理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

小保方氏による再現実験実施の意義―「税金の無駄遣い」というのは、科学的解明とデュープロセスの両面での重要性を無視した俗論

 
 STAP細胞に関する小保方氏自身による検証実験に関して、テレビ出演で知られる弁護士で参院議員の丸山和也氏が、マスコミに登場したのは意外でしたが、記事をみると、参院文教科学委員長を務めているとのこと、改めて驚きました。文科省に申し入れをしていたことは初めて知りました。話していることは極めてまっとうなことです。
 
「現在、参議院文教科学委員長の職責を預かっており、この問題には重大な関心を持っていたが、理化学研究所が先月6月30日に『STAP現象の検証計画』を発表し、これに小保方氏を参画させて行うと決めたことは評価したい」
「従来より検証実験と小保方氏への処分は別に扱い、国を挙げてのサポート体制を築いたうえでの検証実験をすべきと政府、文部科学省などに申し入れてきたが、そのことがようやく実を結んだ感がある。小保方氏のおかれた状況を十分配慮して、良好な実験環境を作る必要があり、願わくばSTAP細胞の存在が証明されることを祈る」
 
 小保方氏による再現実験の実施は、下村文科大臣の発言が大きかったと思います。分子生物学会や高橋政代氏その他多くの科学者たちが、小保方氏による再現実験を批判し、税金の無駄遣いであるかのように述べていたことを退けて、「科学界を含めて、社会に対する説明責任を果たす上で、意義がある」という、筋論を改めて述べたとのことで、政治、行政側が筋を通していることには、ほっとするものがありました。
「政治圧力に屈した」という構図で批判する向きも多いようですが、的外れもいいところです。分子生物学会理事長声明の理不尽さ加減は、以前書いた通りです。
 
 学会を含めて科学者たちが異口同音に、再現実験凍結論を主張しているのは、研究不正の調査の趣旨とプロセスの基本を理解せず、これまでの実例も踏まえない、そして何より、再現性の有無が最大の鍵であるという彼ら自身が認めているはずのスタンスとも矛盾する暴論です。いわば、「リンチで抹殺せよ」と同義の主張と言わざるをえません。科学者としては世界的に知られる優秀な人であっても、公正手続きの確保という点の理解では、ほとんど子供同然という事態には、暗然とするばかりです。それだけでなく、前回述べたように、反証材料の科学的整合性を追求しないままに、捏造と決め込むその非科学性にもまた、それ以上に暗然、いや愕然とするものがあります。
 
●この研究不正のデュープロセスということを否定することは、科学者自身の自殺行為だということがほとんど認識されていないように思われます。明日は我が身なのかもしれないということが理解されていないようです。
 自分は小保方氏のようなコピペや「捏造」「改竄」は決してしない、と思っているかもしれませんが、これまでの研究不正は、何も研究者本人だけによるものではありません。東大のよく知られた二事例では、捏造、改竄と推定される(断定はされていません)科学的に不適切な行為を直接行ったのは、研究室の助手などのスタッフでした。彼らによる不正行為に基づく実験結果をもとにした論文内容が不正ではないかと問題視され、責任著者である教授らが、責任著者としての責任や監督者としての責任を問われて、懲戒免職となり、それが裁判で争われるというものでした。
 事例の概要は、以前書いた次の記事に紹介してあります(後半部分)。
 
分子細胞生物学の加藤教授などは、研究不正防止のための啓発に関して自他ともに認める主導的な研究者でしたし、多比良教授にしても、優れた研究成果で知られる学者だったと思います。それが研究室スタッフの不正により、教授自身が懲戒免職に至るような事態が起こりうるということです。多比良教授に関する東大の研究不正調査は、実験ノート、保存資料等の検証に加えて、再現実験を繰り返し求めるというものでした(加藤教授の場合は自ら辞職してしまい、論文の多くも自主的に撤回されたので、再現実験を求めるには至っていません)。それが研究成果の真偽を確認する王道のはずです。
「当該著者らにかけられた嫌疑を晴らす機会として,論文記載と同じ実験材料・試料を用いて再実験を行い,その詳細な結果と実験のプロトコルを平成 17 年末までに提出するよう要請した」
と調査報告書には、再現実験は「嫌疑を晴らす機会」と明記されています。
そういう形で、研究室スタッフの不正による責任が自らのものとして問われる場合のことを想起すれば、不正調査手続きが、再現実験も含めて、慎重の上にも慎重に行われるべき必要があることは、理解できると思います。
 
●実験ノートのことが、今回のSTAP細胞問題でクローズアップされましたが、その出来不出来、更に言えばその存在の有無は、研究成果の真偽とは直接は結び付かないはずです。笹井氏が記者会見で、人によって実験ノートの付け方に精粗があると述べ、メモ程度につけている人もいると語っていましたが、もともと実験ノートは、米国の先発明主義に対処するための裏付け資料とするためのものだったのではないのでしょうか。今や特許制度は、国際標準の先願主義に統一されましたから、先発明主義との関係では意味を持たなくなっています。
 そして、科学研究の成果の最初の公表は、論文発表という形でも行われますが、特許出願という形でも行われます。特許出願の場合にも、もちろん他人が再現できるよう、最善の方法を記載しなければなりませんが、しかし別に実験ノートを添付する必要などありません。出願内容、特許内容として記載されたものが全てです。捏造された成果を出願することに対しては、刑事罰で担保するだけです。
 
 以前、立花隆氏の対談での発言を紹介しましたが、実験ノートの公表などはむしろしないほうが当たり前で、韓国のES細胞捏造事件の余波で、iPS細胞の山中教授が成功時、失敗時の事例も含めて生の実験ノートをセル誌に送ったことのほうが異例のパターンで、通常は手の内をさらすような実験ノートの公表などは行わないとのことでした。
 実験ノートの必要性に関するもう一つの要素として考えられるのは、委託研究や研究補助金による研究の場合でしょう。公金を投入して研究する以上は、いつ何をやってどういう結果となったか、というプロセスを記録しておく必要があるということかと思います。
 以上のようにみてくれば、実験ノートは、いざという時に身の潔白を証明するものであるからしっかりつける必要があるということは、そういうことなのかもしれませんが、しかし、だからと言って、しっかりつけていなければ即不正の証左かといえば、決してそういうことにはならないということは明らかでしょう。山中教授の「ノートをつけなければ不正をしているものとみなす」という発言によって、マスコミはノートがあって当然と思うようになってしまいましたが、別にそういうわけではないということです(もちろん、しっかりつけることがオーソドックスで、つけるに越したことはありませんが)。
 
 科学の世界だけでなく、一般のビジネスの世界でもあることです。例えばビルの建設工事を行うときに、基礎にコンクリートを流し込んだとか鉄筋を入れたとかの証左に、段階ごとに写真を撮って保存するとかありますし、シンクタンク等での社会科学的研究でも、スポンサーとの関係では、成果物とは別に日誌をつけることが求められる場合があります。それらの写真や日誌は、手抜き、不正をしていないことを証明する一手段ではありますが、それらがなければ即不正というわけではないでしょう。ビル、調査報告という成果物はあるわけですから、本来はそれの成果物自体の可否で判断されるもののはずです(手続き的な契約違反の責任には問われて、お金が支払われないということはありえますが)。
 いずれにしても、実験ノートの不備だけでは即不正の証左にはならず、再現実験の可否が、研究成果の真偽を決める王道の手段であるということは、もっと広く理解されて然るべきかと思います。だからこそ、文科省ガイドラインは、再現実験の保障は、被疑研究者にとっての権利だとしているわけです。
 
●今回のSTAP細胞問題では、この再現実験が行われる前に、ヤメ検上がりの弁護士を調査委員長とする調査委員会の強引な推論で、「捏造」「改竄」認定が下されてしまいましたが、それが混迷を深める要因となりました。あの「未必の故意」論で故意認定するなど全くあり得ない暴論で、それをもとにした懲戒処分では、裁判所に持ち込めば敗訴必至だと思いますが、理研が再現実験の成否が出るまで懲戒処分の検討を留保したのは、そういう判断もあってのことでしょう。杜撰極まる41日の調査委報告書を棚上げし、実質的な再審の道を開くという意味もありますし、他の追加的な疑問点に関する研究不正調査も行って、それらの結果も総合して処分を決めるという、至ってオーソドックスなところに引き戻されたのが現段階ということで、遅ればせながら正常化が図られたことを喜びたいと思います。
 
 理研が発表した小保方氏の検証実験の概要をみると、STAP論文のどこまでが正しく、どこからが間違っているのか?という点を明らかにするために、確認すべき段階を7つに分けており、科学的にも合理的ではないかと感じます。
  ※「7つのケースで判断、小保方氏実験、理研」で検索。
 
 少なくとも第一段階の作製成功までは、若山氏含めて小保方氏以外の者が至っていたと言われていたわけですし、もっとニュートラルなスタンスで調査が行われなくてはなりません。もし、分子生物学会理事長、副理事長や理研改革委の委員長を始めとした科学者たちが、すべてが小保方氏の捏造と決めつけ、「あれはES細胞であり、小保方氏が偽装したんだよ」と言い、第一段階さえも否定するのであれば、小保方氏以外の者が第一段階に自ら取り組んで成功していることや、逐一作製経過を観察して確認していることについて、どう説明できるのか、解説してみてほしいものです。
 若山氏が、2月のセル誌インタビューで、「私自身、一度だけだが、小保方氏の指導で一から取組み、STAP細胞作製に成功している」「他の友人からも、蛍光発現までは成功した旨のメールをもらった」と述べていること。
理研が、小保方氏の記者会見で、理研でも成功している人がいる旨の発言を受けて、2人の他の研究者が第一段階に成功したことを認めていること。
丹羽氏が、プロトコル・エクスチェンジ(手順)作成のため、小保方氏の横で一から作製手順を3回にわたり観察し、作製されたことを確認していること。
 
 また、STAP捏造説を主張する科学者たちにしても、「ES細胞説」と「ES細胞・TS細胞混合説」とは両立しないものがあることは、前回記事で述べた通りです。
 科学的視点からみても、今回のSTAP問題は、ミステリー的要素が多分に残っているわけであり、それを明らかにする必要があると思わないのであれば、科学者の資格があるのか、疑問に思わざるを得ません。
 
 
●再現実験の結果次第では、今後の研究不正調査の内容は、ガラリと変わってきます。
 もし再現実験に成功すれば、今度は、これまで指摘された疑念は、どういう理由、事情によって生じたものなのか?ということに焦点が移ります。4月1日の調査委報告書で認定された捏造、改竄認定は棚上げになるでしょう。その上で、ネイチャー論文のどこまでが正しかったのか、間違った部分はどこなのか、小保方氏に勘違い部分がなかったのか、といったことが明らかになるでしょう。追加的に指摘された疑念に関しては、あるいは、知られていなかったSTAP細胞の性質が発見・認識されるのかもしれませんし、あるいは、小保方氏ではない他者の不正関与が浮上してくるかもしれません。
 今までのように、小保方捏造説で凝り固まったまま、研究不正調査がなされれば、それは小保方氏が如何に不正を行ったか?という手口追及のような極めてバイアスのかかったものになってしまいます。「科学的」なものではもちろんありません。
 
 もし何か、思いもかけない事実が明らかになれば、そこからこれまで思い込んでいた構図はがらがらと崩れていきます。
 例えば、
(例1)若山研究室では、若山氏の理解と異なり、マーカー遺伝子埋め込みが18番染色体だけでなく、他の染色体に埋め込んだマウスもいて、それが小保方氏に提供されていた。
(例2)若山研究室が調達したマウスは、理研バイオセンターが間違って提供したもののひとつであり、注文と違うものだった。
(例3)STAP細胞は、ES細胞と極めて類似の性質を持っていた(例:ES細胞同様に弱いトリソミーを発現する等)。
  実際、「ESと書いた容器」について報じたNHKも、同時に「実は、ES細胞とSTAP幹細胞は性質が非常によく似ているため、「ES」と書かれた容器の中の細胞が本当にES細胞かどうかを調べるのは簡単ではありません。」と書いています。
(例4)小保方研究室で見つかった「ESと書かれた容器」の中身を検証したら、実はSTAP細胞だった。
 
 科学的探究、小保方氏の権利としての立証の両面からみて、今回の再現実験の実施は、妥当なものといえます。「税金を使って」云々と、俗耳に入りやすい台詞で、再現実験を封殺しようとする人がいれば、とても科学者がいう言葉だとは思えません。おそらく、別の非合理的心理要素?から発するものでしょう。