理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

分子生物学会理事長声明の基本センスの欠落と非常識―手続的保障としての再現実験という認識がない低次元さ

 
 小保方氏が、丹羽氏らによる検証実験とは別途、自ら再現実験を行うことが決まり、7月1日から11月末までの期間で実験が始まりました。
 また、別途、その後出てきた一連の疑義についての不正調査も行われることになりました。
 
 ネイチャー誌の論文は撤回されましたが、論文自体は今後も保存される由。 
 
 ネイチャー誌の撤回理由は、「STAP幹細胞現象が間違いなく正しいと自信をもって言うことは難しい」というもので、著者からの撤回理由に沿ったものとなっているようです。
 
ともあれ、小保方氏本人に再現実験をさせることになったことは、検証作業の「正常化」につながるものであり、よかったと思います。
以前から述べている通り、もともと不正調査の場合には、嫌疑を受けた研究者に再現実験をさせるというのが、これまでのほとんど例外なき調査手法でしたから、実質的に同様の方法が採用されるに至ったことは何よりでした。
 
小保方氏の実験参画により、懲戒処分の検討は一時中断するとのことですので、これも、実質的に、再審に道を開くものとなると思います。
 マスコミ等では、新たな疑惑が出てきたから、懲戒処分はそれらの不正調査の結果も勘案しなければならないので、検討を中断したのだ、という見方をしているところも少なくありません。もちろんそういう面も多分にありますし、理研の発表もそういう含みも持たせています。しかし、再現実験をさせないままに捏造、改竄認定するなど、公正手続き面であり得ない話であり、最終的に処分を決めるためには、その実験結果を待つ必要がある、というのが本筋の理由であるはずです。
再現実験が成功すれば、研究実験成果のでっちあげや偽造、架空データへのすり替えではなかったことになるため(しかし、「科学的適切性を欠いた」ことは確か)、4月の捏造、改竄の認定が事実上棚上げとなるほか、新たに出ている一連の疑念が生じた理由が何だったのか?一体何が起こっていたのか?という一大ミステリーの調査が、新たに始まる不正調査において必要になってきます。今は、皆、小保方氏がES細胞を偽装して、細胞やデータのすり替えもやったのだろう、という固定観念での不正調査だと思っているでしょうが、もし、再現実験に成功すれば、構図は全く変わってきます。
 
 小保方氏自らの再現実験には、24時間監視カメラも付き、第三者の立会いもあるそうですが、もともと小保方氏自身が、4月の記者会見で、再現実験をする際には、ビデオで記録してほしいと言っていたくらいですから、むしろ、過程と結果について、あれこれ詮索と勝手な推測が入る余地がなくなることになり、小保方氏も望むところでしょう。
 

●世の中は、STAP細胞はES細胞だったという認識で固まりつつあるようです。ES細胞又はTS細胞との混合だった、トリソミー等遺伝子データが矛盾する、生後1週間目のマウスからできるはずがない、死んだ細胞が蛍光したのを誤認したのだろう、電子顕微鏡で動いているように見えたのはマクロファージだ、胎盤が光って見えたのは血液が光っているのを誤認したのだろう、等々の検証や指摘があり、若山氏による「渡したマウス由来ではない」という発表もあって、細胞や実験結果をすり替えたのは小保方氏だろう・・・といった具合に、STAP細胞自体の捏造説でほぼ固まっているようです(というか、捏造説で決着させたいと願っているように思えます)。
 特に論文で公表されている細胞の遺伝子データの解析は、論文自体の矛盾にもなり得るものと思われ、解明される必要があると感じます。
 
 しかしさりとて、STAP細胞を否定する材料や指摘が、すべて矛盾なく説明がつくのか?といえば、そうでもないように感じます。疑念の指摘をそれぞれの研究者がしていますが、それらをすべて包含して整合性のある説明はできていないのではないでしょうか? 最後は、小保方氏がすり替えたのだ、不正に操作したのだ・・・で自らを納得させている印象もあります。
 
●そういった中で、日本分子生物学会が理事長声明を出し、小保方氏の再現実験実施を批判し、その凍結を求めました。
 
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(冒頭略)
一方で、多くの論文不正についての疑義がきちんと分析されず、それに関わった著者らが再現実験に参加することについては、当分子生物学会会員を含め科学者コミュニティーの中から疑問視する声が多数挙がっております。このように当該機関が論文不正に対して適切な対応をしないことは、科学の健全性を大きく損なうものとして、次世代の研究者育成の観点からも非常に憂慮すべき問題であるとともに、税金という形で間接的に生命科学研究を支えて頂いている国民に対する背信行為です。
 
  今回の研究不正問題が科学者コミュニティーを超えて広く国民の関心を惹くことに至ったのは、論文発表当初に不適切な記者発表や過剰な報道誘致が為されたことに原因があり、それらは生命科学研究の商業化や産業化とも関係していると考えられます。このように科学を取り巻く環境の変化に対して、われわれ科学者はより一層の倫理観の醸成に努める必要があり、多くの優秀な科学者を擁する理化学研究所にはその模範となるような姿勢を示すことを強く希望します。
 
 上記のような現状を早期に解決して頂くために、ここに改めて日本分子生物学会理事長として以下の点を理化学研究所に対して希望致します。
Nature 撤回論文作成において生じた研究不正の実態解明
上記が済むまでの間、STAP 細胞再現実験の凍結
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 これには、大隅理事長が、自らのブログで補足をしています。
 
 また、他の理事も支持声明を出しています。
  
 もともと、日本分子生物学会は、大隅典子理事長、中山敬一副理事長の二人が二人とも、まったく研究不正の解明についての基本センスを欠き、中山教授に至っては「研究不正」を専門にしているはずにもかかわらず、その定義も、文科省ガイドラインやそれに準拠した各大学の規程の存在自体すらも知らずに、早い段階から自分の主観で一方的に捏造と決めつけるほどの酷さでした(下記記事後半)。


本来、分子生物学会自らがイニシアティブをとって、STAP細胞に関する小保方氏、笹井氏、丹羽氏らによる一連の説明と、外部から呈された疑義との関係、整合性等について解明するのが、期待されているところだったと思います。大隅理事長は、自らのブログでSTAP否定の観点から感想的なことを述べ、寄せられたコメントの中から専門家と思しき人のものを紹介してはいましたが、学会として解明しようという姿勢はありませんでした。
 
 今回の日本分子生物学会理事長声明は、20名の理事全員ではないものの多くの理事に諮ったものだそうですが、それがこういう非常識な内容で発出されて誰も不思議に思わないというところが、信じがたい思いがします。
 
「多くの論文不正についての疑義がきちんと分析されず、それに関わった著者らが再現実験に参加することについては、当分子生物学会会員を含め科学者コミュニティーの中から疑問視する声が多数挙がっております。・・・税金という形で間接的に生命科学研究を支えて頂いている国民に対する背信行為です。」
 
 という部分が、この理事長声明の中核になりますが、研究不正の基本指針である文科省ガイドラインにおいて、次のように明記され、東大などの研究不正においても、実験ノート等の裏付け検証と並行して、再現実験をさせることによる再現性の追求が、研究不正調査の基本であることについての根本的認識が欠けています。
 
「(2)不正行為の疑惑への説明責任
調査委員会の調査において、被告発者が告発に係る疑惑を晴らそうとする場合には、自己の責任において、当該研究が科学的に適正な方法と手続に則って行われたこと、論文等もそれに基づいて適切な表現で書かれたものであることを、科学的根拠を示して説明しなければならない。そのために再実験等を必要とするときには、その機会が保障される
 
 大隅理事長は、4月のブログ記事で、この文科省ガイドラインを紹介していますが、再実験の機会の保障という項目については、目に入らなかったようです。
 
 大隅理事長のブログでの声明補足によれば、声明から削った箇所として、
 
「報道関係者が今でも多数訪れる結果となっているこのような状態は、発生再生研究センターで日々研究を行う、当該論文とはまったく関係のない研究者にとって適切な研究環境とはいえません。」


 という文章があり、それについては、


Nature論文筆頭著者が再現実験を開始したことにより、普通の研究不正対応ではありえないような対応がなされ、そのことによって多数の報道関係者が研究所を訪れるであろうことを危惧してのコメントです。」


 とのことだそうです。 
 これほど本筋から乖離した考え方はないわけで、「普通の研究不正対応ではありえないような対応がなされ」というのは、事実に反する自らの勝手な思い込みですし、「報道陣が来て他の研究者が迷惑するから、再現実験などさせるな」と言っているに等しい主張などは、研究不正の調査における嫌疑者に付与された手続的保障を全く蹂躙するもので、言語道断です。


研究不正の断定ということは、研究者にとっては死刑判決ということですから、それに至るまでには、被疑者たる研究者への弁明機会の十分な保障、証拠の提出機会の保障ということは必須です。文科省ガイドラインにあるように、再現実験というものは、研究不正調査おいて、被疑研究者に与えられた権利なのです。


それを、どうでしょうか、この理事長声明は・・・?! 税金を負担してもらっている「国民への背信行為」? 
そういうセリフと感覚は、例えば、強盗殺人事件を起こした被疑者に対して、「国選弁護人などつけて税金を使うなどとんでもない!」「国費を使って裁判など不要だ。殺したことは明らかなのだから、さっさと死刑にしてしまえ!」という議論と同様の低次元のものです。小保方氏の弁護士が、「リンチだ」と述べたことは、正鵠を射ています。


私は文系の人間であり、法律的センスは十分に持っているつもりですが、そのセンスからみると、今回の一連の科学者たちの反応が、公正手続きや人権というものに対する基本的理解を欠いていることに驚くばかりです。
それは、検事上がりの弁護士を委員長とする調査委員会も然り、改革委の委員長、委員も然りです。誰がどういう根拠で言ったか検証しようもない「世界三大不正となった」という「知り合いからの電話」を、公式記者会見で言って何とも思わないそのセンスには耐えがたいものがあります。
 
 今回のSTAP問題では、もちろん小保方氏の不手際、未熟さが際立っていたことが大きな混乱の根本原因ではありますが、しかし、科学界とマスコミの科学的とは思えないヒステリックな反応と、理研のの目を覆いたくなるほどのまずい対応とが、この混乱を加速度的に増幅したように感じます。
 
 STAP細胞は実はES細胞だったのではないのか?」という仮説に立って、材料を集め指摘するのはもちろんいいのですが、しかし、その仮説とは相矛盾する材料も少なからずあり、「捏造説」によって全体整合的に矛盾なく説明できるものとなっていないのですから、科学者であれば、その点を冷静に分析して説明しようと努めることが、科学(者)的態度というものではないのでしょうか??
 
 最終判断は、小保方氏の再現実験の成否を見てからにすべきです。ただそれでも、11月までに再現できなかったとしても、本当にSTAP細胞がなかったのかどうかは断定はできないでしょう。若山氏も、Cell誌のインタビューの中で、次のように述べています。
 
私自身ラボを移った際今まで出来ていたクローンマウスの作成に半年かかりました。自分の持つ技術でさえそうですから人の技術であれば再現が難しいのは納得できるものです。」
 
 裁判の判決等でも、「再現がすぐにできないことが直ちに研究不正とは断定できない」としていることは、若山氏のような事例もあるからでしょう。小保方氏が暫く実験の勘を取り戻すまでには時間が必要でしょうし、最終判断を短期間で下すのは早計ではないでしょうか。
 

●今回のSTAP細胞問題は、第二の松本サリン事件になる可能性はありうると思いますが、もしそうなった場合、これまで小保方氏を指弾してきた科学者たちの信用も失墜することでしょう。
 
松本サリン事件では、河野博行さんが被疑者となり、日本中の誰もが河野さんが犯人だと信じ切っていました。しかし、河野さんが犯人であるとするには、それに反する材料もあり、別途の目撃証言があったにもかかわらず、警察はそれを無視して、河野さんを徹底的に追及していき、マスコミも警察のリークのよってがんがん煽っていきました。河野さんは、奥さんが昏睡植物状態になり、自身も取り調べで心身ともに疲弊しましたが、最後はオウム真理教という真犯人が判明し、無実が明らかとなりました。
 
 STAP捏造説では説明できない、あるいは整合しない材料があると思いますが、それでもそれらを無視して、小保方氏を捏造犯人だと決めつけているのが、科学者とマスコミだ、という印象です。


 本当に捏造なのかもしれませんが、そう断定するには不可解な要素が多すぎます。STAP捏造説では、いろいろ手の込んだ工作が推理されていますが、そんな偽造やすり替えといった、すぐばれるようなことをして(それではそもそも再現ができない)、自らの研究者生命を早々に危うくするようなことをするだろうか?という動機面でも疑問を感じますし、自分一人だけの研究室であればともかく、多数の一流の研究者たちと一緒に実験をしている中で、そんな余地と余裕があったのだろうか?というのが正直な感想です。
 それに、若山氏が2月のCell誌インタビューで述べた次の発言が正しかったのであれば、一体若山氏は何を作ったんですか? あなたのような超一流研究者やその友人の皆さんまで死んだ細胞と誤認したんですか?と聞きたくなります。
 
「私自身理研を去る前マウスの脾臓からSTAP細胞を作る事には成功しています。一度だけですが。その際は小保方氏によく教えて貰いました
ここにきて、友人の何人かが実験の部分的な成功(Oct発現陽性の細胞の構築に成功)のメールをくれました。」
 
  まだまだ、科学的にも事件的にも、先は長いように感じます。
 
※ 若山氏の先日の記者会見での発表内容に間違いがあったようですね・・・。

【補足】高橋政代リーダーの記者会見内容について

 高橋氏が、神戸新聞のインタビューに答え、iPS臨床研究中止可能性などをツイッターで述べたことについてコメントしていました。


 「理研の倫理観に耐えられない」など、STAP問題への怒りが背景にあると報じられたいましたが、そういうことだったようです。てっきり、関係ない研究者にも連帯責任を負わせるかの如き奇妙な倫理観に囚われた改革委の再生研解体提言に怒ってのことだろうと思っていたら、そうではありませんでした。
 しかし、高橋氏の感覚は、分子生物学会の大隅理事長や中山副理事長と五十歩百歩で、優れた研究者であってもこういうレベルの認識かと思うと、がっかりです。
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 ‐理研はSTAP細胞の検証実験に小保方晴子研究ユニットリーダーを参加させた。
 「検証実験の位置付けが分からない。懲戒処分手続きを止めてまでやるのが衝撃だった。荒波がまだ収まらないのがはっきりした。(自らの研究の)責任も負担も増える中で、このまま進むのは不安だ」
 ‐7月1日のツイッター投稿では「理研の倫理観に耐えられない」とも発言した。
 「何が正しいという正解はないが、倫理観を持って対応しないといけない。(検証実験などの対応を見て)理研の倫理観がどこにあるか、分からない
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 むしろ、臨床研究という、実際に多くの患者さんを抱えている中で、その責任者であるリーダーが、不用意にツイッターなどで、多大な不安を掻き立てるようなことを流すことのほうがよほど無責任というものです。
 和光の本部に伝えたかったからツイッターを使った、と述べていますが、言いたいことがあるなら、直接出向くなり電話するなりして、理事長ら幹部に話すのが筋というものです。組織人で責任ある立場の人間がやるべきことではありません。

 どうも、小保方氏のSTAP問題がここまでのバッシングになっているベースには、何か研究者たちの感情を刺激する非合理的要素が絡んでいるような気がします。建前上は決して言えないし認めたくないような何かが、心の奥底にあるのは、人間ならば仕方がないとは思いますが・・・。私が当事者だったら、やはりきっと、そういう非合理的感情に囚われることでしょう。