に欠落しています。これは、調査委と同様です。研究不正調査の指針を定めた文科省ガイドラインが、「研究不正」=ないものをあるものとして故意に偽造する「捏造」、実験データを架空のものと故意に差し替える「改竄」と定義した上で、その有無の調査のために、再現実験を権利として認めているという全体構図を何も分からずに書くから、こういう意味不明の記述になってしまうのです。
  
STAP研究の論文について、調査委員会では一研究者の研究不正行為と認定されているが、その背景、原因追及が行われないと研究不正防止策には?がらない。またSTAP研究には捏造を疑わせるいくつかの重要な事実が調査委員会の終了後にも明らかになっている。論文撤回にかかわらず、新たな研究不正行為の疑義は引き続き調査されるべきである。
科学的には、STAP現象の有無を明らかにすることが、社会に対する理研の使命である。 この点も論文撤回で幕引きされることではない。期限を定めて、小保方氏自身による科学的に正しい再現実験を遂行させるべきである。新たに「理化学研究所調査・改革監視委員会」を恒常的に設置して再現実験の監督等を行い、継続的・俯瞰的に、理研による不正防止策の実行をモニタリングすることを提言したい。
研究不正行為を実行した小保方氏のみならず、またこれに直接の責任を負う笹井CDB副センター長、竹市CDBセンター長は、各々その責任を厳しく問われるべきである。CDBは解体・廃止して、グローバルに展開する新たなセンターを構築すべきである。
 理研本体も、この緊急時を乗り越え、再発展するにふさわしい組織の改革・運営能力を備えた新しい役員・センター長等の人事を断行すべきである。同時に、経営を可視化するため、理事と同数の外部委員を含む「経営会議」を立ち上げるべきといえる。理事長直轄の本部組織として研究公正推進本部を新設し、公正な研究の推進と研究不正防止を強力に推進するべきである。
日本を代表する研究機関である理研で起きた前代未聞の研究不正解明にあたり、理研内で真相と科学的真実の解明のため勇気ある行動をとっている研究者が複数名いることは、理研にとって大きな救いである。本委員会はかかる研究者の勇気に敬意を表すると共に、このような行動により不利益な扱いをされることがないよう、理研に対し、強く求めるものである。
Nature論文は全て撤回される見通しとなったが、STAP問題が日本の科学研究の信頼性を傷つけている事実は消えることはない。日本の代表的な研究機関である理研が、STAP問題を真摯に総括し再発防止策を実行することができるのか、国内外から注目されている。STAP問題のような研究不正をめぐる不祥事は、科学者自らによって解明、解決されなくてはならない。
研究不正行為は科学者コミュニティの自律的な行動により解明され解決される、という社会の信頼の上に、科学者の自由は保障されるものである。自由な発想が許される科学者(研究者)の楽園(*1)を構築すべく、理研が日本のリーダーとして範を示すことが期待される。」
 
 いったい、物理的に誰が書いたのでしょう? 想像するに、弁護士事務所の若手弁護士が書いたものに、委員たちが遠藤氏や若山氏の主張をそのまま鵜呑みにして、それを入れ込めと指示したのでしょう。1週間ほど前に、両氏を呼んで急遽ヒアリングしたといいますから、ドタバタだったと想像されます。そして、理研事務局側をシャットアウトしたそうですから、基本的な事実誤認もダッチロール的論理展開もそのままになってしまったということでしょう。
 P16に、理研の検証実験について、「2つの論文、理研発表の範囲内のプロトコルによることが明らかでない」と書かれていますが、事実誤認でしょう。理研発表の際、丹羽氏が説明した中には、論文によるプロトコルに基づき検証する旨が明確にかかれています。その上で、他の細胞、他の方法についても実験する旨を述べています。こういう誤った記述が放置されているということは、事実上誰もろくにチェックしていない証左です。
 
 朝日新聞慰安婦報道等に関する第三者委員会について、弁護士らで構成する「格付け委員会」が、その報告書を評価するとの方針を打ち出しました。
 この改革委も、第三者委員会の一種ですから、この格付け委で評価してもらいたいものです。間違いなく、最低評価になることでしょう。
 
●そして、驚くべきは、いや、嘆かわしきは、日本学術会議までもが、理研改革委提言をそのまま丸のみし引用する形で、それ以上に馬鹿な声明を出していることです。「STAP現象自体、虚構だったという疑念を禁じえない」とまで踏み込んでいます。「世界三大不正」発言に引きずられたのでしょう。
 
日本学術会議は、本年1月29日に理化学研究所(以下「理研)発生・再生科学総合研究センター(以下「CDB」)から発表されたSTAP 細胞についての2編のNature誌論文に、様々な不正が見いだされた問題に重大な関心をもち、3月19日には会長談話「STAP 細胞をめぐる調査・検証の在り方について」を発表しました。その後、理研内部での自主的調査などの結果が報告され、この問題は一部の図版の不正な置き換えに止まらず、研究全体が虚構であったのではないかという疑念を禁じ得ない段階に達しています。2 編の論文は取り下げられましたが、STAP 研究の革新性を必要以上に強調した記者会見もあって広く社会問題化したことに加え、指摘された研究不正の深刻さから、我が国の科学研究全体に負のイメージを与える状況が生み出されています。」
 
 以下、改革委提言をそのまま引用しているだけです。遠藤氏らを持ち上げるところまで同じです。自分の目で読まず、自分の頭で考えずに、空気に引きづられたまま、アリバイ作り的に泥縄で声明をまとめようとするから、こういう醜態をさらすのです。高校生程度の文章読解力があれば、論旨がぶれまくっていることにすぐに気が付くはずです。それが学術会議の幹事たちにはできないということがわかりました。
 
 数々の実績と貢献をしてきた理研CDBは、このような理不尽で支離滅裂な内容の改革委提言に引きずられて、解体は免れたものの、組織が大きく損なわれ、世界的逸材だった笹井氏の命が失われました。日本の科学研究の最高峰であるはずの日本学術会議は、この改革委提言を何らの検証もすることなく丸呑みし、科学的解明の姿勢と役割とを放棄しました。これは、「STAP細胞事件」が後に語られる時に、由々しき不祥事として記憶されることになるでしょう。
 
 なお、高橋政代氏は、今回のiPS細胞移植成功の会見時に、STAP細胞問題に関する質問に対して「心が乱された」と答えたそうですが、同氏のSTAP細胞問題に対する向き合い方は残念な限りでした。iPS細胞分野で多大な貢献をしているのは間違いないとしても、STAP細胞についての科学的解明が何らなされていない段階で、調査委の報告の結論のみを見て、「小保方氏は責任取って辞め、笹井氏はポストを辞すればいい」として、マスコミが出入りして落ち着いて研究できないようにしている邪魔もの扱いをしたのは、同氏にとっての汚点になったと思います。ツイッターなどで中途半端な個人的感想を呟き、患者や社会を不安に陥らせたことも同様です。
 
 
 STAP細胞については、先日の検証実験の中間発表で実験不調の旨が発表されて以降、すっかり注目されなくなりましたが、かえって再現実験と検証実験とに、小保方氏と丹羽氏のチームとが落ち着いて取り組むことができる環境ができてよかったのではないかと思います。
 他方で、研究不正調査がそろそろ本格始動すると思われますので、それによってペースが乱されないことと祈りたいところです。また、不正調査が、先入観にとらわれることなく、すべての実験局面での5WHを明確にし科学的可能性の検証も含めて実施されることを期待するものです。
 
 STAP細胞捏造説が、さまざまな材料を整合的に説明できていないことに依然変わりはないわけですが、それについての科学的検証というのは、科学界においてこのまま何ら行われないのでしょうか?
 丹羽氏は、先日の会見で、4月の記者会見で述べたことには変わりはない旨を述べているわけですから、科学界には科学的論点整理くらいはやってくれてもいいと思うのですが、そうならないところはまことに不思議です。
 「『STAP細胞はある』と主張する側が100%立証すべきであり、論文が撤回された以上、仮説に戻った(STAP細胞はない)のだから、もう関係ないのだ」と考えている、というか気持ちの整理をしているのでしょうし、建前としてはそういうことなのでしょうが、笹井氏、丹羽氏、2月当時の若山氏が指摘していたSTAP細胞の存在を指示する材料を崩せていないのに、捏造だと思い込めるその感覚が、傍からは理解できません。
 
 研究が捏造だという可能性があるとしても、それならそれで、その捏造認定に至るまでには然るべきプロセスと科学的検証が必要だという、当たり前のことがもっと認識されるべきだと思います。