理研STAP細胞論文調査委員会報告、改革委提言等への根本的疑問

小保方論文の「改竄」「捏造」認定の不合理さ、バッシングの理不尽さ

BPO少数意見の市川委員は、基本的事実関係を誤解しているのでは?


 BPO決定の少数意見のうち、弁護士の市川正司委員の意見を改めて読んでみました。
 どういう論理展開なのかを改めて見てみた次第です。
 もしかすると、基本的な事実関係で大きな勘違いをしているのではないだろうか?と感じましたので、ちょっと書いてみます。
 
 まず、「STAP細胞はES細胞由来だ」という部分の「事実の摘示」の内容は、少し違うという主張をしていますが、それは、人権侵害認定部分には関係はしませんので横においておきます。
 問題は、多数意見が人権侵害認定をした、次の「事実の摘示」に関する理解です。
 
STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある。
申立人はこの元留学生のES細胞を何らかの不正な行為で入手した疑惑がある。
 
 これについては、「④と⑤の事実の真実性を証明できていないということについても多数意見とほぼ同様である。」としており、残るは、真実と信じたことの相当性の話になります。
 
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真実と考えたことの相当性について
(1)④「STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある。」について、放送当時、以下の事情があった。
ア)①から③の事実にあるとおり、遠藤氏などの解析によってSTAP細胞とアクロシンGFPを組み込んだES細胞との共通点が示されたことによって、STAP細胞はES細胞に由来する可能性が強まってきた。
イ)2014年当時、小保方研究室の冷凍庫には、元留学生の作製したES細胞のほか、他のES細胞も存在していた。このことにより、STAP細胞を作製した際にはES細胞のコンタミ(混入)が生じる環境になかったという申立人の発言はその信憑性に、より疑いが生じていた(なお、後日発表された理化学研究所のいわゆる第2次調査報告書によれば、STAP幹細胞の由来とされるES細胞と、この冷凍庫にあった他のES細胞が、ゲノム解析結果により、ほぼ同一であることが判明している)。
 以上の状況では、NHKの取材が、小保方研究室の冷凍庫に残されていた複数のES細胞にまで迫って、それらの中のいずれかのES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあると推論したことに不合理な点はないと考える。
 
しかし、さらに進んで、他にもES細胞がある中で、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これがSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑があると信じたことについてはどうであろうか。この点については、
ア)元留学生の作製したES細胞は、2011年7月に樹立されており、その後の時期に作製されたSTAP細胞の由来となっていても時期的な矛盾はない。
イ)小保方研究室には、複数のES細胞が存在し、申立人はこれらのES細胞を若山研究室から譲与されたとしたが、その中の一部のES細胞を作製した元留学生は、自ら作製したES細胞が、何故、小保方研究室の冷凍庫にあったのかわからないと述べていた。この点について申立人はさらなる説明をしていない。
 以上の事情は存在するものの、元留学生の作製したES細胞が混入してSTAP細胞ができたのではないかという疑惑を裏付ける積極的な事情は示されていない。
とすれば、元留学生の作製したES細胞とSTAP細胞を結びつける疑惑については、真実と信じたことの相当性があるとはいえない。
 
(2)⑤「申立人はこの元留学生のES細胞を何らかの不正な行為で入手した疑惑がある。」に関しては、以下の事情があった。
 申立人は、STAP細胞は、ES細胞とのコンタミが生じる可能性がない環境で作製されたと記者会見で述べていたが、その一方で、STAP細胞の正体はES細胞ではないかとの疑惑が生じており、申立人の周囲にES細胞が存在していた可能性が生じたまた、元留学生が、自ら作製したES細胞が何故小保方研究室にあったのかわからないと述べている状況の中で、小保方研究室の冷凍庫にES細胞が保管されるに至った経緯について、申立人は明確な説明をしていなかった。
 このような中で、本件放送が示した程度において、疑惑があるとNHKが信じたとしても、相当性はあると考える。
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 事実関係を誤認しているのではないか、と感じたのは、最初にアンダーラインを引いた部分です。
 
「2014年当時、小保方研究室の冷凍庫には、元留学生の作製したES細胞のほか、他のES細胞も存在していた。このことによりSTAP細胞を作製した際にはES細胞のコンタミ(混入)が生じる環境になかったという申立人の発言はその信憑性に、より疑いが生じていた
 
 市川委員は、「STAP細胞を作製したのは、小保方研においてである」と勘違いしていないでしょうか?
 言うまでもなく、STAP細胞を作製したのは若山研においてであって、小保方研ができたのは、若山氏が山梨大に移転した後、半年間の内装工事等を経た201311月です(=STAP論文発表の直前)。STAP細胞作製場所としては、何の関係もありません。
 コンタミの可能性を論じるのであれば、若山研でSTAP細胞実験を行った当時の環境を論じなければならないはずです。しかし、若山研移転後に新設された小保方研で見つかったことを以て(「このことにより」)、作製時の環境について論じていますから、そこには大きな飛躍があります。
 
 2011年秋以降の若山研でのSTAP実験時において、小保方研で見つかったボックスにあった元留学生のES細胞や他のES細胞がどこにどのように保管されていたのかについては、どこにも示されていません。これまでのネット等の議論でも、その点についての言及はどこにもなかったと思います。そのことについて何らかの事実を示して、混入可能性を論じなければ、何の意味もありません。
 
■それでも、「元留学生の作製したES細胞とSTAP細胞を結びつける疑惑については、真実と信じたことの相当性があるとはいえない。」と判断していますからまだいいでしょう。
問題は、「申立人はこの元留学生のES細胞を何らかの不正な行為で入手した疑惑」について、「本件放送が示した程度において、疑惑があるとNHKが信じたとしても、相当性はあると考える。」という判断部分です。


問題は2点あります。
第一は、市川委員は、アクロシン入りES細胞の話と同列に捉えてしまっていることです。アクロシン入りES細胞の話によって、「申立人の周囲にES細胞が存在していた可能性が生じた。」とし、それに続けて、小保方研で見つかったボックス元留学生のES細胞に言及していますが、同じ「申立人の周囲」であっても、アクロシン入りES細胞は若山研時代の話であり、元留学生のES細胞はずっと後の小保方研の話であることは、上記に述べた通りです。
 
 第二は、「小保方研究室の冷凍庫にES細胞が保管されるに至った経緯について、申立人は明確な説明をしていなかった。」と述べていることです。
この点は、「申立人が実験用のES細胞を若山研究室から譲与された」との説明をNHKのナレーションがしている通りであり(「不用品を引き取った」)、留学生が日本から去ったのちの、若山研移転時やボックス発見時の管理者がこの説明と矛盾していることを述べているのであればともかく、そうではないのですから、「明確な説明をしていなかった。」というのは誤りです。多数意見もそうですが、なぜ、細胞の管理面で、確認すべき相手に確認しないままに、移転時、発見時には何の関係もなかった元留学生の証言と対峙させるように捉えるのか、理解に苦しみます。
 
 以上の2点から、「不正入手疑惑があるとNHKが信じたとしても、相当性はあると考える」との市川委員の判断は、適当ではないと思います。
 
■市川委員が、人権侵害(名誉棄損)としなかった理由は、次に示されていますが、これは、「元留学生のES細胞がSTAP細胞の由来だとの疑惑」についての話です。ただし、「勇み足、不正確で、放送倫理上問題がある」との判断です。
 
「ES細胞がSTAP細胞の由来となった疑いがあるとの疑惑を示したこと以上に、特に元留学生の作製したES細胞に焦点をあてて、これがSTAP細胞の由来ではないかとの疑惑を示した点においては真実と信じたことが相当とはいえないと考える。
しかし、この点についてのみ真実との証明ができず、真実と信じたことについて相当性がなかったとしても、この部分の摘示事実のみを捉えて申立人の社会的評価が相当程度低下したと評価することは考えにくく、その他の主要な部分が、真実であり、あるいは真実と信じたことについて相当性がある本件放送について、私は、委員会があえて名誉毀損とするべきものではない」
 
「その部分のみとらえて名誉毀損とは評価しないとしても、不正確な放送で、勇み足である。一部に過ぎないから、などと問題を小さく捉えるべきではなく、今後、慎重に事実を伝える姿勢を持ち、表現にも留意するべきである。この点、報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならないとする放送倫理上、問題がある。
 
■「小保方氏が元留学生のES細胞を不正に入手した疑惑」については、ここでは言及していません。つまり、信じたことに相当性はあるので、人権侵害でも放送倫理上問題でもないというスタンスのようです。
この点、同じ少数意見でも、奥委員は、両疑惑とも、「人権侵害とまでは言えないが、放送倫理上問題がある」とのスタンスです。
したがって、「小保方氏が元留学生のES細胞を不正に入手した疑惑」を信じたことの相当性を以て、問題なしとしているのは、市川委員ただ一人ということになります。
しかし、その判断には、上記に述べたように、事実関係に基本的な誤解があり、その上に立って判断しているように思われます。